バラエティ豊かなアクトたちが名演を繰り広げた『ビクターロック祭り』レポート

2016.3.12
レポート
音楽

サカナクション

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『ビクターロック祭り~2016~』 2016.2.14(Sun)  幕張メッセ 国際展示場

2月14日。ヴァレンタインに浮かれる街に背を向けて、強風の中、幕張メッセへと歩みを進める大勢のロック好きたち。朝のうちの悪天候を受けて開始が遅れたものの、今年の『ビクターロック祭り 2016』はまさに大盛況となった。SPICEではこの日2つのステージで交互に展開された多彩なアクトより、6組を抜粋してそのレポートをお届けする。

サンボマスター

サンボマスター

ロック、そして祭り。この言葉を組み合わせた時に、サンボマスターほどピッタリなアクトってそうそういないんじゃないだろうか。1曲目の「私をライブに連れてって」から、極まりまくったボルテージを叩きつけた山口隆(G/Vo)のパフォーマンスに、お昼休憩してる場合じゃない!と次々にBARK STAGEに集まってくるオーディエンス。

近藤洋一(B)のブリッブリのベースラインの上でドシャメシャに木内泰史(Dr)が暴れ倒した「ミラクルをキミとおこしたいんです」が終わった頃には、Eブロック最後方までギュウギュウの大入り状態になっていた。それはそうだ、会場のどこにいたって、サンボのエネルギーが届かない場所はなかっただろうから。

「お前らはI LOVE YOUって言わなくていいよ、だけどよ、俺らがI LOVE YOUって言ったら、これまで生きてきた中で一番幸せになってくれませんか!」と山口が絶叫した「愛してる愛して欲しい」からの「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」で弾けたでっかい愛の塊に、オーディエンスも最大級の笑顔と声を返す。

「ここはコーチェラじゃねぇから、グラストンベリーじゃねぇから、ミラクルは起きねぇと思ってるかもしれねぇ。でも俺はできると思ってるよ。いや、お前もできると思ってる。お前は、できると思ってる!!」

 山口の言葉には、現実を希望や愛に塗り替える強烈な伝染力がある。それが1万人を高ぶらせた、「できっこないをやらなくちゃ」とラストの「可能性」では確かに、幕張メッセが同時刻の世界で最も熱い空間に変貌していたに違いない。

THE BACK HORN

THE BACK HORN

荘重なSEとともに登場したTHE BACK HORNの1曲目は最新シングル曲にして、<始まりはいつだって ここからさ>と告げる開戦のナンバー「その先へ」。緊張と破綻のスレスレを歩くようなスリリングなアンサンブルに乗せ、<共に行こう>と山田将司 (Vo)がフロアに手を伸ばすと、オーデイエンスも掲げた拳で応える。続く「刃」では、松田晋二 (Dr)の地鳴りのようなグルーヴとシンガロングが幕張メッセを満たし、大きな拍手が起こった。

「ビクターロック祭り、あーしろこーしろと大して強く言われることもなく、15年ビクターと一緒にやっております。ビクター最高だぞ! 今日はみんな楽しんでってくれよ!」

山田が飾らない言葉でこの場への感謝を伝えた後は、菅波栄純(G)の鋭いリフが一閃しての「罠」から、お次は岡峰光舟(B)の切なげな爪弾きからの「美しい名前」へとステージは進んで行く。後のMCで松田が語っていたのだが、THE BACK HORNが歌う〝生と死、希望と絶望〟の結晶のひとつであり、ファンからは絶大な支持を受ける名曲だ。それまで熱狂に体を委ねていた1万人も、この曲では言葉のひとつも聞きもらすもまいと、山田の絶唱に向かい合っていた。

「俺たちは生きていくための、ここに今俺たちが生きているという、その奇跡みたいな大切さを、歌えているような気がします。これからもビクターとともに、素晴らしい音楽を届けていきたいなと思います。悲しみに打ち勝つための、戦っていくための、そんな曲をこれからも作っていきたいなと思います!」(松田)

ライヴの後半は、「真夜中のライオン」、「シンフォニア」と鬼気迫るステージを見せ、ラストは「コバルトブルー」! メンバー全員が躍り狂うように、ありとあらゆる感情と轟音、そして彼らが歌う意味をフロアに叩きつけ、4人は颯爽とステージを降りていった。

Dragon Ash

Dragon Ash

デジタリックに刻まれるラテンのリズムに乗って登場したのはDragon Ash。そのまま「For divers area」へと繋ぎ、「飛び跳ねろ!!」とのkj(Vo/G)の一喝でフロアが揺れ、ダンサーのATSUSHIとDRI-Vもその動きとダンスでオーディエンスを視覚的にアジテートしていく。

言うまでもないことだが、Dragon Ashは百戦錬磨のロックバンドである。そのキャリアの中で様々なジャンルのエッセンスを血肉とし、新たなファンを獲得し続け、どんどん強靭になってきたバンド。この日はそのタフさをとことん見せつけた。「AMBITIOUS」ではKenKen(B)や桜井誠(Dr)、HIROKI(G)もダンサーに合わせて大きなアクションで盛り上げ、その熱はステージ周辺だけでなく遠巻きに見ていた観衆にもどんどん伝搬する。kjも曲の合間に笑顔を見せるなどハードなパフォーマンスながらどこかあたたかい空間ができていく。

「電車止まったりしてんのに、こんなに集まってくれてどうもありがとう。ガッツリ楽しんで帰ります。お互い楽しんで帰りましょう」

少ないMCの中でkjはこう呼びかけていた。とりわけフェスという場においての音楽は楽しいものであるべきで、そのことをハッキリと示すようなMCとパフォーマンスを以って次々に楽曲が投下される。中でもイントロでどよめきと歓声が巻き起こった「百合の咲く場所で」からラストの「Fantasista」という流れは完璧。フロアにはサークルができ、ステージ中央のお立ち台には入れ替わり立ち替わりメンバーが屹立し、kjも上半身裸になってジャンプし、吠えた。わずか30分ほどのパフォーマンス。だが、その間に骨太なサウンドと多彩なアレンジ、バンドの気骨とをまざまざと見せつけられた。デビューから20年近く、やはりDragon Ashはロックシーンの中心に立ち続けている。

レキシ

レキシ

法螺貝をSEに登場するのは音楽界広しといえども、少なくともポップスやロックの世界ではこの人くらいではないだろうか。もっとも、ジャンルでカテゴライズするのが野暮なくらい独自な存在感を放っているのだが。レキシのことだ。

登場で巻き起こった大歓声に向かって、「はい、ということでね…」といきなりのMCタイムにみな爆笑。グッズの稲穂が早々に売り切れたという事実に「アホか!」と突っ込みながらも感謝したり、「ケビン・コスナーです」とリアクションに困る自己紹介をしたり、たっぷりトークを展開してから「縄文土器、弥生土器、どっちが好きー!?」とシャウトし、ようやく一曲目の「狩りから稲作へ」が披露される。曲間もアドリブ入れ放題で他出演者をいじったり別の曲のフレーズを入れ込んだりといつも通りのレキシのステージなのだが、ステージの照明に照らされ逆光で見る満員のオーディエンスから生えている稲穂が輝く様子は、なんだか黄金色に実った田園風景のようで、絶景だ。そこから「年貢for you」と鉄板の楽曲が続く。

ブラックミュージックを下敷きにしたファンキーなトラックをタイトに演奏するバンド陣と、レキシによる煽りに導かれたシュールなシュプレヒコールが抜群のうねりを生み、十二単を羽織って披露された最新シングル「SHIKIBU」を経て、ラストは「きらきら武士」だった。わずか4曲なのに後半は時間が足りなくなるという、これまたいつも通りの姿で楽しませてくれたレキシ。彼はこう自らのアイデンティティを誇った。

「レキシからMCを取ったら何が残る?」

これはサザエさんのカツオによる言葉、「僕からイタズラを取ったら何が残るんだい、姉さん」を引用したのだそうで「これだけ覚えて帰ってください!」と笑っていたが、ワンマンでもフェスでも関係なくオリジナリティ満載なレキシのステージ、レキシにしかなし得ないステージは、この日も痛快なまでにお見事だった。

くるり

くるり

出演アーティストそれぞれが、祭りにふさわしいセットリストを披露した中、シングル曲を連発するのとは違うタイプの、だからこそバンドの本質が垣間見えるような“らしい”ステージを見せたのが、くるりだ。1曲目の「グッドモーニング」で、サポートも含めた芳醇な音の空間を生み出した後は、「Morning Paper」。サイケデリック感のあるメロから、一転して突き抜けるようなサビへと展開する。そして繰り出されたのは、佐藤征史(B)の渦を巻くディープなラインと2人の女性コーラスが土着的なメロディの魅力を引き立てた「Race」……って、ここで「あれ?」と思った。そう、続くアンセム「ロックンロール」、そして「Hometown」と、なんと5曲目までを12年前のアルバム『アンテナ』から披露!

MCで岸田は「10年くらい前ですかね? 10数年前に出た『アンテナ』っていうアルバムを1曲目からやってて、最近ファンになってくれた人には何のこっちゃかよくわからんと思うんですけど……もうこれでやめます(笑)」と語っていたが、1万人を前にしてこんなユーモラスなメニューをやってのけるあたりが、くるりの素敵なところ。それは同時に、“どこでどの時期の曲をやってもくるりだ”という、揺らぎのない力と意志を見せられたようで、ついガッツポーズをしてしまった。

2003年のシングル「HOW TO GO」のカップリングであった「すけべな女の子」で岸田が掠れるほどに絞り出した歌を聴かせたかと思えば、お次はギターをバンジョーに持ち替えて最新曲「かんがえがあるカンガルー」と、過去と現在を行き来するような構成が本当にニクい。

「えっと、あと1曲だけやって帰ります。まだレコーディングもしてへんような曲をやります。シングルになるとかでもなくて、ただ、やります。幕張の思い出にしてください」と奏でられたラストは「どれくらいの」。ブルージーであたたかみのある音を届けて、くるりのステージは終了した。最新のくるりはもちろん、最新の音で過去の名曲たちも堪能できる、贅沢な時間だった。

サカナクション

サカナクション

「ナイトフィッシングイズグッド」の一節をSEにサカナクションが登場すると割れんばかりの大歓声が迎える。舞台上手から岡崎英美(Key)、草刈愛美(B)、山口一郎(Vo/G)、岩寺基晴(G)、江島啓一(Dr)の順に横一線に並んだ前にはPCが設置されており、ヘッドフォンとゴーグルを装着したもはやお馴染みとなった姿の彼らが繰り出したのは「ミュージック」。心地よくループするビートと抑圧された打ち込みサウンドから、メンバーがそれぞれの担当楽器を手に取って「いくぞー!」の号令とともにバンドサウンドで肉体的グルーヴを開放、炸裂させると、会場全体が狂喜乱舞する。ちょっととてつもない高揚感に半ば恍惚としてしまったのだが、結論から言うとこの日は最後まで、驚くほど緻密なバンドアンサンブルと攻撃的なバキバキのエレクトロサウンドとが緻密に入り組んだ音の渦に陶酔し続けることとなった。

フェスの場ということもあって、サイケやスローテンポの楽曲は披露されず、ダンサブルなナンバーが中心となったものの、現在開催中のツアーで実現している、ダイナミックなバンドサウンドとエレクトロ、視覚効果の高次元の融合や、和太鼓などの打楽器を用いたプリミティヴなビートへの本能レベルの反応を喚起するような演出はしっかりフィードバックされている。岩寺と草刈は「アルクアラウンド」でステージの最前まで出て演奏し、荒々しいバンド然とした姿を見せたかと思えば、「SAKANA TRIBE TRANCE MIX」では和太鼓、「ルーキー」ではフロアタムを打ち鳴らし、打ち込みサウンドに生の息吹を吹き込む。江島の刻むビートも岡崎の奏でる多彩な音も、ときに主役となり、ときに絶妙なアクセントとなりながら、めまぐるしく展開する楽曲に色をつけていく。山口はときおり楽しそうに破顔しながら声を張り上げ歌い、「手を挙げろ」「跳べ」「いくぞ」と執拗に連呼して踊らせ続ける。これらを一遍に眼前へと提示されるのだから、誰もが自然と体を動かされてしまう。もはや一種の集団催眠状態といっていい。さらには照明や特効も曲ごと、もっと言えばフレーズごとに計算され尽くしており、「夜の踊り子」での和装の踊り子の登場や会場を貫いたレーザー、「SAKANA TRIBE TRANCE MIX」で山口が披露したグラフィックポイによる光の映像など、挙げればきりがないほどだ。

MCでは「年内にアルバムを出す契約なので……(笑)、作ろうかと思っております」と冗談めかしながらも嬉しい報告があった。そこからラストは2015年に彼らのライヴ再開を鮮やかに彩った「新宝島」を披露。曲間には「なんだかんだいって、僕たちビクターが大好きです!」と、レーベルでありこの場を作った主催者でもあるビクターへの愛を叫んでいた。

アンコール。再登場を促す手拍子の中、ステージに戻った5人が「まだ踊り足りない? じゃあ、もう1曲だけ」と演奏したのは「Aoi」であった。混声のコーラスとスクエアなビートが牽引し、繰り返されるロック然としたギターリフ、疾走するベースが痛快なキラーチューンで、バラエティ豊かなアクトたちが名演を繰り広げた『ビクターロック祭り 2016』のトリを堂々と務めきった。

文=矢野裕也(サンボマスター、THE BACK HORN、くるり)/ 風間大洋(Dragon Ash、レキシ、サカナクション)

セットリスト
『ビクターロック祭り~2016~』2016.2.14 幕張メッセ 国際展示場

■サンボマスター
1. 私をライブに連れてって
2. ミラクルをキミとおこしたいんです
3. 愛してる愛して欲しい
4. 世界をそれを愛と呼ぶんだぜ
5. できっこないを やらなくちゃ
6. 可能性

■THE BACK HORN
1. その先へ
2. 刃
3. 罠
4. 美しい名前
5. 真夜中のライオン
6. シンフォニア
7. コバルトブルー

■Dragon Ash
1. For divers area
2. AMBITIOUS
3. The Live
4. Neverland
5. 百合の咲く場所で
6. Fantasista

■レキシ
1. 狩りから稲作へ
2. 年貢for you
3. SHIKIBU
4. きらきら武士

■くるり
1. グッドモーニング
2. Morning Paper
3. Race
4. ロックンロール
5. Hometown
6. すけべな女の子
7. かんがえがあるカンガルー
8. どれくらいの

■サカナクション
1. ミュージック
2. アルクアラウンド
3. モノクロトウキョー
4. 夜の踊り子
5. SAKANA TRIBE TRANCE MIX
6. アイデンティティ
7. ルーキー
8. 新宝島
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9. Aoi

 

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