ピアノロック・バンドの限界なんて無い――WEAVER、バンドの意思を刻んだツアーファイナル

2016.5.13
レポート
音楽

WEAVER Photo by AZUSA TAKADA

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WEAVER 11th Additional TOUR 2016『Draw a Night Rainbow』 2016.5.6 NHKホール

いいメロディとプレイヤビリティ、そして共感度の高い歌詞。それはそれでポピュラリティを満たす要素ではある。だが、アルバムのスパンが3年空いたことが必然として受け止められるほどニューアルバム『Night Rainbow』でWEAVERは音楽的に自由になった。それは単にEDMや打ち込みの要素を導入したことを意味しない。3ピースのピアノロックバンドであることは動かしがたい事実だが、存外、彼らは音楽的にはオルタナティヴな志向を持っていたのだ。ポップな音楽性と枠に囚われないWEAVERならではのやり方。それをライヴというエンターテインメントの場でも、チーム一丸となって他とは違う手法=オルタナティヴな選択でもって具体化した――アルバム『Night Rainbow』を立体化すると同時に、WEAVER、そしてWEAVERのライヴを作り上げるチームの視線の高さに圧倒されたツアー・ファイナルとなった。

WEAVER Photo by AZUSA TAKADA

巨大な紗幕に投影されたツアータイトルと場内灯が暗転すると同時に大歓声が起こり、色とりどりの図形が躍動する映像が重なり合う様子は3人の事を示唆するよう。杉本雄治(Vo/Pf)、奥野翔太(Ba/Cho)と河邉徹(Dr/Cho)の3人がステージに登場し、奥野はピアノの前でスタンバイ。オープナーの「You」のイントロが流れると、杉本がハンドマイクでステージを疾駆し、オーディエンスを煽る。曲中に奥野はシンセベース、杉本はピアノへ素早く移動し、冒頭からこのアルバムツアーの意味を見せつける。立て続けに杉本が「踊れますか?」と「Shall we dance」をさらに盛り上げ、ピアノのリズムが四つ打ち感を叩き出す「くちづけDiamond」まで、推進力のある3曲を一気にプレイ。開始早々、ホールのムードは最高潮に達する。

「今日この日を楽しみにしてきました。『Night Rainbow』は本当に色とりどりの曲ばかりなので、今晩、ここでみんなと夜の虹を作りたいと思います!」と高らかに宣誓する杉本。と、言いつつ、過去曲から今の季節ならではの「春色グラフィティー」、イントロのアンサンブルの厚さに圧倒される「管制塔」を披露し、曲が今のWEAVERのスケール感で鳴らされる醍醐味も実感させてくれた。MCではツアーの充実ぶりはもとより、各地のライヴでの杉本の失敗エピソードやら、河邉は「スタッフに「いつも通りに」って言われる時点でいつも通りじゃないから緊張する」と語るなど、張り詰めたテンションの中にもツアーで一歩一歩新しいWEAVERを積み重ねてきた充実感を笑いとともに覗かせる。「どう動いたらいいんだろう?って曲もあるかと思いますが、音楽は自由なんで好きに動いてください」と、アルバムでも重要な位置を占める「Welcome!」のどこかアーケイド・ファイアやコールドプレイを思わせる大陸的なコーラスとマーチングのビートが、この場所ごと遠くへふわっと飛び立たせるようだった。続く「レイス」での杉本のピアノの水滴を思わせる澄んだ音色と躍動感もホールライヴならではの贅沢さだ。

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さて、次のブロックがこのツアーで最もチャレンジングだったのだが、会場を寒色系のライトで照らす中、「マーメイド」が暗闇の向こうから聴こえてくる。そしてステージがほのかに明るくなると3人の位置が台座ごとスイッチされ、杉本の古いウッド調のアップライト・ピアノの演奏が横からよく見える位置のセンターへ。リアルタイムで映画を見ているような曲の世界観とシンクロした演出だ。一転、太いファンクネスに裏打ちされたダンスチューン「クローン」では杉本がエフェクトの掛かったヴォーカルで扇情する。エッジーなレーザーの交錯も見る角度によっては立ち入り禁止のラインを表現しているように見えてスリリング。そしてシームレスにシンセやSEで曲をつなぎ、EDM的なものもオーケストレーション的なものも飲み込んだ「さよならと言わないで」は、サウンド面の新しさ以上にプレイヤビリティの高さと3人の集中力が素晴らしい。そしてその集中力を研ぎ澄まして、センシティヴな「KOKO」のイントロに突入。中毒性の高いメロディを歌う杉本、腰のあるグルーヴとともに繊細なフレージングも差し込んでくる奥野のプレイ、ハイハットとスネアで打ち込みのビートを背景にひきながら効果的な打音を叩き出す河邉。ハイパーでありつつ、同時に普遍的なトラディショナルな音楽にも聴こえる演奏は、CDだけでは感じられなかったライヴならではのエクレクティックな感触だった。1曲終わるごとに溜息が出るような緊張感の中、紗幕がスルスル降りてきて杉本のピアノソロが空気を引き締める。「Life」では、穏やかな地メロがエモーションの色を濃くする中、歌詞が生き物のように投影されては落ちたり、消えたり。逡巡の中にあった彼らが、結局“今”にどれだけ純度高く向き合えるのか、それこそが大切なんだと気付いた、プロセスと覚悟そのものの歌詞。言葉がフィーチャーされる演出は時に説明的になりがちだが、このブロックではむしろ、ニューアルバムとツアーの最も大きなメッセージを可視化したことは大げさなことに映らなかった。それぐらい演奏で表現したこの5曲の流れが真剣勝負だったからだろう。

WEAVER Photo by AZUSA TAKADA

大きな達成感が表情に溢れている3人。「Life」で歌われているようなことの、現実の3年間について杉本が改めてMCで話す。そのことでさらにアルバムへの理解が深くなるMCだった。その後もグッとハウシーにアレンジされた「ティンカーベル(ver.EDM)」で全員が赤、青、緑に光るスティックでパーカッションのセクションを設けた演出を加え、ステージ前方まで出たきたりと、音楽的にも視覚的にも楽しませる。ただそれが全て曲に基づく必然的な演出だからこそ、演奏するメンバーもオーディエンスも心底楽しめるのだ。

再び台座が移動してベースがセンターになり、終盤に向かってメンバーのテンションもさらに上がる。「トキドキセカイ」では杉本がアクティヴに動きながらピアノも弾きつつ、いよいよピアノに飛び乗ってそこからステージにジャンプして着地する場面では、プレイヤーとしてだけでない彼の身体能力というか堰を切ったように溢れ出すエネルギーに半ば笑うしかなかった。ピアノロック・バンドでこんなにエクストリームなライヴってどういうこと?と思いながら見ている側も突き動かされる。前例がなくたって、作ればいいのだ。3人で圧倒するステージの中でも、特に杉本のフロントを張る覚悟に心が動かされる。

WEAVER Photo by AZUSA TAKADA

その覚悟を本編ラストの選曲でも見た気がする。それは杉本が作詞を手がけ、音源初収録となったアルバム・ラストを飾る「Hello Goodbye」だったからだ。ファンから募った“歩く動画”が曲のテンポとシンクロして、いくつもの前に進む人の脈拍と重なっていく。めくるめくチャレンジでぶん回された本編のラストを刻み込むようなシンプルで強い曲で締めくくった3人の潔さ。変わったことも変わらないところも、いい評価も良く分からないという意見も、すべて受容して一歩踏み出す。バンドの意志そのもののような本編だった。

アンコールでは3人で連弾したり、小芝居したり、仲のいいところも剽軽なところも見せつつ、本編の興奮を笑顔に変換するような演奏を届けた3人。6月から始まるライヴハウスツアーで、『Night Rainbow』の曲たちがまたどんな別の表情を見せるのか? どう育っていくのか? 今度はバンドの柔軟な変化に期待してしまう。


レポート・文=石角友香

WEAVER Photo by AZUSA TAKADA


 
セットリスト
WEAVER 11th Additional TOUR 2016 『Draw a Night Rainbow』 2016.5.6 NHKホール

1. You
2. Shall we dance
3. くちづけDiamond
4. 春色グラフィティー
5. 管制塔
6. Welcome!
7. レイス
8. マーメイド
9. クローン
10. さよならと言わないで
11. KOKO
12. Life
13. 僕らの永遠~何度生まれ変わっても、手を繋ぎたいだけの愛だから~
14. ティンカーベル(ver.EDM)
15. Boys&Girls
16. トキドキセカイ
17. Free will
18. Hello Goodbye
[ENCORE]
19. キミノトモダチ
20. Beloved

 

ツアー情報
WEAVER 11th Additional TOUR 2016「Walk on the Night Rainbow」

・6月11日(土) 【鹿児島】SR HALL 開場17:30/開演18:00
【※こちらの公演の開催につきましては、熊本地震の余震や交通機関の状況によっては変更の可能性がございます。】
・6月12日(日) 【熊本】熊本B.9V2 開場16:30/開演17:00    
【※こちらの公演の開催につきましては、熊本地震の余震や交通機関の状況によっては変更の可能性がございます。】
6月14日(火) 【山口】周南rise 開場18:30/開演19:00    
6月16日(木) 【島根】松江canova 開場18:30/開演19:00    
6月18日(土) 【岡山】YEBISU YA PRO 開場17:30/開演18:00
6月26日(日) 【千葉】柏PALOOZA 開場16:00/開演16:30
7月2    日(土)  【岩手】盛岡ChangeWAVE 開場16:30/開演17:00
7月3    日(日)  【青森】青森Quarter 開場16:30/開演17:00    
7月5日(火) 【福島】郡山CLUB #9 開場18:30/開演19:00
7月9日(土) 【岐阜】岐阜 柳ヶ瀬 ants 開場17:30/開演18:00
7月10日(日) 【石川】金沢EIGHT HALL 開場17:30/開演18:00
7月24日(日) 【奈良】NEVERLAND 開場17:30/開演18:00
7月26日(火)    【京都】KYOTO MUSE 開場18:30/開演19:00    
7月30日(土)    【愛媛】W STUDIO RED 開場17:30/開演18:00

【料金】 ¥4,000(税込)

一般発売日】
5月28日(土)10:00~
 
 
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