吉田恭子(ヴァイオリン) “奇才”プロコフィエフの傑作を中心に
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吉田恭子 (©岩切 等)
ヴァイオリニストの吉田恭子が開催している、恒例の紀尾井ホールでのリサイタルも今年で16回目。毎回こだわりぬいた選曲が楽しみな公演だ。ブラームス、ベートーヴェンと、ここ2年は王道ものが続いていたが、今年は“奇才”プロコフィエフのソナタ第1番を前半の目玉に用意。
「米国とフランスでの遍歴を経てスターリン時代のソ連に帰国してから、様々な制約の下で10年程かけて書き上げた、プロコフィエフによる最も憂鬱な作品とまで言われている曲。初演のオイストラフにも、同じモティーフが出てくる第1楽章と第4楽章は“墓場を通り抜ける風のように”弾いて欲しいと助言したとか。確かに不気味で皮肉も効いていますが、全体を通して恍惚とした硬質な美しさが滲み出てくるところが魅力的な作品です。30分の大曲で内容も濃く、公演では扱いづらいのですが、明るい雰囲気を持ったクライスラー編曲による“天才モーツァルト”のハフナー・セレナーデ『ロンド』と組み合わせることで、お互いが引き立つのではないかと思っています」
休憩後はイザイ仕込みのヴァイオリンの名手でもあった、ブロッホの「バールシェム組曲『ニーグン』」で幕開け。
「この“ニーグン”(ヘブライ語で“即興”の意味)が後半のテーマで、ヴィルトゥオーゾたちが手掛けた音符に、書き切れない民族的で人間味に溢れた声を、どう表現するのかが課題。でも決して堅苦しいものではありません。例えばリストがパガニーニの再来と呼んだウィルヘルミ(『G線上のアリア』の作者として有名)の編曲でとりあげるのはショパンの有名なノクターンなど。特にワーグナーの歌心が伸びやかなヴァイオリンによって浮かび上がる『アルバムの綴り』は、私の師であるアーロン・ロザンドが最近楽譜を出版したばかりで、ぜひ演奏したかった作品です。他にもサラサーテのツィゴイネルワイゼンなどもあり、甘美で哀愁漂うような聴きやすい旋律で構成されています。ピアノは長年のパートナー白石光隆さんで、プロコフィエフの世界を美しく彩ってくださるのではないかと楽しみです!」
3月には9枚目の新譜CDを発売。こちらでも巨匠ヴァイオリニストたちが書いた知られざる小品たちが満載だ。
「アウアー編曲のシューマン『献呈』をハイフェッツの録音から譜面に起こしたり、オイストラフ編曲のシューベルト=リスト『ウィーンの夜会』もワーグナー=ワックスマン『トリスタンとイゾルデ幻想曲』もそれぞれ苦労して楽譜を入手しました。楽器を知りつくした演奏家にしか書けない、優雅で儚く美しい名曲たちを後世に残したいという強い想いからですね」
取材・文:東端哲也
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年4月号から)
6/3(金)19:00
紀尾井ホール
問合せ:ムジカキアラ03-6431-8186
http://www.musicachiara.com
他公演
5/15(日)宗次ホール(052-265-1718)
CD
『Romanza』
ナクソス・ジャパン
NYCC-27299
¥2500+税
3/23(水)発売