【前編】浦井健治と蒼井優が禁断の兄妹に!?「あわれ彼女は娼婦」インタビュー
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「あわれ彼女は娼婦」 撮影=こむらさき
イギリスの劇作家、ジョン・フォードが1620年頃に執筆した彼の代表作「あわれ彼女は娼婦」が6月8日(水)から、新国立劇場 中劇場にて上演される。シェイクスピアやクリストファー・マーロウなど名立たる劇作家を輩出したエリザベス朝演劇の終盤を代表する名作戯曲に挑むのは、数々の舞台、さらには映像作品で活躍する浦井健治と蒼井優。舞台はイタリアのパルマ。純粋にお互いを愛するがゆえに過ちを犯してしまうジョヴァンニとアナベラ兄妹をどう演じようとしているのか、作品の見どころとともに話を聞いてきた…が! 二人の話は作品の話にとどまらず様々な方向へ……「前編=マジメ編」と「後編=脱線編」の前後編でお届け!
――まずは作品のお話を。衝撃的な展開をしていく台本を拝見しました。お二人の率直な感想をお願いします
浦井:登場人物が多い!名前がなかなか覚えられない!です。
――関係性も複雑ですね。
浦井:近親相姦の兄妹間の関係って理解しづらいし、今も昔も普通はありえない。そこを共感するのは難しいところがあるのかなと思って読んでいました。どんどん読み進めると、そこがメインではないことが見えてきて。兄妹間の純愛が軸にある。そこが鏡となって、周りの人たちの憎悪やエゴが浮き彫りになってくる群像劇、愛憎劇だと思いました。
――蒼井さんはいかがですか?
蒼井:最初は勝手な先入観で読んでしまっていて。もう一回フラットに読んでいったら、浦井さんがおっしゃるように、二人の恋愛というものを描きたいだけではないんだとわかりました。それを描く、その周りの人を描くことで、双方のそれぞれの人間の持っている、なんと言うか……腹の奥に隠しているものが浮き彫りになるのがこの戯曲かなと思います。相互作用しあうことが大事だと思います。だからこそアナベラとジョヴァンニの2人は突っ走らなきゃいけないかなって。自分たちの恋愛を表現するという意味ではなくて、作品が持っているものを浮き彫りにするには私たちが突っ走る。と思います。
――お話にありましたが、共感しづらいというキーワードも出てきました。お二人の関係性も難しいところがあります。キャラクターとして、妹が登場したところから好きで好きで仕方ないと。二人が恋に落ちる瞬間は描かれていない。どの辺りをとっかかりに突っ走る二人を役作りしますか?
浦井:時代的なものを考えると、今の日本とは違うし、シェイクスピアとジョン・フォードの時代は貴族の女性をものとして、結婚も策略として考えられていて性別において差別的なことがあったのは事実らしいので、そういうところへのジョヴァンニとしてのいら立ちもあったのかなと。
独占欲とは違う理由で、アナベラを守ろうとしたところが発端だと思います。根底はそこの兄妹間の愛だと思うので、度が過ぎるというか狂気的になってしまったのはなぜかというと、大きな権力や逆らえない何かに対して、それでも二人の思いや純愛を貫こうとしたのかなと感じたり。そう考えていくと、人間の根本的な何かが見えてくるような気がしています。
浦井健治 撮影=こむらさき
――お二人の共演は「五右衛門ロックⅢ」以来?シャルル王子と猫の目お銀でしたが。
蒼井:そうですね。
浦井:顔を見ると笑ってしまうし、笑われる。変わんないよね。
――過去の共演をへて、改めての再共演ですが、お互いのことをどう思っているんですか?
浦井:蒼井さんは日本を代表する女優さんです。純粋で清潔感があってお芝居が上手で非の打ち所がない女優さんだと思います。現場ではすごくフランクに自然体に振る舞っていて、肩の力が抜けていてオープンマインドなのが魅力的ですね。みんなから慕われていて、一緒にいてすごく楽しいです。
――蒼井さんから見た浦井さんは?
蒼井:演劇の申し子ですね(笑)。
浦井:おお、凄いお言葉(笑)。演劇に魅了されているのは事実です!
―― ・・・インタビューが始まる前に二人で裏取引してませんか?
一同:(笑)
蒼井:正直わからないです。浦井さんがどういう人なのか。シャルル王子をやっている浦井さんというものしか見ていなくて。
浦井:常に「健ちゃん」だったもんね。
蒼井:作品を拝見する度に全然印象が違うので、もちろんシャルル王子みたいな役は特殊だとは思いますが、私はそれがイコール浦井健治になってしまっていて。だから他のストレートプレイを見ても、私が知っている浦井健治と同じ人ではない感じです。
本当にまったく別なので。今回は私が知らない方の浦井健治さんを拝めます!
――しかも至近距離で!
浦井:どこかで、お銀とシャルルが出てしまうんでしょうけど。
蒼井:きっと浦井さんファンの方々がご覧になるでしょうから、その関係性は払拭したいですね。するべきですし。
浦井:絶対大丈夫。頑張りましょう!
――栗山(民也)さんの演出はどうですか?お二人もいろんな演出家とお仕事されていると思いますが。
浦井:僕は『阿国』、『デスノートThe Musical』でご一緒にさせてもらいました。現場と作品に愛を持って臨まれる方です。そして役者一人ひとりを認識して愛してくださる方なので、この人についていけば絶対大丈夫だなという信頼感があります。
あとは的確にビジョンを持っていらっしゃるので、揺るがない。言っていることも一切ブレない。逆に言うとそれがあまりにもブレなさすぎるので、こっちがそのまま操り人形になってしまう恐れもある。でもそれだと生身の人間が演じる必要がなくなる。
そこに自分が何を出せばいいのか。ある意味で「挑戦」。そんな方だと思います。
蒼井:私は朗読でしかご一緒していないので、それの稽古の時だけなんです。宮沢賢治さんの作品の朗読だったんですが、その読解力のすごさというのと、作品に入るにあたっての下調べの深さ、すごい情報量だったので。
私はその時にいつか栗山さんの演出をお芝居で受けたいと思っていました。周りからも栗山さんみたいな演出家とやるべきだって言われていたので。そういう機会があればいいなって、思っていました。
思いのほか早くお話を頂いて、それで今回に至ります。周りの人が浦井さんがおっしゃっていたように、ビジョンがすごいあるからって。ある程度固まった状態で稽古に挑むから、同じ熱量で入らないと圧倒されてしまうと言われていました。
そこに対する危機感はある方なんですが、いかんせん台本が分厚すぎて(笑)登場人物の名前を覚えることが!(浦井をみて)ジョヴァンニ…ですか?
浦井:ジョヴァンニです(笑) そこは覚えようか。ずっと出番あるし。
――事前に台本を拝見したのですが、1度の台詞がこんなにも長い作品はなかなかないと思います。こういう作品はやはり手強いですか?覚えればいいという話でもないように思いますが。
蒼井:「それだけの言葉を口にするそれぞれの役を駆り立てているものは何か?」というところを探るのが最初かなぁ。文字で覚えて情報だけが先に入ってしまうと、「こいつ明らかに台詞を言っているだけだな」というのがバレる(笑)。それだけ喋るって何かしらの理由があると思う。逆に自信がないからこそ喋る、って自分に言い聞かせているのかもしれない。いろんな理由があると思いますが。
蒼井優 撮影=こむらさき
――ものすごくシンプルにすると「ジョヴァンニが好き」「アナベラが好き」となるんでしょうが、こんなに様々な表現を使って、様々な形で「好き」という。現代の人間同士や男女関係において、こんなに言葉を駆使して相手に気持ちを伝えることって、なかなかないかもと思うのですが。
浦井:今で言えばSNSで、絵文字もしくはスタンプ、あらゆるものを駆使して自分の気持ちを伝えようとしていますよね。その反面言葉で直接伝えることの大切さなんかも考えさせられる。お芝居の中で長台詞は難しいという点は、蒼井さんが言ったように何かしらその台詞を喋る理由があると思います。
長い台詞にはそれだけその役が沸き出てきてしまうものを心に持っているということ。20年近い兄妹間の絆や思いが溢れ出てくるからこそだと思うんです。
そういうところをとにかく詰めていければ、長台詞と思わないところまで行き着けるのかな。
――栗山さんがこれから演技や稽古をつけていくと思います。逆に自分の中でこの役をこう演じてみたいとか、自分の中でやりたいことがあれば教えて下さい。
浦井:ジョヴァンニに関しては、アナベラとの純愛がいかに生きる上で必然だったかを、真実味を帯びる形で演じられるように。兄妹なんだけどその純愛がどこに矛先を向けていたのか。戯曲の中では大きな権力に対しての憤りだとか、怒りだとか。そういうところから狂気的な方向に、間違えた方向にも行ってしまう。人間的にタブーを犯してしまうところに持っていければと考えています。今はピュアで真っ白な二人がどう変化していったのか。僕はジョヴァンニに関しては、どう落ちて人間的にどう崩壊していったかを演じ分けるというか、登場するたびに表情の変化や何かたくさんまとっている空気を変えていけたらと思います。
蒼井:栗山さんが二人の関係をどう描きたいかにもよりますが、こういう作品だからこそ生々しくやりたいと思っています。二人にとって純愛かもしれないけど、そう思い込んでる二人の愚かさは確実にあると思う。栗山さんがおっしゃっていてなるほどと思ったのは、女の履歴書というのがものすごいスピードで駆け抜けていく。男の人を知らない女の人が、恋をして、初めて男の人を知ってそこから母になる。女としての成長の早さ。
浦井:最後は娼婦……
蒼井:と言われてしまう。そこを確実に自分のお腹の中でうごめいていくものって、実感しながらやれたらいいなと思います。毎公演新鮮に感じながら、毎公演感じるものが違っても大丈夫と思われるぐらい稽古できたらと思っています。
「あわれ彼女は娼婦」 撮影=こむらさき
★【後編】浦井健治と蒼井優が禁断の兄妹に!?「あわれ彼女は娼婦」インタビュー
撮影・文=こむらさき
■日時:2016年6月8日(水)~26日(日)
■会場:新国立劇場 中劇場
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会員先行販売期間⇒2016年3月20日(日)~3月29日(火)
一般発売⇒2016年4月2日(土)より
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S席 8,640円 A席 5,400円 B席 3,240円
Z席 1,620円
■演出:栗山民也
■出演
浦井健治 蒼井 優
伊礼彼方 大鷹明良 春海四方 佐藤 誓 西尾まり 浅野雅博 横田栄司
宮 菜穂子 前田一世 野坂 弘 デシルバ安奈
川口高志 頼田昂治 寺内淳志 峰﨑亮介 坂川慶成
鈴木崇乃 斉藤綾香 髙田実那 大胡愛恵
石田圭祐 中嶋しゅう
■公式サイト:http://www.nntt.jac.go.jp/play/performance/150109_006144.html