[Special Interview]Vol.5 イ・ミョンヘン【前編】

インタビュー
舞台
2016.3.2
イ・ミョンヘン

イ・ミョンヘン

韓国には“信じて見る俳優”(믿고 보는 배우)という表現があります。ファンや観客たちが俳優の演技に魅了され、信じてついていく……多くの役者が手にしたいこの称号を得た演技派俳優として、韓国演劇界で近年、真っ先に名前が挙がるのがイ・ミョンヘンさんです。

舞台でよく通る深みのある声、情熱的かつ豊かな表現力で、観客の心をつかんできた彼は、劇団「プレイファクトリー魔方陣(マバンジン)」の団員として活動してきたほか、『ヒストリーボーイズ』『プライド』など、さまざまな話題作で圧倒的な存在感を見せてきました。2015年は6作品に出演。さらにドラマ『六龍が飛ぶ』にもレギュラー出演中と、多忙な日々を送っている彼に現在主演中の演劇『蜘蛛女のキス』をはじめ、いろんなお話しを伺いました。

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●イ・ミョンヘンさんというとエネルギッシュで男性的な役柄が多いイメージがあります。今回『蜘蛛女のキス』ではゲイのモリーナ役で、いつもと違う柔らかいイメージを見せていますね。出演に至る経緯を教えていただけますか?
「僕にとっては“俳優の財産”みたいな作品です。俳優になりたいという夢を育てる作品は人によって違うと思いますが、若いころに偶然映画版を見たんです。そのころはゲイや同性愛についての概念もよくわからずに見たのですが、ウィリアム・ハートという俳優が、男性なのに女性ぽく演じているのを見て“あ、これが俳優なんだな、俳優ってこういう風に変身するんだな”と。それから、俳優ならば一度こういう役をやらなきゃいけないんじゃないか? という考えが以前からあったと思います」

『蜘蛛女のキス』公演写真より(左:バレンティン役 ソン・ヨンジン、右:モリーナ役 イ・ミョンヘン) ©AGA COMPANY

『蜘蛛女のキス』公演写真より(左:バレンティン役 ソン・ヨンジン、右:モリーナ役 イ・ミョンヘン) ©AGA COMPANY

●ずっと心のなかで温めていたモリーナ役を演じてみていかがですか?
「幸い、魔方陣の『剣でマクベス(칼로막베스)』という作品で僕はレディマクベス役をやったことがあったんです。その経験があったので、女性的なキャラクターを演じることで大変なことはなかったです。だけどモリーナも、相手役のバレンティン役もトリプルキャストなので、相手役が変わると息を合わせるのはちょっと大変ですね」

●私が拝見したときのバレンティン役はチョン・ムンソンさんでした。
「ムンソンさんは、感情的に深く入っていく感じがありますね。ソン・ヨンジンさんやキム・ソンホさんと演じるときは、また違う感じで感情を探っていくんですけど、ムンソンさんと演じるときは、普通よりも感情の深さを感じるので、とても新鮮だし面白いです」

『蜘蛛女のキス』ポスター ©AGA COMPANY

『蜘蛛女のキス』ポスター ©AGA COMPANY

●同じモリーナ役を演じているチェ・デフンさん、キム・ホヨンさんはご自身と比較してどんなキャラクターになっていますか?
「リハーサルでしか見てないので、はっきりとした違いはわかりませんけど、デフンさんは、役柄の解釈がちょっと違うので、全然違うモリーナです。僕とホヨンさんはそれほど解釈に大きな違いはないですけど、ホヨンさん自身がもともと綺麗だし、僕よりもはるかに女性らしい部分があると思います。僕はホヨンさんよりは男性的ですが、それが良いと言ってくださる方もいるんです。どうしたってモリーナは男ですし、自分もそれを分かっているので、たまに男性的な部分が見え隠れするのが、より人間ぽいとも言われました」

●『蜘蛛女のキス』に出演依頼が来たら、当初からモリーナ役と決めていたのですか?
「先ほどもお話ししたように、映画でウィリアム・ハートを見たときのイメージが強く残っていたので、最初にオファーをいただいたときもモリーナをやりたいと話しましたし、制作陣もモリーナ役を考えていたそうです。バレンティン役も上手くやれそうだけど? という話もありましたけどね。でも、実際作品をやってみて、モリーナはとても素敵で面白いキャラクターですが、バレンティンも何となく合いそうだと。もし、またこの作品に出演する機会があったら、バレンティンをやってみるのも面白そうだと思っています」

『蜘蛛女のキス』と平行して、1月上旬まで劇団メンシアターによる『ターミナル(터미널)』というオムニバス演劇に出演していたミョンヘンさん。「牛(소)」という短編で彼は、家族のために身を粉にして働いて牛になり、家畜市場に売られてしまった父に次いで、ほぼ牛になりかけている長男役を、鳴き声や動きまで実にリアルに演じていました。

●「牛」はどういう作品か、教えていただけますか?
「韓国には“働きすぎると牛になる”という言い伝えがあります。この作品で僕は、働きすぎてすでに牛になった人なので、本当の牛のように演じます。振付の先生に牛の動きかたや特徴を教わったりして、人間じゃないキャラクターを演じるのが面白いです。韓国社会は残念ながらだんだん生活するのが大変になってきている状況ですが、大変な社会をどうやって生きぬくか、について隠喩している作品です。厳しい状態で働いても牛にならざるをえないような現実……いまの私たちの生活もこんな感じじゃないか? と。短編だからこそ観客の方々が考える部分が多い作品だったと思います」

「カムサハンダコンサート」で歌を披露するイ・ミョンヘン ©HAN ENTERTAINMENT

「カムサハンダコンサート」で歌を披露するイ・ミョンヘン ©HAN ENTERTAINMENT

また12月には、所属事務所「ハンエンターテインメント」主催で初開催されたミュージカルコンサート「カムサハンダコンサート」でMCとして出演。かなり照れながらも、ラテンの名曲「キサス・キサス・キサス」(Quizás, quizás, quizás)という曲を歌い、素敵な歌声も披露していました。

親指の爪が思わぬ効果となった『蜘蛛女のキス』ポスター ©AGA COMPANY

親指の爪が思わぬ効果となった『蜘蛛女のキス』ポスター ©AGA COMPANY

●以前『ヒストリーボーイズ』の公演中に、ミュージカル俳優のトークショー「イヤギショー」に出演されたときに、ウクレレが趣味だとおっしゃっていましたね。
「はい、今もずっとやっています。(爪が長い親指を見せながら)本格的にやってるわけではないですが、爪が長いと演奏しやすいんです。ウクレレのために爪を伸ばしているんですけど、『蜘蛛女のキス』のポスターでは、手を顔に当てているので爪が写っていて(笑)。それが偶然、キャラにピッタリハマっているんですよ(笑)」

演劇『ヒストリーボーイズ』(2014年)プレスコール写真より

演劇『ヒストリーボーイズ』(2014年)プレスコール写真より

●出演者たちとMT(懇親旅行)に行ったのに、ウクレレを弾きながらずっとひとりで歌を歌っていたと暴露されていましたが(笑)。
「あの時はほかの公演があって僕だけちょっと遅れて参加したんです。もうみんなすでに飲んだ後だったので、僕ひとりで一杯やりながら雰囲気に酔って歌ってたんです。そしたらうるさくて寝れないと言われ…(笑)」

●あの時に歌がお好きなんだな、と思いました。もともと“いい声”をお持ちですし。
「上手くないですけど、歌うのは好きですね。ミュージカルにも出演しましたけど、もっと練習しないと…(笑)」

弘大のクラブで行われた「カムサハンダコンサート」の様子 ©HAN ENTERTAINMENT

弘大のクラブで行われた「カムサハンダコンサート」の様子 ©HAN ENTERTAINMENT

キム・スヨン、アン・ユジン、キム・ギョンス、イム・ガンヒなど、実力派ミュージカル俳優たちも出演した「カムサハンダコンサート」は今後も不定期ながら継続的に行われる予定だそうです。イ・ミョンヘンさんの歌もまた聴けるかもしれませんので、みなさま要注目を。

⇒インタビュー後編では、俳優イ・ミョンヘンの誕生秘話などを伺います。

取材協力:ソン・ミミ(ハンエンターテインメント)/accompany cafe  撮影:パク・ジュンウン
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