鴻上尚史×岡本玲が感じる「不寛容」とは!? 舞台「イントレランスの祭」インタビュー
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KOKAMI@network vol.14「イントレランスの祭」岡本玲 鴻上尚史 (撮影=こむらさき)
KOKAMI@network vol.14「イントレランスの祭」が4月9日(土)から全労済ホール スペース・ゼロでの上演を皮切りに、東京・大阪、そして再び東京で上演される。鴻上尚史が「ネットと愛国」という本から受けた刺激、また、人々がものすごく不寛容になっていることに注目して書いた作品が「イントレランスの祭」だ。
本作はかつて鴻上が立ち上げた「虚構の劇団」で演じられた作品。これを風間俊介をはじめ、外部のプロの俳優たちでやるとどう変わるのか、という動機もあって今回上演される。
稽古も半ばとなったある日、鴻上と、本作のヒロインを務める岡本玲に話を伺ってきた。
――今回のキャスティングは、風間俊介さんはじめ、クセモノぞろい、といった感があります。
鴻上:まるで動物園みたいですね(笑)
岡本:…私はまともなほうですよね??
鴻上:もちろん。「猛獣使い」側ですよ。ココがしっかりしてくれてないと、しっちゃかめっちゃかになりますね。藤田(記子)さんなんて自由な猛獣ですからねえ。これだけの芸達者な猛獣に集まってもらって、かつ猛獣使いの玲ちゃんを呼ぶことができて幸福だと思います。
岡本:風間さんも猛獣使いですよね?
鴻上:うん。あ、でもちょっと風間は“ニセモノの優しさ”が入っているから(笑)あ、活字になるとダメか。優しく言うと…“過剰なやさしさ”が入っているから、猛獣をダメにする可能性もある。
岡本:優しいですからね、風間さんは。
鴻上:風間は猛獣をてなづける、というよりは、猛獣の欲望を解放させてしまうんだよ(笑)
――鴻上さんに「猛獣使い」と称された岡本さんがこの作品にキャスティングされたきっかけは?
鴻上:もともとラジオ「サンデー・オトナラボ」を一緒にやっていたんですよ。3年くらい前に。それで「玲ちゃんって、ミュージックビデオもやっていて、歌も出しているんだ」と知って。映像ですが演技しているのを観て「達者だなあ」、また一緒にしゃべっていると「あ、こいつ、賢いな!」とわかっていたんで。いつか一緒に仕事ができたらいいなあと思っていたんです。
岡本:そのラジオ番組が終わるときに、「次はぜひお芝居を一緒にさせてください」と言い続け、風間さんが鴻上さんの「ベター・ハーフ」に出演されたときも、かつて風間さんと(NHK連続テレビ小説「純と愛」で)共演したこともあったので、「ちょっと、鴻上さんに舞台に出させてって伝えてよー!」って。なので「ついにきたか、やったー!」という感じです。
――とはいえ、今回演じるのは宇宙人役ですよね。初めて脚本を読んだときの印象は?
岡本:初めて読んだときは、単純におもしろいな、って思い、読み進めていくうちに、自分の読み込みが浅いなって思いました。「これは簡単ではないぞ、難しいぞ!」そう思って身を引き締めて稽古に臨んだら引き締めすぎて稽古が全然ダメで。誰にもバレずに一度落ち込みました(笑)やはり設定が特殊で普段の自分と違うので、その役の設定に自分が入りこめていないな、と稽古中に反省して、頑張っています。
――岡本さん、もしやひそかに自問自答するタイプですか?
岡本:そうですね。軽くやっているように見られがちなんですが。
鴻上:玲ちゃんは苦労人なんです。和歌山から出てきて、中三から生活費と学費を自分で稼いでいる子なんです。
岡本:もう、そればっかり(笑)
――泣ける話じゃないですか!!えらいですよね。
鴻上:えらいだけじゃなくて、ファイティング・スピリッツがあるんです。それが俳優さんには必要で。最近の子は怒られ慣れてないし、「まあいいか」って思われると本当にそこで終わってしまう。玲ちゃんは落ち込んでいるといっても同世代の子たちとは全然違うレベルだと思いますね。
岡本:「私、本当は弱いんですよ」って言うと「何を言う~!?」って返される。
鴻上:ちょっとやそっとの事じゃ折れない子ですよ。
岡本:自分はたぶん、折れないための鈍感さを手に入れつつあると思っているんです。だからこそ、そうじゃない繊細なところを減らさないように気を付けています。この作品でもいろいろな出会いがあり、いろんな環境の差を繊細にとらえる場面がありますが、自分、鈍感になっているなーと思うので気を付けないと。
――この舞台の稽古を進めていく上で大変だ、難しいなと感じるところはありますか?
岡本:ある事を、例えば私が鴻上さんに何も言われずにやると2か3の大きさ、レベルなんですが、ちゃんと設定に入り込んで感覚を研ぎ澄ますとそれは2とか3のレベルではなくて9や10のレベルの感情の揺れ方になる。そう思うとまだまだ自分は甘いなって思うんです。そういうところは難しいなあって思います。神経を研ぎ澄ましてちゃんと設定も勉強して自分の中に刷り込んで。自分は感覚だけではできない人なので、下準備も大事だなって改めて思っています。
――鴻上さんからみた、岡本さんの魅力とは?
鴻上:賢いんです。自分でも言ってましたが、感情が単に反応するだけじゃなくて、ちゃんとどういうことをこの戯曲の中で求められていて、どういう演じ方をしなければならないか、から考えてくれる。この年ではそういうアプローチをする人は少ないんだよね。感じたまま「がんばります」という人は多いんだけど。もちろん等身大の恋愛ものとかなら、感じたままのリアクションでいいんですけど、「私は宇宙人なんです。宇宙人の女王として呼ばれたんです」というような作品だと、「感じたまま」だけでは限界があるので役を現実の自分に引き寄せるとどういうことを意味するのか、それをちゃんと考えられる女優なのでいいな、と思っています。
岡本:ありがとうございます。
鴻上:本人も言ってたけれど、ちゃんとしすぎてしまって落ち込むことがある、というので、ここから先2週間くらいの日にちの中で、こういう設定ではあるけどのびのび楽しくやってもらえれば、というのがリクエストですね。ちゃんとやろうとすると頭でっかちになってしまうから、コンセプトがわかった上でのびのび楽しんでもらえれば。
――もう一人気になる存在ですが…お二人からみた主演の風間さんはどんな方ですか?
鴻上:あははははは。
岡本:わはははは。本人がいないと、逆に悪い事が言えないですしねー。
鴻上:確かにな!本人が目の前にいるほうがシビアなことが言えるもんね。
演じることに対しては非常に誠実な俳優です。そこが信じられるところ。ただ、ほおっておくとアバウトにセリフを覚えて僕がムカっとくるんですけど(笑)
岡本:最初は(「純と愛」で)風間さんと兄妹役で共演したんですが、そこからプライベートでもお世話になっていて、だからこそなんですがめっちゃちゃんとしているように見えるし、そう見せるし、とってもアタマもいいし…でも適当なんですよ!(笑)
鴻上:わははははは。
岡本:適当だし、さぼりたがりだし。そういうところが人間らしさを感じられていいです。だって稽古の合間に携帯でゲームしているんですよ!私、言いましたよ。「余裕だねえ」って言ったら「まあね」って返されました(笑)
鴻上:あははははは。あいつ携帯で何やってるんだろう?と思ってたらゲームだったんだ(笑)
岡本:もちろん、芝居の参考にするものを携帯で調べたりもしているんですが、最近はちょいちょいゲームしているんですよ。そんなダメなところも見えていいですね。
鴻上:風間俊介ファンには、稽古場にくるときの寝癖を見せてやりたいね!本当にすごいんだから。でもあんだけイケメンだったら外見にこだわりがないのかなあ。
岡本:でも沢渡(風間が演じる役名)でも、ちょいちょいカッコよさを出してくるのが気になりますね(笑)
鴻上:わははははは。
岡本:なんか、カッコイイ芝居とか、それがおもしろい。
――そのカッコイイ芝居は作品上、必要なんですか?
鴻上:必要なときとそうでないときがあります(笑)要らないときは「いりません」と言います。でもここはキメなくていい、といえばちゃんと理解するので、それは大したものです。
――続いて共演者の“猛獣”たちに注目させてください。
鴻上:うちには“3猛獣”がいますね。いや全員猛獣かもしれないけど。
まず福田転球さんね。僕も初めてお仕事するんですが、ここまでの「スーパー放し飼い野獣」とは思わなかったね(笑)あと、久ヶ沢徹さんもそうです。ベテラン勢でいうと久ヶ沢さん、藤田さん、転球さんかな。三大自由人。
――久ヶ沢さんはもっとちゃんとしているようなイメージがあったんですが。
鴻上:ちゃんとしているんです。“遊び”の意味で自由人なんです。天然とはまた違う。
岡本:久ヶ沢さんは変態ですよね?いい意味で。ちゃんとしているのにたまに狂気的に変なことをするんです。
鴻上:今回初めてお仕事する人が多いんですよ。前回の「ベター・ハーフ」も全員初めてご一緒したメンバーでしたが。この三人、よく言えば“ベテランの頼れる人たち”ってところかな。特に一歩間違えると重くなりがちな芝居なので、それを笑い飛ばして遊び倒すにはこのくらいの野獣パワーが必要だってことですよ。
KOKAMI@network vol.14「イントレランスの祭」岡本玲 鴻上尚史
――本作のテーマに「不寛容」がありますが、最近体験した「不寛容」だな、と感じたことは何ですか?
鴻上:僕がツイートしたら「誰?」という全く関係ない人が、しかもすごいとんちんかんなツッコミをしてきたときにものすごいイラッとして。そのときに「あれ、なんで自分はこんなことをスルーできないんだろう」って思いましたね。不寛容になってきたと実感します。
岡本:毎日の稽古場に行くときの電車の中は自分、不寛容だなって思っています。電車の中は特にそう思いますね。腹しか立たない(笑)大体、行きも帰りも混んでいる路線なんですが、混んでいるのに中のほうに入らない方もいて、そこを強引に割って入っていく瞬間に、ああ私、冷たくなっているな…と感じます。
鴻上:日本が「不寛容になりやすい国」になっているのかもしれないね。ヨーロッパでも入口に人がたまっていて奥が空いていることはよくある。でもそんなときは普通に言うんだよね。「中に入ってください」って普通なテンションで。そうしたらたまっている人たちはゾロゾロと中に入る。もちろんそう言わないと乗り降りしやすい入口そばに固まってたりはするんだけど、でも言いやすい雰囲気なんだよ。そういう点では、ストレスがたまりにくい社会になっているのかな。
――このイラッと感は、東京だけですかね?以前、大阪で混雑した電車に乗ったときに「アカン、アカンて、無理やてー」って老若男女問わず口々にぶつぶつ言いながらも、お客を受け入れる様子を観たんですが。
鴻上:それは大阪が特殊なんだよ!(笑)
岡本:えー、和歌山でもありますよ!
鴻上:そうか、大阪の息がかかったエリアがそうなんだ(笑)普通はないと思うけどなー。関西だけだと思うけど。
――東京で暮らしているとイラっと感が年々増していく感じがします。
岡本:空が狭いだけでイラっとしますね(笑)
鴻上:そりゃあ和歌山に比べたらどこも狭いよー(笑)ああでも地方に行ってこの芝居をやると反応に違いが出るかもね。札幌のお客さんは東京の反応に近い。大阪はなんでもかんでも笑いがデカイが、途中で「本当に笑ってる?金払った分、元を取ろうとして笑ってないか?」と不安になる。福岡は屋台があって美味しい(笑)
――さて、この「イントレランスの祭」、どこに注目して観てもらいたいですか?
鴻上:どんな作品でもそうですが、劇場に来るときより劇場を出るときに笑顔になっていてもらいたいと思っているんです。今回、テーマは「不寛容」だけど、そこから生きるエネルギーをもらえたな、と思っていただければ嬉しいですね。
岡本:だからこそ役者は誰よりもエネルギーを持ってやらないとな、と思っています。
今、とっても規則正しい生活をしているんです。ご飯も自分で作っているし、規則正しい生活=お芝居に向き合っている時 なんです。元気な心と身体で今日も頑張れている、と思えることこそが、自分のエネルギーの元なんです。
――鴻上さんの「エネルギーの元はどこですか?」
鴻上:俺はやっぱり稽古場にいて上手くいっているときにエネルギーが出ますね。そりゃ何本も芝居をやっているので稽古場で「不寛容」になってしまうこともありますが、都度反省しています。でも演劇ってものすごく無駄なことをたくさんやらないといけないので、そこでイラッとしないで、どこまで面白がれるかが大事なんじゃないかな。
岡本:…ああ!さっき私、「エネルギーの元は、お客さんの笑顔」っていうべきでした?(笑)
鴻上:それ、パターンすぎるじゃん!(笑)
【東京】2016年4月9日(土)~4月17日(日)全労済ホール スペース・ゼロ
【大阪】2016年4月22日(金)~24日(日)シアターBRAVA!
【東京凱旋】2016年4月29日(金)~5月6日(金)よみうり大手町ホール
■作・演出:鴻上尚史
■出演:風間俊介、岡本玲、久ヶ沢徹、早織、福田転球、藤田記子、三上陽永、田村健太郎、大高洋夫
■公式サイト:http://www.thirdstage.com/knet/intolerance2016/