男たちの究極の愛はどう描かれる!? 佐々木蔵之介主演舞台『BENT』稽古場レポート

レポート
舞台
2016.7.7
『BENT』稽古場より(撮影:加藤幸広)

『BENT』稽古場より(撮影:加藤幸広)


PARCO PRODUCE『BENT』が7月9日 (土)から世田谷パブリックシアターにて上演される。ナチス政権下のドイツで、ユダヤ人が迫害され虐殺されていったことは有名な事実だが、彼ら以上に過酷な扱いを受けた人間……同性愛者たちがいた。そんな彼らの知られざる事実を描いたのが『BENT』である。

6月某日、都内の稽古場にてこの物語を作り上げる男たちの闘いの模様を見学した。この日見学できたのは1幕の途中まで。佐々木蔵之介演じるマックスと、中島歩演じるルディが暮らす部屋の場面からとある事件が起き、逃げるところまで。

ステージの奥には大きな両開きの扉、そして二人で腰かけられるソファ。床には飲み干したウイスキーやバーボンの瓶が多数置かれている。

稽古が始まる前にスタッフが佐々木に「これ(=酒瓶)、佐々木酒造(=佐々木の実家)のじゃないとNGかなあ」と軽口と飛ばすと、ふふっ、とほほ笑む佐々木。でも笑顔はそこまで。徐々に稽古スタートの時間が近づくと皆の表情が険しく変わる。気になるセリフをぶつぶつと口に出しつつ確認各自のスタンバイ場所に散らばってその時を待つ。

演出の森新太郎は、ステージと向かい合わせ、ステージ全体を見ることができるやや高めの台上に座る。

稽古スタート。けだるそうに出てくるマックス。焦点もあってない顔。何故そんな表情なのかは酒瓶の数でお察しいただきたい、というところ。そこにダンサーのルディが姿を現す。昨夜何があったか覚えていないマックス。わかっているけど腹が立つから口に出したがらないルディ。このあと起きる事件との対比なのか、序盤はどこかコミカルなやりとりが続く。

『BENT』稽古場より(撮影:加藤幸広)

『BENT』稽古場より(撮影:加藤幸広)

この場面の名キャラ、ルディが大切に育てている“友人”植木の「ウォルター」をマックスが人間の頭のように振り回すので、途中で植木が鉢からずぼっと抜けてしまい、大笑い。「ウォルター、死す!」といったのは果たして誰だったか。

第一場が終わると、森がやおら演出台から降りてきて、二人に指示を出す。森の指示はまるで指揮者のよう。手の動きでセリフのリズムを教えているかのようだ。

衝動的に肉欲に溺れようとする場面もある。が、男同士の絡み合いがエロティックというよりは、相撲のぶつかり稽古のようになっているので(着ているガウンの紐が力士のまわしに見えて仕方がない)その場面が返される度に、出番まで待機している北村有起哉や新納慎也が思わず吹き出している。

休憩中にその絡みの場面を打ち合わせ。「まずこっちの肩を脱がせ、そのあと相手の首筋に…」と段取りを確認する佐々木。小さい声で「絡みの場面は難しい」とポツリ。

気が付けば第2場へ突入。ステージの転換と共に登場したのは、艶めかしく座る新納慎也(グレタ)。ステッキを手に、ヒールを履き、女性のような裏声と男性らしい低い声を使い分けて歌う。ミュージカル「キャバレー」が一瞬よぎるような退廃的な風情だ。その後、グレタの元に表れるマックスとルディ。彼らは何故ここにきたのか……。

『BENT』稽古場より(撮影:加藤幸広)

『BENT』稽古場より(撮影:加藤幸広)

ここでも森が一度演技を止めて、マックスとグレタ、グレタとルディ、そしてマックスとルディの関係性に手を入れる。新納があるセリフを口にするときの姿勢を、森がほんの少し変える。「最後は勝ち誇っていてほしいので」再度同じ場面に来た時に、そこで受けるグレタの印象ががらっと変わっていた。「姿勢」とは気持ちや態度を如実にあらわすのだなと改めて思うばかり。

そして第3場。藤木孝登場。マックスの叔父役を演じるのが、堅物そうなのにどこか少し愛すべきユルさを持っている人物といったところ。マックスとの共通点が見えた瞬間、ニヤリとさせられた。ほんの少し肩の力を抜いて楽しめる場面かもしれない。なお、森が指示を出す際、大先輩・藤木がきちんと座り直し、姿勢をぴんと伸ばして森の言葉に耳を傾ける姿が印象的だった。常に謙虚であれ、という言葉がどこからから聞こえてきそうだ。

『BENT』稽古場より(撮影:加藤幸広)

『BENT』稽古場より(撮影:加藤幸広)

おそらくここまでは、まだ若干心に余裕を持ちながら観ることができるはず。この後、どんどん過酷な状況に陥るのかもしれない。そう思うと見学できたのがここまででよかったのかもしれない。何故ならこの続きはぜひ劇場で観たいからだ。

この先、マックスはホルスト(北村有起哉)と出会うだろう。彼らにどんな運命が待ち受けているのか。ぜひとも観てみたい。たとえそれが、どんな結末であってもだ。

公演情報
『BENT』

■日程:
【東京】2016年7月9日(土)~24日(日) 世田谷パブリックシアター
【仙台】2016年7月30日(土) 仙台国際センター
【京都】2016年8月6日(土)、7日(日) 京都劇場
【広島】2016年8月14日(日) 広島アステールプラザ・大ホール
【福岡】2016年8月16日(火) 福岡市民会館
【大阪】2016年8月19日(金)~21日(日) 森ノ宮ピロティホール
■作:マーティン・シャーマン 
■翻訳:徐賀世子 
■演出:森新太郎 
■出演:
佐々木蔵之介/北村有起哉/新納慎也/中島歩/小柳友/石井英明/三輪学/駒井健介/藤木孝
■特設サイト:
http://www.parco-play.com/web/play/bent2016/​

シェア / 保存先を選択