「自分が“世界の住民”であることを理解したい」平埜生成にインタビュー『ディスグレイスト』
-
ポスト -
シェア - 送る
平埜生成「Disgraced -恥辱-」 撮影=こむらさき
2013年のピュリッツアー賞受賞作であり、2015年にはトニー賞BESTPLAY部門にノミネートされた作品『Disgraced -恥辱-』が9月、世田谷パブリックシアターにて上演される。
現代アメリカの縮図ともいえる問題を、イスラム系アメリカ人の男と白人の妻、そしてユダヤ人の知人、その妻であり仕事上のパートナーでもあるアフリカ系アメリカ人の女性と言う、非常に異なる背景を持った4人の姿を通し、アメリカという国で必死に足場を築こうとするが果たせない男の絶望を、夫婦間の断絶、民族間の断絶を通し鋭く描いた作品だ。
演出に栗山民也を迎えて上演される本作、出演は、小日向文世、秋山菜津子、安田顕、小島聖、平埜生成。「大抜擢」という言葉がふさわしいだろう、平埜生成に話を伺ってきた。今の心境はいかに――
平埜生成「Disgraced -恥辱-」 撮影=こむらさき
――昨年11月にインタビューさせていただいたときと比べて、なんだか顔つきが変わったような気がしますよ。進化・成長の真っ只中、という印象を受けていますが。
髪が伸びただけです(笑)(「痩せたかも?」とスタッフさん評) 成長もないです。実感が持てなくて日々反省している感じです(笑)
――そんなお忙しい中、新たな作品に出演することが決まりました。今の率直なお気持ちは?
まだ、事の重大さに気づいていないんですけど、すごい…すごいな、の一言です。
出演はものすごく嬉しいが、なんで僕がこの顔ぶれの中に?という驚きを隠しきれない平埜。今はまだ稽古前で、個人的に台本を読みふけっている最中だという。「まずは、イスラム教のことについて理解をしていかないとこの役を理解できないのかな、と思っています」と語る。
――平埜さんが演じる「エイブ」という青年は、パキスタン生まれのアメリカ人ということですが、どんな役どころなんですか?
まだ、全部を理解しきってはいないんですが…この作品には、ある種、世界で起きている戦争の縮図が描かれていて、911の話も出てくるんです。僕の役は、ちょうど20代前半の設定で宗教と人種に関して、差別される渦中の人物です。自分の尊敬する先生が宗教問題で捕まって…。今まで意識してこなかった自分の家柄のことを理解し始めたとき、初めて人との「差」を感じて、助けを求める…。大人たち4人(アミール、エミリー、アイザック、ジョリィ)の中で宗教や人種が元でケンカが起きるんですが、そのきっかけを作る人物です。
平埜生成「Disgraced -恥辱-」 撮影=こむらさき
――日本で生まれ育った者にはなかなか理解しづらいところもありそうですね。
例えば、小学校の中に特別支援学級があったり、クラスの中に何人か身体の不自由な同級生がいる場合、自分とその子たちとの「差」 「違い」を感じたことが誰しも少なからずあると思うんです。それに似た感覚をこの舞台で思い出す、感じることができるんじゃないかな。宗教については感じづらいと思いますが、例えば東京の学校に大阪の子が転校してきて関西弁をしゃべったらいじめられた…とか、そういうことにも近いかも。日本人には宗教や人種の話が身近じゃない分、なかなか理解しにくいところもあるけれど、物語が進んでいくうちに、実体験とシンクロすることがあるんじゃないかな。
――稽古が本格的になってきたら、また思う事に変化が出るとは思いますが、今の段階でこの作品を通してどのようなことを考えていきたいですか?
もっと、自分が「世界の住民」であることを理解したいです。日本だけじゃなく、もっと外に目を向けていかないと。シェイクスピアをやったときにも思ったんですが、今回はもっと身近な作品なので、今、世界では何が行われているのか、いつ自分の番がくるのかわからない危うい状況をもっと理解して、もう少し大人にならなきゃな、と思っています。
今の時点ではユダヤ人のことを調べています。たまたまTVでやっているのをみてどんな人たちなんだろうと思って。あと、そこからの派生で第一次世界大戦のことにも興味がわいて、西部戦線などの映像を見ています。
日本人だから太平洋戦争のことばかり学んできたけれど、第一次世界大戦のときのアメリカの現状とか悲しみの深さとか、世界中の人たちもそれぞれに持っているんだな、というのを感じました。悲しくなりましたね。
みんな、戦争はなくなると思っているし、これで終わりだと思って戦争をやっていることも多かったりしていますが、でも実際はまだまだ戦争はなくならない。結局戦争のあとって何が残るんだろう、戦争が終わると人は幸せになるんだろうけど、その先に何が見えてくるんだろう。身近な話だと、友達とのけんかのあと何が残るか――そんなことを考えています。
平埜生成「Disgraced -恥辱-」 撮影=こむらさき
――小日向さんはじめ、大ベテランの共演者の方々から、学びたいことは?
とりあえず「全部」見てみたいです。稽古の入り方から人に対する挨拶の仕方、どういう立ち振る舞いでこの業界を生き抜いてきたのか、とか、どういう人たちがトップに居続けられるのか、栗山さんも含め、この業界で長くやってこられた理由がどこにあるのか、見てみたいですね。たぶん僕に対する接し方にも何かがあると思います。いきなり新人が入ってきたとき、どういう風に接してくださるのか、とかも。
――この作品を観たいと思っているお客様にメッセージをお願いします。
作品の内容は観ていただければそれぞれ思うことがいっぱいあると思いますが、こんなに素晴らしいカンパニーが生まれることは一生ないと思います。この出会いがどんな結果を出すのか、自分も楽しみです。若手の僕が、まさかこのメンバーの中でやらせていただけることなんてそうそうないと思うので、僕を知ってる方はそこを見ていただきたいし、僕を知らない方は…ぞんぶんに下っ端に見ていただいて(笑)「こんな奴がいるんだ」と思っていただければ嬉しいです。
――いい意味で「こんな奴がいるんだ!」という声につなげていってください!
そうなるよう頑張ります。
平埜生成「Disgraced -恥辱-」 撮影=こむらさき
撮影・文=こむらさき
■日時:2016年9月
■会場:世田谷パブリックシアター
■演出:栗山民也
■出演者:小日向文世、秋山菜津子、安田顕、小島聖、平埜生成
■公式サイト:http://www.disgraced-stage.com/