赤い公園がツアーファイナルでみせた、シリアスも遊び心も"満々"のステージ
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赤い公園 撮影=福本和洋(MAETTICO)
赤い公園 マンマンツアー2016~咲き乱れNight?~ 2016.6.16 Zepp DiverCity Tokyo
最初は本気で誤植だったらしい“マンマンツアー”。でもやる気だったり自信だったり、満々って今の赤い公園にぴったりじゃん。響きもかわいいし。というわけで、この日は『赤い公園 マンマンツアー 2016~咲き乱れNight?~』のファイナル、東京Diver City。自他ともに認める自信作『純情ランドセル』に詰め込んだ素敵な曲たちを、真心こめて披露する晴れの舞台。観客の入りも上々。午後7時、期待満々の幕が開く。
赤い公園 撮影=福本和洋(MAETTICO)
佐藤千明(Vo)の美しいアカペラで始まった「東京」から、さわやかポップな「サイダー」、複雑なコードと怪奇な構成なのになぜかみんなノリノリの「今更」へ。緩→急→でんぐり返しのような展開で、あっという間にオーディエンスの心をわしづかみ。津野米咲(G)の歪みきったギターが火を噴き、ベースの藤本ひかりはアンプのうしろでかくれんぼ。「14」は、4人のガレージロック魂を感じる猛烈にラウドなプレーがかっこよすぎる。いやあロックバンドだなと、当たり前の言葉が思わず口をついて出る。
「ここから10曲連続でいきます!」と、まずは「ショートホープ」、からの「TOKYO HARBOR」へとリズムをつなげて。こうしたへヴィ、クール、ファンキーな感覚は、赤い公園の重要な構成要素だ。『純情ランドセル』の1曲目を飾った「ボール」は、歌詞がいい。<私たちは神様のボールにしがみつく微生物>。こんなにハードな表現で、こんなに柔らかく恋の不思議を描く言葉はない。ニューウェーブ感覚のポップ・チューンにうっとり聴き惚れていると、状況は一転、「ひつじやさん」「のぞき穴」というアングラ、カオス、ナンセンス、そしてとびきりポップな代表曲2連発に頬を叩かれる。さらに「絶対的な関係」へと、この曲順は反則だ。隙あらば、とんでもないノイズをかます米咲のギターがすごい。赤い公園には、予定調和に終わる曲が一つもない。とてもシリアスで、いつも何かが変で、そしてかわいい。
赤い公園 撮影=福本和洋(MAETTICO)
「たいへんだー。Zepp Diver Cityでけんかだってよー」……ドラム歌川菜穂のゆるーい前振りに続くのは、もちろんニューアルバム収録の「喧嘩」。千明がコングを叩いたり、ひかりがマイクスタンドをうっかり倒したり。遊び心満々の曲のあと、ひねくれポップな「ナンバーシックス」、明るく弾む「ハンバーグ」と、ファンキーなグルーヴを前面に押し出して、10曲連続のラストチューンは「あなたのあのこ、いけないわたし」。ラウドなロック、かわいいシンセ、明るい広がりのある曲なのになぜかしんみりするのは、たぶん歌詞があんまりせつなすぎるから。<当たり障りないとこにただおいてくれたらそれで良い>。千明の柔らかい歌声がじんわり心に染みて行く。
MCは、ゆるゆる。ツアーの思い出話が脱線し、千明がかつおぶしの謎を解いたり、フライドチキンの秘密を知って米咲にほめられたり、ひかりがマイペースすぎるツッコミを入れて千明に怒られたり。この女子高みたいな遠慮のない空気、デビュー当時から一切変わらない。だからこそ音楽的な成長が、より劇的に実感できる。後半スタートの1曲目、これもニューアルバム収録の「Canvas」は本当に素敵な曲で、四つ打ちを交えて思い切りドラムをひっぱたく菜穂のアグレッシヴなプレー、米咲の鋭いカッティング、優しく柔らかい歌とメロディ、アンバランスこそが赤い公園のベスト・バランス。「ナルコレプシー」はスーパー・ボーカリスト千明の独壇場で、柔らかい囁きからパワフルな激情まで、本当にうまいなあと聴き入っていたら、「おやすみ」はもっとすごかった。メトロノームを使った小粋な演出、米咲の奏でる繊細なエレクトリック・ピアノ、そっと支えるリズム隊を従えた、透明感と、女らしい丸みと、エモさを併せ持つ素晴らしい歌。
赤い公園 撮影=福本和洋(MAETTICO)
と、余韻に浸る間もなく始まった「デイドリーム」は、シューゲイズ系のすごみあるロックバラード。そして、出た、初期からずーっと代表曲の「ふやける」。何度聴いても戦慄を覚える、静と動のオルタナ・ロックバラード。米咲がステージ前に歩み出て、強烈なソロを弾きまくる。ひかりが客席に飛び込みそうになって、スタッフに引き戻される。なんというエモい曲。真っ赤に染まる照明が最高に似合っている。
「まだまだいけますか東京! いくよ!」
赤い公園 撮影=福本和洋(MAETTICO)
「KOIKI」は、とってもピュアで明るいロックンロール。これもやっぱり歌詞がいい。<それでも優しさを振り絞ってゆく>。なんて、優しくて強い言葉だろう。米咲とひかりが、背中合わせのポーズを決めて笑いあう。広いステージが、4人の存在感の強さで狭く見える。「NOW ON AIR」は、ピアノのループと明るい四つ打ち、そして全員のクラップで作りあげる、スケールの大きな曲。今はまだ新曲だけど、アンセムになるよこれは。そして本編ラスト、22曲目は「黄色い花」。ファンクでポップで陽気なビートに乗って、千明が大きく手を振る。米咲がにこにこしてる。会場の全員が千明に合わせて手を振る。最後は全員揃ってのジャンプ!で締め。かつてない一体感。赤い公園のライブは、見るたびにステージ上も客席も進化している。
赤い公園 撮影=福本和洋(MAETTICO)
アンコールは1曲。4人の地元を歌った、その名もずばり「西東京」。の前に、千明が見せた。たったワンフレーズ、コール&レスポンスを練習していたはずが、即興の歌詞を足して足して、誰もついて来れない状況に、オーディエンスは大混乱。メンバーものけぞって大爆笑。いいぞ、もっとやれ。シリアスな音楽魂に、どこまでも自由な遊び心、それが赤い公園。
ドラマチックな「東京」で幕を開けたライブが、拡声器片手にワイルドに歌いまくる「西東京」で幕を下ろす、美しい循環。作品としての完成度を極限まで高めた『純情ランドセル』の世界を、スケールの大きさはそのままに、確かな演奏力としなやかな感性で再構築してみせた4人。デビューから5年を過ぎ、成長のスピードをさらに上げ、彼女たちはもっと広く大きなステージを目指す。オルタナティブからメインストリームへ、行く先に広がる視界は良好だ。
撮影=福本和洋(MAETTICO) レポート・文=宮本英夫
赤い公園 撮影=福本和洋(MAETTICO)