石井琢磨、新たな幕開け! 5大都市ツアー『音楽の宝箱』がスタート~愛と宝、感謝を奏でたサントリーホール公演をレポート

2026.9.29
レポート
クラシック

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ピアニストの石井琢磨の2026年ツアー『石井琢磨5大都市ピアノリサイタルツアー2026“音楽の宝箱”』がスタートした。ここでは、9月21日(月・祝)に行なわれたツアー初日の模様をレポートする。


ピアニスト石井琢磨は、名門ウィーン国立音楽大学大学院修士課程とポストグラデュアーレコースを修了し、ジョルジュ・エネスク国際コンクール第2位などの受賞歴を持つ実力派である。

ウィーンを拠点に活動する石井の名を一躍世に知らしめたのは、YouTubeだった。彼の卓越した演奏と親しみのある語り口は、瞬く間に世界中の視聴者を魅了。“TAKU-音 TV たくおん”名義の彼のYouTubeチャンネルは、登録者が34万人を超え、絶大な人気を誇る。また、男性ピアニスト8人16手による「PIANO CLOVER」など、ユニークな企画を次々と繰りひろげ、多くのファンを獲得している。

2022年11月、石井は『47都市で回るツアー~ウィーンからあなたの街へ』をスタート。2026年5月に47都市目での公演を終え、47都道府県すべてで演奏するという大きな夢を3年半かけて実現した。その後、7月にはイル・ド・フランス国立管弦楽団との日本ツアー、さらには同楽団のフランス公演にも出演し、大きな話題となったが、この9月から新たなスタートとして幕を開けたのがこの『石井琢磨5大都市ピアノリサイタルツアー2026“音楽の宝箱”』だ。

47都道府県を回る中でさまざまな出会いを経験し、「自分の人生にとって宝物だと感じる瞬間もたくさんあった」と、彼はインタビューの折に話していた。「音楽の宝箱」ツアーは、その時の「ありがとう」の気持ちを込めたリサイタルツアーでもあるそうだ。ツアー初日は台風の影響による荒天であったが、会場のサントリーホールには多くのファンが詰めかけた。

プログラム冒頭は、グリーグの「アリエッタ」。彼にとって、グリーグは、イル・ド・フランス国立管弦楽団との共演や、今年3月に「ヴァイオリン・ソナタ第3番」を演奏するなど、深く取り組んできた作曲家だ。

石井の演奏が始まると、ホール全体は夢想的な雰囲気に包み込まれる。彼は、こまやかなペダリングを通してビロードのような柔らかなサウンドを創出する。そのぬくもりのある響きのなかから、優美なメロディが静かに浮かび上がってくる。

演奏後、石井はマイクを手に取り、荒天の中でこの公演に足を運んでくれた聴衆への感謝の言葉とともに、「宝ツアー」への想いを述べる。そのなかで、「愛と宝」がこのツアーのテーマの一つであることを伝えた。

続いて、ブラームス「間奏曲 op.118-2」。石井は、作曲家の晩年の境地にあたたかな眼差しを注ぐ。感情表出の多い演奏が多いなか、彼はピュアに音そのものに語らせていく。

グリュンフェルト「ウィーンの夜会」は、石井の持ち曲のひとつ。彼は、しなやかな流れのなかで、多彩な表情を描き上げていく。技巧的な要素が駆使された作品であるが、きらびやかな高音の表現や粋なワルツのステップ、そして繊細な息遣いを通して、優雅な趣を漂わせた。

「ウィーンの夜会」を弾き終えた後、石井は再びマイクを持ち、「台風を吹き飛ばす勢いで弾きました」と語った。彼は、演奏の合間に、作品の解説や自らの想いを披露していく。

続いて、ショパン2作品を披露した。

「雨だれ」(「24の前奏曲」より第15番)では、メロディの自然な起伏を活かした表現が印象的である。中間部では楽想の変化をはっきりと描き分け、音楽をドラマティックに仕上げた。

「バラード 第3番」は、ショパンのスペシャリスト、アンナ・マリコヴァのレッスンで学んだ作品だ。曲の冒頭、石井は淡い響きのヴェールをデリケートに織り上げ、ヘ長調に転じると、主題をクリアーに歌い上げていく。その演奏は抒情的であるが、作品を手堅く築き上げていく手法は、石井ならでは。

前半のプログラムの最後に置かれたのは、J.シュトラウス2世「皇帝円舞曲」。「ワルツ王」と呼ばれた彼のワルツの中でも、「皇帝円舞曲」は3大ワルツに数えられる。典雅な雰囲気に満ちた演奏で、ピアニスティックなパッセージを鮮やかに紡ぎ出していく。さまざまな曲想が次々と現われるが、彼は一つの流れに巧みにまとめ上げている。そして、音色を多彩に表わし、華やかな楽想を引き立てた。

休憩をはさんで、後半は、「愛」をテーマに構成されたプログラムである。

まず、リスト「愛の夢 第3番」。音楽を華美に盛り上げるのではなく、ゆったりとしたテンポで、心の襞をなぞるようにメロディを奏でていく。石井が生み出すこまやかな音の呼吸は、この作品の原曲が歌曲であることを想起させる。

グリーグ「君を愛す」では、緻密なタッチによって透き通るような抒情性を醸し出す。作曲家の内面の世界へと深く迫る演奏であった。

エチュードの作曲などで知られるモシュコフスキーの作品からは、「愛のワルツ」を取り上げられた。石井は、この作品に豊かな陰影を施し、気品あふれる演奏を披瀝。リズムを鮮やかに作り出し、ハーモニーの変化を大きく捉え、音楽を美しく高揚させた。

シューマン=リスト「献呈」も、石井の十八番だ。高らかに愛を表わすのではなく、密やかに対話するような表現が印象的である。内に秘めたパッションに満ちた演奏であった。

次に、映画音楽から2曲。

マンジーニ「ムーンリバー」では、一貫して流麗さを保ち、透明感のあるサウンドでメロディを慈しむように奏でる。そして、モリコーネ「ニューシネマパラダイス」。石井の指から紡ぎ出される淡い感傷的な余韻は、ホールの隅々まで響き渡る。

プログラムを締めくくるのは、J.シュトラウス2世=ドホナーニ「宝のワルツ」。ライヴで披露される機会はめったにない。J.シュトラウス2世が作曲したオペレッタ『ジプシー男爵』の中のメロディにちなんだ作品である。石井は、師のローランド・ケラーからこのワルツの存在を教えてもらったという。

ヴィルトゥオーソ的な作品で、曲中にはさまざまな技巧が盛り込まれている。内声に潜むフレーズを大胆に引き出し、音楽を立体的に構築していく。また、非和声音の艶やかな表現は、アリアを連想させる。曲の華麗さにとどまらず、劇中のストーリーをイメージさせる多様な表情を丁寧に描き上げた。

すべての演奏が終わると、聴衆は総立ちになり、拍手の渦が巻き起こった。また、彼も聴衆への感謝を伝える。本来、満席が見込まれていたが、台風の影響で空席が生じた。「空席の方たちのためにも演奏しました」との石井の言葉に、彼の人柄がうかがえる。

アンコールは、石井の祖母が愛する「マイウェイ」。圧巻のスタンディングオベーションに包まれ、ツアー初日は大盛況のうちに終幕した。

『石井琢磨5大都市ピアノリサイタルツアー2026“音楽の宝箱”』はこの後12月まで、福岡、大阪、愛知、北海道をまわる。

取材・文=道下京子 撮影=福岡諒祠

公演情報

『石井琢磨 5大都市ピアノ・リサイタルツアー 2026~音楽の宝箱~』
 
出演  石井琢磨
 
予定曲目
ショパン:バラード 第3番
グリーグ:君を愛す
J.シュトラウス2世=ドホナーニ:宝のワルツ
グリュンフェルト:ウィーンの夜会
シューマン=リスト:献呈
ほか
 
ツアー日程
9/21(月・祝)14:00開演 サントリーホール 大ホール【東京】終了
10/17(土)14:00開演 FFGホール【福岡】
11/3(火・祝)13:30開演 ザ・シンフォニーホール【大阪】
11/7(土)14:00開演 しらかわホール【愛知】完売
12/19(土)・20(日)13:00開演 札幌コンサートホール Kitara 小ホール【北海道】
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