野坂操壽(箏) 二十五絃箏の魅力を存分に味わう一夜

2016.3.15
インタビュー
クラシック

野坂操壽 ©木之下 晃

 伊福部昭、増本伎共子(きくこ)、井上鑑、近藤譲、湯浅譲二、山本純ノ介。興味をそそる作曲家たちの名前が並ぶのは、昨秋、文化功労者に選ばれた箏曲家・野坂操壽(旧名・惠子)のリサイタル。伊福部の二十五絃箏のための「胡哦」(1997)で幕を開ける。四半世紀前の1991年、野坂が完成した新しい楽器「二十五絃箏」も、伊福部が始まりだった。
「80年代に3年ほど休止していた活動を再開した後、弾きたいのは伊福部先生の曲でした。新曲をお願いしたのですが、『この歳で作曲は無理。でも、これなら箏でも弾けるかな』と、ギター曲の楽譜を3曲くださって。ところが、当時は22絃の楽器を弾いていましたから、それでは音が足りない。25絃の楽器があれば先生のピアノのための『日本組曲』も弾ける。それが二十五絃箏を作るきっかけでした」

 野坂の自宅応接間には、伊福部とのツーショット写真の大きなパネルが飾られている。念のため付言すると、伝統的な日本の箏は13絃。基本的には13の音しか発音できない。20世紀初頭に合奏用の低域楽器として十七絃箏が開発されるが、それはヴァイオリンに対するチェロのような存在。4オクターヴを持つ箏に音域と音数を拡大したのが野坂の二十絃箏であり二十五絃箏だった。以後、多くの現代作曲家たちがこの新しい響きのために作品を生み続ける。今回も、井上と山本の初演曲を含め、6曲中5曲が2013年以降の作品だ。
「井上さんの新作『Cairon』は、ミヒャエル・エンデの小説『はてしない物語』に題材を得ています。井上さんの自作詞を歌うのですが、今回は娘の小宮瑞代と二重奏・二重唱で弾きます。ところが純ノ介さんの『梅花月下の舞』も最後に歌が出ます。箏弾きは歌も歌うんですが、大変…。『歌はダメ』とメールしたら、じゃあ、歌わなくてもいいようにしておきますって。でも大伴旅人の歌詞が素敵で。やっぱり歌うと思いますけど」

 他に湯浅作品は「箏歌・雪はふる」でこちらも歌曲となる。増本・近藤作品はギターの佐藤紀雄とのデュオだ。
 箏は、その原型が古事記にも登場するほど歴史が深い。野坂は「神話の時代から、人々が何を思って音を出してきたのかに思いをめぐらせながら一絃一音を磨いていきたい」と話す。音楽スタイルの東西や古今をはるかに超えた魂が響く一夜。その熱量を、邦楽ファンや現代音楽ファンだけの占有にしておく手はない。

取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年3月号から)


第27回 野坂操壽 リサイタル ―箏・二十五絃箏による―
3/24(木)19:00
浜離宮朝日ホール
問合せ:カメラータ・トウキョウ03-5790-5560
http://www.camerata.co.jp