下北沢がアートに染まる! 街ごと巻き込む新感覚のアートフェスティバル『ムーンアートナイト下北沢2026』レポート
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松田将英《The Big Flat Now》|ムーンアートナイト下北沢2026
さまざまなカルチャーが交差する街、下北沢。小田急線「東北沢」駅から「世田谷代田」駅までの地下化に伴う開発プロジェクト「下北線路街」が全面開業してからは、より多様なクリエイティブが行われる街へと進化し、若者世代を中心に、幅広い層に愛されている。
そんな下北沢で、毎年“中秋の名月”の時期に行われるイベントがある。その名も、『ムーンアートナイト下北沢』。下北沢商店連合会、小田急電鉄、そしてブロックチェーンインフラを提供する企業・スタートバーンの3者が主催するこのイベントは、「月」をテーマにしたアート作品や、音楽、演劇、グルメなどを自由に楽しめる、地域参加型の大規模なアートフェスティバルだ。
第5弾となる『ムーンアートナイト下北沢2026』は、9月18日(金)から10月4日(日)の2週間強の会期で開催されている。本記事では、開催に先立って行われた記者内覧会の様子をお届けしよう。
今回はアーティストベースのキュレーションにアップデート
前列左から、記者会見に登壇した五十嵐理氏、長沼洋一郎氏、施井泰平氏。後列左から、河野未彩氏、竹森達也氏、金氏徹平氏、近藤香氏、竹島唯氏
記者内覧会には、小田急電鉄まちづくり事業本部エリア事業創造部課長である五十嵐理氏、下北沢商店連合会 会長、長沼洋一郎氏、スタートバーン代表の施井泰平氏、そして参加アーティストたちが登壇した。
スタートバーン株式会社代表の施井泰平氏
アートの企画やスタンプラリーなどの回遊を促す施策を担当した施井氏は、本年の参加アーティストについて、次のように解説している。
「5年前にこのイベントのお話をいただいたときには、たくさんのクリエイティブクラスターがあり、いろんなカルチャーがある下北沢という街で、一つの月を見上げるというテーマに沿ったアートフェスティバルをつくろうという話をしていました。その中で、今までは『月をテーマにしているアーティストはいないか』と探し回り、作品ベースでキュレーションしていましたが、今回は魅力的なアーティストに月をテーマにした新作をつくってもらうという、アーティストベースの形を取っています。これがかなり大変ではありましたが、一番アップデートされていて、楽しみなところです」
BONUS TRACK(隣接駐車場):松田将英《The Big Flat Now》
松田将英《The Big Flat Now》|ムーンアートナイト下北沢2026
14の店舗からなる商店街BONUS TRACKの隣接駐車場に設置され、一際目を引くのが、松田将英氏の作品《The Big Flat Now》。これまで絵文字やハッシュタグなどのスマートフォンに関連する記号を彫刻やインスタレーションに落とし込んできた松田氏は、かつて世界でもっとも使われた絵文字といわれた「笑い泣き」マークを過去に作品のモチーフに選んできたが、今回、2025年に最も使われた「号泣」が登場。そして、世相を表すかのような「悪魔」も加わり、2点の新作が公開された。
この「号泣」マークといえば、つらいとき、悲しいときなどのネガティブシーンだけでなく、最近ではうれしいときや感動したときなど、ポジティブなシーンにも用いられる。鑑賞者側に「何を表現しているか」が委ねられるのが、松田氏の作品のおもしろい点だ。
さらに、施井氏は会見の中で、松田氏が本イベントにこの作品を提供した意図として「笑い泣きマークが月に似ている、というのもあるのでは」とコメントしていた。
東北沢駅屋上(改札外):金氏徹平《A Thousand Faces of the Moon》
金氏徹平《A Thousand Faces of the Moon》
日常的なイメージをはらむモチーフでの作品づくりで知られる美術家・彫刻家の金氏徹平氏は、今回のためにインスタレーション作品《A Thousand Faces of the Moon》を制作した。展示会場は東北沢駅屋上。改札外の階段を上ってたどり着ける。
『ムーンアートナイト下北沢』について、金氏氏は「月をモチーフにしていること、そして街との関わり方や規模感を唯一無二に感じた」という。身近なところとつながったアートイベントであることにちなみ、《A Thousand Faces of the Moon》もまた、サッカーボールやテニスボール、道路の視線誘導標、まんがの世界から集められた球体など、日常でよく目にするモチーフから「月」を表現した作品となっている。
金氏徹平《A Thousand Faces of the Moon》
会見の中で金氏氏は「街中でのアートイベントということで、なかなか作品を集中してみることは難しいと思いましたが、美術館とは違う楽しみ方ができるのではないかと思い、フォトスポットのように楽しめるインスタレーションとしました」と話し、作品自体や、作品を含めた記念撮影を促した。とくに看板状の作品は反射シートでできているため、夜間にフラッシュを焚いて撮影することで、ピカッと光ることが特徴。太陽の光を反射して光る、本物の月を思わせるニクい演出だ。
NANSEI PLUS:岸 裕真 + 竹森 達也《Botanical Intelligence: Moon Edition》
岸 裕真 + 竹森 達也《Botanical Intelligence: Moon Edition》 村上大輔 @daisuke_murakami
メディアアーティスト・エンジニア・テクニカルディレクターである竹森達也氏と、独自のAIモデルと学習データの設計による作品を制作する岸祐真氏は、NANSEI PLUS内のシモキタのはら広場にインスタレーション《Botanical Intelligence: Moon Edition》を展開した。
AIとはArtificial Intelligenceの略称だが、今回のタイトルにはBotanical Intelligenceという言葉が採用されている。これについて岸氏は、一般的なAIとの違いとして、「一つ目に、インターネットなしのローカルで完全に稼働すること。二つ目に、周囲の植物たちと共に生成を行うこと」を挙げた。
作品について解説する竹森氏と岸氏。岸氏はパリ滞在中のため、オンラインで会見に参加した
岸氏は、街の緑を育て管理するシモキタ園藝部と埼玉大学の影山教授協力のもと、のはら広場の植物のデータを事前に収集し、『竹取物語』のかぐや姫が月へと戻る前に書いた手紙と掛け合わせ、小さな音としてリアルタイムに生成するシステムを構築。小型のエッジデバイスは30台設置されており、一つひとつはあるかなきかの儚い音ながら、リレー形式で伝播されることによって、神秘的なざわめきを生み出している。
縦長の奇妙なディスプレイデバイスを担当したのは竹森氏だ。このディスプレイは、BIが生成したテキストを月に登らせていくための装置。14セグメントLEDというアルファベットがギリギリ表示できるレベルの表示器を縦長2メートルで電子工作することで、「リッチではないが言語に特化した謎の素子」をつくりあげているという。内覧会当日は雨が降りしきっていたこともあり、異世界に迷い込んだような不思議な感覚が得られた。
下北沢駅前広場:河野未彩《AFTERGLOW - 残光の庭》
河野未彩《AFTERGLOW - 残光の庭》
光の現象や色彩変化を用いた立体・空間作品などで知られる、視覚ディレクター・アーティストの河野未彩氏は、下北沢駅前広場に「残光」に着目した《AFTERGLOW - 残光の庭》を展開。地球上から我々が見ている月というのは実際には現在の月の1.3秒前という過去の姿であるということにインスピレーションを得て、蓄光するキューブのオブジェクトからなる作品を制作したのだそうだ。
河野未彩《AFTERGLOW - 残光の庭》
さまざまな形に並べられたり、積み重ねられたりするキューブたちは、太陽光をはじめとするUV光を吸収し、暗くなったあとにもかすかな光を放つ。その奥ゆかしい光を、古来から月を見上げて誰かに思いを馳せてきた日本人の価値観に照らし合わせたと、河野氏は話していた。
「昔、僧侶の方から『人の死は二回ある』と伺いまして。『一回目は肉体が死んだとき、二回目はその人の存在を記憶する人がいなくなったとき』というふうに聞きました。この蓄光素材が持つ現象は“二回目の生”に近いなと感じていて、(作品のモチーフに)選びました」
なお、河野氏の作品のみ、展示期間が9月30日(水)までとなっているため、早めに会場へ足を運ぶのがおすすめだ。
下北沢駅東口(改札外):daisydoze《イマーシブシアター「猫町」》
クリエイティブチームdaisydozeでクリエイティブプロデューサー・衣装を務める近藤氏、作・演出を担当する竹島氏
《イマーシブシアター「猫町」》は、昨年も開催され話題を呼んだ都市型イマーシブシアターだ。かつて下北沢・代田エリアで晩年を過ごしたという詩人・萩原朔太郎が、現代の下北沢を見たらどう感じるのだろうという問いのもとつくられたというこの作品は、下北沢駅前で集合したのち、360度集音するバイノーラルマイクを用いて収録されたサウンドスケープを耳にしながら、世田谷代田駅方面まで徒歩で移動していく形で鑑賞する。ここからは、内覧会の少し前に開催されたゲネプロの様子を一部ご紹介する。
《イマーシブシアター「猫町」》のスタート地点
《イマーシブシアター「猫町」》の鑑賞には、スマートフォンとイヤホンの持参が必須となる。手持ちのスマホにアプリ「ON THE TRIP」をダウンロードし、5分程度のインタラクションを聴いたあと、体験者はスタッフに誘導され黒いボックスの上で鑑賞をスタートする。
《イマーシブシアター「猫町」》鑑賞に必要となるアプリ「ON THE TRIP」の再生画面
本作のモデルは、萩原朔太郎が生前に遺した短編小説《猫町》だ。とある地へ出かけた主人公が、繁華な美しい町に足を踏み入れたところ、人間そっくりの姿をした猫の大集団に出会うという物語だが、《イマーシブシアター「猫町」》では、主人公に導かれる形で、体験者も“青い猫”の町へと引き込まれていく。
イマーシブシアター《猫町》上映風景
基本的に体験者はイヤホン越しに語りかけてくる主人公の「あの青い看板を曲がって」「そこで止まって」などの指示通りに下北沢の街を進んでいくことになるのだが、もちろん本作の体験者たち以外にもたくさんの通行人が街を行き交っており、自分が作品を鑑賞しているという意識が薄くなってくる。
そのため途中途中「この道で合ってるのか?」と不安になることもあるのだが、そんなときは青い猫の姿を探してみよう。猫たちは必ず正しい道の上で、その先に進むべきルートをそれとなく示してくれている。
《イマーシブシアター「猫町」》上映風景 Hiroshi Homma (@hiroshi_homma)
そうして15分ほど進んでいくと、体験者はとある扉へと案内される。「建物の裏口のような扉だが、入ってもいいのか?」と不安になりながら中へ入り、主人公に導かれるままに階段をどんどん下っていくと……。そこには、青い猫たちの大集団が待ち構えていた。
《イマーシブシアター「猫町」》上映風景 Hiroshi Homma (@hiroshi_homma)
体験者たちは促される通り、その薄暗い空間の中をぐるぐると、まるで亡霊になったように歩き回る。あちこちには、コンテンポラリーなダンスをし続ける、何人もの青い猫。猫たちは時折体験者の腕や肩にそっと触れ、体験者もまた調和の中にあることを示してくる。
《イマーシブシアター「猫町」》上映風景 Hiroshi Homma (@hiroshi_homma)
青い猫たちの幻想的なダンスパフォーマンスに見入っていると、突然主人公が体験者の姿を見つけ「いたいた」と声をかけてくる。再び体験者は声に導かれ、別の場所へ。ひとりの青い猫が軽くのれんを上げると、そこには再び階段が現れた。「まだ下るの?」と驚きながらも指示に従うと、体験者はさらに驚くべき場所へと放たれる──。それがどこなのかは、ぜひ本作を体験して知ってほしい。
そのほかにもイベントやコラボグルメが盛りだくさん!
初開催から本イベントのシンボルとなっている作品、ルーク・ジェラム《Museum of the Moon》は、今年も「下北線路街 空き地」」に展示されている
『ムーンアートナイト下北沢』では、今回ご紹介したほかにも、さまざまな「街なか展示」やイベント、コラボグルメなどが展開されている。会期中はデジタルスタンプラリー企画も開催されており、自分が集めたスタンプの数がリアルタイムのランキング形式で確認することができるので、下北沢を愛する人はぜひ参加してみてはいかがだろう。
『ムーンアートナイト下北沢』は、10月4日(日)まで東京・下北沢にて開催中。
イベント情報
『ムーンアートナイト下北沢』
日程:9月18日(金)~10月4日(日)
時間:15:00~21:00
※「下北線路街 空き地」の展示は以下のとおり。
・15:00〜20:00:無料鑑賞時間
・20:00〜21:30:
※イベント関連フードや商品の提供時間は、店舗により異なる
※屋外イベントは雨天決行、荒天中止
会場:下北沢周辺エリア(東京都)
イマーシブシアター「猫町」
イマーシブシアター「猫町」など各種体験
主催:下北沢商店連合会、小田急電鉄株式会社、スタートバーン株式会社
補助:令和8年度日本博(独立行政法人日本芸術文化振興会/文化庁)
公式HP:https://moonartnightfes.com/