FUKAIPRODUCE羽衣『イトイーランド』深井順子&糸井幸之介インタビュー

2016.4.3
インタビュー
舞台

(左から)糸井幸之介・深井順子

親しみやすいオリジナル楽曲と発見に満ちた歌詞は一度聴いたら、忘れられない!
魅力的な俳優たちが、演じ、歌い、踊り、ハーモニーを身体全体で、会場中に響かせる。
独自の表現「妙―ジカル」で、観客を魅了して止まない人気劇団FUKAIPRODUCE羽衣、約2年ぶりの新作本公演が今年4月に吉祥寺と伊丹にて行われる。
俳優で主宰の深井順子と彼女がその才能に惚れ込む脚本・演出・音楽を手がける糸井幸之介に、新作について話を聞いた。

——今回のタイトル『イトイーランド』に込められた思い、意図がありましたら、教えて下さい。
糸井 タイトルを決めたときは、この作品についてぼんやりしているイメージしかなく。去年はアンデルセンの童話を舞台化した作品や、木ノ下歌舞伎で近松門左衛門原作の『心中天の網島』の演出・作詞・音楽をやらせてもらったりしました。どれもとても楽しかったんですけど原作があるものだったので、今回、久しぶりに自分の好きなことをやりたい放題、めちゃくちゃやってみようと思いまして。それなら自分の名前をつけて、責任を取ってやろうと。
深井 最初、タイトルを聞いた時に、「ディズニーランド系なの?」って聞いたら、「健康ランド」だって言い出して。荻窪にある湯~トピアだっけ?
糸井 実際に、行ったことはないんですけど。
深井 ないの!?
糸井 テーマパークみたいな楽しい雰囲気にもしたいと思っています。
——テーマパークはハイにならないと楽しめないのでちょと疲れます。「健康ランド」はいいですね!
深井 そうなんですけど、どうも「健康ランドに行こう!」って言って、扉を開けたらそこがエジプトになってるらしいです。
糸井 「エジプト風」ね。
深井 そこの王様がイトイーっていう人なんですって。そこには7人の夫人がいて、夫人が浮気をしているっていう。
糸井 イトイーは不在でね。
——7人も夫人がいるんですね?
糸井 ・・・何でもありなんです。
——自分が浮気したいわけではないのですか。
糸井 そうではないんです。女性たちが浮気をしています。
——一般的に「浮気をされる」というのは、あまりなりたくない立場のような気がするのですが。糸井さんの夢ですか?
糸井 現実的な願望というわけでは、全然ないんですけど、なんとなくそういう状況で世界を見てみたくって。
深井 最終的にイトイーは帰ってくるの?
糸井 どこ出かけたんだろう?
深井 どこ行ったの?っていうの気になるよね。
糸井 ・・・他国との戦争とか?
深井 だから!二場の歌の最後に「ばーん」と爆音でシーンが終わるんです。それが怖くて。それも戦争だから?
糸井 いや(笑)。わからないけど、まあまあ、なんかそれ。
深井 サンバのリズムで歌っていて、最初のうちは楽しいんですけど、だんだん歌詞が怖くなってきて・・・最後、この爆音。いいと思う!
——7人の夫人分、7組のカップルが出てくるのですか。
深井 お金持ちのカップルがキャンピングカーに乗って旅をするっていうのが軸になるんだよね?
糸井 やや。
——ゴージャスな感じがしますね。
深井 たぶん、今、糸井君が、お金に興味があるんだと思います。
糸井 そうじゃないですよ(笑)
——「お金持ち」のカップルからは、自分が知らない世界を見せてもらえるんじゃないかなという期待が高まりますね
深井 確かに。ここまでの台本で、お金のにおいがちょっとします。
糸井 たぶんそれは・・・恐竜が地球上からいなくなった・・・
深井 絶滅?
糸井 みたいに、きっと人類もいつかいなくなる。それは何となくどんなかなぁっていうのがあって。だからその、お金持ちをいなくさせちゃおうっていう意地悪根性、無意識のひがみが出てるのかも。
深井 なるほどね。イトイーが不在の間に、帰ってきたら何もなくなってるような。

――台本の一場と二場を読ませていただいたのですが、台本は最初から順番に書いていくのですか?
糸井 今回はそうしています。全体の構成も立てていません。一つのシーンをもうここで終わってもいいっていうくらいで書いて、次のシーンを思いつくまで待つという感じです。曲でシーンが構成されるので、音楽的な構成というはなんとなく立ててますけど。
深井 いつも不思議なのは、どこから「エジプト」とか発想するの?
糸井 舞台がエジプトというのともちょっと違う。風味くらい。
深井 え!? 結局それって、すべてがデタラメってこと?
糸井 う~ん。曲を作ることも、シーンの設定を決めていくのも、外堀を埋めて、言葉を見つけ出すみたいなところがあって。音楽だと何文字くらいで、こういう響にって、それがもろに決まっていくんです。今回、特に作品を通した一つのドラマがあるわけではないので何でも書いていて・・・その根拠としていくつかの要素があるっていう・・・。
深井 わかる! 今回のお芝居は、シーンシーンで、糸井君が見ている景色を伝えているのかなっていうイメージがある。
糸井 そうそう。
深井 それがお客さんにも伝わるといいよね。自分の心情とか感情だけを伝えるのではなく、物事とか景色をただ伝えるだけで、最終的にすごくきれいなものが描かれたら最高な作品になるよね、きっと。そんな予感がする。そうするとFUKAIPPRODUCE羽衣が新しい境地に向かえるんじゃないかな。
——観客は自分では見れない風景と素敵な出演者の方たちを見ることができそうで、楽しみです。
深井 お客さんと同じ物が見えるといいよね。一緒に立ってる感じ。景色の一部になることなのかな。
糸井 だれにも遠慮せず好き勝手作って、それでも楽しんでいただける作品になればいいなと思っています。

【プロフィール】



深井順子
ふかいじゅんこ○77年東京生まれ。96年から99年まで劇団唐組に在籍。04年に、糸井幸之介の生み出す唯一無二の「妙ージカル」を上演するための団体、FUKAIPRODUCE羽衣を設立。以降、全公演に出演、及びプロデュースを行う。また近年は、ラジオCMへの出演や野田地図『エッグ』『MIWA』に出演するなど、活動の範囲を広げている。

糸井幸之介
いといゆきのすけ○深井順子が主宰するFUKAIPRODUCE羽衣の座付作家・演出家として全作品の作・演出・音楽を手掛ける。第14回公演『耳のトンネル』にて、CoRich舞台芸術まつり!2012春グランプリ受賞。「ふつうの人」の人生の輝きやおかしみを掬い取り、耳に残るジャンルレスな楽曲と言葉遊びに富んだ詩で表現される「妙ージカル」の独特の世界観は高く評価されている。


【公演情報】

FUKAIPRODUCE羽衣『イトイーランド』
プロデュース◇深井順子
作・演出・音楽◇糸井幸之介
出演◇
深井順子、日髙啓介、鯉和鮎美、高橋義和、澤田慎司、キムユス、新部聖子、岡本陽介、浅川千絵(以上、FUKAIPRODUCE羽衣)
伊藤昌子、幸田尚子、高山のえみ、大鶴佐助、岡森諦(扉座)
4/14~24◎吉祥寺シアター(東京)、4/28・29◎AI・HALL(伊丹)
〈公式サイト〉http://www.fukaiproduce-hagoromo.net/


【取材・文/矢崎亜希子】