チェット・フェイカー「自分は音楽を作るべくして、生まれたんだ」 来日公演を前にオフィシャル・インタビューが到着
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チェット・フェイカー Photo by Sarah Eiseman
オーストラリア、北米、ヨーロッパで行ってきた【A LOVE FOR STRANGERS WORLD TOUR】唯一の日本公演を9月16日に東京で開催するチェット・フェイカー。
ツアー・タイトルにも冠した今年2月にリリースしたアルバムに込めた想い、デビューEPリリースから14年のキャリアを築いていま考えるキャリアの現在地、前回24年の来日公演で感じた日本でのライブの感触、など日本通でもある彼に話を聞いた。
ーーツアー中(日本時間7月27日収録)に時間を作ってくれてありがとうございます。今回のワールド・ツアーでは、オーストラリア、北米、ヨーロッパと多くの公演を行なっていますが、良い感覚でライブを行えていますか?
うん。ヨーロッパ・ツアーの前、2ヶ月くらい休みがあったんだ。だから最初の日はどうなるかと思ってたんだけど……。驚くくらいに、まるで休む前の続きみたいに、すんなりといった。もう新曲も自分たちの一部になっているというか、すごくいい感じだよ。何より、やってて楽しい。
ーー今回のツアーはトリオ編成で行っていると思います。他の2人がどんなプレイヤーか紹介してください。
ドラムとサックスのトラヴィス・ディ・ユング(Travis de Jong)。美しくて、カオスで、実験的なサックスを吹くし、ドラマーとしても素晴らしい。そして、ギターとシンセのスティーヴン・ミーラ(Steven Meara)。エフェクトの使い方がうまくて、アンビエントなサウンドや実験的な音づくりを得意としてる。この2人と僕がいれば、必要な音はほとんど全部出せる。もちろん、打ち込みの音源も少し使ってるけどね。2人ともニューヨーク、厳密にはニューヨーク州の北部出身。僕も以前、ニューヨークに住んでいたので、その時に出会ったんだ。今はトラヴィスがオレゴン州ポートランド、スティーヴンはLAに住んでる。僕のいるオーストラリアからだと太平洋の向こう側だけど、意外と近いよ。
ーーツアー中に行った街で印象的な所はありましたか?
アメリカは面白かったよ。正直、行くまでは少し不安だった。今のアメリカって、色々とあるじゃないか。でも行ってみたら意外なくらいに楽しめた。しかも思ってもみなかった場所で、特にそう感じたんだ。ミシシッピ州ジャクソンとか。それこそ何もないド田舎で、やることも何もない場所なのにね。
あとはカナダ。とても特別なライブになったと思う。今はヨーロッパ・ツアー中(注:7月27日収録)だけど、ついこの間も、イタリアのガルドーネ・リヴィエーラにある古代コロッセオ風円形劇場で演奏したんだ。本当に美しかった。ああいう瞬間は、我ながら「すごい経験をしてるな」と思うよ。
チェット・フェイカー
ーーアルバムタイトルの"A Love For Strangers"という言葉は混乱や分断の時代と呼べる今、必要なものだと思っています。どんな想いでこのタイトルをつけたんですか?
この作品が、「見知らぬ人たち(strangers)に音楽・愛を届けること」についてのものになる前から、このテーマについて考え始めていたんだ。きっかけは父が亡くなった時だ。当然、父のことを僕はよく知っていた。自分の父親だからね。でも、どれほど父を愛し、確かなつながりがあったとしても、僕にも知らないことがたくさんあったことに気づいた。ある意味で、父は僕にとって「見知らぬ人(stranger)」だったんだとね。
もう一つは、僕がある女性を好きになり、短い間だったけど付き合い、そして別れたこと。本当に愛してたんだ。その時に思ったのは、恋に落ちる時も、多くの場合は相手のことを何も知らないんだということ。人は、見知らぬ相手でも愛せるんだよ。そこから、愛することの意味を考えるようになった。
愛するということは、相手をよく知ることだと思いがちだけど、ある意味、僕たちはお互いにとって見知らぬ存在だ。だから、「もし誰かを愛するために、その人のことをすべて知る必要がないのなら、もっとたくさんの人を愛することができるんじゃないか」って考えるようになった。
それは自分にとっても大きな意味があった。というのも、僕は人との間にすごく距離を感じてしまう方で。でも、そういう気持ちは好きじゃない。本当は人と近くつながっていたい。そんな思いも込められている。そして、この作品を届けること自体が、僕からリスナーのみんなと見知らぬ誰かへ、少しでも愛を届けて、自分自身を少しさらけ出す手段のような意味合いもあったんだ。
……って、この話を始めたら永遠に話せるんだけどね。
ーー『A Love For Strangers』収録曲のMVをみると何かしらの方法で”移動"をしているシーンが多いです。あれは一定の場所に留まりたくない、常に前進や変化をしていたいというあなたの心理を演出しているのですか?
演出したのかどうかは別として、”動いている”ことは僕にとっての大きなテーマだ。歌詞でも「走り続ける」「どこかへ向かう」という言葉が多く使っている。うまく説明はできないけれど、僕にはとても重要なテーマなんだ。
「Remember Me」の冒頭の歌詞で僕は「走ると、僕の後ろにあったものが、前に見えるようになる」と歌ってる。つまり動くことで、良い変化がもたらされるかもしれない、物事が癒やされるかもしれない、と僕は感じてるのかもしれない。ただ座っているだけじゃ、希望も見つからないんじゃないかって。
チェット・フェイカー
ーー逆に「Far Side of the Moon」はスタジオ撮影です。これにはどんな意図があるのですか?
あれはバディスト・ギルマール(Baptiste Guilmard)というフランス人監督と作った作品だ。彼のことはネットで見つけた。どの作品も素晴らしかったので「好きなようにやってほしい」とすべて任せたんだ。彼が提案してきたのは、男がサイケデリックな感覚の中で、過去と現在の記憶が入り混じるような体験をし、演奏しながら、いろいろな幻影を見る……という映像だった。それを撮影する方法もとても凝っていて、技術的にもすごく面白かったよ。パリで撮影できたのも良かったね。
ーーアルバムのジャケットには多くの機材たちが写っています。楽曲制作にも使ったものもあると聞きましたが、ライブで使うものあるのですか?
うん、あれは当時レコーディングとライブで使ってた機材の一部さ。ジャケットの撮影をしてくれたのはサラ・ヘラー。ケースに入れて持っていって、彼女に撮ってもらった。ライブとレコーディングのプロセスを繋げたいという話をさっきしたけれど、そのプロセスを写真でも見せられたらいいなと思ったんだ。
ーーライブで演奏することを念頭において曲を書くのは、何の制約も設けずに書くのと、どう違いますか?
長い間、そういうふうに曲を書くことを避けたいと思ってきたんだ。作曲というプロセスはあくまでもピュアであるべきで、それを越えて考えるべきじゃないと信じてたからだ。
でもその考えが変わったのは、曲を「どうレコーディングするか」じゃなくて「どう書くか」を考えるようになったからだと思う。小さな意識の変化に思えるかもしれないけど、僕にとっては大きな変化だった。だっていい曲を書けば、何通りもの方法で録音できる。でもいい曲を録ったら、それで終わりだ。それがその曲の最終形になってしまう。そのことに気づいたから、コンピューターで曲を書く時間を減らそうと思った。その分、自分で楽器を弾いて「こういうコード進行はどうだろう?」と試行錯誤を繰り返した。楽しかったよ。実際に楽器を弾ける方が、コンピューター画面を睨んでクリックするだけよりは、ずっと楽しいに決まってる。
チェット・フェイカー
ーーデビューEPの『Thinking in Textures』リリースから14年経ちました。ここまでのキャリアを振り返ると満足のいく作品作りはできていますか?
まるで、今から始まるみたいな気がしてるんだ。
ーーこの新作で、ということ?
そう。この新作は、僕にとって新しい出発地点なんだと思える。振り返ると、1st EP『Thinking In Textures』と1stアルバム『Built On Glass』では、自分のやりたいことを100%形にすることができた。でも、大きな成功で環境が変わった。外から影響を受けたりすることはそれまで経験したことがなかったので、その変化に戸惑いながら、慣れていくまで、10年近くかかってしまった気がする。
もちろんその間に作った作品にも満足しているし、どれもいい作品だったと思う。でも、本当の意味で、今新たに始まったと思えるんだ。「こうやればいいのか。1stの頃にいた場所に戻ろう」と思えるというか。原点に立ち返った気持ちだ。今は、向かうべき方向も見えているし……実はもう新曲も書いているよ。
ーーこの先のキャリアで実現したいことがあれば聞かせてください。
今、自分の中に形にしたい音楽がいっぱいあるんだ。というか、この14年間ずっとそう感じていた気がする。でもツアーやら何やらで、それを形にできない自分に苛立つこともあった。今は「自分は音楽を作るべくして、生まれたんだ」って思えるくらい。今書いている新しい音楽にも、心ワクワクさせられているし、そう思えることがとても嬉しいんだ。
ーー再び”ニック・マーフィー"としての作品作りを行なっていく構想はあるんですか?
今年暮れにかけて、サイドプロジェクトである、ニック・マーフィー&ザ・プログラムのアルバムの計画がある。でも、チェット・フェイカーとしてのプロジェクトでやるのも、ものすごく楽しいんでね。2つは、どちらか一方を選ぶということではなくて、違う帽子をかぶるみたいに、そちらの方がしっくりくると思う時に、状況に合わせて使い分けたい。この先10年くらいは、とにかくたくさん音楽を作って、どんどん発表するのが今の目標だ。アルバム1枚に4年もかけるつもりはないよ。
ーーつい先日まで『FUJI ROCK FESTIVAL '26』が行われていました。あなたが2014年に日本で初めてパフォーマンスを行なった場所かと思いますが、当時の思い出などあれば教えてください。
来てるお客さんのファッションもだけど、みんなのキャンプ用具がすごくカッコよかったのを覚えてるよ。そしてすごく暑かった!日本がそんなに暑くなるとは思ってなかったんでね。あとは食事も美味しかった!かなり昔のことだけど、そんなことは覚えている。その後も日本には休暇で何度も訪れていて、いい思い出がたくさんだよ。
ーーよく日本にいらしてると聞きました。
うん、何度もね。できるだけ、年に一度は行くようにしてて。大阪の近くにある高野山を訪れて、1週間ほどお寺に寝泊まりするんだ。特別な言い方があるんだけど、忘れちゃった(注:「宿坊」のこと)。今年も1月に行ったよ。いわゆる”サイレント・リトリート”というか、スマホの電源もオフにして、高野山を歩いたり、自然の中で、何もしないで過ごすんだ。ほんの1週間でも、それだけで気持ちがリセットできる。正直、高野山に行くことが1番好きなことの1つかも。大のお気に入りだ。
ーー2024年には『Built on Glass』リリース10周年ツアーでも日本公演がありました。あなたにとって日本のオーディエンスと行うライブはどんな印象ですか?
2024年のライブには、正直驚かされたよ。ソールドアウトになり、本当に美しいオーディエンスだった。日本はじっくりと音楽を聴いてくれるので、演奏する側としてはとてもありがたい。自分も演奏だけに集中できて、変に飛び跳ねたりしなくていいからね。でもそれだけじゃなくて、お客さんは僕が想像していた以上に熱かったのが嬉しかったよ。
あと、日本のファンの人は昔のものも含め、曲を本当によく知ってくれている。僕らが「ディープカット」と呼んでる、アルバムの中でもあまり知られていない曲まで、ちゃんと聴いてくれてるんだ。
まだ日本に来始めたばかりのコンサートでーFUJI ROCKだったかもー僕の顔がプリントされたガムをもらったことを覚えてる。何枚か合わせると僕の顔になるっていうやつさ。
チェット・フェイカー
ーー最近はどんな音楽を聴いていますか?注目しているアーティストなど教えて。
『ボンバーマンヒーロー ミリアン王女を救え!』のOSTを聴き返してるんだ。嘘じゃないよ。どこかこの辺にあるはずだ。昨日も聴いてた。
ーーゲームが好き?
ああ、大ファンというほどではないけど、生活の一部ではあるね。特に『ボンバーマンヒーロー』のサントラはすごくいい。音楽を担当していたのは竹間淳、1998年のリリースのはずだ。
あとはジャズをいっぱい聴いている。特にコルトレーンの大ファンだ。エリック・ドルフィーも聴いている。先週は移動のバスの中でデトロイトものを聴いていた。セオ・パリッシュとかムーディ・マン……ディープハウスで正しいのかな?呼び方はわからないけど。
そういえば、もう1枚日本のアルバムを聴いたよ。偶然だな。もうすぐ日本に行くからなのかな。最近はバンドの連中とも日本の音楽の話ばかりしてて。それで聴いてたのが、はっぴいえんどの『HAPPY END』というアルバムさ。
ーー細野晴臣さん……
その通り! 新しい音楽だったら、スウェーデン人のデュオ、ホース・ヴィジョン(Horse Vision)がすごくいい。好きで聴いているよ。
ーー日本公演を楽しみにしているファンにメッセージをお願いします。
日本でプレイできることを本当に楽しみにしているよ。そう言えば……日本に最後に来た時も含め、これまでの来日公演はいつもソロだったんじゃないかな。間違いでなければ、今回が日本で初めてのバンド・セットのはずだ。すごく嬉しいよ。というのも、普段はバンドでやることが多いので、ある意味、ようやく日本のお客さんに、本来の僕のライブを見てもらえるんでね。
Translation:Kyoko Maruyama
ライブ情報
日本公演スケジュール
【東 京】
9/16(水)恵比寿 ザ・ガーデンホール 18:00開場/19:00開演
主催:J-WAVE
お問い合わせ:ウドー音楽事務所 03-3402-5999 https://www.udo.jp
企画・招聘・制作:ウドー音楽事務所
公演ページURL:https://www.udo.jp/shows/ChetFaker26