松本幸四郎が語る、南座『吉例顔見世興行』――辰之助襲名を支える思いと次代への期待「第一歩を華やかに、しっかりと支えたい」
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松本幸四郎 撮影=福家信哉
京の師走を彩る『當る未歳 吉例顔見世興行 東西合同大歌舞伎』が、2026年12月1日(火)から24日(木)まで、京都・南座で開催される。今年は、尾上左近改め三代目尾上辰之助の襲名披露も行われ、辰之助は昼の部の「音羽嶽だんまり」で音羽夜叉五郎を、夜の部の「新版歌祭文」「野崎村」でお光を勤め、劇中で襲名口上を述べる。
その門出を支える一人が、松本幸四郎だ。昼の部では、暗闇のなかで白旗をめぐる探り合いを繰り広げる「音羽嶽だんまり」の畠山重忠と、僧になりすまして大名屋敷へ乗り込む「河内山」の河内山宗俊(Bプロ)を勤める。夜の部の「木挽町のあだ討ち」は、父の仇を追って江戸の芝居小屋に身を寄せた若者と、彼を取り巻く人々を描く新作歌舞伎。幸四郎は物語の鍵を握る狂言作者・篠田金治に扮する。南座の顔見世への特別な思い、古典と新作それぞれの面白さ、そして次代の俳優への期待を聞いた。
幸四郎と壱太郎が語る、歌舞伎の多彩な楽しみ方
松本幸四郎
10月21日(水)、阪急うめだ本店で開催の催事『Japan and me. ―日本の美と技を未来につなぐ―』に合わせ、幸四郎と中村壱太郎のトークショーが行われた。南座の顔見世でも共演する二人が語ったのは、伝統を受け継ぎながら、今の観客へ歌舞伎を届けることへの思いだ。
幸四郎は「いかにその時代その時代で感動や笑い、驚きを届けていくかという演劇として存在し続けることが、一番大事なあり方だと思っています」と熱を込めた。それを受け、壱太郎も「時代に合わせてどう楽しんでもらうか、伝え方を常に考えていくことが大事。伝統という言葉の裏には、いい意味で変わり続けている精神がある」と同調。「新作の脚本や音楽などクリエイティブの原点は幸四郎さんにある」と明かし、「同じ古典を演じる際にも毎回違う刺激を見出される姿に刺激を受け、いつもワクワクしながらご一緒しています」と笑顔で語った。
(左から)松本幸四郎、中村壱太郎
物語だけでなく、色彩や音楽、舞台の仕掛けなど、楽しむ入口がいくつもあるのも歌舞伎の魅力。同じ演目でも、演じる俳優やその日の舞台の空気、観る席によって印象が変わる。二人は、それぞれの興味に応じて舞台を楽しんでほしいと呼びかけた。さらに、壱太郎が南座の顔見世を、幅広い世代の俳優が集う「オールスター戦」のようだと表現するなど、公演に寄せる期待も語った。
歴史を知る観客と共に育まれてきた、南座の顔見世
『當る未歳 吉例顔見世興行 東西合同大歌舞伎』
——南座の顔見世では、ほかの公演とは違うお気持ちになるのでしょうか。
南座の顔見世興行というのは、やはり伝統や歴史を感じるところがありますね。12月の興行なので、一年の締めくくりの舞台でもあります。たくさんの舞台に立たせていただいていますけれど、そういうことが重なって、12月の顔見世興行にはちょっと特別な思いがあります。
——一年の締めくくりには、どのようなことを振り返られますか。
反省と後悔ばかりです。けれども、多くの舞台に立たせていただいて、まずそれがありがたい、幸せだなという思いは感じます。一年はあっという間で、9月、10月ぐらいにはもう次の年の1月の話が出てきたり、作品によっては準備が始まっていたりします。12月になると来年のことを準備しているので、顔見世も特にあっという間に過ぎてしまうというのはありますね。
——南座という劇場や、京都のお客様から感じるものはありますか。
舞台に立って感じることもありますし、実際、京都にはお芝居についてお話をしてくださる、ダメを出してくださる方が多いんです。そういう意味での厳しさもありますね。南座の歴史のなかには、劇場に足を運んでくださった方々がいて、その方々がいらっしゃるからこそ、劇場を開けることができた。そういうことを感じられる劇場だと思います。
辰之助の門出を一座で寿ぐ「音羽嶽だんまり」
松本幸四郎
——「音羽嶽だんまり」では、辰之助さんの襲名披露を共演者として支えられます。どのようなお気持ちで臨まれますか。
辰之助としての第一歩を、皆で華やかに、しっかりと支えて盛り上げていければと思います。それに徹するという思いでいます。辰之助くんとは、本名でいえば同じ藤間姓でもあります。親戚の一人としても、彼の新たな門出の舞台に立てるというのは、ひときわうれしいですし、この演目が成功して、盛り上がるように努めたいと思います。
——「だんまり」は、セリフを使わずに見せる歌舞伎独特の演出です。今回の見どころを教えてください。
12人でだんまりをするというのは、相当多いです。暗闇のなかという設定ですけれど、これだけ人数がいると「見えないのか?」と思われるかもしれません。ただ、だんまりという設定にすることで、ゆったりと動くことや、最後にぱっと明るくなる、その変わり目を楽しんでいただける。これは歌舞伎でないと成立しない演目だと思います。いろいろな拵えがありますから、衣裳も含めて、歌舞伎ならではの色彩も楽しんでいただきたいですね。辰之助くんが藤間大河として最初に舞台に立った、初御目見得の演目も「音羽嶽だんまり」だったそうなんです。彼にとっても、とても大切な演目ですので、物語以上に、一人ひとりの役者を楽しんで見ていただきたいですし、この顔見世興行の一座で、彼の門出を盛り上げたいと思います。
——暗闇を手探りで進む演技では、どのようなことを意識されますか。
僕は目に気をつけていますね。真っ暗ななかで、見えないものを見ようと探して歩いていく。もちろん手で探る動きもありますけれど、暗闇だということを感じていただくために、目の開け方や目線、そういう目の遣い方に気をつけて演じています。
ふてぶてしさを魅力に変える、「河内山」の「歌舞伎マジック」
松本幸四郎
——「河内山」では、片岡仁左衛門さんと日を替えて河内山宗俊を勤められます。同じ公演で同じ役に向き合うことを、どのように受け止めていらっしゃいますか。
一つはプレッシャーがありますね。日によっては仁左衛門のおじさま、日によっては私ということですから。違いがあるのは当然ですけれど、逆に、やり方の違いを楽しんでいただければと思います。今回は台本はほぼ一緒なのですが、同じ台本でも、印象の違いを明確に演じたい。それがダブルキャストの楽しみ方かなと思います。
——「河内山」、高麗屋で演じてこられた演目です。受け継いでいくうえで、大切にされていることは何でしょうか。
やはり台詞の心地よさですね。非常に印象に残る河内山を演じて来ていますので、それを少しでも体現できるようにと思っています。七五調のリズムがあって、音楽的でもある台詞です。その切れのよさと、役そのものの小気味よさ、歯切れのよさ。それと、ふてぶてしさですね。正体がばれてしまったときには、本来なら焦りがあるのでしょうけれど、逆にふてぶてしく堂々としている。その痛快さが大事な役どころです。
——人をだましても、開き直って堂々としている。幸四郎さんご自身は、河内山という人物をどうご覧になっていますか。
人をだまして、正体がばれたら開き直ってふてぶてしくする人というのは、面倒くさいですよね(笑)。舞台の上だけでいいです。近くにいてほしくないですし、現実にいたら、ちょっと困った人でしょうね(笑)。
——そんな人物が魅力的に見えるのも、芝居の面白さですね。
そこが「歌舞伎マジック」とでもいうのでしょうか。ただ、そういう役でも魅力を感じていただけるように演じないといけない、という難しさもあります。
——古典の世界を今の観客に届けるために、どのようなことを大切にされていますか。
現実にはないテンポ感や世界観、時代のなかへ、お客様を引っ張り込む、連れていく、誘っていく。それが歌舞伎のお芝居の、一つのおもてなしの仕方ではないかと思います。今回の「河内山」は、「質見世」から上演します。それは珍しいことではありませんが、この場面がない上演の仕方もあるんです。それほど長い場面ではありませんが、まず物語の裏側をお見せして、それから「どうやって化けて出てくるんだろう」という展開になる。これからの時代には、そういう見せ方がさらに大事になってくると思いますね。
——先に背景を知ることで、その後の展開を楽しみに待てるということですね。
お芝居の説明をしたからといって、すべてがわかるわけではありませんが、お客様に安心を感じていただけるやり方でもあると思います。例えば、「早替りがありますよ」と言っておいて、早替りをお見せする。特に日本のものには、そういうところがある気がします。お化けでも「出るよ、出るよ、出てきた!」という。そうやって期待をしていただくことや、見る方向をお示しすることが安心につながって、さらにゆったりと見ていただけるのではないかと思います。
「木挽町のあだ討ち」の見どころと、若い俳優たちの可能性
松本幸四郎
——夜の部では、2025年に初演された「木挽町のあだ討ち」が上演されます。小説を歌舞伎にする面白さを、どのように感じていらっしゃいますか。
芝居小屋が舞台になる作品です。小説は回想的なつくりになっていますが、歌舞伎版はそうではない形になっていて、大胆に構成が変わっているところもあります。ただ、それによって効果的に歌舞伎舞台化されていることがわかっていただけると思います。言葉もわかりやすいですし、必ずやほろっとする、気持ちが温かくなるような作品になると思います。
——主演の染五郎さんとは今回も共演されます。俳優としての成長を、どのように感じていらっしゃいますか。
今、本当に大きなお役をいただいて、ありがたいことです。どの役も、今の本人からすれば簡単には勤まらない大きな役ばかりですが、できないことをできるようにしようと努力する、その役を目指す気持ちはあるのかなという感じがします。多少、頼もしくなってきたのかなという気はしますね。
——最近、特にそう感じられた場面はありましたか。
大きなお役を勤めるうえで、声をはじめ、体調を維持していることですね。ただ守るようにして維持するのではなく、舞台ではきっちり全部出し切ったうえでケアをする。そういう舞台に対する姿勢です。9月の歌舞伎座「秀山祭」の公演でも一日一日の変化がありました。1ヶ月の公演で何度も舞台に立てる、その一回一回を無駄にせず、課題を明確にして舞台に立っていたということは感じられました。
何年前だったか、お芝居に癖がない役者さんだなと思ったんです。彼自身にも「癖がなくて、とてもいい。癖がないということで勝負するのは、とても大変なことですけれど、それをやってください」と伝えました。今、いろいろな大きな役をつかんでいっている時期なので、もっともっと大きくなっていってほしいですね。彼はずっと自分自身を見つめていたり、どういう役をしたいのかという目標を持っています。たぶん、僕が思っている以上に、そういうことを考えているのではないかなと感じます。本当に楽しみな役者さんです。伸びしろが無限にあるので、お客様にはその姿を見守って、追い続けていただきたいですね。
——これからどんな個性が生まれてくるのかも楽しみですね。
そうですね。これから彼らしさがにじみ出てくるようになるといいと思います。
松本幸四郎
公演情報
※休演日:12月9日(水)・12月17日(木)
【昼の部】
曽我五郎時致 尾上松也
小林朝比奈 尾上右近
第二、絵本太功記
<尼ヶ崎閑居の場>
武智光秀 片岡愛之助
操 片岡孝太郎
初菊 中村壱太郎
武智十次郎 中村隼人
佐藤正清 中村鷹之資
皐月 上村吉弥
真柴久吉 中村扇雀
第三、三代目尾上辰之助 襲名披露狂言 音羽嶽だんまり
音羽夜叉五郎 尾上左近改め尾上辰之助
畠山重忠 松本幸四郎
白拍子仏御前 片岡孝太郎
鎌田蔵人 片岡愛之助
大内息女大姫 中村壱太郎
結城左衛門 中村虎之介
雲霧袈裟太郎 市川染五郎
榛沢六郎 中村亀鶴
浅野弾正 片岡進之介
大江三郎 中村錦之助
夕照の前 中村扇雀
奴伊達平 中村鴈治郎
第四、天衣紛上野初花 河内山
河内山宗俊 片岡仁左衛門(Aプロ)、松本幸四郎(Bプロ)
宮崎数馬 市川染五郎
腰元浪路 尾上左近改め尾上辰之助
後家おまき 上村吉弥
和泉屋清兵衛 中村又五郎
高木小左衛門 中村歌六
松江出雲守 中村梅玉
※Aプロ(12月1・3・4・5・8・10・13・14・15・18・19・20・23・24日)
※Bプロ(12月2・6・7・11・12・16・21・22日)
【夜の部】
第一、三代目尾上辰之助 襲名披露狂言 新版歌祭文 野崎村
久作娘お光 尾上左近改め尾上辰之助
丁稚久松 尾上松也
油屋娘お染 尾上右近
後家お常 中村雀右衛門
百姓久作 中村梅玉
第二、
上 萬歳
中 女伊達
下 団子売
〈萬歳〉
萬歳 片岡愛之助
才造 中村隼人
同 中村虎之介
〈女伊達〉
木崎のお康 片岡孝太郎
男伊達 淀川の千蔵 大谷廣太郎
同 中之島鳴平 中村鷹之資
〈団子売〉
お福 中村鴈治郎
杵造 中村扇雀
第三、 永井紗耶子 原作(『木挽町のあだ討ち』新潮社刊)
伊納菊之助 市川染五郎
篠田金治 松本幸四郎
ほたる 中村壱太郎
佐野川妻平 尾上左近改め尾上辰之助
衣裳方栄二 大谷廣太郎
伊納清左衛門 市川高麗蔵
伊納家の下男作兵衛 中村錦之助
小道具方久蔵 中村鴈治郎
立師与三郎 中村又五郎
久蔵女房与根 中村雀右衛門