「顔出しNG」系アーティストの究極形・顔なきポップスター、シーア

2016.1.30
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シーア

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音楽は耳で聴くもの。これは当然だ。

だがそれと同じくらい重要な要素は、実は視覚だったりする。人は音を聴いたとき、様々な人や物、光景など、視覚から得て記憶されていたり想像されるヴィジョンを、視覚情報を元にした形で無意識のうちに思い浮かべているからである。雷鳴が轟け馬稲光を想起し、「ワン」と聞こえれば犬種はさておきなんらかの犬の絵が浮かぶはず。音楽でいうとライヴ会場での照明や映像によってよりその音世界に没入できる事実も、視覚が及ぼす効果の一つだと言えるだろう。

日常には、音楽を効果的にプロモーションするーー好きになってもらう以前に覚えてもらうための、様々な視覚を使った施策が当たり前のように存在している。カッコよく/可愛く、あるいは作品の世界観に合ったオシャレなアーティスト写真がまずそうだし、ジャケット写真も、MVも、TVもそうだ。テレビや映画、CMのタイアップもそうだし、ライヴ出演も部分的にはそういう意味合いを持っている。これらによってリスナーの頭の中で「この歌はこんな人が歌っていて、こんな雰囲気の曲なんだな」と、音とヴィジュアルを紐付け、音だけを聴くよりずっと強烈な印象となって記憶される。さらに視覚面から得た情報、アートワークや顔そのものでファンになったりする場合も多い。

それが近年になって、視覚面の最たる要素の「顔」を出さないミュージシャンが増えてきている。以前からデビュー後しばらく顔を出さなかった小椋佳のような例もあったにはあったが、2000年代後半に入ってからその流れが一気に加速した気がする。“顔を出さないアイドル”として話題となったClariSや、女性シンガーのAimer、バンドのGreeeenやamazarashiなど様々なジャンルにおいて、顔を出すことなく楽曲を発表し、人気を博している存在が出てきたのだ。BEAT CRUSADERSやMAN WITH A MISSIONなどの「お面系」もそこにジャンル分けできるだろうし、人によってはニコ動界隈も入るだろう。彼らが顔を出さない理由はきっとそれぞれ違うものの、人気を博した拝啓には共通項が存在する。物珍しさや話題性はもちろんあっただろうが、大きな要因の一つは視覚面を含む情報が氾濫する現代において、ある種のミステリアスさを担保出来たことだ。想像の余地が残されている、と言い換えても良い。インターネットでどんなことでも知れてしまう時代に、「分からない」要素があることで、「分かる」存在よりも強烈に印象として刻まれたのだ。さらに「顔」という視覚情報に頼らなくても耳と脳内に残る、声や楽曲、サウンドの個性が備わっている点、顔を出す代わりに効果的なイメージ映像やペルソナ的キャラクターなどを駆使している点である。

そんな「顔を出さない」アーティストの中で、おそらくは世界的にもっとも成功しているのがシーア(SIA)だ。なにしろ代表曲「シャンデリア」のYOUTUBE再生回数は10億回を超えるのだから破格である。その「シャンデリア」MVには本人は一切登場せず、彼女のイメージとして定着しているウィッグを被った天才少女ダンサー・マディー・ジーグラーが、ひたすら踊りまくるというもので、コンテンポラリーかつ妖しさをも感じさせる、観たものの脳裏に作品の印象を強烈に刻み込む、見事な「顔を出さない」ヴィジュアルワークといえるだろう。「有名になりたくない。自分の顔を認識されたくないの。周りのセレブリティの友人たちが、凄く苦労しているのを見て、思ったのよ。自分の外見を批評されたくないし」と語る彼女は、一切メディアで顔を公表しないこと、ツアーはやらない、という条件のもとレコード会社と契約しており、メディア露出する際には顔が完全に隠れるウィッグを装着したり、テレビでのパフォーマンス時にはカメラに背中を向けたまま歌唱したりと、一見エキセントリックなプロモーションでもこれまで話題となってきた。


 

シーアはシンガーとしてだけでなく、その優れたソング・ライティング能力で数々のアーティストへの楽曲提供でもその名をとどろかせてきた。クリスティーナ・アギレラ、ニーヨ、リアーナ、ケイティ・ペリー、ビヨンセ、ブリトニー・スピアーズ、エミネム、マルーン5……彼女が楽曲を手掛けてきたアーティスト名を列記するだけでも、彼女の音楽がどれほど多くの耳を魅了できるものなのかがお分かり頂けると思う。ポップスからダンス、R&B、ヒップホップと、ジャンルも多岐にわたっている。

そんな彼女の最新アルバム『ディス・イズ・アクティング』(THIS IS ACTING)が、1月29日にリリースされた(日本国内盤は2016年2月3日発売)。今作は、先行公開されているアデルとの共作曲で、本来大ヒット中の『25』に収録されるはずであったという「アライヴ」をはじめ、ビヨンセ、ケイティ・ペリー、リアーナ、シャキーラなど、数々のトップ・アーティストに提供するために作られた楽曲たちのコレクションとのことで、「バード・セット・フリー」も元々アデルのために書いた楽曲だと言う。また共作陣にはほかにもカニエ・ウェスト(「リーパー」)など錚々たる面子が名を連ねており、ポップシーンのあらゆる要素を集約するかのようにどの楽曲も多彩なテイストでアレンジも秀逸、そして何より純粋に歌が良いのだ。個人的には「スイート・デザイン」のファンクネスを推したい。「顔を出さない」という話題性に気を取られて技巧派変化球ピッチャーだと思っていると、160㎞/hの剛速球が飛んでくるのでご注意を。

最早顔を出しているかどうか、という観点がどうでも良くなるほどの楽曲クオリティと、歌声。MVや各種パフォーマンスによる視覚面での話題性。ヴィジュアル・プロモーションの在り方が根底から覆ったともいえる21世紀の音楽シーンを象徴すると同時に、新たな可能性をも切り拓くエクスペリメンタルな存在=シーア。まだ聴いていない人は是非触れてみてほしい。そのときあなたの頭の中にはどんな視覚要素、ヴィジョンが浮かぶだろうか。


 
リリース情報
アルバム『ディス・イズ・アクティング​』

国内盤 2016年2月3日発売
○¥2,200+税 SICP-4624
○全12曲+ボーナス・トラック3曲 合計15曲収録
○海外発売&デジタル配信 2016年1月29日 (情報解禁済み)

1. Bird Set Free | バード・セット・フリー
Written by Sia Furler , Greg Kurstin / Produced by Greg Kurstin
2. Alive |アライヴ
Written by Sia Furler, Adele Adkins, Tobias Jesso Jr. / Produced by Jesse Shatkin
3. One Million Bullets | ワン・ミリオン・ブレッツ
Written by Sia Fuler, Jesse Shatkin / Produced by Jesse Shatkin
4. Move Your Body | ムーヴ・ユア・ボディー
Written by Sia Furler, Greg Kurstin / Produced by Greg Kurstin
5. Unstoppable | アンストッパブル
Written by Sia Furler, Christopher Braide / Produced by Jesse Shatkin
6. Cheap Thrills | チープ・スリルズ
Written by Sia Furler and Gret Kurstin / Produced by Greg Kurstin
7. Reaper | リーパー
Written by Sia Furler, Kanye West, Noah Goldstein, Charles Midosi Njapa and Dom $olo / Produced by Kanye West, Dom $olo, Noah Goldstein, 88-Keys, Jesse Shatkin and Jake Sinclair
8. House On Fire | ハウス・オン・ファイア
Written by Sia Furler, Jack Antonoff / Produced by Jesse Shatkin, Jack Antonoff
9. Footprints | フットプリンツ
Written by Sia Furler, Tyler Williams, Josh Valle, Nikhil Seetharam / Produced by T-Minus
10. Sweet Design | スイート・デザイン
Written by Sia Furler, Gret Kurstin, Mark Andrews, Robi Rosa, Joseph Longo, Tim Kelley, Bob Robinson, Desmond Child, Marquis Collins / Produced by Greg Kurstin
11. Broken Glass | ブロークン・グラス
Written by Sia Furler, Jasper Leak, Jesse Shatkin / Produced by Jesse Shatkin
12. Space Between | スペース・ビトウィーン
Written by Sia Fuler, Christopher Braide / Produced by Cameron Dyell
<日本盤ボーナス・トラック>
13. Alive(AFSHeeN Remix)
14. Alive(Boehm Remix)
15. Alive(Cahill Remix)