秋山黄色が聴き手の五感全てをざわつかせる、全国ツアーを前に語る胸の内
秋山黄色
今年3月に5thアルバム『Magic if』をリリース。夏には各地の音楽フェスにも出演した秋山黄色。緻密なサウンド構築で聴き手を魅了しながら様々な感情を浮き彫りにする彼の音楽は、ライブでも絶大なエネルギーを放つ。五感の全てをざわつかせるあの空間は、何度も味わいたくなる。10月23日(金)・北海道・札幌cube garden公演を皮切りに全国11ヶ所で行われる『秋山黄色 LIVETOUR2026「頭に無音がやってきた」』も各地の観客にとっての忘れられない体験となるだろう。ライブに対する姿勢、ツアーへの意気込みを秋山黄色に語ってもらった。
――今年の夏も各地の音楽フェスにたくさん出演しましたが、いかがでしたか?
曲自体で狙った効果みたいなのが伝わっていて、言葉で書いてきたことも浸透しているのを感じました。感触が良かったです。
――音源で秋山さんを知った人は、ライブの魅力をすごく知ったのではないかと思います。
僕は宅録、ネットミュージシャンみたいなくくり方の人たちと若干違う環境でずっとやっていたので、「自分の真骨頂ってこっちにあるんだろうな」というのをライブに対して感じているんです。それでもレコーディングも好きなので、あまりいないバランスなのかもしれないですね。
――多くの人は、「ライブ型」「制作没頭型」のどちらかに分かれる感じでしょうね。
僕は「どっちもやってる」っていう感じです。ライブだとほとんど別人というか、どちらかというと憑依型なんだろうなと。いろんなスタンスがあっていいと思うんですけど、わりとフェスでは盛り上がり至上主義。「どう盛り上げたらいいんだろう?」というのが根幹にずっとあります。だから「アウトロ、もっとやりたいな」とか、そういうのをその場で決めるようにしていて。バンドのメンバーとはずっと一緒にやっているので、そういう感覚は共有されています。
――「盛り上がる」ではありつつも、アッパーなパーティーチューンで攻める感じのライブではないですよね。お客さんが内省的なテーマと向き合いながら高揚感を噛み締めるあの雰囲気は、かなり独特だと思います。
基本的に「お客さんを盛り上げるために」で曲を作っちゃうと良くないというか。自分のスタンスで曲を作った結果として盛り上がらないと、盛り上げないと……という感じなのかな? 普通にやるとそこまで盛り上がるような曲や歌詞じゃないので、ライブ力のようなものでそうなりたいなと。「悲しい」「暗い」「つらい」みたいなことじゃない風に昇華する方が、やりがいがあるのかなと思っています。
――その昇華に至るまでには、いろいろな試行錯誤があるでしょうね。
結構頑張って取り組んでいます。ライブをやって結果が出ても、曲作りは変わらないです。つまり「こういう曲調でちゃんと盛り上げたい」ということなんですけど。
秋山黄色
――8月26日にリリースした「SUMMER BUG」を夏フェスでもやっていましたけど、この曲もまさにそういう鳴り響き方をしていたという印象です。
どのアーティストも出してきた曲を全部並べれば、ライブでやるのに適した曲がそこそこにあると思うんです。でも、僕は極端にそういうのがなくて。だから、どの曲もライブでどう演奏するか次第になってくるというか。あと、単純な共感だと、自分自身があんまり満足できないんです。ある程度複雑な方向で目に見える結果を出したくて。紆余曲折はあったんですけど、この1年くらいで理想の感じになってきているのかなと思っています。
――音源でもそうですけど、ライブで鳴り響く音はグルーヴィーさをとても感じます。
「楽器はそもそも楽しいんだ」「こういう大きい音を出すのって基本的には変だよね」とか、そういう音楽の原体験的な面白さみたいなのがすごくあるんだと思います。やはり僕は「楽器が好き」「録音が好き」みたいな欲求を持って音楽をやっているので。そういうのがライブで利いてきているのかなと思います。「わかるやつだけついて来い」みたいなこともそこまでないですし。原曲通りにライブで再現しようとするのはかなり難しいですし、おそらく100%を狙っていくと100%にはならない。だから「マイナスになりながら120%を目指していく」みたいな形でやっています。そうすると何の曲をやっても熱が伝わっていくのかなと。破綻してしまうことへの悩みが前まではあったんですけど、やっとフィジカルな部分と作りたい雰囲気がリンクしてきて、良くなってきていますね。
――バンドメンバーのみなさんとは、ライブに向けての準備段階でどのようなコミュニケーションをしているんですか?
基本、譜面は渡さないですし、「これ、全然良くない」ってなったら全部変えます。ライブ中もそういうのがあるというか。みんなスタジオミュージシャンですし、僕もまあまあ楽器ができる方ですし、一緒に演奏すると2日か3日で仕上げられるんです。詳細な譜面を渡したらその通りに演奏できるというのはベテランのスタジオミュージシャンにとって当たり前のこと。でも、それだと弱いというか。
――譜面通り、設計図通りのものではないものを求めているんですね。
はい。譜面通りだと、体験としてエンタテインメントになっていないように感じるんです。僕の満足度も含めて、毎回奇跡であってほしいというか。「どのライブを切り取っても、同じライブをやったとしても、1回として同じ演奏はない」みたいなことをよく言うじゃないですか? でも、同じ方向で取り組んでたら、結構一緒の演奏になってしまうんです。ピッチやタイムの良し悪しみたいなものは、僕の中では「違う良さがある」ということではなくて、「クオリティ」ということなので。そうではなくて、毎回奇跡的に曲になっていてほしい。だから譜面を渡さないんですよね。「ここは印象的だから決めておきたい」という部分は共有するんですけど。
――なるほど。
この前の『ROCK IN JAPAN』は、初めてギターで「おかだみ」に入ってもらったんですけど、お客さんが「ギタリストが変わって、全然違う。音が違うっていうか、曲が違うじゃないか」って言っていました。そういうレベルの変化があってほしいんです。いつもやっているメンバーは僕が求めているものを理解してくれているので、すごくいい感じですね。みんなやりたい放題やっていて。
――理想の形でライブをやれるようになっているんですね。
理想ですね。というか、そうじゃないとやっている意味を感じられなくて。演奏は楽しいですけど、その「楽しい」というのがお客さんが感じることではないのは違う。自分が楽しいだけだと良くない気がしてきちゃうんです。毎回ちゃんと奇跡的にあの原曲になってほしい。そういう理想の下でリハーサルをするので、本当の意味で同じ演奏は一度としてない。そんな感じでやっています。
秋山黄色
――ライブに何度も来ているお客さんは、その日ならではのものを楽しみにするようになっているんでしょうね。
そうだと思います。久々にライブに来るお客さんも「全然違う」ってなってます。当然そうなんです。時間が経つとさらに変わっていくので。僕の曲は「Caffeine」が一番聴かれている曲なんですけど、逆にそれを原曲通りにやったときのお客さんの沸き方みたいなのもあって。普通にやるのもお客さんにとって1個の特別な体験になるっていうのもあって。そういう風にするもの面白かったりします。何にせよ、自分が現場にいる誰よりもクレイジーでいないと。そういうのを一応念頭に置いてはいるんですけど。ライブが始まると意識がないので、いろいろ忘れちゃうんですけど(笑)。
――匙加減は難しいところですね(笑)。
でも、ギリギリなんとかなるバランスみたいものは保てていると思います。前は飛び越えちゃってバランスが崩れちゃうこともあったんですけど。
――没入しつつ自分を俯瞰で捉えて制御するバランスの大切さは、舞台俳優とかもよく言っています。
飛び越えちゃうと、やってる自分は楽しいんですよ。爆発して解放しているような状態なので。でも、お客さんはを買って来てくれているので、お客さんに解放してほしいんです。「自分が大暴れしても何も起こらない」というのを活動の初期にすごく感じたので、今は「そういうのはどうやったら人に伝染するのだろうか?」というのをライブをやる前にすごく考えます。ライブが始まるとあんまりコントロールできないので、「なんとかなれ」という感じなんですけど。
――ライブで聴いて、改めて曲が好きになっているお客さんがたくさんいると思いますよ。先ほども話に出た「Caffeine」とか、ライブでも最高ですし。
今だったらもっとわかりやすい歌詞に直せるんですけど。今までに曲をリリースしてきた積み重ねがあって、キャラ的に言っても問題がなくなった言葉がたくさんあるので、今はもっとダイレクトに表現できるんです。でも、「Caffeine」を出した頃はぼかす感じがありました。それが逆に聴く人にとっての入り込める部分になったのかなと思いますけど。
――苦しみ、迷い、恐れとかが浮き彫りにされると、不思議と自身の中にもある同種のものと重ねながら救いを見出せるというか。秋山さんの音楽を聴くと、そういう感覚になります。
「1人じゃないんだよ」っていうことの効果は、思いの外大きいんだなと。僕はあんまり同じような苦しみを描いたものに触れて救われる体験をしてきてないですけど、繋がりみたいなのを感じて救いになることがあるのをファンに教えてもらったというか。特定の層に対してとか、社会問題を解決するためとか、そういうことを考えて作っているような曲はないはずなんですけど、「何かしらの力にはなってるのかも」みたいなのは感じるようになりました。「サウンドが好き」って言ってくれる人も多いですけど、歌詞の部分を評価している人も結構いるみたいで。
秋山黄色
――秋山さんの音楽との出会いは、アニメがきっかけになった人も多いでしょうね。
特に海外では、アニメがきっかけで知ってくれたのを感じます。海外のフェスに出させてもらったときに、「すごい好きです」と声をかけられて。「僕、この曲が好きで、ずっと聴いてるんです」と見せてくれたのが「とうこうのはて」。ライブでよくやってる曲ではあるんですけど、アニメの曲でないんですよね。僕のことを知ってくれた入り口はアニメなんだろうけど、それだけではないんだなと。この前、韓国のフェスに出たときも、日本語の歌詞の意味を調べて理解してくれているお客さんがたくさんいるのを感じました。必ずしもアニメ音楽としてだけ聴いてくれているわけではないんだなと。入り口はアニメでも、そこからどんどん掘ってくれているみたいです。「Caffeine」も海外からのコメントがすごく多いんですよ。洋楽感があったり、ちょっと特殊な伴奏の造りではあるので、海外の人が反応してくれる要素があるのはわかっていたんですけど、歌詞にも向き合ってくれているのを感じると、ますます「ちゃんとやろう」と思います。
――どんどんボーダレスに届くようになっているんですね。
海外に届くように自分から考えてやっていかないとなかなか届かないのが当たり前だったと思うんですけど、今は想像していた以上に壁がなくなってきているみたいです。自分のやり方で日本以外にも届ける方法があるのかもしれないと思うようになりました。
――入口になっているアニメの曲に関しては、『約束のネバーランドの曲だった「アイデンティティ」もまさにそうでしょうね。8月に【JUMP MV】シリーズ第59曲目として公開されたMVも大反響だったじゃないですか。
僕、漫画が本当に好きなんですよ。そういう人はプレッシャーを感じて怖くなることもあると思うんですけど、僕は作品の一部になってしまうことへの恐ろしさみたいなのがありました(笑)。すごい体験をさせてもらいましたね。僕は自分が作った曲に絵が付くことに対するものすごく特別な感覚があるんです。「アイデンティティ」はアニメのオープニングとしての映像を既に作っていただいていましたけど、さらに原作の絵でMVも作っていただいて、恐れおののいています(笑)。
秋山黄色
――(笑)。11月にはアニメ『僕のヒーローアカデミア』10周年プロジェクトの企画のライブイベント『ANI-ROCK FES. 2026 「僕のヒーローアカデミア PLUS ULTRA LIVE」』にも出演するんですね。
いろんなアーティストさんのファンが集まるのでセットリストは迷うんですけど、非常に楽しみですね。
――ワンマンライブに関しては、全国11ヶ所を回る全国ツアー『秋山黄色 LIVETOUR2026「頭に無音がやってきた」』が予定されています。「頭に無音がやってきた」というタイトルが目を引きますが、どういう想いを込めているんですか?
とっかかりは、こういうインタビューだったんです。「音楽のいいところはなんだと思いますか?」というようなことを聞かれたんですけど、あんまりそういうことは考えたことがなくて。「なにがいいんだろう?」と考えて、音楽の特性としていいなと思ったのは、「完璧な無音が訪れるところ」というか。日常で考えを止めることって基本的には無理じゃないですか?
――頭を空っぽにしたつもりでも、無意識下では何かしらの思考が巡っているものですよね。
そうですよね。お釈迦様さえ、頭の中を完全に空っぽにしたのは何分だっけな? 十数分とかだったはず。普通の人は思考を止められなくて、基本的に頭の中は喧騒なんですよね。でも、スピーカーかヘッドフォンで音楽を聴いて没頭すると、「この曲いいなあ」みたいな考えは生まれるけど、頭の中にあった騒音みたいなものが消えて無音になるんです。それが音楽が持っている最も良い部分なのかなと。そういう無音体験をライブ中に作りたいんです。ライブ中は五感を全部使っている分、1人で音楽を楽しんでいるときより感情がすごく動いている気がするんです。そういうのを本当の意味で静寂にするライブをやってみたいと思っていて。そういう衝撃的な何かを作りたいと思ったのが、このタイトルのとっかかりでした。何らかの仕掛けによってツアーの全公演をそういう風にするのは難しいのかもしれないですけど、そういうものにしたいというのがスタートライン。セットリストに入れる曲を選ぶ上でのテーマ性も、そこにあるなと思っています。
――音楽に関するとても面白い視点です。音にじっくり耳を傾けるからこそ訪れる「完璧な無音」という感覚は、たしかにありますね。
嫌なことを忘れられたりするのもそうですけど、集中の種類の内の1つというか。こういう感覚になるのは、他の芸術にはないことのようにも思うので。例えば楽しい曲をやると「楽しい」で頭の中が1色になるから、それも小さな無音。でも、それだけでは足りなくて。自分のやり方、自分の曲調、自分が積み上げてきたライブの力によって「楽しい」「悲しい」とか以外の何か1色を作り、それによって「たくさんの絵の具を使ったことによって真っ黒になる」みたいなことにしたいというか。最終的にそういうことを目指して演奏していきたいです。感動だけではない、様々な感情が渦巻くあの名前のついていない状態……っていうんですかね? そういうもので満たしてみたいです。それができる曲が揃ったはずなので、各々のタペストリー的な繋がりによって新しい感情を生み出せないかなと。
――秋山さんの「音楽とは?」という音楽観を掘り下げるツアーにもなるのかも。
そうですね。僕は音楽をやっていたり、芸術に没頭している人の中でも上位に食い込むくらい冷めているんです。ものすごくリアリストだし、一切のロマンチシズムを許さない。空想に裏打ちされているようなものには従わないので。でも、ものすごく現実的なことがあるせいで、たまにライブ中に不思議な感覚が訪れると、人一倍それに入り込んでしまうというか。「音楽には力があるんじゃないか?」という期待が自分の中に湧くと検証せずにはいられない。そういう体験の場にしたいです。
秋山黄色
――ツアーに関して、他に何か語れることはありますか?
僕は「会場限定グッズ」とか、特定の条件を満たせないと購入できないとかいうのをやらないようにしていて。でも、「ならでは」みたいなことをちょっと考えていたりしていて。あと、僕のグッズはかわいいので(笑)。
――そうですね(笑)。
あと、アルバムの『Magic if』を出した後の大きなライブは、東京と大阪の2ヶ所でしかやっていなくて。そのときもそれほど『Magic if』の曲をやっていないんです。今回のツアーはあのアルバムからもたくさんやりつつ、最近はやっていなかった曲も入ってくると思います。新曲もやるかもしれない。攻めたセットリストになってるかも。そして、いたるところで口走ってしまっているのでみなさん知っているかもしれないですけど、また何か出そうと思っていまして。
――作品を?
はい。リスナーも忙しくなってしまうかな(笑)。1年に1枚アルバムを出してツアーをやるというのをずっと繰り返していたんですけど。僕は好きなアーティストに関しても、ホームページとかを開いたときに、3ヶ月から半年くらいの間にニューリリースの情報が更新されている感じが丁度いいんです。アルバムを年1枚に決めているのは健康的でいいなと思っていたんですけど、それだとそわそわするというか。分けてEPを2枚出してもいいのかなと。今年は『Magic if』とコラボ集(EP『Scissor Hands Up』)みたいなのを出したんですけど、さらにまた出そうかなと。年に出す頻度としてそれでいいのかも確かめたいと思っています。
取材・文=田中大
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