47都道府県ツアーファイナルの日本武道館公演でクリス・ハートが見せた、歌うことで生きていく道
-
ポスト -
シェア - 送る
クリス・ハート
クリス・ハート 日本武道館LIVE 2016 “僕はここで生きていく”
~47都道府県Tour 2015-2016~続く道~FINAL~
まさに日本晴れという言葉がぴったりの快晴、そして北の丸庭公園の新緑が眩しい、ゴールデンウィーク2日目。自然と開放的な表情になる、そんなシチュエーションの中、小さな子供から年配のファンまで、幅広い層が武道館への坂を歩く。何か全てがクリス・ハート初の武道館公演を祝福しているような気分だ。
会場に入ると横一列に配されたバンドのセッティングと、これまた横に長い巨大ヴィジョンが目に入る。ただ、それ以外は極めてシンプルなステージだ。開演時間になると、この日は、オープニングアクトとしてクリスがYouTubeで見つけオファーをした村上佳佑が登場。緊張の面持ちながらアコギ一本の伴奏で、スムーズでウォーミーな歌声を届けてくれた。
クリス・ハート
場内が暗転すると、いよいよクリス・バンドのメンバーが登場し、ヴィジョンには日本各地の名勝や、ツアー先の写真が投影される。47都道府県ツアーという旅の終着と各地への感謝も汲み取れるオープニングだ。そこへ現れたクリスは「ようこそ武道館へ!」と、スタートから「守りたい〜Magic of a touch〜」「どんなときも」と、アッパーな構成で楽しませる。
ホーン隊も加わったこの日、さらにJ-POPの名曲がパワフルなアンサンブルで届けられるのが嬉しい。昨年11月の国際フォーラムでの静から動へ徐々にギアを上げる構成とは真逆なセットリストに、このツアーを複数見ている人も楽しめる配慮が成されている。序盤は「続く道」でコーラス部分を会場全体でシンガロング。そのシンガロングのエネルギーを受けて、さらに伸びやかさを増すクリスのボーカル。そう、ステージがどんなに大きくなってもクリス・ハートのライヴの中心は歌だ。バンドこそ14人編成の大所帯だが、ステージは前述のヴィジョンと抑制の効いたライティングのみで、シンプルに歌と演奏の表情を際立たせていく。
また、ある男女の出会いと不条理な別れを描いた「I LOVE YOU」と、その続編である新曲「Still Loving You」をミュージックビデオとリンクさせ披露したコーナーも、二つの曲のつながりがすんなり腑に落ちる構成で見事だったし、それらのオリジナルの後に、誰かは誰かのために生きていることを深く実感させる名曲「糸」を配した流れも心憎いものだった。初の武道館公演であると同時に長いツアーの集大成の焦点を“セットリストというストーリー展開”に絞り込んできた印象なのだ。
また、「洋楽コーナー」では、マイケル・ジャクソン〜スティーヴィー・ワンダー〜ビートルズをウイッグとサングラスの早変わりとともにユーモラスに見せ、そのまま「歩いて帰ろう」につないでいく。ジョン・レノンの装束から斉藤和義のナンバーにつなぐ辺り、個人的には「ナイス・センス!」と心の中で拍手を送ったのだが、果たして意図されたものかどうかは分からない。「うれしい!たのしい!大好き!」の曲紹介とともに放たれた銀テープを手に、会場にいるほとんどの人が共に歌うチアフルなコーナーは、同時に切れ目なく歌うクリスのパワフルなヴォーカリストとしての側面も見ることができた。
クリス・ハート
そして“ストーリー・コーナー”の後半が実はアンコールにも効いてくる。自立して働く息子の、思うように前へ進めない葛藤と、言葉より大事な思い出を送る母親の手紙のやり取りが、同ツアーのタイトルでもある「僕はここで生きていく」に結実していくさまは、クリス自身のこれまでの苦悩や葛藤はもちろん、誰の人生にもあるものとして普遍的に昇華されていた。しかも、森山良子の朗読によって、親と子供、両方の視点が語られたことで様々な年齢のファンがより深く「僕はここで生きていく」というクリスの代表曲を自分自身のストーリーとして受け止められたはずだ。森山良子を招き入れ、彼女自身も現在デビュー50周年ツアー中である事への驚きと賛辞、また森山直太朗曰くクリスが怒ったところを見た事がないのでいたずらを仕掛けていると母が伝言し、笑いが起こる。クリスはクリスで新米パパの心得を森山にアドバイスしてもらったり。歌の力で幅広いリスナーを魅了する二人のヴォーカリストの邂逅は、微笑ましくも美しいものだった。
3年前、クリスの結婚式のために音楽プロデューサージェフ・ミヤハラが書いてくれた「たったひとつの贈り物」。スケールの大きなロッカバラードであるこの曲でクリスのパワフルで新しい魅力を発見。クライマックス続きと言っていい本編の終盤には、May J.とともに被災地熊本・大分に向けて「I Believe〜手をつなごう〜」が捧げられる。<耳をすませばどんな場所でも 希望に満ちた歌がきこえてくる>、このヴァースが特に印象に残った。インタビューでクリスは、この曲をリリースに拘らず、歌い続けていこうと思っていたと話してくれた。嬉しいことに最新シングルに収録されたが、彼の中では悲しいことがなくならない限り歌い続ける意志に満ちた曲である。
クリス・ハート
「楽しい時間はあっという間に過ぎてしまいます。憧れの武道館で歌えたことは一生の思い出になりました。皆さんのおかげで僕は日本が大好きになりました。パパになってこの曲をもっと大事にできるようになったと思います」とラストナンバー「home」を歌い始める。夕焼けに照らされて、子供と一緒にママの待つ家に帰る――そんな情景を演出する茜色のライティング、バンド全体で歌うような有機的な演奏。故郷や、人によっては自分の家の温かさを心に投影した人も多いだろう。歌によって聴く人が自分の人生の主人公であることを思い起こさせる。武道館という大舞台にあっても、クリス・ハートは彼にしかできない役割を全うしたのだ。
ただし、アンコールはクリス自身へのプレゼントだった。なんとアメリカから両親が来日し、ステージ上で「memento」を弾き語りで聴かせるという場面が用意されたのだ。「緊張しますね」と言いながら、英訳した歌詞を渡し、歌い始めた彼。この日唯一、涙を見せた楽曲でもあった。そして本編の“ストーリー・コーナー”は、この場面にもつながっていたのだ。
クリス・ハート
クリス・ハート
全国47都道府県、49公演の総移動距離はなんと地球半周分だそうである。それでもまだ知りたい、会いたい人がたくさんいるであろうクリスは、きっとまた次の旅に出るだろう。
文=石角友香
クリス・ハート
47都道府県Tour 2015-2016 ~続く道~FINAL~
01.まもりたい~Magic of a touch~
02.どんなときも
03.やさしさに包まれたなら
04.Happy Days
05.続く道
06.未来へ
07.手紙~愛するあなたへ~
08.ハローハロー
09.I LOVE YOU
10.Still loving you
11.糸
12.洋楽コーナー(Beat It~Sir Duke~Let It Be)
13.歩いて帰ろう
14.ビューティフル・ネーム
15.うれしい!たのしい!大好き!
16.Dear me
17.Goodbye today
18.僕はここで生きていく
19.たったひとつの贈り物
20.あなたへ
21.I Believe~手をつなごう~with May J.
22.home
[ENCORE]
23.WE are FAMILY!
24.memento
25.いのちの理由
(アカペラ)幸せを見つけられるように
2016年5月18日(水) iTunes, レコチョク等各DLサイトにて配信開始
アルバム『Song for You II』
クリス・ハート『Song for You Ⅱ』
初回限定盤(CD+DVD)UMCK-9840 ¥4,500(税抜)
通常盤(CD)UMCK-1540 ¥3,000(税抜)
【CD収録内容】
1.Brand New Day メ~テレ「ドデスカ!」テーマソング
2.続く道 with ゴスペラーズ
3.僕はここで生きていく NHK みんなのうた 2015年12月-2016年1月
4.ハッピーデイズ 中日新聞・北陸中日新聞・東京新聞CMソング
5.Hold on to Heart
6.あなたへ テレビ朝日系ドラマ「最強のふたり~京都府警 特別捜査班~」主題歌
7.WE are FAMILY !
8.memento ホクレン ミルクランドCMソング
9.I LOVE YOU (Studio Live ver.)
10.Still loving you
11.Dear me
12.I Believe~手をつなごう~ with May J. ハウステンボス「バラ祭」CMソング
13.Goodbye today
【DVD収録内容】
1.「I LOVE YOU」短編ドラマ
2.「Still loving you」短編ドラマ
3.「あなたへ」MUSIC VIDEO
4.「僕はここで生きていく」47都道府県ツアー2015-2016~続く道~2016.03.31 京都公演より
◆「世界遺産劇場・厳島神社 クリス・ハート Special Concert」より
未来へ / 翼をください / home / まもりたい~magic of a touch~ / I LOVE YOU / 道
糸 / I Believe~手をつなごう~ / たしかなこと / ありがとう