大竹しのぶが語る、“果てない”演劇の力 シス・カンパニー×蓬莱竜太の新作舞台『果てない~甦る母篇~』
大竹しのぶ 撮影=池上夢貢
劇作家・演出家の蓬莱竜太が初めてシス・カンパニー公演に書き下ろした新作『果てない~甦る母篇~』が、2026年11月7日(土)に東京・シアタートラムで開幕する。
脳出血で22年前に倒れて寝たきりとなった母が、ある日突然目を覚ます。喜ぶべき奇跡のはずが、介護が日常となっていた家族には、手放しで喜べないそれぞれの事情があった――。その甦る母を演じるのが、大竹しのぶだ。
「自分は一体どこまでやるんだろう」。半世紀にわたって舞台に立ち続けてきた大竹は、演じることについて、そう語る。開幕まで約1ヶ月となった稽古場で、今感じていること、最近増えた家族のこと、そして演劇が持つ力について話を聞いた。
■自分の人生を取り戻そうとする物語
――6人の出演者による濃密な家族劇ですが、稽古場の様子はいかがですか?
稽古そのものが楽しいです。みんなの芝居を見ながら、みんなが笑う。それが一番いい形だと思うんですよね。作品作りとしては、ここからそれぞれがキャラクターを深めていくところ。まだまだこれからという感じもありますし、いろんな想いがあるのが稽古場なのかなと思います。
――寝たきりだった母が突然甦るという、現代日本を舞台にした物語です。大竹さんが演じる母はどんな人ですか?
まだ自分の中では答えが出ていなくて、今は稽古をしながら探っているところです。役の設定としては、受け身の人生を送ってきた主婦が突然倒れて22年寝たきりになり、目覚めたら66歳になっていた。だからこれまでの人生でやり残したことを、とにかくやらなくちゃと焦っているんです。子どもや旦那さんなど誰かのために生きてきた女性が、自分の人生を取り戻すとしたら一体何をしたいのか、というお話。状況は違えど、共感する女性はたくさんいるんじゃないかなと思います。男性の立場から見たら「え〜そうなのか」と、意外に思うかもしれません。人生について、いろいろ考えたくなる作品ですね。
――プロットを拝見したのですが、一人ひとりの役の設定がとてもリアルに事細かに書かれていて驚きました。
台本でも、母と娘の会話などにすごくリアリティがあるんですよ。長女役の(江口)のりこさんにしても、次女役の(伊藤)沙莉ちゃんにしても、まるで本当の親子のような素敵な芝居をしているんです。そういうシーンは、一緒にやっていて楽しいですね。お母さんに反抗しちゃう娘の姿とか、ホームドラマのような感じもあります。
■家族の言葉に傷ついたり、励まされたり
――家族には、家族ならではのありがたさと難しさがありますよね。
そうですね。家族だから言えることもあれば、家族だから言えないこともある。家族だから、知っていても知らないふりをする。蓬莱さんは、そういった家族の非常に微妙なところを台本に書いていらっしゃるんです。そんな蓬莱さん自身が、一体どんな家族の中で育ってきたのか、今度聞いてみたいなと思っています。
――最近は大竹さんの息子さんが結婚され、お孫さんも生まれ、家族が増えましたね。改めて、家族とはどんなものだと思いますか?
とても大きな喜びをもらえる存在ですね。40歳までに結婚して子どもを持つという、息子が自分で立てた人生設計をやり遂げたことも、すごいと思っています。新しく家族になってくれたお嫁さんは、息子と価値観がよく似ていて、いい人を選んだんだなあって。
先日、コラム(※1)にも書いたんですけれど、彼女は働きながら子育てしていくことを選んだんですね。そのとき、私はつい「こんなにちっちゃいのに、かわいそう」と言ってしまって。でも、それは私の考えを押し付けることになりますよね。いけないいけない、とすぐに反省しました。そうやって、家族の言葉に傷ついたり、家族の言葉に励まされたり。娘がひとり増えたんだなと、実感する出来事でした。それぞれ育ってきた環境も違うので、お互いに少しずつ歩み寄れたらいいなと思います。
※1 「大竹しのぶ まあいいか」(朝日新聞夕刊にて連載中)
――そうして、少しずつ家族になっていくんでしょうね。
そうですね。家族がいるって、幸せなことですよね。稽古場でも、共演者のみんなと家族についてよく話しています。私は(井上)芳雄くんと(高橋)克実さんは元々知っていて、沙莉ちゃん、のりこさん、名村(辰)さんは初めましてなんです。それでも、休憩時間におしゃべりするのがとても楽しいんですよ。
例えば、これまでだったらお父さんやお母さんに聞くようなことを、今はAIに聞けるでしょう。何でも自分ひとりで解決できちゃうから、もう親に頼らなくても済んじゃうね、なんて話もしました。家族の形が変わってきている時代に、家族についての作品ができるのはいいことですね。きっとこのお芝居を観た人も、家族について話したくなると思います。
■演劇には、演る方も観る方も幸せにする力がある
――タイトルにちなんで聞かせてください。大竹さんにとって、演劇は“果てない”ものですか?
どこまでも“果てない”ものですね。自分は一体どこまでやるんだろうと思います。
先日、宇野重吉(※2)さんのドキュメンタリー番組を見たんです。癌に冒されながらも、小さな町を巡って2万キロの旅公演をしたというお話。40年近く前のことです。私は、宇野さんが舞台袖で酸素を吸って、点滴を打ちながら舞台に立っていることを知っていました。そのときは「なんでそんなことをするんだろう」と思っていたんです。病院で家族と一緒に過ごした方がいいんじゃないかって。
でもドキュメンタリーを見て、私の考えは間違っていたと気付きました。そこに映っていたのは、たとえ癌でも舞台に立ちたい宇野さん。舞台に立つと元気になる宇野さん。初めて芝居を観る子どもたち。こんなところまで来てくれるなんてと感激するおじいちゃんおばあちゃんたち。みんなの、一生の宝物になるだろうなという笑顔。その笑顔を見て、演劇ってこんなに力があるものなんだと感じました。当時、「なんでそんなことをするんだろう」なんて簡単に考えていた自分を、すごく反省したんです。演劇には、演る方も観る方も、幸せにする力があるのだと思います。
※2 宇野重吉(1914年〜1988年)俳優・演出家。劇団民藝の創設メンバーのひとり。
――演劇の力が伝わってくるお話ですね。最後に、『果てない~甦る母篇~』を楽しみにしている方へメッセージをお願いします。
とにかく笑って、泣けて、ふと考えてもらえる作品になっています。ぜひ、気軽な気持ちで劇場へ来てください。そうしたら、思いがけず面白いことが起こるかもしれません。
取材・文=松村蘭(らんねえ)撮影=池上夢貢
ヘアメイク/新井克英 スタイリスト/申谷弘美
公演情報
■出演:大竹しのぶ、井上芳雄、伊藤沙莉、名村辰、江口のりこ、高橋克実
美術:岩本三玲
照明:日下靖順
音響:原田耕児
衣裳:西原梨恵
ヘアメイク:大宝みゆき
音楽:国広和毅
プロデューサー:北村明子
【東京公演】
2026年11月7日(土)〜12月6日(日)
会場:シアタートラム
2026年12月10日(木)〜12月14日(月)
会場:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
2026年12月18日(金)〜12月20日(日)
会場:穂の国とよはし芸術劇場 PLAT 主ホール
2026年12月24日(木)〜12月29日(火)
会場:クラフティア劇場(旧キャナルシティ劇場)