6つの欲求を満たす音楽の旅、終着点・江ノ島で魅せた自由自在な弾き語り――SAKANAMON藤森元生『ひとりもん』ツアーファイナルレポート
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撮影=満田彩華
『ひとりもん"藤森元生の6つの欲求ツアー"』2026.10.24(SAT)神奈川・BLUE Enoshima
「あと2曲です」
ライブの終盤、そう予告した藤森元生(Vo.Gt)に対して、満足していてもとりあえず声を上げたにちがいない観客の「えーっ」という声を聞き、彼は言った。
「弾き語りのライブがあんまり長いのってどうですか? 僕は耐えられないから、今日みたいに小細工してしまうんですけど」
それを聞き、筆者は「えっ」と思った。いやいや、小細工だなんて、とんでもない。
もしかしたら、藤森は謙遜していたのかもしれない。あるいは、曲そのものに自信があるからこそ、本当ならそれ以外の要素は必要ないという気持ちがあったのかもしれないが、少なくとも筆者は藤森が小細工と表現した、ある意味、演出と言うか、ギミックもまた今回の弾き語りライブの大きな見どころになっていたと考えている。
それが『ひとりもん “藤森元生の6つの欲求ツアー”』と題して、SAKANAMONのギター・ボーカル、藤森元生が自身の欲求に従い、静岡公演から全国6カ所を回った弾き語りツアーの、10月24日(土)に神奈川・BLUE Enoshimaで開催されたファイナル公演を見た一番の感想だ。それが小細工なのか、ギミックなのかはさておき、ステージの真ん中に置かれたイスに鎮座したSAKANAMONのマスコットキャラクター、サカなもんが藤森に代わって、まず開会の挨拶をするという演出が冒頭から観客を喜ばせたのだから、なんとしてでも観客に楽しんでもらいたいという藤森の気持ちは十二分に伝わったはず。
そして、「イロイロナトコロデ自分ノ欲求ヲ満タスタメノつあーデス。今日ハ水ヲてーまニらいぶを繰リ広ゲマス。サア、ミナサン、準備ハデキテイルデショウカ? 藤森元生、ガンバッテネ!」とサカなもんに招かれ(たぶん、藤森自身の影アナ)、藤森はアコースティックギターを弾きながら客席を通ってオンステージ。弾き語りツアーのテーマソングとも言える「ドラえもんのうた」の替え歌である「ひとりもんのうた」から、歌の途中、カズーも吹きながら、「つつうららか」「枕歌」と弾き語りで披露していく。そんな藤森を歓迎したのは、自然に始まった観客のハンドクラップだった。
因みに会場のロケーションは江ノ島ビュータワーの7階。天気が良ければ、ステージの後ろの壁一面を使った窓には日没前の青い海が広がっていたはずだが、あいにくこの日は雨。「ご覧ください、この景色を! 本当だったら、景色はいいんですよ。雨かぁ! 雨バンドだからなぁ」と藤森は苦笑い。
しかし、今回の弾き語りツアーのテーマとこの日、満たす欲求が水であることを説明しながら、神奈川県の秦野盆地湧水群の地下水をボトリングした「おいしい秦野の水~丹沢の雫~」をぐびぐびと飲んでいるうちに気分一新したのだろう。「雨も歓迎してくれていると思えば、この景色も微笑ましい」と気を取り直したように言って、前掲の3曲をプロローグとするなら、本編とも言える各地それぞれにSAKANAMONのレパートリーの中から作ったというセットリストを披露していった。
まず披露した「ミュージックプランクトン」はSAKANAMONのライブでも演奏することが多いアンセミックなロックナンバーだが、この日は爪弾きのアルペジオに深めにディレイを掛け、幻想的とも言えるアトモスフェリックな弾き語りバージョンにリアレンジ。最後のサビではアコギのボディを叩くスラム奏法も交える。
続く「SAKANAMON THE WORLD」ではハーモニクスで倍音を鳴らしたイントロのアルペジオを、ループマシーンを使って、その場でサンプリング。ループで流しながら、自らもアコギを弾いて歌うといういわゆる弾き語りとは一線を画するテクニカルなパフォーマンスで観客を釘付けにする。その次の「TACHNOMUSIC」でも同様にループマシーンを使ったパフォーマンスを披露したが、ラテンともファンキーとも言えるリフにギターのボディを叩いて鳴らしたビートも重ね、さらに巧みなループ使いも見せつけながら、藤森は情熱的に歌い上げ、ぐっと演奏の熱を上げたのである。
そんな藤森曰く小細工を、藤森は後半でも存分に使うのだが、その前に、これもまた今回の弾き語りツアーの見どころの1つだったカバーを2曲披露。各地、それぞれのロケーションやそこで満たす欲求に因んだ選曲を、藤森自身も楽しんでいたようだが、この日は「江ノ島からほど近い茅ヶ崎には何組か素晴らしいアーティストがいます」と前置きしてから、Hermann H. & The Pacemakersの「あまつゆのバラード」とサザンオールスターズの「TSUNAMI」というともに雨をテーマにした2曲をギミックに頼らず、観客がじっと聴き入る中、真正面から弾き語ってみせた。
藤森が学生時代に影響を受けたというHermann H. & The Pacemakersの「あまつゆのバラード」は、藤森が共感できる数少ないラブソングの中の1曲なのだそうだ。「TSUNAMI」のサビをエモーショナルに歌い上げたところは藤森ならではだろう。
藤森がギターをチューニングしている間、観客を飽きさせないようにサカなもんが♪チュ~ニングタ~イムとハーモニーを重ねる心遣いにも――みんな、それがシーケンスだとわかってはいるけれど、思わずニヤリ。
そこからシーケンス音源を使って、「ことばとおんがく」と「jellyfish」の2曲を楽しませる。アンビエントなSEに加え、ドラムも鳴らして、音源のポストロックサウンドをバンドバージョンとは違う形で再現してみせた「jellyfish」は、今回の弾き語りツアーにおける挑戦の成果の1つと言えるのでは。
そこから一転、およそ弾き語りには向かない怒りのラップロックナンバー「ただそれだけ」をスラム奏法も交えながら、アコギ1本で炸裂させると、藤森の熱演&熱唱に観客が大きな拍手を送った。
そして、NHK「みんなのうた」に提供した新曲「おっちょこブラザーズ」と「ありありあり」を、シーケンスも使いながらサカなもんと一緒に歌って、ダメ押しするように弾き語りツアーのレア感を観客に楽しませると、本編の最後は観客のハンドクラップとともにバラードの「voices」の弾き語りで締めくくる。
「これからは来年迎えるSAKANAMONの結成20周年に向けて、バンド活動に集中していきます!」
そしてアンコールは、そんな発言を裏付けるようにアンセミックなロックバンド賛歌「ロックバンド」を、コードをかき鳴らしながら歌って、最後、藤森は「バンザイ!」とツアーの成功を自ら祝うように声を上げたのだった。
今回の弾き語りツアー。前半が終わったタイミングで「楽しい」と藤森は言っていたが、よほど手応えを感じたようだ。前掲の発言に続けて、「でも、弾き語りもぜひやりたいと思うので、その時はまた遊びにきてください」と言って、SAKANAMONファンの楽しみをまた1つ増やしたのだった。
取材・文=山口智男 撮影=満田彩華
ライブ情報
OPEN 18:30 / START 19:00
前売り:¥4,800 / 当日:¥5,300