コミカライズではない、漫画として面白い「ガンダム」を――太田垣康男さんが語る『機動戦士ガンダム サンダーボルト』のセカイ【01】
-
ポスト -
シェア - 送る
太田垣康男:コミカライズではない、漫画として面白い「ガンダム」を
昨年12月末に第1話が、2月12日には第2話の配信がスタートしたばかりのアニメ『機動戦士ガンダム サンダーボルト』。その高密度な映像はもちろん、ジャズをベースにした音楽、これまでにないアダルトな雰囲気など、様々な面で話題になっています。
近年のガンダムファンだけでなく、かつてガンダムファンだった大人をも巻き込む今作は、アニメ化もされた大ヒット漫画『MOONLIGHT MILE』の作者・太田垣康男さんが2012年から「ビッグコミックスペリオール」にて連載。当初はコミックス3巻分のつもりだったものが、多くの読者からの支持もあり、昨年末にはコミックス第7集が発売。現在も連載中となっています。
そこで、第2話の配信を前に、漫画原作者の太田垣康男さんへ、アニメ、そして漫画『サンダーボルト』に関する質問を投げかけました。コミカライズだけでなく、これまでに多くのオリジナル展開の漫画が作られてきた『ガンダム』で、太田垣さんは何を描こうとしているのか――(全3回/第1回)
■ 4Kテレビを買ってしまうほどの出来!
――昨年末からアニメの第1話の配信が始まりました。まずは率直な感想から伺えますか?
太田垣康男さん(以下、太田垣):配信が始まる前、白箱(商品化前の映像サンプル)をいただいて、最初は29型の液晶テレビで観たんですけど、物足りない(笑)。そこで、わざわざ家電量販店へ4Kの58型テレビを買いに走ったほどの出来でした。
――私はまだタブレットでしか観ていないのですが、絵だけではなく音もかなり濃密でしたね。
太田垣:菊地成孔さんの音楽が世界観にとてもあっていたのと、連邦サイドとジオンサイドでの曲の切り替りがとても映画的で、その場面でぞくぞくっときました。
――音のない漫画に何故ジャズを入れようと思ったんでしょうか?
太田垣:一番は『ガンダム』という作品にこびりついてしまっているイメージみたいなものをなるべく削ぎ落としたかったんです。なので、『ガンダム』という世界観になるべく当てはまっていないもの、今までなかったものを選ぶとジャズかなと。ダリルが聴いているオールディーズもそうですが、今まで『ガンダム』を応援してきてくれたメインのお客さんは中高年。ぶっちゃけ、今流行のJ-POPなんて聴かない世代じゃないですか(笑)。同じように、同じ中高年でもある「スペリオール」の読者にとってはJ-POPやROCKなんかよりもオールディーズの方がより馴染みがあるだろうと。
――まずは掲載雑誌の読者を考えたわけですね。
太田垣:もちろんです。私の主戦場は雑誌で、漫画を読んでくれるお客さんがメインターゲットですから、その人たちに喜んで貰えることが一番大切です。そこを考え、作品に入りやすいよう設定したのがジャズでした。
――連載当時から読ませて頂いて感じたのは、今作がアニメのコミカライズっぽさがほぼないということでした。モチーフがガンダムなだけで、他の漫画と同じじゃないかと。
太田垣:すでに「ガンダムエース」でたくさんのガンダム漫画は世に出ていますから、それらの後追いになるのは宿命付けられています。なら、明らかに彼らとは違うことをやらないと「スペリオール」でやる意味はないと思いました。そこで一番に考えたのが、まさに「これを漫画にしよう」ということです。「ガンダムエース」は良くも悪くもアニメのコミカライズなので、漫画の方法論や方程式とは離れて作られた作品が多く、漫画として読んだ時に不自然なところもあります。そこを漫画の方法論に極力のっとって作れば、かつて『ガンダム』を観ていた世代にも新鮮に感じる要素があるんじゃないかと。……しょせん漫画屋なので、漫画らしく(笑)。
■ 今の自分が読みたい『ガンダム』を!
――今作で最初に「描きたい」と思ったことは何ですか?
太田垣:他のインタビューでも答えていますが、ガンダムを悪役にすることです。漫画の中では必ず「倒さなければいけない強大な敵」という物が出てきます。たいてい主人公は「持たざる者」で、それが努力や献身などで成長していき、最初は倒せそうになかった敵を倒すというのが少年漫画での王道パターン。変形はしてますが『サンダーボルト』もこのパターンに添っています。そう考えた時に、ジオン軍のモビルスーツはどれを取っても強大な敵に成り得ないんです(笑)。
――それは、読者が「ガンダムが最後には勝つ」と知っているからですね。
太田垣:そうなんです。ガンダムより強い敵が作れないことから、全てをガンダムにした『機動武闘伝Gガンダム』が、その後の『機動戦士ガンダム00』や『機動戦士ガンダムSEED』でメインを固めたのはガンダムばかりとなったとも言えます。まだやっていないのは、主人公をガンダムから降すこと。だから、今作での裏の主人公はダリルなんですけど、彼はガンダムに乗っていません。
――『サンダーボルト』ではイオとダリルという二人の主人公がいますが、敵と味方、両サイドに主役(もしくは主役級)のキャラを置くのは、それこそ第1作からやってきたことですね。
太田垣:『ガンダム』以前のロボットアニメは勧善懲悪型が主流でしたが、両極に事情がある、連邦とジオンどちらにも事情があるんだという視点を視聴者である当時の子どもたちに最初に見せたのが『ガンダム』だと思います。そのエポックメイキングな所は私の中にも影響として残っています。
じつは、連載を始める時、「俺が見たかった『ガンダム』はこれだ」という物を作ろうという思いがあり、「それは何か」色々考えました。単にモビルスーツが出てきて戦うのではなく、自分が最初に受けた影響、テーマ性、それらを全部噛み砕いて行き、最後に残ったものこそ「ガンダムの核」だろうと。それが「両側を、どちらかに肩入れするわけでもなく描く」。もうひとつが「戦争の非情さを描く」。このふたつを描けば、きっと『ガンダム』になる。そう思ったんです
――イオにしろダリルにしろ、確かにどちらも正義でも悪でもないですね。偏った印象はありません。
太田垣:それだけ、世の中を知った大人になってしまったんですね(笑)。
――先程おっしゃっていた「自分が観たかったガンダム」というのは、当時のではなく、今の自分なんですね。
太田垣:もちろんそうです。私自身が今観たいと思う『ガンダム』を描かないと意味がないと思ったし、自分と同世代の「スペリオール」の読者の中には……。以前は『ガンダム』を観ていたけれど、もう何十年も離れているという人たちが多いんです。昔の記憶ってどんどん美化されるじゃないですか。中学生の時に観た作品を今観ると「こんな感じの絵じゃなかった」「こんなにアッサリしていたかな?」というのが常です。僕の中にも美化された『ガンダム』があります。それを描けば、そんな人たちが観たい『ガンダム』になるのではないかと思いました。
■ MSは引き算ではなく足し算!
――最初に作った設定(絵柄)は何ですか?
太田垣:最初は、ザクとジムを描きました。
――メインのメカではなく?
太田垣:普通ならメカでも主役や敵役を考えて、そこから(様々な要素を)引いて脇役を作っていきます。今回はそれを逆にしてみたんです。ジムとかザクという一番スタンダードなものを描いて、すでにその段階で背中のバックパックとか2枚盾とかは描いてあったんですけど。じゃあ、ガンダムとサイコ・ザクはそこから盛っていかないと思って(笑)。
――それにしても多くのモビルスーツが登場していますね。
太田垣:少なくとも『ガンダム』第1作のテレビシリーズと劇場版三部作、あの1年戦争に登場したモビルスーツとモビルアーマーは全てリファインして登場させたいし、MSV(モビルスーツバリエーション)もなるべく登場させたいです。全てというとMSVは未だに続いているので限りがないので、そこまでは無理ですけど、それこそ80年代当時に発表されていたものはリファインして登場させたいなと思っています。今の目線で、自分の好みで登場する細かなメカまで全てを描き直しているというのが、今の細やかな、個人的な楽しみです(笑)。
――劇場版三部作だけでなく、テレビシリーズからも持ってきているのが胸熱です。
太田垣:自分の中では両方とも同じ一年戦争なので、Gファイターもコア・ブースターも両方出しちゃう(笑)。たぶん、僕らの世代の、当時ガンプラブームの波に当てられた世代は、みんながみんなガンダムやシャアザクは買えなかったんです。1時間以上並んでようやく買えたのがザクレロだったり、グラブロだったりするわけです(笑)。でも、それにも愛情は注ぐんです。折角買えたけど、グラブロならいいや、じゃなくて。グラブロでも楽しもうと思って愛したはずなんです。私も「あ~これか~」と思いながら、エルメスを作りましたから(笑)。
[インタビュー&文・小林治/撮影・アニメイトTV編集部]
■アニメ『機動戦士ガンダム サンダーボルト』
【配信情報】
第1話:配信中
セル版 500円(税別)/第1話(約18分)+特典映像(約18分)
レンタル版 250円(税別)/第1話(約18分)
第2話:2016年2月12日(金)正午より有料配信開始
【スタッフ】
原作:矢立肇・富野由悠季(「機動戦士ガンダム」より)
漫画原作・デザイン:太田垣康男
監督・脚本:松尾衡
アニメーションキャラクターデザイン:高谷浩利
モビルスーツ原案:大河原邦男
アニメーションメカニカルデザイン:仲盛文、中谷誠一、カトキハジメ
美術監督:中村豪希
色彩設計:すずきたかこ
CGディレクター:藤江智洋
モニターデザイン:青木隆
撮影監督:脇顯太朗
編集:今井大介
音楽:菊地成孔
音響監督:木村絵理子
音響効果:西村睦弘
制作:サンライズ
【キャスト】
イオ・フレミング:中村悠一
ダリル・ローレンツ:木村良平
クローディア・ペール:行成とあ
カーラ・ミッチャム:大原さやか
コーネリアス・カカ:平川大輔
グラハム:咲野俊介
バロウズ:佐々木睦
J・J・セクストン:土田大
他
>>太田垣康男Twitterアカウント(@ohtagakiyasuo)
>>アニメ『機動戦士ガンダム サンダーボルト』公式サイト
>>アニメ『機動戦士ガンダム サンダーボルト』公式Twitter(@ gundam_tb)