忘れらんねえよ×夜の本気ダンス 1300人が泣き笑い歌ったO-EASTに示した柴田の覚悟
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忘れらんねえよ 撮影=岩佐篤樹
忘れらんねえよ主催 ツレ伝ツアー 2016 ファイナル 2016.3.27 TSUTAYA O-EAST
「カッコいいロックンローラーになる」という柴田隆浩(Vo/G)の静かな決意表明に大きな拍手が送られた2016年3月27日。この日はバンドにとって、会場を埋め尽くしたファンたちにとって特別な、忘れらんねえ1日として刻まれることだろう。
忘れらんねえよが対バン形式でおよそ3ヶ月にわたって全国を駆けた『ツレ伝ツアー 2016』の最終公演、東京・渋谷TSUTAYA O-EAST。ツアー最後の「ツレ」は、ブラックミュージックやニューウェイヴの要素を巧みに取り込んだダンスロックで進境著しい夜の本気ダンスである。
まず一人だけステージに飛び出してきた鈴鹿秋斗(Dr)が「ツレ伝ツアー、ファイナルへようこそ、踊れる準備はできてますか!?」と絶叫すると、オーディエンスのリアクションは抜群で曲が始まる前から会場は熱を帯びていく。颯爽と現れた米田貴紀(Vo/G)が軽く投げキッスを決めてから「上へ飛んでください」と丁重に場内をエスコート。「By My Side」からスタートする。
夜の本気ダンス 撮影=岩佐篤樹
淡々と演奏しながらも随所に印象的なリフを差し込んで、端正な4つ打ちサウンドにアクセントを加える町田建人(G)と、うねる低音で立体的な厚みをもたせるマイケルのベース、長身痩躯で巧みにステップを踏みながら紳士的に、たまにエモーショナルにアジテートする米田。そして本業のドラムはもちろん、MCで絶大な存在感を発揮する鈴鹿。自由すぎる彼がマイクを持っただけで笑いが起きる。『ツレ伝ツアー』についても、「バンドの登竜門的なライヴ。出たバンドはみんなどんどん売れていく、忘れらんねえよ以外がどんどん売れていくという」と主催の先輩バンドを弄ったり、ネーミングについても自身がまわった『列伝ツアー』を引き合いに出してこっちが本家だ、と主張したり。かと思えば、「でもどっちが本物か偽物かなんて、ライヴしてみなきゃ分からないんじゃないですか!?」と最終的にはキッチリ盛り上げてみせた。
彼らを一躍スターダムへと押し上げた感のある「WHERE?」など従来のキラーチューンに加え、ライヴ初披露となった「Logical heart」、ベースリフから雪崩れ込んだラップ調のボーカルが新鮮な「escape with you」、イントロ一発で踊らせる強力な「Crazy Dancer」など、3月9日にリリースされたばかりのメジャーデビューアルバム『DANCEABLE』からの楽曲を織り交ぜたステージであったが、ラストは彼らのライヴに欠かせないポストパンク風味の「戦争」だった。高速ビートに時折ラテンのリズムが交差し、尖ったギターと引き攣るボーカルが印象的なこの曲。間奏では、一度全員を座らせてから「踊れ!!」の一喝で爆発的な盛り上がりを演出してくれた。
歌とメロディ、心情をそのまま吐露する歌詞で感情を揺さぶるタイプの忘れらんねえよと、踊らせるメカニズムを緻密に組み立てて肉体に訴えかけてくる夜の本気ダンスの対バンということで、相性的にどのような盛り上がり方をするものだろうか?と観ていたのだが、ほぼ一人残らずオーディエンスを跳ばせて踊らせるサウンドの威力は流石。「夜ダンのワンマンライヴだ」と言われたら信じてしまうほどの大盛況でファイナルに華を添えた。
忘れらんねえよ 撮影=岩佐篤樹
そしてお待ちかねの忘れらんねえよのステージ……だが、暗転したステージには誰も出てこない。次の瞬間、ステージ後方のPA席のあたりに柴田が登場! 大喜びの場内に「みんなの力で俺をステージまで運んでくれ!」と呼びかけ、クラウドサーフィンでステージへと向かい、たどり着くと満面の笑みで「イエー!!」と叫ぶ。もうそれだけで場内は完全に一つとなった。
忘れらんねえよ 撮影=岩佐篤樹
一曲目に披露されたのは「今夜いますぐに」。シンプルなアンサンブルに泣きのメロディというパンクロックは、忘れらんねえよの真骨頂だ。続いて「鈴鹿」「秋斗」というコール&レスポンスで後輩にお返しをしつつ「この街には君がいない」、大合唱が生まれた「僕らパンクロックで生きていくんだ」と立て続けに披露し、梅津拓也のベースが暴れるダンサブルな「体内ラブ~大腸と小腸の恋~」後には、「声の調子めちゃめちゃ良いぞ!」との発言も飛び出した。この1年、サポートドラマーとして彼らを支え続けるマシータとの息もピッタリで、バンドの充実ぶりが早くもうかがえる。
忘れらんねえよ 撮影=岩佐篤樹
「踊れるのが最大の魅力なんですけど、それ以前に音がめちゃめちゃ格好良いんですよ! ……なのにあのMC(笑)」と、夜の本気ダンスをたたえた後は、「バンドワゴン」でバンドマンの悲哀と夢を歌い上げ、「バレーコードは握れない」「慶応ボーイになりたい」と個人の心情や感情をテーマとしたミクロ視点の楽曲を届ける。一人の情けない男の独白にも似た楽曲たちは、ストレートに観るものの胸を打つ。「レコーディングの時より気持ちが入って上手く歌えた」と語ったのは夜間飛行。中盤はセンチメンタルな楽曲が多めの構成となったのだが、場内の熱は全く冷めない。
忘れらんねえよ 撮影=岩佐篤樹
忘れらんねえよ 撮影=岩佐篤樹
急にポケットから1000円札を取り出し、「ビールが飲みたくなった!」と柴田。「あそこのバーカウンターまで運んでもらって良いか?」と再びオーディエンスの上を運ばれてきた柴田が、2階席の筆者の視界から消え……そして再び運ばれてきた彼の右手にはしっかりとビールが。会場のど真ん中でクラウドスタンディングしながらそれを飲み干し、360°に向かって気焔を吐いて後半戦へと向かう。
忘れらんねえよ 撮影=岩佐篤樹
「寝てらんねえよ」「ばかもののすべて」とアップテンポなナンバーを連打し、盛り上がりのピークは続き、オーディエンスもずっと歌いっぱなしで、いたるところでモッシュ状態。「今日良いぞ、人生最高のライヴが出来るかもしれない」柴田の一言に、それに一役買おうと場内のボルテージは更に上がる。「この高鳴りをなんと呼ぶ」では、冒頭の歌詞を<明日には名曲が 渋谷に生まれんだ>と変えて歌い喝采を浴び、本編を締めくくった「忘れらんねえよ」ではミドルテンポの楽曲に合わせて一斉に携帯のバックライトを灯した客席が、揺れる白い光に包まれた。
忘れらんねえよ 撮影=岩佐篤樹
アンコールは最新作のベスト盤『忘れらんねえよのこれまでと、これから。』に新録された2曲が用意されていた。「世界であんたはいちばん綺麗だ」では、ライヴも最終盤に来てのハイトーンのサビをダイナミックなサウンドに乗せてしっかりと歌い上げ、ラストナンバーはちょっと切なくとびきり優しい「別れの歌」。昨年脱退した酒田耕慈に捧げられたこの曲だが、いくつもの別れを越えて前を向く、会場に集まった一人ひとりに向けられたメッセージとして響き渡っていた。
忘れらんねえよ 撮影=岩佐篤樹
「ここにいるみんなは、別に当たり前にここにいるわけじゃないんだよね。小遣いやバイト代や給料を貯めて、それでここに来てるわけでしょ。そのことを強く感じるようになってさ、(みんなが)どんどんキラキラ輝いて見えるようになった」
「だから絶対に裏切っちゃいけない、想いを受け止めてカッコよくなんないといけない。ごまかしたり逃げたりすんのやめようぜ、なれないかもしんないけど覚悟を決めて"カッコいいロックンローラーになる"って言わなきゃダメだ。忘れらんねえよの第2章の始まりに、そんなことを考えています」(柴田)
忘れらんねえよ 撮影=岩佐篤樹
"カッコいいロックンローラー"とはどんな存在だろう。全21曲に及ぶこの日のライヴの中で、オーディエンスの笑顔と大合唱が絶えることは一度もなかった。柴田の、極めて個人的だったり、情けなかったりみっともなかったりして泣き笑いする、一つひとつの言葉と歌は、会場の1300人それぞれの言葉であり、歌であった。それは、とてもとてもカッコいい姿であったように思う。
そして”ごまかしたり逃げたりした”自分を認めた上で、ロックバンドとして真っ向からオーディエンスを受け止めていくことを宣誓した忘れらんねえよの次なるステージは、Zepp DiverCity。“高速道路のその先に”夢見ていた"でかいステージ”へ。弱さも、情けなさも、そんな自分たちを信じるファンも、すべて背負って彼らはいく。
レポート・文=風間大洋
忘れらんねえよ 撮影=岩佐篤樹