三田佳子が“伝説の音痴の歌姫”になる!?舞台「スーベニア」インタビュー
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三田佳子「スーベニア SOUVENIR ~騒音の歌姫~」
2016年2月19日(金)からBunkamuraシアターコクーンにて「スーベニア SOUVENIR ~騒音の歌姫~」が開幕する。この作品は、百年前、実在したフローレンス・フォスター・ジェンキンスという類い稀な“音痴”のソプラノ歌手と、その彼女を支えた人々の友情と心温まる感動の物語だ。
このジェンキンスを演じるのが、女優・三田佳子。2月某日、都内にて通し稽古をしている中、話を伺ってきた。
――本作の主人公・ジェンキンスさん、ものすごく変わっていておもしろい人ですね!
三田:実在の人物だというところが強烈ですね。“作り物”だと言われて出されたらあまり魅力がないかも。でもこれ本当の人なの!こんな人がいたんだね!ってことであれば、役者としてお客さんにもぜひ観ていただきたいし、お客さんも驚くと思います。
実在の人物、という点では「ピアフ」も実在の人物。かつて私も演じましたが、彼女も今日まで演劇や映画で描かれるくらいの魅力があるのと同じで、ジェンキンスさんは“歌姫”と言われているくらい、声が天才的に壊滅的。でも本人はまったくわかってないんです。
欧米では、メリル・ストリープがTVでこの役をやって、映画ではカロリーヌ・フロが演じて。そして日本では初めて舞台で「スーベニア」をやることが成就しました。タイミング的に盛り上がっていますね。
――この舞台のオファーが来た時、三田さんが出演しようと決めたのは、先ほどおっしゃった「ジェンキンスさんの魅力」によるものだったのですか?
三田:まず年齢が私にぴったり。まだ若い人だとこの役は難しい。40代ならなんとかできても、70代というところのリアリティを作らないとならないでしょ。私は70代だから。そしてこんなに元気だから、無理にお婆さんにしなくてもいい。肉体的な変化は何か身に着けて20年の差を出そう、ということになりました。あと、やはり、実在の人物だというところが魅力的で惹きつけられちゃった。
――演じれば演じるほどジェンキンスさんの魅力がわかってくると思いますが、特に三田さんからご覧になった彼女の一番の魅力はどこですか?
三田:そうですね、彼女は、まず演技する者として面白みを感じます。何しろ本当の話だから。天然で、どこまでも自由で束縛されない。悲しいことは悲しいこととして受け止めるんだけど、それすらもサラッとかわしていく女性。
歌の音程がものすごく狂っているのを知らないが如く、人生が狂うのも、ね。苦しい時があっても、「それはそうかもしれないけど、やっぱり私は大丈夫」…そういうところがやればやるほど見えてきて。
ジェンキンスさんは寂しい孤独な人だと思います。寂しい孤独な人なんだけど、持って生まれた自由な生き方で寂しさを押しのけ、歌が好きでその歌が狂っていることに助けられて人生を切り拓いていった。
彼女が生きた時代もよかったと思います。オペラというと堅苦しく歌うもの、微動だにせず歌うのがオペラだった。そんなとき、仲間たちが彼女に動きを付けてくれたり、ダンスが踊れる人がついてくれたり。衣装を作る人がついてくれたり…。そういう偶然の出会いによって彼女がものすごく膨らんでいく。最初は歌声が狂っているというだけだったのに、そこからいろんなものが膨らんで、彼女を飾ってくれたり、踊らせてくれたり、思いもよらないことで膨らんでどんどん大きくなっていっちゃった。そこがジェンキンスさんのすごいところなんですね。
――しかも最後はカーネギーホールに立ってしまうんですからね。
三田:この人は真剣なのに音が狂うのが見事に自然で。でも彼女の心根は真剣だから。知らないうちに笑いながら感動しちゃう。だからカーネギーホールにも行かなきゃ、面白いよ、楽しいよ、ジェンキンスが可愛いよって周りにも広めたくなる。お婆ちゃんだけど、可愛いし、みんなに愛されている。性格も魅力的だったからカーネギーホールまで行けてしまったんですね。また、狂った歌声のレコードもあっという間に完売しちゃう。カーネギーホールの切符も完売しちゃう。
あんなに見事に狂えば、むしろ面白くて感動的。見た目のビジュアルだってすごい。普通こんなことをする人には見えないですから。
三田佳子「スーベニア SOUVENIR ~騒音の歌姫~」
――さきほど舞台を拝見させて頂きました。あえて歌を下手に歌っていくところが何より難しいのでは?
三田:すごく難しいですね。リズムとかある程度の高低は狂っていながらも、練習してプロとしてやってきて、お客さんも入っているからこそちゃんとしなきゃいけない。でも知らないうちに歌声が狂っているというのが。
最後の「アベマリア」は正式に歌わなきゃいけないのですが、時々うっかりすると狂っちゃいそうな。困っちゃうんです。
――ジェンキンスさん自身、歌の幅や音域も狭い方だと文献にあったんですが。
三田:それでも結構高音は出るんです。見事に練習をしてね。でもその声のまま狂うんです。レコードも残っているんですよね。100年経ってますが。ちゃんと声は出ているんです。声は出ているのに狂っている。そこが難しくて。ある程度は響く声も出さなきゃいけないし。でも狂っていなきゃいけないし、騒音と言われるくらいにガチャガチャになるのも出さなきゃいけない。
――ご本人が歌っていた頃は狂った歌声に周りが音楽を合わせていったんでしょうね。
三田:ピアノが一生懸命あわせてくれたんですね。それなのに彼女は「あなたのピアノは私の歌とズレているわよ」というくらい気が付いてない。それで流石のピアニストも怒っちゃう(笑)
――そんなジェンキンスを支える役で、様々な方が出演されています。特に気になるのがホフマン役の京本大我さんですが、京本さんの役者としての力は、三田さんから見てどのような感じですか?
三田:初めて会った時は、触ったら壊れちゃいそうなガラスのお人形さんみたいな感じでした。でも稽古をやっていく中で、ああじゃない、こうじゃない、貴方の事をみんな見ているわよとか、いろんな話をしているうちに、役者魂というか、演じることの面白さを彼も若いながらに感じてきたみたいです。持って生まれた血もあるでしょうから。段々良い雰囲気が出てきました。
――ホフマンがジェンキンスさんにほのかな恋心を抱く、という話もありますし。
三田:それが可愛くてね。よくあるわよね、外国の人だと特に年齢関係なく。ピアフだって、最後あんなお婆さんになって歩けないくらいになっても、20歳も若い人と一緒に結婚しましたしね。ジェンキンスさんについては、このメンバーを見ると若い人が好きなのね。すごく。知らないうちに楽しんでいるのね。周りに若い人を置いて。
――生きていく上での張りになるんでしょうか?(笑)
三田:きっとそうだと思います。若者の生き血を吸っている(笑)
――日本版「スーベニア」では、ストーリーソングス・テラーと呼ばれる方々がゲストとして登場されるのがおもしろい取り組みですね。
三田:案内人をつけたりして、導入を作っていったり。わかりやすくていい感じですね。
ストーリーソングス・テラー「スーベニア SOUVENIR ~騒音の歌姫~」
――ミュージカル初心者の方や、ミュージカルの観劇経験がそれほどない人たちが観にいらしても、すっと作品世界に入っていけそうですね。
三田:そうですね。踊りや歌と共に、心の中に入り込んでくる何かがある。そんな優しさのあふれる作品だから、お年を召した方にも若い方にもどなたにも楽しんでもらえると思います。
――最後に、改めて「スーベニア」をご覧くださる方々にここに注目してほしい!という点をお願いします。
三田:出会いが人生をどんなふうに変えていくか。たった一つ、彼女が歌が好きで孤独でお父さんもいなくて、夫とも別れて、なんかちょっと変わり者だし寂しい。そんな中、この人は歌しか自分が救われるものがない。
そう思った時に「なんとか歌を教えてもらおう。あなたにこうしてもらいたい、やってもらいたい」そう始まったのがこの人と周囲の人たちとの出会いね。そこが見どころ。それが人生を盛り上げていくし、思いも掛けない方向にみんなを巻き込んでいく。
お客さんもそれを見て、本当の話なのよね、もっと楽しんで生きなきゃねって思うと思います。彼女は実は大金持ちで、なんでもお金を出してやっちゃうんですが、それでも音楽的についていけなくて、周囲のみんな辞めていく。その結果、ホフマンたちが、いろんな悩みを持ちながらも最期まで一緒にいてくれた人たちなんです。
――最初は興味本位で観始めるかもしれないけれど、舞台を観終わったときには人の輪のようなものを感じる、あたたかいものが胸に残りそうですね。
【東京公演】
■日程:2016年2月19日(金)~3月6日(日)
■会場:Bunkamura シアターコクーン
【大阪公演】
■日程:2016年3月9日(水)~3月10日(木)
■会場:サンケイホールブリーゼ
■ライン・プロデューサー:トシ・カプチーノ(NY在住演劇評論家)
■上演台本・作詞・映像:ヨリコ ジュン
■演出:モトイキシゲキ
■公式サイト:http://www.souvenir-stage.com/