Kが過去最も向き合い続けて制作した新曲「あの雲の向こう側」は何を見せるのか

2016.3.5
インタビュー
音楽

K  撮影=菊池貴裕

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KのNEWシングル「あの雲の向こう側」が3月9日にリリースされる。映画と音楽とが連動した“ミュージック&シネマブレイクinネスレシアター”の短編映画『そちらの空は、どんな空ですか?』第3弾楽曲として書き下ろされた本作は、K自身が自らの体験を投影しながら、4ヶ月という長期間にわたって楽曲と向き合い続け制作された渾身の一曲だ。都会で感じる孤独感と、それでも歩き続けるという意思と希望を込めた「あの雲の向こう側」を軸に、10周年を経たKの「現在」と想いを訊いた。都内某所の街中を実際に歩いてもらいながらシューティングした撮りおろしフォトにも注目。

――前回インタビューさせていただいたのが、アルバム『Ear Food』がリリースされたタイミングだったのですが、その後に47都道府県ツアーがあり。終えてみて、率直にいかがでしたか?

楽しむこととか、地方に行って美味しいものを食べたり、その文化に触れたりっていう面白いポイントもいっぱいありますし、47都道府県やってみてエンターテイナーとしてすごく大事なことが身についたなと思って。要は、47ステージやるわけじゃないですか。1週間空く場合も、3日間続く場合もあるわけで。約2週間のあいだ出っ放しで、10公演をやったり。毎回内容はいろいろと変わってるんですけど、こういうことをやるとお客さんが喜んでくれるっていうことも分かってくるじゃないですか。マンネリ化しないように気持ちをリセットしないといけないという環境に対して、どれだけ自分がリフレッシュしていられるかっていうことは、以前に47都道府県を回らせてもらった時よりも感じましたね。責任感と言ってしまうとちょっとあれですけど、そこをもっと鍛えないとなと思って。それこそベテランの方で何十年もやっていらっしゃる方はすごいなって思いました。

――何十年も同じ曲をやることも出てくるわけですしね。

何十年もやってるけど、いかに新曲のような感じでやれるかっていうのが大事なことだなって、すごくいい勉強になりました。楽しいこともいっぱいあったんですけどね……だってある意味タダで(47都道府県)回れるんですよ?(笑) すごいことでしょ。自分の国の生まれ育ったところもちゃんと回ったことないのに(笑)、これだけ回ることができるっていうのは、アーティストだからなんだなって思います。7年前に47都道府県を初めて回ったときに、東京・大阪・福岡・名古屋・札幌……っていろんなところに行ってみると、この街でしか会えない人たちがたくさんいるんだなって思って。今回も同じことを思ったんですよ。前回のツアーから行ってないところもあるし。軍隊に行って、結婚して、7年ぶりに行ったにも関わらず、歌を聴きに来てくれてるっていうことがすごく嬉しかったですね。

――フレッシュな気持ちで1公演1公演挑んでいくっていうお話をされてましたけど、地方を回って人に会ったり、景色を見たりっていう要素は気持ちやパフォーマンスに反映されたりもしましたか?

それはすごく大きいと思う。車に乗って、新幹線に乗って、ドアトゥドアでホテル行って、移動して、会場行って歌って、打ち上げをやって、また移動して……っていうのを続けてると、リフレッシュできないと思うんですよね。インプットしないとアウトプットもできないような気がしてて。昔だったら朝起きてそのまま会場に行ってたりしたんですけど、今回は早く起きて街の映画館やショッピングモールに行ったり、自転車を借りて回ったりっていうことを毎回やってました。ちょっと時間あったら散歩したり。その土地の言葉が聞こえてきたりするから。東京に住んでる僕としては、すべてが違和感なわけでしょ? 韓国に住んでて、日本に来たときは言葉自体が全然違ったからすごく新鮮で刺激にもなって、たまにそれがストレスにもなったりしたけど、いい方向に導いてくれて。地方も同じでしたね、“こういう言葉遣いなんだ”“こういうリズムで話すんだ”って、若い子が話している感じとか、お年寄りが話してるのを聞くことは楽しかったし、刺激になりました。

K  撮影=菊池貴裕

――そしてツアーを終え、10周年イヤーも終わり、最初に作品として世に出るシングルが間もなくリリースされます。この1年、もっと言えばこの10年間で感じたことが反映されてるなと思いながら、曲を聴いて歌詞を読んでいたんですけど。この曲はテーマなどもあったりしたんですか?

まずネスレシアターの企画で曲を書いてほしいと言われたんですよ。そこから映像を観る前にお話を聞いて、台本がきて。内容としては、遠距離で頑張っている人を応援するっていう感じでした。映像のプロデューサーが『1リットルの涙』(ドラマ)でお世話になってた方だったんですけど、その方と電話で話していたら「1番苦しんでいる時の自分探しをしてほしい」って最初に言われたんです。僕の場合は、日本に来たときのことを思って書いてほしいと。僕も家族や友達から離れていたけど、何か繋がるものを感じながら、前に進みたいという気持ちでやってきていたから、そのような曲を10周年の時に作るっていうのは意味があるのかなと思って。そのプロデューサーの方はすごく細かく、メロディ一つ一つ、歌詞一つ一つを具体的に進めたい方なんですけど、僕はそのスタンスが好きで。そのスタンスで進めていったら、意外と時間がかかってしまったんですよ。デモを作り始めた段階からレコーディングまでをいれると、4ヵ月くらい。1年前に書いた曲を、期間を開けて1年後くらいにそろそろリリースするから曲をちょっと直したりアレンジしたりしましょう、っていう感じで1年かかる場合もあると思うんですけど、今回は4ヵ月間この曲しか作っていなかったんですよ。

――ずっと向き合い続けていたわけですね。

そう。そんなこと初めてでした。メロディだけで3ヵ月かかって、歌詞入れて、直して、レコーディングするまでピッタリ4ヵ月かかりました。パソコンのデスクトップにはその曲のファイルしかなくて。ちょうど47都道府県を回ってる時だったんで、熊本・広島・大阪とか、地方のスタジオを借りて、移動日とか合間に曲を作ってましたね。ここまで時間をかけて作ることはなかなかないと思うので、ある意味楽しかったですね。

――キツくなったりはしなかったですか?

なりました。どこが出口なんだろう?って。僕は映像のプロではないので、映像のプロの方が見ているイメージと、音楽をやっている僕が見ているイメージは、同じ方向を見ていたとしてもちょっとズレが出てきたりするわけで。お互いイメージで話しているので、そこのポイントを合わせるのはすごく難しかったです。だから、主題歌とか書かれている人たち大変だろうなぁって思いました。でも、そこがぴったりハマった時に快感を覚えますね。……いやぁ、でも苦しかったです(笑)。そのぶん完成した時はすっごく嬉しかったですね。認めてもらえたというか。

――新たに経験値になる部分でもあるでしょうし。

そうですね。こういうことをやっていると今後の作品にも響いてくるだろうし。

K  撮影=菊池貴裕

――歌詞を見ると、故郷を思うような気持ちがそのまま表されているなと思うんです。「遠く離れている」って、物理的な距離もあるんですけど、都会に居て感じる心の距離、寂しさとかも歌われていて。僕は埼玉県出身なので距離はそこまで離れていないですけど、それでも都会で生活していて感じる気持ちとして、共感できるなぁと。

今おっしゃったように、都会だからこそ寂しく感じるんだと思うんですね。人は多いし、すれ違っていく人たちって何百人、何千人にもなるわけじゃないですか。だから寂しい感じがするんですよ。会えば会うほど一人になっていく感じが。僕がそうだったんで……まず言葉が分からないっていう壁がありましたし、当時は分からなかったんですけど、街のスピードが速くて、自分だけがスローモーションになっている感じがするんですよ。

――置いてけぼり感ですよね。

そう。そういう部分を描きたいという部分もあって、メロディもそこを気を付けてましたし。自分の経験上、目的地というか、どこかの光を目指していっていたんですよ。辛いけどここを目指していけば大丈夫だっていうのがハッキリしてたし、光が見える部分は入れたいなと思ってて。僕なりに曲の答えを出したいっていう。それからミュージックビデオの打ち合わせの時に、2番まで出来ていたんですけど、「ここの歌詞をもうちょっとこうしてくれない?」とか、いろいろと話し合っている時に、歩き続ける、何かをずっと続けるっていいかもねっていう話しになったんです。YouTubeとかで監督たちといろんなものを見ていくうちに、「よくここまで続けてきたよね」っていう話になって。それで出た答えが“歩き続ける”っていうことだったんですね。街が速いスピードで動いているから、それに合わせて走ってしまいがちなんですけど、ゆっくり自分のペースでやっていくということが、僕の場合、結果として良かったんだと思うんです。振り向いてくれる人もきっといるはずだし、そのスタンスだけはこれからも変えたくないなって思ってたので。夢を見ているんなら、歩き続けるしかないなっていうことだったんですよね。

――全体的にはノスタルジーを感じる曲ですけど、最後は“歩き続ける”っていう言葉で、ものすごく前向きに。“大丈夫! 行こうぜ!”っていうポジティヴな感じではなく、不安も分からないことも飲み込んだ上で“歩くんだ”っていう決意、それが希望として受け取れるのかなって思います。サウンドの面でいうと、前回のアルバムのインタビューでは「あえて隙間や空間の多いようなものにしたかった」「そこで生まれるグルーヴのようなものを大事にしたかった」とおっしゃってましたが、今回もそのような感じだったのでしょうか。

基本スタンスは変えてなくて。歌をメインに持ってきたいっていうミュージシャンは、楽器を減らした方がいいと思うんですよ。その方が歌にプラスになる気がしてて、これは『Ear Food』で感じたことでもあったんです。隙間をあえて作る雰囲気にはしたいっていう考えは最初からあったので、メロディも隙間ができるような展開にしていくとか、サウンドアレンジもアツくなる部分はありながらスカスカになるところはとことんスカスカにするとか。あと、今回のサウンドって僕からすると都会だったんですよ。キラキラしてて、情報も速いし、バブリーというかお金の動きもすごくよくて、都会なんですけど、そこに住んでいる人たちの本心は乾いていて……そういう部分を描きたかったので、サウンドも潤っていないサウンドにしたいというか。

――途中に入ってくるギターのカッティングとか、まさにそうですよね。

そうそう。加湿器をつけてませんっていう部屋の雰囲気にしたいっていうのは、最初にエンジニアさんと会った時に「こうしたいんで、それに合った機材を揃えてほしいです」って伝えてたんですよ。アレンジの真藤さんにもそのイメージを伝えて、サウンドを作り始めました。

――音数の少なさで言うと、出だしのAメロの部分なんてまず声がきますもんね。

普段だったらこういう曲ってピアノでいくと思うんです。最初の曲作りはピアノでやってたんですけど、それじゃない気がして。ピアノだといい意味でゴージャスになっちゃう。曲って最初のイメージから最後に出来上がるまで、こっちの波に乗ったりあっちの波に乗ったり変化する曲もあると思うんですけど、この楽曲みたいに見ている方向性が変わっていないっていう曲もあったりして。

K  撮影=菊池貴裕

――少し話はずれるかもしれませんが、都会的な部分を打ち出す手段として、いま巷で多いのはEDMとか、そういう都会感の出し方もあって。Kさんはそういう音楽への興味はあるんですか?

聴くのは好きなんですよ。最近も、新しいパソコンを買おうと思ってアップルストアに行ったとき、新しく買おうとしたパソコンで僕が使っているソフトがちゃんと使えるのかな?と思って店頭でいろいろといじってて。僕は楽器からスタートした人間なんで、マウスで打ち込むことに対してすごく違和感があったんですけど、アップルストアは鍵盤が置いていないわけで、マウスでいろいろとやってみたわけですよ。そしたら、それはそれですっごく面白くて! 打ち込みだと1コード作るとそれがコピペできるわけで。ピアノだと1コード弾いて違うコードにいきたいってなると、手癖で音が変わるんですけど、コピペすると何も手位置が変わらず音だけ変わるんですよ。それがすごく不思議で……でも人間臭さが急になくなってしまって。ちょっとしたズレとかそういうものを感じることができないのは、聴いている分には嬉しいですけど、自分が物作りをしている時に自分の人間性が出ないということかなと感じて、もしかしたら打ち込みに対して興味がないのかなって思いました。……アップルストアで30分間やってみた結果(笑)。すごく楽しいし、それを出せる方にはすごく向いていると思うけど、自分は聴く専門になりました。

――もし人間味がない曲を作りたくなった時には、面白いかもしれないですね。

それはいいかもしれないですね! 別にそういうものを絶対にやりたくないとは全然思ってないし、音楽のジャンルも分けたくないですし。そういう曲を作ってみたいという気持ちもあります。

――続いてカップリングについても伺いますが、これは坂本九さんのカバーですね。

この曲、九さんが一番好きな曲だったみたいなんですよ。本人含めご家族も。娘さんが生まれてこの曲ができて、これが久さんにとって最後の曲だったということもあって、ご家族の方は今でも大切にしているという話を後から知って。最初はラジオか何かで聴いたんですけど、一見、九さんの楽曲っぽくない感じじゃないですか。

――確かに。

そういう感じがすごく好きで今回カバーさせてもらったんです。レコーディング自体は結構前にやっていたんですけど、僕にも娘ができて曲の捉え方が当時と今では変わってきてて。ボーカルもレコーディングも生まれる前にしてたんですけど、生まれた後にボーカルだけ録り直したんです。本当は何ヶ所かだけ直す予定だったんですけど、言葉一つ一つに対しての考え方が変わってきているなと思ったので、「作品に対して嘘はつきたくない」ってスタッフさんを説得して。僕はレコーディングにそんなに時間がかからないし、最初から最後まで録ってみたらそっちの方がよかったんですね。「九さんはこういう想いで歌ったのかな」とか、「九さんの立場になったらどういう気持ちだったんだろうな」って……悲しい話ですけど、作品を作るためには掘り下げた方がいいなと思ったので、僕的にいい歌が歌えたような気がします。

K  撮影=菊池貴裕

――坂本九さんってすごくスタンダードになっているポップミュージックじゃないですか。そこに対して、感銘を受ける部分はありますか?

ありますね! 僕は日本に来てから九さんのことを初めて知ったんですけど、軍隊に行ったとき、日本の音楽を知ってる人もすごく多くて。ちょっと年配の方だと九さんのことを知っている人もいたり。日本の文化を知ってくれているっていうことが、素直に嬉しかったんですよね。すごく不思議なことなんですけど、例えば日本の寿司が好きだとか、日本のここに行って好きになったっていうことを言われると、自分の国を褒めてくれてるようですごく嬉しくて。それこそサッカーの本田選手がゴールを決めて喜んでいる韓国のサイトとか見ると、素直に嬉しいし。逆もあって、韓国の選手がゴールを決めて“この選手はいい選手だ”って書き込みがあったらすごく嬉しくて。九さんの話を韓国でした時は、その感情に近かったんですよ。いろいろと難しいことはあるんだろうけど、音楽や文化に対しては壁はないなぁと思って。九さんは一つの懸け橋になっているんだなって思いました。

――音楽でいろんなものを超えていっている。Kさんご自身としても、そうありたいという気持ちはありますか?

すごく難しいことだと思うんですよ。でも、最初からそれを目指してきたので、そこの考え方は変わっていなくて。時間はかかるんでしょうけど、懸け橋みたいなものになっていければな。“国と国を”ということは僕らがやることじゃないと思うんですけど、“人と人”を繋げることは可能な気がするんですよね。そのようなことができたら良いなと思います。

――最後に。“歩き続ける”っていうキーワードもありますし、11年目のKさんはどう歩き続けていくのかをお訊きできればと。

歩き続けるって書いたは良いものの、今は走り続けています(笑)。曲を書くのが前より好きになってて、歌詞もそうですし、自分の作品をどんどん残していけたらなと思っていて。10周年でみなさんからいただいたものもたくさんあるので、それをうまく恩返しできたらいいなという思いで曲を書いていて、その曲たちをまた咲かせる1年にしたいなと思ってます。 ……これ、真面目に話しちゃって、あまり笑うところ無かったですけど……大丈夫ですかね?(一同笑)


撮影=菊池貴裕 インタビュー・文=風間大洋

K  撮影=菊池貴裕

リリース情報
「あの雲の向こう側」
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2016.03.09 発売
¥1,667+税
SRCL-8996 ~ SRCL-8997
 
【初回仕様限定盤特典】
■オリジナルポケットカレンダー封入 2種ランダム
■購入者特典ライブ応募チラシ封入

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