花澤香菜 “歌って”“読んで”声の魅力でオーディエンスを癒やした『かなめぐり』最終日レポート
-
ポスト -
シェア - 送る
花澤香菜
『かなめぐり〜歌って、読んで、旅をして〜』
2月28日(日)、神奈川県・横須賀市文化会館
どこまでも透明感があって、どこまでも優しくて、その真ん中には人の温かなエネルギーがある。それはまるで、声のセラピストだった。花澤香菜の純度の高いエンジェリックヴォイスがオブラートとなって場内をコーティング。音楽を通して、この日この会場に集まったオーディエンスたちの心を次々と癒やしていく姿を目の当たりにした。
花澤は、元々“声優の歌”という枠組みを超越したところにいるアーティストだった。超人気声優として多忙な毎日を送りながらも、2012年から歌手活動をスタートさせた彼女は、サウンドプロデューサーの北川勝利(ROUND TABLE)を筆頭にカジヒデキ、ミト(クラムボン)からSTUDIO APARTMENTにSWING OUT SISTER、やくしまるえつこ(相対性理論)、最新作となる「透明な女の子」では山崎ゆかり(空気公団)など、ツウの音楽ファンも唸るような錚々たるクリエーター陣と次々とコラボ。花澤ヴォイスの虜になった人の手によって、花澤自身の表現者としての才能がどんどん開花していくなか、2015年に念願だった日本武道館ワンマン公演を大成功させた。そんな彼女が、次に考えたのが今サーキット『かなめぐり〜歌って、読んで、旅をして〜』だった。これは、普段は行かないような場所にあるこじんまりとした会場へ足を運び、もっと身近に花澤香菜を感じて欲しいという発想から最小限のアコースティックセットで“歌って”、歌だけではなく声優としての部分も見てもらおうという気持ちを込めてその土地に所縁のある本を“読んで”、空いた時間には花澤の趣味でもあるパン屋巡りを盛り込んだ“旅をして”訪れた土地を体感したいという、通常のツアーとはかなり内容が異なったものだった。花澤自身、このような全国サーキットは初の試みだったにも関わらず、始まってみればライヴは各地で大盛況。全国8カ所を巡ってきたサーキットがこの日2月28日(日)、神奈川県・横須賀市文化会館にてファイナルを迎えた。
花澤香菜
京浜急行線の横須賀中央駅から住宅街をマニアックに巡り巡ったところに今回の会場はあった。開演前から場内はしっとり落ち着いた雰囲気に包まれていた。客席を見回すと、いつもよりも女の子率が高そうだ。開演時間ぴったりに暗闇の中、北川勝利(G)と末永華子(Key)が椅子に座ってスタンバイ。そのあと、観客の拍手に包まれながら「“かなめぐり”へようこそ」と挨拶しながら軽快な足取りで春の訪れを感じさせるような黄色いワンピースを着た花澤が登場し、ライヴは「ダエンケイ」で幕開け。オーディエンスが着席スタイルで歌に集中するのは、このサーキットのマナーだ。そんな観客の耳元を早速サビのラストの“ねえ”が直撃。これで頭のなかをふんわりさせた後は軽やかなギターのカッティングがハンドクラップを誘う「Eeny, meeny, miny, moe」へ。花澤の笑顔とウキウキするようなステップに心が十分ほぐされた後の「花びら」では、彼女の声のトーンがモノローグな表情になり、映画を見ているかのように次々と歌の情景を脳裏に描いていく。「花びら」のアウトロがフェードアウトしていくなか、花澤が椅子に座り朗読が始まった。この日彼女が選んだのは佐藤さとるの著書「誰も知らない小さな国」。1人4役を繊細に演じ分けていく姿は圧巻! 間近で、声優としての花澤香菜の凄さを痛感した瞬間だった。そんなプロフェッショナルな自分を見せたあとは「子供の頃は友達と妖精を倒していた」ととんでもなく無邪気な話題で観客を大いに和ませる。そうして、次のアップテンポなポップチューン「I ▼ NEW DAY!」(▼=ハートマーク)からは花澤ヴォイスがキラキラ輝き出した。「ブルーベリーナイト」では言葉が音符と一緒になって心地よく跳ねまくる。楽しいバイブスでどんどんみんなを笑顔にしていったところで「CALL ME EVERYDAY」を投入。恒例の“もしもし”のコール&レスポンスで場内を見事に一つにしていった。
花澤香菜
この後始まったMCでは、今サーキットは地方ごとにお客さんのノリ方が様々で「沖縄は陽気で、岩手の人はすごくニコニコしてるの。横須賀の人は慣れてる感じ」といい「みんなのノリ方や手拍子、アコーススティックの音、それらをお互い聴きならがらみんなでライヴを作り上げていった気がします」と伝えた。そして「次はしっとりパートです」といって始まった「flattery?」からは極上の癒し空間へ。ここからは花澤の歌が1対1で観客ひとり一人をセラピーしていく。「曖昧な世界」〜「Trace」とストーリーのようにつないだ場面では、聴き手の心の悲しみのツボへとそっと入り込み、「Nobody Knows」でそのツボをほぐしていったこのシーンは、本当にお見事だった。
続いては、みんなが待っていたパンの話から再びMCがスタート。第1回ご当地パン祭り1位となったカフェ・ド・クルーの“よこすか海軍カレーパン”は「8個も買っちゃった」といってお茶目な表情を浮かべた。そこからこのサーキット恒例のメッセージボードコーナーへ。ここでは「お誕生日おめでとう。私も4月に27歳になります」というメッセージを読み上げ、これを書いてくれたファンに向けてバースデーソングをサプライズでプレゼント。すると、北川が「あなたもだよ」といって今度は花澤に向けてみんなでバースデーソングを大合唱した。そして「27歳になって、この後30歳になってもライヴをやりたいと思ってるから、みんな来てねー! じゃあまだまだ盛り上がっていくよ」と声を張り、ジャジーに揺れるオシャレチューン「Night & Day」からライヴは終盤へ突入。本公演で唯一マイクスタンドがセットされる「Merry Go Round」ではイントロから可愛らしい振り付けがスタート。と思ったら、曲間では指でピストルを作り“バキュンバキュン”と観客のハートを狙い撃ち。それがハート柄になってステージをふわふわ舞うなか、本編は「恋する惑星」で締めた。そして、これまた本サーキット恒例となったアンコールの“コール”。今日は“かなめぐり”のラストということで「ラスめぐり、にしてね」とリクエストして花澤は姿を消した。
花澤香菜
観客がこれまで使わなかったペンライトを振りながら“ラスめぐり、ラスめぐり”と叫ぶここでしか聞けないユニークなアンコールに呼ばれ、再び3人は舞台へ。このツアー中に花澤の歌詞、北川の曲で楽曲制作を進めていたことをファンに明かして、観客を驚かせ「楽しみに待ってて下さい」と告げて「星空☆ディスティネーション」からアンコールへ。照明で天井にたくさんの星が描かれるなか、オーディエンスのシンガロングが響き渡る。そのあと、キラーチューン「We Are So in Love」が始まると、場内がこの上なく幸せな一体感に包まれていった。そして次の曲で最後となったとき「スタッフさん、また“かなめぐり”やりたいです!」と花澤からアンコール公演を熱望する声まで飛び出した本サーキット。
「普段は声優さんのお仕事をいっぱい頑張って、そのご褒美で、週末にはこうしてみんなに会える。それがすごく楽しみで。“かなめぐり”はそんなサーキットでした。みんなもね、ずんずん歩いていけば、きっと誰かがそれを見てくれていて、いいことが訪れると思います。これからも頑張りますので、みなさんついてきて下さいね」と伝えて、ラストに「あるいていこう(カントリーVer )」をみんなで大合唱してライヴは終幕。その後3人で手をつなぎ、花澤が生声で「本当にありがとう」といって挨拶した後、舞台を去るとたちまち場内には「もう1回、もう1回」のコールが発生! その声に呼ばれ、くしゃくしゃの笑顔を浮かべながら「じゃあもう1回やろうか」と声をからしながら花澤が再登場。ファイナルならではのWアンコールに応え、「床ドンドンやらなきゃ大丈夫だよね? みなさん立ってください」といって観客を椅子から立ち上がらせ、再度「We Are So in Love」をみんなと一緒に大合唱して、最終公演を締めくくった。「ありがとう。なんか幸せです(照笑)。では、また」と最後に感謝の言葉を生声で伝えて、花澤は舞台を後にした。
文=東條祥恵
花澤香菜
2016.2.28(Sun)横須賀市文化会館
01. ダエンケイ
02. Eeny, meeny, miny, moe
03. 花びら
<朗読>佐藤さとる「だれも知らない小さな国」
04. I ▼ NEW DAY!(※▼=ハートマーク)
05. ブルーベリーナイト
06. CALL ME EVERYDAY
07. flattery?
08. 曖昧な世界
09. Trace
10. Nobody Knows
11. Night & Day
12. Merry Go Round
13. 恋する惑星
[ENCORE]
14. 星空☆ディスティネーション
15. We Are So in Love
16. あるいていこう(カントリーVer)
[ENCORE]
17. We Are So in Love