平井元喜(ピアノ) 和歌の世界をピアノで表現
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平井元喜(ピアノ)
ロンドンを拠点に世界各地で活動するピアニスト・作曲家の平井元喜。父はチェリストの平井丈一朗、そして祖父は作曲家の平井康三郎という、音楽家の一族に生まれた。
彼の活動は多岐にわたる。カーネギーホールやコンセルトヘボウなど欧米各地の由緒あるホールでのリサイタルから、中東のパレスチナ・イスラエルでのアウトリーチ、西アフリカ・セネガルで35年続く「俳句コンクール」へのゲスト出演まで。どれも興味深いが、ここでは紹介しきれない。「南極、北極、オセアニア以外はだいたい行きました(笑)」と言う、国境も制限もなく、自由な音楽活動を続けるアーティストだ。
そんな平井が今シーズンの世界ツアーで演奏するのは、ベートーヴェンとシューベルトの後期ソナタやショパンの作品。今年ウィーンのコンツェルトハウス・デビューを果たしたことにちなみ、ウィーンに縁のある作曲家を選んだ。加えて楽しみなのは、日本初演となる自作の「小倉百人一首による《音詩》」(2016) だ。
「昨年、百人一首を編んだ藤原定家の直系・冷泉(れいぜい)貴実子さんが私の演奏を聴いてくださった際に『百人一首をピアノで表現してみては?』、『ぜひ聴いてみたい』という話になり、今回のツアーのために10首を選んでいただき作曲することになりました。和歌は、日本人の繊細で豊かな感性を、リズム良く31音に凝縮した詩。読む者の想像世界を無限にふくらませる芸術です。音楽でこうした日本の“心”や“余韻”、更には定家の父・俊成卿が唱えた“幽玄”の世界を表現できるよう心がけました」
明治生まれの音楽家の祖父母とともに暮らし育った平井は、正月になれば百人一首を家族で楽しんだ。祖父は和歌を素材に歌曲を書いたが、自分はピアノでその世界を表現してみたかったという。今回、10首の他に万葉集や勅撰和歌集など多くを読み込んだ上で作曲に臨んだ。
「百人一首は、7〜13世紀という長い期間に詠まれたアンソロジーで、恋、旅、季節、自然、風景など、内容はさまざま。1400年も前の歌もあるが決して色褪せることがない。人間の本質は変わっていないとつくづく感じます」
今回、熊本・大分の地震をうけて、東日本大震災後に作曲した「Grace & Hope 〜祈り、そして希望」(2011)も急遽演奏する。世界各地で悲しい事件やテロが頻発していることから、平和への祈り、未来への希望も込めて演奏したいという。
「音楽を聴いたみなさんに、幸せになってほしい。いつもそんな思いで演奏しています。あと、リサイタルでは先入観なしに、“心”で音楽を聴いてほしいですね。例えば、僕自身が自作について書く曲目解説ですら、一つの解釈であり正解ではないですから。毎回反省し、変化や成長を続けたいです。ライヴは即興芸術でもあり、一期一会。ご自身の感性で作品を感じていただけたらと思います」
取材・文:高坂はる香
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年7月号から)
7/1(金)19:00 王子ホール
問合せ:ミリオンコンサート協会03-3501-5638
http://www.millionconcert.co.jp