川中美幸、70歳で向き合う爆笑喜劇『三婆』――“笑いが8割の人生”で、歳を重ねて気づいた名作の魅力

2026.10.14
インタビュー
舞台

川中美幸

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有吉佐和子原作の爆笑喜劇『三婆』が、11月3日(火・祝)から25日(水)まで京都・南座で上演される。昭和40年代、ある金融会社社長の急死をきっかけに、社長の本妻・愛人・妹の同居生活が始まる傑作コメディ。女性3人の立場や思惑が交錯する物語のなか、家族や老後についても問いかける、今の時代に通じる作品だ。1973年の舞台化以来、何度も上演されている名作に、高橋惠子(本妻・武市松子役)、川中美幸(愛人・富田駒代役)、山村紅葉(妹・武市タキ役)が初めて挑む。

取材会に登壇した3人は、初顔合わせとなった春の和歌山キャンペーンから意気投合したという。山村は「お二人とも楽しく気さくな方。これなら思い切りお芝居で大喧嘩できるなと、ワクワクしています」と笑顔を見せる。高橋は「京都・南座で上演するということで、お二人は関西弁、私は東京弁で演じます。お芝居が大好きな南座のお客様を、笑いの渦に巻き込みたいと思います」と意気込み、川中も「歴史に残る『三婆』にしたいです!」と宣言した。

取材会後、「お芝居が好き」と言う川中美幸が、本作の役どころから来年、芸歴50周年を迎える心境、先輩から聞く老後のアドバイスまで、いろいろと語ってくれた。

爆笑喜劇『三婆』

■お別れが増えてきたからこそ、メッセージの受け止め方も変わる

――『三婆』は何度もご覧になっているそうですね。

はい。最近では大竹しのぶさん、渡辺えりさん、キムラ緑子さんが出演された2019年の舞台も観ております。水谷八重子さんが私のやらせていただく駒代を演じられ、それが(亡くなる前の)最後の舞台(2025年2月・南座)になったということにも、非常に感慨深いものがあります。歴代の女優さんたちが素晴らしい演技をなさった作品で、とてもプレッシャーを感じますが、私たちなりの『三婆』を演じられたらと思います。

――本作の魅力をどこに感じますか。

タイトルがまず強烈ですよね。昔、観に行ったときも“さんばば”か!と驚きましたけれど、出演のお話をいただけて本当に嬉しいです。松竹さんが『三婆』を大切にされていて、この時代だからこそ皆さんに観てほしいという熱い思いがあるのも伝わってきました。今、世の中がすごく高齢化社会になっていますよね。みんな歳を重ねるわけですから、考えさせられるし、ホロッとするところもあります。強気に女一人で頑張っていても、やっぱり人は一人じゃ生きていけないんだなって。いろんなメッセージを感じるんですよね。

十何年前に観に行ったときも、母の姿を重ねて感じるものがありました。その後母を亡くし、自分もそれなりの年齢になって、大事な仲間たちとのお別れも増えてきました。自分も歳を重ねて変わってきたからこそ、メッセージの受け止め方が年代によって全然変わってきたなと思います。

――お役の設定は60歳ぐらいですが、今の60歳とは少し捉え方も違うでしょうか。

そうですね。父が70歳で亡くなったのですが、当時の70歳と今の70歳とでは、世の中の感じが全然違いますよね。今は70、80でも元気な方はバリバリ働いてらっしゃるし。私のお役は63歳ですけど、感覚としては、今の人はみんな若いなと思います。舞台ではその20年後も演じるわけなんですけど。

――3人の女性が同居して、一緒に歳を重ねるという設定が面白いですね。

普通は考えられないですよね! 本妻さんは絶対受け入れないだろうし、愛人は愛人で適度な厚かましさがあって(笑)。妹は60になっても独身でぶらぶらしていて、わりと天然な雰囲気です。その3人が一緒に住むんですから、すごく面白いなと思いました。

■「私の人生の中で、笑いが8割以上を占めています」

川中美幸

――川中さんが演じられる芸者出身の富田駒代は、どんな女性だと捉えていますか。

駒代はお妾さんです。本妻の松子さんは品があってキリッとしていて奥様の風格があるけれど、男はそれだと疲れるだろうな……と。それで心のよりどころとして駒代のほうにくるのかな、と思いますし、そう感じていただける可愛い女性を演じられたらと思います。戸籍上は本妻に敵いませんが、30年ほど愛人として一緒にいるんだから「本当の妻は私よ」という気持ちで演じようと思っています。

――今回の台本は舞台が大阪・帝塚山で、駒代さんは大阪弁だそうですね。

そうなんです。舞台の設定が東京から大阪に変わりました。私は大阪出身なので、大阪弁のほうが情を出しやすいかな、という感じはします。

――喜劇として最近では、今回もご共演の曽我廼家寛太郎さんと出演された『松竹新喜劇 喜劇発祥120年』(2024年)の経験もおありですね。

基本、喜劇が大好きなんです。大阪で生まれたので、物心ついた頃には松竹新喜劇や吉本新喜劇が身近にありました。母が藤山寛美さんの大ファンで、土日はテレビで両方やっていたのを観ていましたね。芝居の中に自然に入れて、自然に泣けて、ぷっと吹き出すような笑いのある松竹新喜劇が好きです。人生、泣いて笑って、という人情豊かなお芝居、もう最高ですよね。藤山寛美さんのDVDにもすっかりハマりました。

――『三婆』もそういうお芝居に通じるところを感じますか?

感じますね。私、コンサートをやらせていただくときは、ほとんどが“笑い”なんです。観てくださった方がよく「こんなに笑ったことはない!」とおっしゃるほど、トークをとても重視しています。それは、ある程度の年齢になったときに、もう気取らないで自分を出そうと思ったんです。「きれいな振袖を着ているけれど、皆さんと一緒なんですよ」というフレンドリーなステージ。「笑ったよね、泣いたよね、いい歌聴いたよね」というのを目指しています。だから今回“爆笑喜劇”と聞いて、私を知ってくださる方は「合ってるね!」とおっしゃいます。ぜひハマり役にしたいです(笑)。

――川中さんの人生の中で、笑いはとても重要なものなのですね。

もちろんです! 笑いがないと口角が上がらないですから。眉間にシワを寄せるより、横の笑いジワ。笑うと免疫力もアップしますし、人が笑っているのを見るだけで、自分も幸せな気持ちになれます。私の人生の中で、笑いが8割以上を占めていますね。

――今回“爆笑喜劇”とタイトルに付いている通り、エンターテインメント性もあるお芝居ですよね。

何がいいって、肩が凝らないですよね。劇中で懐かしい歌を歌う場面もあります。みんなが歌って、「駒代さんも歌いなさいよ」と言われ、歌詞に「京都先斗町」が出てくる歌を歌います。今から楽しみです。

――お役にもそれを反映していくと。

そうですね、一人で台本2ページ少し、結構長く喋るところがあるのですが、あそこはテンポよくいかなければと思っています。台詞を頑張って覚えて……脳トレです!

■歌と芝居の世界を行き来することの素晴らしさ

川中美幸

――共演の高橋惠子さん、山村紅葉さんとは、最初から意気投合されたそうですね。

お互いずっと、お仕事を通して知っているわけじゃないですか。紅葉さんなんて「葬儀屋さんだ!」とドラマ(『赤い霊柩車』シリーズ)のイメージがありますし(笑)、高橋さんは私が子どもの頃から女優さんとして大活躍してらっしゃるのを見ていました。高橋さんは同年代なのですが、やはり同年代の方にはすごく興味があるんです。出演されている舞台もよく観に行ってました。こうやってご一緒できるときがくるんだと、人生って不思議だなと思います。

――皆さんとどんな舞台を作っていけたらと思いますか。

さっきもお二人と「私たちだけで自主トレやりましょう」と言ってたんですよ。お稽古が終わってからも3人でやりましょうって。私は立ってお稽古しないとなかなか覚えられないので、「台本持ってやりましょう!」と言っていただけて安心しました。

――新しい『三婆』を作っていくことになりますね。

お二人ともこの作品は初めてで、高橋さんはこの舞台をご覧になったことがないとおっしゃっていて。以前から上演が続けられている作品の中に入るのは、大変なところもありますが、3人とも初めてだから、余計に新しい『三婆』を作り上げられるのではと思います。

――川中さんは2015年の『松平健&川中美幸 ビッグコンサート2015 in 南座』以来の南座へのご出演です。

南座という劇場が大好きです。花道があり、桟敷席があり……歴史を感じます。お客様が作品の世界にどっぷり入り込めて、集中して観劇できる空間がいいですよね。京都は10代の頃、一度デビューして挫折したとき、京都に親戚がいるものですから京都のお寺巡りをよくしていて、心が穏やかになった思い出があります。私は歌手として座長公演を27歳からやらせていただいてますが、本格的なお芝居でこれだけ長い期間、京都の舞台に立つのは初めてです。

お芝居がとても好きなんです。昔、森繁(久彌)先生に、「帝国劇場で芝居だけ勉強しなさい」と、ご一緒に出演させていただいたこともありました。座長芝居では和物が多く、鬘とか重くてね。そんなとき母が「将来は現代劇をやったらどうや」と言ってくれたことがあり、この『三婆』のお話がきたときは「母が言ってたことはこれか」と、不思議な気持ちになりました。

――来年は“川中美幸”さんとしてデビューされて50周年を迎えられます。歌とともにお芝居もずっと続けられていますね。

お芝居をすることで自分の世界が広がるし、歌を離れることで歌の素晴らしさを再認識できるんです。歌詞の一字一句が深くなっていきます。歌はやっぱり行間がとても大事だし、芝居は芝居で“間”がとても大事。いろんな意味で勉強になります。だからお芝居が大好きなんでしょうね。お芝居は自分じゃない役ができるのもいいですよね。人が人を演じるというのが楽しいです。

■自分がウキウキするものに囲まれて暮らしたい

川中美幸

――『三婆』に描かれている高齢化や女性の自立といったテーマについて、ご自身も考えられることがありますか。

考えますよ! 私、今70歳なのですが、前から「そろそろ終活しなきゃ」「断捨離しなきゃ」と思うんです。でも先輩方がおっしゃるのは、もちろんそれも大事だけれど、先を急いでるような感じがするから、楽しいもの、自分がウキウキするものを周りに固めて暮らしたほうがいいよと。自分はできればピンピンコロリと行きたいな。

――このお話の中に、何かヒントがありそうですか。

たまたまテレビで、ご年配の方のシェアハウスを見たんです。普通は高齢になると施設とかを考えますけど、お互い家族のように助け合っていける、こういうのもあるんだなって。シェアハウスは若い方のイメージがあるじゃないですか。紹介していたシェアハウスには、若い方も高齢者も入れるらしくて。その番組を見ていて『三婆』を思い出しました。

――『三婆』の中で、特に心に響くシーンや台詞があれば教えてください。

まず登場人物たちの心情の変化ですね。みんな突っ張って突っ張って、大喧嘩して、罵声も浴びせ合うのですが、お互いのいいところがちょこちょこっと見えてくる。その先にあるシーンは、私は客席で観ていていつも泣いてしまいます。あそこが一番好きですね。

――他人同士なのに、家族以上の絆が生まれていきますよね。

そうなんですよ。変なところで結束したり、不思議なやりとりがあったりして。台本を読んでいても、後半は泣けますね。ぜひ多くの方に観ていただきたいです。自分自身と照らし合わせて、いずれ来る老後をどんなふうに生きていったらいいのか、何に向かっていったらいいのか。何かを感じていただければ嬉しいです。笑いに、そして泣きにきてください!

川中美幸

取材・文=小野寺亜紀 写真=松竹提供

公演情報

爆笑喜劇『三婆』
【会場】南座(京都市東山区四条大橋東詰)
【日程】2026年11月3日(火・祝)~25日(水)
【ご観劇料(税込)】
 1等席(1・2階)    14,000円
 2等A席(3階1列目)   7,000円
 2等B席(3階2列目以降) 4,000円
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