THE ORAL CIGARETTESが3ヶ月連続配信シングルで見せた「らしさ」への挑戦とは——山中拓也が葛藤の果てに掴んだ「未完成の美しさ」とバンドの現在地
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THE ORAL CIGARETTES 撮影=ハヤシマコ
THE ORAL CIGARETTESは7月に「LIMIT」、8月に「VOICE」、そして9月に「Stay the way you are」と、3ヶ月連続でデジタルシングルをリリースした。今夏は全国各地で開催される大規模フェスには出演せず、ホール公演による全国ツアー『Home Sweet Home TOUR 2026』を開催。ツアー中に披露された「LIMIT」「VOICE」、そして最終日に初披露された「Stay the way you are」で、バンドの現在地を改めて“音”で示した。さらに、来年2027年2月からはオールスタンディングでのワンマンアリーナツアー『DOPE PURPLE HOLE』が決定するなど、活動は順風満帆に見えていた。しかし、3作の作詞作曲を手がけた山中拓也(Vo.Gt)は、これまでにない苦しみを経験していたという。ライブハウスへ、シーンへ、そしてバンドとファンへ。山中拓也、あきらかにあきら(Ba.Cho)の2人に、バンドが鳴らす“今”の音について話を聞いた。
――「ERASE」の取材時に、アーティスト主催のイベントに出演することはあっても、全国各地で開催される大規模フェスには出演しない、という活動方向をうかがっていました。今年はオーラルにとってどんな「夏」でしたか?
山中拓也(Vo.Gt/以下、山中):いやぁ……涼しかったですね(笑)。
あきらにあきら(Ba.Cho/以下、あきら):例年と比べたら、日焼けも全然しなかったし(笑)。
――大規模フェスに出演するようになってから、日焼けをしない夏はなかったですよね。
山中:初めてじゃないですかね?
――夏の始まり、終わりを感じない。
あきら:イベントの最後に花火がよくあがるじゃないですか? あれで「夏だなぁ」と感じるんですけど、今年はそれがなかったので夏を感じる日があまりなかったですね(笑)。
山中:「今年の夏はそんなに暑くなかったなぁ」と日常会話で出ちゃうんですけど、周りの人から否定されるんですよ(笑)。
あきら:普通に生活してたら、こんなに涼しいんだって(笑)。
――今年の夏も非常に暑かったですよ(笑)。
山中:夏らしい時期に出演したのは『京都大作戦』くらいでしたからね。でも、大規模フェスに出演しているとステージの時間は40分前後がほとんどですけど、ホールツアーはその3倍近くはあるので、体力的にはホールツアーのほうがきつかったですね。
――今回のホールツアーでは、ファンとバンド、一対一で向き合う濃密な時間を過ごせたんじゃないでしょうか?
山中:そうですね。それでも気を張っていた感じはありましたね。
――ツアータイトルに『Home Sweet Home』と銘打っていても、そこはやはり緊張感があったと。
山中:気を緩めるとツアーが終わってしまうというか、ライブの調子を継続できなさそうな気持ちもあって。
――前回のホールツアーはコロナ禍での開催でした。今回のツアーで見えた景色との違いはありましたか?
山中:違いはめちゃくちゃありました。ステージの開放感も違うし、前回はマスク着用での開催ということもあって、お客さんの表情が見えなかったですしね。
あきら:声も出せないし。
山中拓也(Vo.Gt)
――ツアー初日となる大阪・オリックス劇場での公演を拝見しましたが、ファンのみなさんの表情や声が素敵だったのはもちろん、ライブハウス同様に会場全体が大きく揺れていたことも驚きました。
山中:それはいろんな人に言われましたけど、ステージの上にいる俺らはあんまり気付かないんですよね。
あきら:一緒に飛んでるしな(笑)
――にぎやかなライブハウスとはまた違う、新鮮な楽しさがありましたね。取材(奈良公演直前)のタイミングでは、7月から始まったツアーもいよいよ終盤。今バンドのテンションはどんな感じでしょうか?
山中:気づいたらもう残り3本、あっという間でしたね。ツアーはトライアンドエラーのくり返しで、前回の公演に対して個人だけじゃなくチーム全体で反省して次の公演に活かす。その繰り返しで気付いたらツアーが進んでいる。実は全国ツアーって中弛みをしがちなんですよ。ファンのみんなには常にリアルなことを言っていたいし、同じことを言いたくない。ライブは常に同じテンション感でできるものではないと思っているので、毎回その場所によって空気感や自分たちのテンションを変えてツアーを回っている。いつもならツアーの中盤が一番難しいんですけど、今回のホールツアーは常に「もっと! もっと!」と超貪欲な気持ちでやれていた感じがありましたね。
――バンドにとっても、その気持ちを感じられたのも新鮮ですよね。バンド活動が長くなり、これまでにも多くのツアーを経験するなかで、まだトライ&エラーもある。
山中:良い意味でも悪い意味でも、ツアー初日の大阪公演が良すぎたんです。自分たちが予想する以上のものをきちんと残せた感じが最初からあったので、残りのツアーもそれを基準にしたことが大きかったと思います。
――スタートダッシュの勢いが良かったと。
山中:いつもなら「1か所目ってさぁ……」と語尾が下がる感じでスタートを切るんですよ(笑)。今回は久しぶりのホール公演ということもあって、「やっぱり1か所目ってこんな感じやったな。次はもっと良くしていこう!」と始まるかと思いきや、ライブが終わった時には全員でハイタッチしちゃうくらい良いスタートを切れた。次の公演からはプレッシャーのほうが大きかったですね。
――思わずハイタッチをするほど“最高”だと感じたものは何だったんでしょうか?
あきら:「百戦錬磨」感のあるライブハウスではなく、ホールという場所が僕らにとってすごく新鮮だったし、今年の夏は「夏フェスに出ない」という覚悟を持ってツアーに挑んでいた。経験値の少ないホール公演が無事成功して、思った以上に皆さんが絶賛してくれたこともあって、「僕らもホールで戦えるバンドになったんだ」という自信にもなった。でも、だからこそもっと上にいけるはずだという貪欲さも出てくる。今回のツアーではセットリストを少しずつ変えていたからこそ、「あの公演で良い波ができたのは何が原因やと思う? 何がきっかけやと思う?」という話を拓也とした記憶もすごくあって。あの曲はライブハウスで化ける、ライブハウスだからこそ強いと思っていたけど、ホールでもちゃんと爆発力があるんやって楽曲のポテンシャルを再認識できたツアーでしたね。そういう意味ですごく面白いし、新鮮で、経験値にもなる。めちゃくちゃ楽しいツアーになりましたね。
――“化ける”ことで驚いた楽曲にはどんなものがありましたか?
あきら:「Bitch!!」がめちゃくちゃかっこよかったです。ライブハウスとホールでは全く違う見え方になっていたのが驚きましたね。
あきらにあきら(Ba.Cho)
――オーラルはホール公演も似合うことを再認識できたのも良かったです。改めて『Home Sweet Home TOUR』でバンドが見せたかったもの、コンセプトをお伺いできますか。
山中:ホールツアー前、2026年の前半くらいまではライブハウスという場所やロックシーンの底上げを意識しながら活動を続けていました。自分たちをフォーカスするよりも、ロックシーンや他のバンド、今からシーンで活躍してほしい若手アーティストに、俺たち自身がフォーカスしていた。あきらも時々ツアーのMCで言ってくれていたけど、そのフォーカスをやり切った気持ちが自分の中にはあったんです。ライブハウスも立ち直ってきたし、シーン全体の盛り上がりを再び感じることができてきた。そうすると、自分たちができることは一旦終えられたんじゃないかということから、「家に帰ろう」ということで『Home Sweet Home』というツアーを発表したんです。甘える意味での「帰る」ではない。自分たちのファンに対して、もう一度「オーラルってかっこいい!」と思ってもらえる場所を作りたい。それがこのツアータイトルの意味にあるんです。もちろん、このタイトルに対してお客さん各々がどんなイメージを持ってくれてもいい。ライブに来てくれた人が「オーラルが帰る場所になった」と感じてくれるのも、このタイトルのひとつの意味でもあると思いますし、それを思わせるためには、やっぱり俺たちがホールという場所でも良いライブができないといけない。俺ら自身も「帰ってこれた」と思えるものになったなら、ツアーをやって良かったと思える。お互いが確認し合えるツアーにしたい。ファンのみんなが「やっぱりオーラルやな!」と感じてもらえていたらうれしいですね。
――ツアーが終盤に近付いたいま、その実感は得られていますか?
山中:「やって良かった!」と、すごく思っています。
――以前に、鈴木(重伸)さんが「ホール公演は音の説得力が必要になる」「ホールに似合う音をどれだけ届けられるか。チームの伸びしろを見せたい」とおっしゃっていました。演奏面での手応えはいかがでしたか?
山中:今まではライブハウスでのステージを多くやってきていることもあって、チーム全体での会話よりもメンバー4人だけで会話するほうが多くなっていたんですよ。でも今回のホールツアーでは、メンバーもスタッフもお互いに「ここもうちょっと頑張ろう」「ここはこうしたほうがいい」と意見を出し合っています。今回のホールツアーはメンバーはもちろん、スタッフも全員が力を出し切らないと良いライブにならない。もちろん普段からみんな力を出し切ってはいるんだけど、その気持ちがより強く感じるツアーでしたね。音や演出、みんなで切磋琢磨しながら上がってきている実感がすごくありました。
あきら:今回のツアーでは、メンバー全員が周りの音をきちんと聴けているなと思いましたね。どんな音を鳴らしていくべきか、メンバーそれぞれの理想があるなかで音の差異を無くしていく。その作業ができているのはトライ&エラーのひとつでもある。今回はひと月ごとに楽曲をリリースしたツアーでもあったので、楽曲が持つポテンシャルがお客さんの中で徐々に育っていって、ライブ会場がより一体化していく。その感覚が公演を重ねるごとに増えていく実感もありました。演奏する僕らもどんどん新曲が仕上がっていく実感もあって、メンバー同士でも前回と違うアレンジをしてくることもあって。これまでツアー中に新曲をリリースすることはなかったので、楽曲のリリース前後では、お客さんも演奏する側も全く別の感覚を楽しめたんです。初めて演奏する曲では、みんなのピュアな反応を見れるんですよね。「VOICE」はステージの後ろに映像で歌詞を映していたんですけど、初めて曲を聴いた人が涙しているのを見て、「この子にとって大事な曲になったんやな」と感じたり。曲を聴くたびにこのツアーを思い出したり、たくさんの記憶の中で大事な場所になったのかなと。自分自身にとっても思い出深いものにもなったし、将来的に思い返すツアーのひとつになりましたね。
――前回のインタビューで「バンドは次の目標に向けて動いている」とお伺いしました。その動きのひとつが今回のシングル3か月連続リリースです。「Stay the way you are」を除く「VOICE」「LIMIT」はツアー中に楽曲を披露していますが、会場に足を運んだファンにいち早く新曲を届けたのはどんな思いからですか?
山中:夏はフェスや祭り、いろんなイベントがあるなかで、ホールツアーを選んで俺らに会いにきてくれている人に対しての感謝。それが一番大きいです。8月にリリースした「VOICE」は今回のホールツアーありきの楽曲。この曲をリリースすると決めたとき、「LIMIT」「Stay the way you are」があることで3曲すべてが活きる3か月になるんじゃないかなって思ったんです。あと、夏フェスシーズンに自分たちの存在をアピールするための策略的な部分もあって。夏はどうしても「夏フェス行ってきた!」「フェス楽しい!」という空気感がありますよね? でもそこに俺らの姿はない。その中でどういうインパクトを残し、オーラルのライブに行きたいという気持ちを持ってもらえるか。フェスには出演していないけど、新曲連続リリースとホールツアーで、バンドはめちゃくちゃ活動しているんだっていうことをアピールしたいな、とも思ったんです。
――夏フェスには出演していないけど、バンドとしての活動が止まっているわけではない。むしろ大忙しですよね。
山中:ほんまに大忙しでした(笑)
山中:めちゃくちゃ尖った言い方になっちゃうんですけど……今年の初めから中旬頃に「今のロックシーン、おもんないな!」と思っちゃう自分が正直いたんです。蓋を開けたら二番煎じみたいな音楽が聞こえてきて、「全部一緒やん?」と思ってしまったんです。しかもその音楽が流行っているから、リスナーもそこに寄っていく。別にそれは悪いことではないし、良いことだと思います。でも、「あいつらカッコいいな」「このバンドを何とかフックして同じシーンでやりたいな」と思う気持ちが無くなってしまった。それなら自分でフックを入れてしまおうと思ってリリースしたのが「LIMIT」なんです。オーラルでダンスチューンを作って、外タレみたいな音質で曲作りをしているやつなんて今のロックシーンにはいない。ミクスチャーシーンでラップ×ハードコアみたいな音楽もあるけど、それはもう面白くない。「LIMIT」は俺らなりのシーンへの横やりなんです。
――「LIMIT」はEDMのダンス感や英詞で綴られたリリック、良い意味で「オーラル感」がないですよね。「LIMIT」「VOICE」「Stay the way you are」は同時期での制作だったんでしょうか?
山中:制作はリリース順ですね。「LIMIT」は、実はコロナ禍に制作した曲なんです。どこにも聴かせることができないけれど、自分の中に溜まったものをアウトプットしないと破裂しそうな時期があって、バンドに関係なくいろんな曲を作っていました。国や行政、いろんなものにイライラしていた時にできたのが「LIMIT」。オーラルではなく、山中拓也という人間から出てきた音楽だから「オーラルっぽくない」という印象にも繋がっていると思います。その時期に英詞の曲を5つほど作ったんですけど、「LIMIT」は自分で作った曲なのに、他人の曲を聴いているような感覚で、この5年近く聴き続けていました。
――今までもそういう感覚の楽曲はありましたか?
山中:なかったですね。突発的に出てきた、その場の感覚で作った曲ということもあって、「自分の曲」という感覚があまりなくて。でもそれが妙に心地良かった。オーラルの楽曲を聴いていると、つい次のモードに行きたくなってしまうので、完成した楽曲を改めて聴くことはあまりないんですよ。でも「LIMIT」は他人事のように、いちリスナーとして「めっちゃ好き!」と思える曲としてプレイリストに入れていました。それで、どこかのライブ終わりにメンバーに「この曲めっちゃ良いからリリースしたいんやけど」と相談して。「BUG」とか「Enchant」「ENEMY feat.Kamui」みたいな、オーラルの中で実験音楽として発表した曲は、最初はお客さんの中でも抵抗があったり、弾かれる感覚があったんです。でもそれを積み重ねていくことで、ファンのみんなの音楽的な受け皿が広がった感覚もあって。今のロックシーンに対して自分が抱えているモヤモヤや、実験的な音楽をぶつけられる瞬間はこの楽曲しかないと思って、「LIMIT」のリリースを決めました。
あきら:いつかリリースできたらいいな、お蔵入りにはもったいないなと思っていましたね。「LIMIT」はベースラインがずっとループし続けているだけなんですけど、いつものオーラルならサビでもう少し開けたコードを持ってきて、みんながライブで乗れるイメージで制作することが多いんです。でも今回はそういう意図で音作りをしていないからこそ、ループし続けられる潔さがあって。そういう楽曲をオーラルとして出してもいい、そういうタイミングがやっと来たんだなと。2020年や2021年に制作した楽曲ですけど、当時はリリースするには早かった。2026年のいま、ようやく世に出せたことがすごく嬉しいです。ライブでもすごく楽しく弾けていますしね。
山中:今回のホールツアーの合間にライブハウスで披露したこともあったんですけど、お客さんのノリがなんだか独特で。でもそれは独特であるべきやと思っています。全員が同じ動きをすることを求めている楽曲ではないし、まずは俺ら自身が楽しくなれる。それがこの曲の強さだとも思っています。そこに対して各々が自由に体を動かしたり、静かに聴いてくれてもいい。ライブの楽しみ方に対してのカウンターという要素もあるのかなと思いますね。
――コロナ禍での制作ということもあって、リリックには苛立ちや自己解放を思わせるメッセージが詰まっています。そのほとんどが英詞で綴られているのもオーラルとしては珍しいですよね。
山中:コロナ禍のタイミングでちょうど英語を勉強していて(笑)。当時は曲を作るしかやることがなくて、気がおかしくなりそうだったので、これを機にと思ってオンラインで毎日英会話レッスンを受けていたんですよ。その授業の一環で、英語で綴られている歌詞がどういう意味なのかを紐解く機会があったんです。すっごいマイルドな曲なのに、歌詞はめちゃくちゃエグいことを言ってる! みたいな曲って意外と多いんですよね。好きな曲でも、そういう理解を持ったうえで聴けていなかった。それって裏を返せば「英語にしたら、言いたいこと全部言えるんちゃう!?」と思ったんです(笑)。
――気持ちがいいくらいにストレートな言葉が並んでいますよね。
山中:英会話レッスンの先生から「この言い回しのほうがキツく感じるよ」と教えてもらいました(笑)。
――音も歌詞も「オーラル感」がない。新しいバンドの一面を楽しめますね。
山中:俺ら自身もオーラルから引き離してレコーディングしたんです。メンバー全員が「俺らじゃなく聴こえさせよう」と意識しながら作っていて、楽器も全部変えています。普段使っている楽器はすべて使わず、新しいものをわざわざ仕入れてレコーディングしました。
ーー「らしさ」を無くして新しいスタイルで挑んだ「LIMIT」。「VOICE」は一転してミドルバラード曲です。
山中:「VOICE」も俺らからしたら、それなりにカウンターな曲なんですよね。割と直球で「オーラルっぽい」「オーラルのミドルバラードって良いよね」と言ってもらえるんですけど、「オーラル=うるさい曲」と思っている奴らに、「良い歌を突き刺したろう!」と思って作った曲なんです(笑)。「VOICE」はホールツアーに向けて、自分自身が苦しかった時期をそのまま昇華した曲ではあるんですけど、サウンド面ではバンドのカウンターとして打ち出したいという思いがずっと頭の中にありました。
――歌詞にもある「苦しさ」を感じていたのはいつ頃だったんでしょうか?
山中:「VOICE」を作る前、2026年前半が本当にキツかったんです……。
――2026年前半、つい最近のことですよね。楽曲を生む苦しさ、バンドを続ける苦しさ、どんな感情を抱えていたのでしょうか?
山中:そういう「苦しさ」もありました。自分がやってきたことに対して肯定的になれない作用が自分の中にあったんです。自分が帰る場所がどこにあるのか分からなくなったのが本当にキツかった。シーンの架け橋になることや、バンドやシーンを繋げることで化学反応が起きてロックシーンが盛り上がっていくこと。そのやり取りが勝手に癖みたいになっていて、人間関係にも作用してしまう。自分はどこにいるのか分からなくなって、曲が書けなくなって、「俺って才能ないなぁ」と思って……。今年の頭くらいには負の連鎖がずっと頭の中を巡っていました。無理矢理パソコンの前に座ってぼーっと過ごすだけの日もあれば、ワンフレーズだけ作れた日も、何もできなかった日もあった。とにかく苦しみましたね。
――その苦しみをメンバーに共有することはなかったのでしょうか?
あきら:当時の僕は全く気付けていなくて。そんなに悩んでたんやって、すごく申し訳ない気持ちになりましたね。
――その苦しみから逃げ出すことはできたのでしょうか?
山中:それが「VOICE」です。こういうテイストの曲はAメロやBメロ、1番まで完成したら「どうかな?」と少し作業を止める曲なんですよ。
――「どうかな?」はプラスとマイナス、どういう感覚でしょうか?
山中:なんて言ったらいいかな……。あまりにも「いなたい」、振り絞って作った感覚なんです。
――「いなたい」はスラングというか、「野暮ったい」イメージですよね。
山中:狙った感もあるし、絞りかすを集めて作った感じもある。自分の中で「カッコイイ曲できた!」という時はパンパーンと作業が終わるんですけど、「VOICE」はずっと苦しんで、ワンフレーズ作っては手を止める。絞りかすを集めてようやく1番まで完成した曲だったので、当然納得できない部分がありました。普段なら諦めるはずの曲なんですけど、この曲を完成させることに意味があると感じるものがあって。最後まで我慢して書いてみたら何かが見えるかな? と思いながら作って、全体像が完成したときに、自分が何に悩んでいるのかが明確に見えてきたんです。「VOICE」には他の楽曲にはない「いなたさ」が武器になる。レコーディングではメンバーにその思いを伝えて、あまり派手な装飾をせずに素のままを活かしてほしいと伝えました。
――言葉が正しいか分からないですが、鬱々とした感情が治るのではなく、抜けた感覚でしょうか?
山中:0か100かで苦しんでいた感情が、50:50くらいの感情になれた感覚がありますね。
――フラットな状態まで持って行くことができたと。
山中:そういう感じですね。
――山中さんを苦しませていた「悩み」は明確に言葉にできますか?
山中:シーンの架け橋になることを自分は良かれと思ってやってきたけど、相手にとってはそうは思われていないかも、という発言を信頼している仲間から受けたんです。それに対して、「俺がやってきたことが全部間違えているなら、尻尾振って近寄るな、ついてくるなよ!」と、冷たい言い方をしてしまった自分にも罪悪感を覚えてしまった。普段なら自分の中できちんと言葉を選んで人と関わってきたけど、そういうことも全部、どこかのタイミングで嫌になってしまったんです。いろんな音楽ジャンルの人と話す中で「たくやくんの書く曲って●●だよね」と言われることも変に作用してしまって……。何が自分の楽曲の良さなのか、自分自身の魅力なのかが分からなくなってしまって……。他人に振り回されていたんでしょうね。
――「らしさ」がわからなくなったと。
山中:自分が何者かが分からなくなってしまったし、帰る場所も分からなくなってしまった。曲を作っても「良いな」と思えなくなってしまったんです。「Stay the way you are」を作った後も、その感情がすべて消えたわけじゃないんですけど、「VOICE」がその感情のピークでしたね。
――山中さんの苦しみから生まれた「VOICE」。あきらさんは、その思いを受け取っての音作りはいかがでしたか? これまでにも、そういった悩みや苦しみをメンバーのなかで共有することはあったのでしょうか?
あきら:一緒に作業していく中で、拓也の中に「VOICE」のイメージがすでにあったので、アレンジを詰めていくときもその都度イメージを確認しながら作業していました。だからベースは割とすんなり決まっていきましたね。歌詞に描かれている悩みの部分に関しては、普段から拓也が感情を共有してくることはあまりなくて。それこそ、こういうインタビューで知ることもあったりする。それがうちのバンドの暗黙の了解でもある。でも「VOICE」の歌詞に関しては、インタビューもないままライブが始まったので、ハモる身としてはどんな表情、どんな声色かを拓也と摺り合わせたくて。
――コーラスで同じ言葉を重ねる身として、知っておきたいものがありますよね。
あきら:そうなんです。ハモるうえで「山中拓也になりきる」というのが僕のポリシーにあるんです。そういうのもあって、「この歌詞はいつの頃の歌詞なん?」と聞いた時に、僕の予想とは違っていて。以前に一緒に悲しい思いを抱えたことがあって、その時の気持ちが僕の中で歌詞とリンクしたから、「あの時のことを書いた歌詞?」と聞いたら「違うねん」と。「別のタイミングで悩んでたんかい!」とびっくりして(苦笑)。「VOICE」の歌詞を紐解いていくことで、拓也がその制作時期にしんどかったことを知るんですけど……。楽曲を生み出すために苦しむのか、苦しいから楽曲を生み出すのか。どっちが先かはわからないですけど、曲を生み出す苦しみをめちゃくちゃ感じた楽曲ではあるので、そういう意味でも「VOICE」は僕にとってすごく大事な曲ですね。
――歌詞に多用されている「未完成」の言葉は「感情が50:50になった」という言葉にも当てはまるのかなと。
山中:きっと一生、苦しみが「0」になる瞬間はないと思うんです。不安だったり、自分へのコンプレックスが抜けた感覚、次のステップに上がったかもしれないという感覚を、「LIMIT」「VOICE」「Stay the way you are」の3つの楽曲で感じることができました。でもそのステップは上がったら上がったで、きっともっとでっかい壁が待ち構えている。「これが一生ループするのか……、しんどいなぁ」と感じながら楽曲制作をし続けていくんだろうなと思います。苦しみが「0」になることはないけど、「VOICE」を歌うことで「未完成」でもいいと思える。この楽曲がまさに、完成しきっていない未完成な部分に美しさを感じられた楽曲だったので、レコーディングでメンバーに「素のままを活かしてほしい」と伝えたのも、そういう意味があったと思うんです。俺も「VOICE」は「未完成のままで」が一番伝えたいワードではあるんですけど……この楽曲のリリース前にBLUE ENCOUNTが「未完成」っていう新曲を出しやがったんですよ!!(笑)
――急に怒りだした!(笑)。
山中:お互い新曲だから「未完成が、未完成が〜」と歌うのが被ってて。そんなん絶対嫌や!俺もう「未完成」という言葉使わんといたろうと思ってます(笑)。
――「未完成」というワードそのものはロックに限らず、いろんなアーティストの楽曲で使用されていると思いますよ(苦笑)。
山中:確かにそうですね(笑)。
――3ヶ月連続シングルの最後を飾る「Stay the way you are」は、これまでの言葉を聞くと、感情がひとつ“抜けた”楽曲なのかなと。
山中:その通りです。この曲を書き終わったとき、「この曲以上のものはあと1、2年は出てこないかも」と思ったぐらい、納得できました。めっちゃ良い曲ができただけじゃなくて、これまで実験してきたことがすべてハマった実感もあって。この曲を作るために、これまでの苦しさやしんどさがあったんだと、自分自身への肯定にもなりました。そういう意味でも抜けた感はありましたね。
――ベースラインも、スタートから心臓を高めていく展開がめちゃくちゃ気持ちがいいですね。ホールやライブハウス、どちらも映えそうなサウンドですよね。
あきら:まだホールでは披露していないんですよ(9/3時点)。
山中:ファイナル公演の北海道で披露する予定です。ホールツアーの最後に披露して、次のライブハウスツアーに向かっていくための楽曲にしたくて。
――感情を放出し、高めてくれる。「LIMIT」「VOICE」に続く楽曲としてはもちろん、良い意味でオーラルらしい楽曲だなと思いましたね。<I wanna make some noise!!>の歌詞からも、オーラルが根っからのライブバンドだなというのが伝わってきます。
山中:そうですね!(笑)。
――制作はリリースと同じ流れであれば、「VOICE」の後ですよね?
山中:楽曲を作り上げたのはほぼ同時期でしたね。最初に「これは良い!」と思えるベースラインがイメージできたけど、ひとまずは自分のボイスメモにだけ残して。「VOICE」の制作がしんどいなとなりつつも、どうにか完成させることができたので、全力で「Stay the way you are」に取り掛かれました。
――疾走感がたまらなく気持ちいい楽曲が今後のライブでどんな成長を見せるのか期待も高まりますが、今回の3曲はどれも今後のオーラルのライブ活動のなかでキーとなる予感がします。そして、この3曲がオーラルの現在地を表現しているとすれば、今後のアルバムなどの展開も気になるところですが……、まずは『WANDER ABOUT 放浪 TOUR 2026』の関東編が待ち構えていますね。
山中:47都道府県を巡る『WANDER ABOUT 放浪 TOUR 2026』にピリオドを打ちにいかないと、次にいけない感覚が自分たちの中にあるんです。まだコロナ禍を引きずっている感覚すらあるし、関西や北陸の人たちからすれば「まだこっちに来ないの?」と、待ってくれていると思いますしね。
――さらに来年春頃には、東名阪で開催されるアリーナツアー ALL-STANDING ARENA TOUR 2027『DOPE PURPLE HOLE』も決定しています。スタンディングでのアリーナ公演、楽しみが尽きないですね。
山中:……実はこのアリーナ公演では対バンツアーを開催する予定だったんです。元々、ライブハウスシーンを盛り上げる存在になろうという思いがあったし、そのシーンの中でも誰かがガツンと上に上がっていかないと、シーンそのものの底上げにもならない。だからこそオーラル主催でアリーナで対バンツアーをやろうと、スタッフと話をしていたんです。でも、7月からのホールツアーを前に自分の気が変わって、アリーナツアーはワンマンでやりたいなって。
――「VOICE」制作時に感じた思いから、ですよね。
山中:きっと「VOICE」を作った時から全部繋がっていたんですよね。ホールツアーも、このアリーナツアーも。そういうタームに自分が入っていたんだと感じるし、ワンマンライブで自分たちのファンと全身全霊でぶつかり合える、そんな大きい場所でやろうと、東名阪3か所のアリーナでワンマンをすることに決めて。大きな箱でひたすらワンマンライブをする、バンドとファンのぶつかり稽古みたいな感じです(笑)。
あきら:当初は、SiMがコロナ禍前に主催した「デカ箱対バン」みたいなことがやりたいねって話を、ずいぶん前から拓也としていたんですよ。で、それが実現するかと思った矢先に、「やっぱりスタンディングでワンマンがしてみたい」と拓也が言いだして。確かにそれはそうだなって。前回のアリーナツアーで拓也が「スタジアムバンドを目指したい」と話していたので、それならちゃんとそこに向かってステップを踏んでいかないと。スタジアムでのライブに向かって活動の流れを逆算していくと、デカ箱でオールスタンディングのアリーナ公演をワンマンで開催することは、絶対に通らないといけない道。すごくワクワクしているし、ようやく未来の話ができているなと感じられているんです。コロナ禍で「いかにロックシーンを、いかにライブハウスを盛り上げるか」という活動をしていたところから、自分たちのファンとバンドの未来をちゃんと描けるようになってきた。今回のアリーナツアーはその第一歩目なんじゃないかなと思います。
――「バンドは次の目標に向かって動いている」、その姿を楽しみにしています!
取材・文=黒田奈保子 撮影=ハヤシマコ
ライブ情報
THE ORAL CIGARETTES『WANDER ABOUT 放浪 TOUR 2026 関東 編』
THE ORAL CIGARETTES『BKW!! Premium Party ~THINK OUT LOUD~』