日本初演から20周年 宝塚歌劇宙組『エリザベート~愛と死の輪舞~』制作発表会見レポート
2016.4.30
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宝塚歌劇宙組『エリザベート~愛と死の輪舞~』制作発表会見
思えばすべてはここからはじまったと言える宝塚歌劇団での日本初演から、今年2016年、20周年を迎えた三井住友VISAカードミュージカル『エリザベート~愛と死の輪舞~』が、その記念の年に宝塚歌劇団宙組で再演されることになった(兵庫・宝塚大劇場で7月22日~8月22日、東京宝塚劇場で9月9日~10月16日の上演)。
美貌のオーストリア皇妃として知られるエリザベートの数奇な運命に、彼女を愛する黄泉の帝王トート(死)という象徴的な存在を絡ませて、ハプスブルク帝国の黄昏の日々を描いた1992年ウィーン生まれのこのミュージカルは、今も世界中で上演され続ける大人気作品となっている。我が国でも1996年の宝塚雪組での初演以来、宝塚で、また東宝でと再演を繰り返し、 入手困難が続くメガヒット作品として定着している。
特に、黄泉の帝王トートを主人公に据えた宝塚版ならではの幻想性は、高い評価を集めていて、初演の雪組以来、各組での再演が続き、上演回数899回、観客動員数216万人を誇る、宝塚歌劇を代表する作品の1つとなっている。
そんな作品が、今回朝夏まなと率いる宙組で再演されることとなり、4月15日都内で華やかに制作発表会見が行われた。
会見は、まず宝塚9代目の黄泉の帝王トートとなる宙組トップスター朝夏まなとと、タイトルロールのエリザベートに扮するトップ娘役の実咲凜音のパフォーマンスからスタート。歴代銀色をベースにしていた髪色を、黒のロングという新鮮なビジュアルで登場した朝夏が、初演時宝塚版の為に書き下ろされた「愛と死の輪舞」を深い思いを込めて歌う。
続いてエリザベートと言えばの1幕最後の白いドレスで登場した実咲と2人で、2002年の花組公演から加えられたトートとエリザベートが互いの思いをぶつけ合うナンバー「私が踊る時」が歌われ、新たに生まれる宙組版『エリザベート』への期待が高まる時間になった。
続いて、宝塚歌劇団理事長小川友次、この公演の協賛会社である、三井住友カード株式会社代表取締役久保健、潤色・演出の小池修一郎、演出の小柳奈穂子、更に、朝夏まなと、実咲凜音が登壇。それぞれの挨拶となった。
まず小川理事長から、1992年にウィーンで生まれたミュージカル『エリザベート』を20年前の雪組初演で、心血を注いで作り上げた小池修一郎が、宝塚の財産となる作品に仕上げてくれた。それから20年、『エリザベート』は宝塚の宝物であると同時に、日本のミュージカル界の宝物ともなっている。自分にとっても『エリザベート』は、宝塚大劇場の総支配人であった時の1998年の宙組公演、また、梅田芸術劇場でウィーンからの招聘公演を実現した場に立ち合うなど、縁も思い入れも深い公演で、その作品を今ノッている宙組で、『Shakespeare~空に満つるは、尽きせぬ言の葉~』のシェイクスピア役などで力をつけてきた朝夏まなと主演でやれることがとても嬉しい。演出には小池修一郎に加え小柳奈穂子も加わり、宙組公演初日に900回の節目の上演を迎える宙組の『エリザベート』が、宝塚の『エリザベート』の歴史にどんな1ページを刻むのかに、ご期待の上ご支援賜りたいとの言葉が述べられた。
続いて協賛会社の三井住友カード株式会社の久保社長から、宝塚で9回を数える『エリザベート』のこれまでの公演すべてに協賛していて、特別な作品に感じている。宙組公演だけで考えると、18年ぶりの上演となりその間の宙組の成長が現れる場ともなるだろう。スターとしての風格を増している朝夏まなとのトート、娘役なら誰でも1度はと夢みるはずのエリザベートに挑む実咲凜音、どこか心弱い、憎めない皇帝を演じる真風涼帆、影の主役とも言えるルキーニを演じる愛月ひかる、など、それぞれが個性を出して、小池、小柳両演出家の元、また新しい『エリザベート』が生まれることに期待しているとの力強いエールが送られた。
それを受けて、潤色・演出の小池修一郎から、20年前には、トップスターに黄泉の帝王役など大丈夫なのか?と危惧するお言葉を頂いてはじまった『エリザベート』に対して、今や、この場にいない真風や愛月の魅力までもを久保社長が語ってくれるに至ったことに感動した。20年間の重みを感じる。『エリザベート』は、この20年間愛され続け、宝塚でも様々なスターがそれぞれのアプローチで演じてきたが、今、扮装して「愛と死の輪舞」を歌う9代目トートの朝夏まなとを見て、ある意味削ぎ落とされた核心をついたものになっているのに感心した。歌も非常に良くなっていて精進の賜物だろう。2代目のトートだった麻路さきさんが「生きている人間で、黄泉の帝王を見たことがあるという人はいないはずだから、自由な表現が許されるはずで、私は私のトート像を作る」という趣旨の明言を残していて、その後に続いた人たちが役柄におおらかに取り組める礎となったが、朝夏からはそれら先輩たちが積み上げてきたものを突き抜けて、原点に返っているものを感じるので、これからの仕上がりが楽しみだ。エリザベートの実咲凜音は、トップ娘役としてのキャリアを重ねてきているが、どんなにキャリアがあっても、この役柄は緊張を強いられるし、おそらく本人にとっても念願の役どころではないかと思うので、朝夏の核心をついてくるトートに対して存在し得るエリザベートになって欲しい。そして今回小柳奈穂子が演出として自分を助けてくれる。彼女は98年の宙組公演時に、まだ研修という形で正式に入団する前から、演出補の中村一徳の下について仕事をしてくれており、正式に宝塚に入団した後、02年の花組公演からはずっと最初に作品を掘り起こしていく段取りからの担当をしてくれているので、誰よりも『エリザベート』には詳しい。今回満を持した共同演出として腕を振るって欲しい。新しい曲や場面が加わるということこそないが、きっと新しいものが観られると思うので、よろしくお願いしたい、と、新たな朝夏と実咲による宙組バージョン、共同演出の小柳への期待が語られた。
その共同演出の小柳からは、初演の雪組公演当時はミュージカルサークルに籍を置く大学生で、大変な話題になった作品だったのだが、 が取れずに観劇が叶わなかった。そんな作品に共同演出として制作発表会見の場に臨んでいることに、隔世の感を覚える。98年から助手として関わってきたが、これまでの上演を見ながら掘り起こしていく作業を各組でしていて尚、スターや組の個性によって変わっていくものがあり、歌舞伎的な魅力も持った作品だと思う。自分としても18年間『エリザベート』に関わってきたことが演出家としての大きな勉強の場となったので、観客であった時の驚きも活かしながら、宙組のチームワーク、コーラス力をもって、「死」の話ではありながらもビビットな『エリザベート』が生まれるよう力を尽くしたいという思いが語られ、出演者挨拶へと引き継がれた。
【出演者挨拶】
朝夏まなと 日本初演から20周年という記念すべき年に、『エリザベート』を上演させて頂く責任と喜びをひしひしと感じております。私はこの作品に入団1年目の時、春野寿美礼さんがトートをされた(02年の花組)公演に出演させて頂きまして、私の宝塚人生の初台詞を頂きました。「ミルク」の場面での「病人がいるんだ!」という一言だったのですが、この一言が言えなくて、小池先生からその時出演されていた立ともみさんに「この子をみてやってくれ!」と言って頂き、立さんに特訓して頂いたのを今でも覚えています。そんな私の思い入れのある公演で、主人公トートをさせて頂くことにはとてもプレッシャーがありますが、今、先生がおっしゃっていた核心をついた、削ぎ落とされたトートとは何なのか、自分なりに考えて、突き詰めていきたいなと思っております。また宙組と致しましても、今とても団結力があって、それぞれの向上心も強いので、この作品に体当たりでぶつかっていって、皆様に楽しんで頂ける『エリザベート』を作っていきたいと思っております。先生方どうぞよろしくお願い致します。三井住友カード様のご協賛に感謝しつつ、宙組の『エリザベート』をしっかりと作り上げたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します。
実咲凜音 この度は宝塚での『エリザベート』20周年という記念すべき年に、この作品に携わらせて頂けることを本当に奇跡のように思っております。目の前の壁はとても高いですが、演出の小池先生、小柳先生、朝夏さん率いる宙組で作り上げる新たな『エリザベート』をお届けできるように、私も魂をこめて取り組みたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します。
【質疑応答】
──朝夏さんのビジュアルイメージはどんな発想で決まったのですか?
小池 髪を黒くしたのですが、以前彩輝直さんに(05年月組)黒を提案したところ「ごま塩が良い」ということで(笑)白黒にした経緯があって、今回朝夏に削ぎ落とされたシャープなイメージがあるのには、黒い髪から来ているものもあると思います。メーキャップも含めて、今までのトートが狙ってきた綺麗さとはちょっと違うのではないかな?と、死が本来持っている暴力性のようなものも感じさせるのではないか?と今日すごく思っています。衣装の有村淳さんにも9人9様のトートの衣装を作って頂いていて、本当に毎回大変だと思いますし、クリエイターとしての葛藤もあったと思いますが、今回すごくカッコよいなと。20周年の進化したものを感じました。なぜ黒髪にしたかと言いますと、ハッキリ言って色が尽きて来たというところもありまして(笑)、赤とかはちょっとトートとしては違う、やはり寒色系の何色かでと思い、こういう形になりました。
──小柳先生の担われる役割は?
小池 まず前回までのものを掘り起こして、新たに生まれた感情を曲や場面に与えていく訳ですが、どうですか?
小柳 助手なんですが、これまでも演出家のつもりでやらせて頂いていて、「これでどうだ?」と小池先生にぶつけて行くつもりでおりました。ですので、これまでと作業的に違うということはあまりないかと思いますが、やっぱり今日ここに来て「演出家」として名前を紹介されると心構えが違うなと感じるので、そういう意味で変わっていく部分はあるかと思います。ただ、役割分担としては変わらないと思います。
小池 98年に彼女がまだ女子大生という立場で研修に来ていた時に、実際の助手としてあらゆる雑役をやらせていて、今回の『エリザベート』はどう思う?と訊きましたら、姿月あさとさんのトートだったのですが、「宙組の『エリザベート』はバロックだ」と答えました。それはどういうつもりで言っているの?と更に訊きましたら、彼女が色々と答えてくれたことがとても面白くて、私自身が宝塚で3回目の『エリザベート』をどうやってまとめようかとても悩んでいた時に、若い人の新鮮な意見が参考になりました。それから上演の度に意見を訊いていて、ここは変えた方が良いのか?或いは変えない方が良いのか?についてもいつも相談してきました、彼女自身もどんどん成長していて、一方僕の方は齢を重ねておりまして(笑)、もしかしたらちょっと見方が昔に還っているかも知れない。そんなこともありますので、今の彼女から出てくるものを、今の自分の観点でジャッジをしていくことになるだろうと思います。
──朝夏さん、実咲さん、最初に観客として『エリザベート』をご覧になったのはいつですか?また、その時に最も印象に残った場面は?
朝夏 私は出演が決まった入団1年目にビデオで拝見したのが最初です。私はあまり宝塚ファン歴が長くなくて、入団してから色々なものをたくさん観るようになったのですが、その今まで自分が観た作品とは全然違う「これは宝塚なのだろうか?」と最初には思ったくらい、すごくスタイリッシュで歌だけで綴られていくミュージカルというものに衝撃を受けました。どこの場面というよりも、全体が衝撃的でした。
実咲 私は舞台を直接拝見させて頂いたのは瀬奈じゅんさんがトートをされていた月組(09年)公演でした。その後映像ですべての『エリザベート』を拝見させて頂いたのですが、印象に残っている場面はやはり1幕最後の場面の「鏡の間」で、エリザベートが、私が今着ているこの衣装を着て振り返った瞬間の気迫に圧倒されて、その場面が印象に残っております。
──役作りの為に、された取り組みは?
朝夏 私は普段は明るい役ですとか、私自身太陽のような存在で在りたいと公言しているので、その真逆と言っていいトートという役に挑むにあたっては、敢えてネガティブなものの捉え方をしてみたり(笑)を内面的にやってみました。
実咲 資料が本当にたくさんありますので、その中で彼女が生きた人生の喜怒哀楽を、如何に私も体験できるかということに、リアルなところに挑戦させて頂きたいと思っておりますので、資料を拝見させて頂いて自分の中で想像を膨らませていくことを、今の段階ではさせて頂いています。
──初演から20周年の記念公演に臨まれる意気込みと、1番好きなナンバーを教えてください。
朝夏 私自身にとってトート役に挑むということは、とても挑戦なんですね。なので今までの私のイメージをガラッと変えられるような、人が私に対して持っていらっしゃるイメージを覆せるようなトートを演じたいと思います。好きなナンバーはたくさんあるのですが、これからもっと歌いこんでいきたいと思っているのは「愛と死の輪舞」です。これはやはり宝塚の為に最初に作られた曲で、その後海外の方でも「ロンド」という曲として採用されたということなので、宝塚オリジナル曲であるということと共に、トートが1番最初にエリザベートに対する思いを歌にするので、この歌を大切にしていきたいなと思います。
実咲 この作品をさせて頂けるとお聞きした時に、まさかという思いでした。もちろん嬉しいという思いもあったのですが、20周年というプレッシャーの方が大きかったです。けれども、させて頂けるからこそ、今回朝夏さんが削ぎ落とされたトートを出しておられると小池先生がおっしゃっていましたが、本当に私もご一緒させて頂いて空気感を肌で感じさせて頂けたので、それに対するエリザベート像というものを、私自身が追求していけるところが、今回の私にとって、また作品をどのようにお見せできるかの課題だと思います。心を込めて、魂を全て注ぎ込んで演じたいと思います。好きなナンバーは、素晴らしい曲ばかりなので、今日歌わせて頂いた「私が踊る時」が、歌わせて頂いたことで改めて素晴らしい曲だと感じました。
【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】
〈公演情報〉
宝塚歌劇宙組公演
三井住友VISAカードミュージカル『エリザベート─愛と死の輪舞─』
脚本・歌詞◇ミヒャエル・クンツェ
音楽◇シルベスター・リーヴァイ
オリジナル・プロダクション◇ウィーン芸術協会
潤色・演出◇小池修一郎
演出◇小柳奈穂子
出演◇朝夏まなと、実咲凜音 ほか宙組
●7/22~8/22日◎宝塚大劇場
〈料金〉SS席12,000円 S席8,300円 A席5,500円 B席3,500円
〈問い合わせ〉宝塚歌劇インフォメーションセンター 0570-00-5100
●9/9日~10/16日◎東京宝塚劇場
〈料金〉SS席12,000円 S席8,800円 A席5,500円 B席3,500円
〈問い合わせ〉東京宝塚劇場 03-5251-2001