7本指のピアニスト西川悟平が10月バースデーコンサートを開催 「絶対無理」と言われても頑張り続けられる原動力とは
-
ポスト -
シェア - 送る
ピアニストの西川悟平さん(撮影:翡翠)
ピアニストの西川悟平が2026年10月30日(金)に、I'M A SHOW(東京都千代田区)で52歳の誕生日を記念したコンサート『Gohei Nishikawa Birthday Concert ~不可能を超えた音~』を行う。2001年にジストニアを発症後、7本の指で演奏活動を続ける西川。SPICEでは、当日の演奏曲について、また誕生日にまつわる思い出、演奏を続ける原動力などについて聞いた。
――10月25日に52歳のお誕生日を迎えます。5日後に有楽町のI'M A SHOWでバースデー・コンサートを開かれますが、現在の心境からお聞かせいただけますか?
昨日は福井に演奏に行っていたんですけど、地方に公演に行くと『有楽町に行きますね』って声をかけて下さる方が多いので、きっと優しさに満ちた空間になるんだろうなって思っています。初めての会場なのでとても楽しみです。
――東京2020パラリンピック閉会式のグランドフィナーレで演奏した、ルイ・アームストロングの「What a Wonderful World」や、ザ・ビートルズの「Let It Be」などを披露される予定です。
はい。ほかにもショパンの「ノクターン第2章」や、大好きな映画『ニュー・シネマ・パラダイス』の「Nuovo Cinema Paradiso」などを演奏したいと思っています。曲の間には、ニューヨークで暮らしていた時に〝泥棒にあった話し〟などのトークを挟んで行きます。演奏はもちろん、色々なお話しをするので、楽しみにしていただきたいです。
――選曲された楽曲のエピソードを教えてください。
「What a Wonderful World」は、ジストニアを発症して、5人の医者から「2度とピアノを弾くことはできません」と宣告された時、ニューヨークの地下鉄の駅構内でストリートバンドの演奏を耳にして、前を向く力をもらった曲でした。幼稚園を経営しているアメリカ人の友人が「うちの幼稚園に遊びに来ない?」と誘ってくれて、幼稚園に向かう途中だったんです。穏やかに歌う姿を見て、「なんて素敵な歌詞、なんて素敵な曲なんだろう」と感激しました。当時はうつ病のような状態でしたが、心が温かくなりその気持ちのまま、子どもたちのために、5本の指で「きらきら星」を演奏しました。歌う子、踊り始める子。楽しそうな子どもたちの姿に、元気をもらいました。「今の僕は演奏できる指が5本しかないと思っていたけれど、ゼロじゃないんだから、まだ弾ける。子どもたちに聴いてほしい」と奮起して、そこから15年間幼稚園に通って演奏を続けました。
インタビュー中、笑顔がたえない西川悟平さん
――大切な思い出があったのですね。
はい。大切にしている曲を、「パラリンピックのグランドフィナーレで演奏してほしい」とオファーされた時は、全身に鳥肌が立ちました。僕は東京でオリンピック、パラリンピックが行われることが決まった2013年に、ニューヨークで生中継を見ていたんです。スーツ姿の日本人が「バンザイ!」って喜ぶ姿を見て、「僕は世界中の人が見ているオリンピック、パラリンピックの式典でピアノを演奏したい」という夢を持ちました。そして僕自身が演奏する姿を頭に描いて、それを口にし続けていました。依頼をいただいた時は、本当にビックリしました。
――ピアノとの出会いについても教えていただけますか。
中学3年生の時に、ショパンの「英雄ポロネーズ」を聴いて魅了されました。ピアニストを目指す人は、大体3歳くらいまでの間にピアノを始めるのですが、僕は15歳でした。大分遅咲きなので、周囲からは「ピアニストになるなんて無理」と言われていたんです。でも猛練習をして大阪音楽大学短期大学部ピアノ科に入学し、24歳の時に渡米しました。僕は「絶対に無理」と言われたことが人生の中で何度もありました。ジストニアを発症した時もそうです。1人だったら頑張ってもできなかっただろうと思うけれど、周囲が助けてくれ、機会をいただいたことで実現できたことがたくさんありました。
――「絶対無理」と言われても頑張ることができる原動力は?
基本的には、すごい怠け者です。10年ほど前から学生に会うことをしているんです。小学校3年生から、新社会人ぐらいまでの年齢の方を対象に、各都道府県の学校などを巡っているんですけど、そこでもよく「どうして頑張り続けられるんですか?」って質問が来るんです。練習したくないなって思う日もあるけど、僕のために動いてくれている人がいることを思い出します。例えば誕生日コンサートだったら、スタッフの方が会場を探したり、チラシを作ったり、準備を進めてくださっている人がいる。その皆さんを無視して、お酒を飲んで寝ていたらダメだよねって。片手ずつでもいいから、日々練習することを大事にしています。エンジンがかかってきたら、両手で弾いてみる。今日は取材が入っていたので、朝ちょっとだけ早めに起きて練習してから来ました。頑張った日はおいしいお酒。健康の秘訣です。
――音楽から少し離れて、思い出に残っているお誕生日のことも教えていただけますか。
ピアノを始めて10年ぐらいの頃に、カーネギーホールの小ホールで演奏をしたことがありました。コンサートの当日、僕は誕生日で、誰にも言ってなかったんですけど、プログラムを全部終えて拍手をいただいていた時に、チェロを弾いてた男の人が、いきなり予定になかった曲を弾き始めたんです。焦っていたら、「Happy Birthday to You」でビックリしました。僕以外のオーディエンス全員が、それをやることを知っていて、僕だけに秘密にしていたんです。カーネギーホールのシャンデリアを見上げて、「あぁ、ホールの中で祝ってもらってるんだ」って嬉しかったですね。26歳くらいの時だったと思います。一昨年は、サントリーホールで、約2000人の人たちに四方を360度囲まれてお祝いしていただきました。過去に僕が行った学校の学生たちが来てくれました。こんな風に祝ってもらえる人生を歩めていて、もう両親とも居ないんですけど、「お父さん、お母さん、スタッフの皆さんありがとう」って思いました。
――今年のお誕生日は、どんな風に過ごす予定ですか。
今年の誕生日は、移動しています。鳥取で公演があるので、移動日だと思います。時間があったら、温泉に行きたいですね。
――自分へのご褒美は何か考えていますか?
若いうちは、誕生日は自分へのご褒美があったんですけど、年齢を重ねていくと、周りの人に「ありがとう」を言いたくなります。亡き両親へもそうですし。周囲の人に感謝を伝えられる日にできたらいいなと思います。
――新しい年齢を迎えて、何かなさりたいことはありますか。
あります。先ほどお話しした学生達に会いに行くことを今後も続けていきたいと思っています。実は9月26日(土)に秋田に行くんですけど、秋田が47都道府県最後の地なんです。念願を達成して、さらに日本全国を死ぬ瞬間までまわりたいです。あとは20年アメリカで暮らしていたので、海外公演にも出かけていきたいです。たまにそうやって外を見ると、中の良さがより分かる。体力の続く限り、演奏を続けていきたいです。
――最後に、コンサートを楽しみにしている方へメッセージをお願いします。
お客様に温かい気持ちになっていただけるようなコンサートにしたいです。それ以上の幸せはありません。僕のコンサートは「クラシックって、寝ちゃうかもって思って来てみたら、トークが面白かった」って言ってくださる方が多いんです。自分で言っちゃいますけど(笑)。なので、自宅のリビングで音楽を聴いているかのようにリラックスをして楽しんでいただきたいです。僕はおこがましいかもしれないけれど、音楽鑑賞をする分母を増やしたいと思って活動をしているので、僕のコンサートをきっかけに、「ピアノっていいな」「この曲いいな」って思ってもらえる人を増やしていきたいです。
取材・文・撮影=翡翠
公演情報
会場:I’M A SHOW
Let It be / The Beatles
what a wonderful world/ルイ・アームストロング
ほか
※別途ドリンク代600円
※未就学児入場不可