ジャンプ連載のおバカ時代劇、舞台版”磯ミュ”を劇団Patchが大阪で再演
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『磯部磯兵衛物語~浮世はつらいよ~天晴版』左から主演の井上拓哉、中山義紘(撮影/石橋法子)
今春、累計100万部突破の時代劇ギャグ漫画「磯部磯兵衛物語~浮世はつらいよ~」を歌劇化し、予想以上にハイクオリティな完成度で原作および演劇ファンを歓喜の渦に巻き込んだ大阪の劇団Patch。演劇ならではの祝祭感あふれる歌とダンスを盛り込み、一部撮影OKな大盤振る舞いで生のエネルギーを劇場中に放出した。「他府県でも上演して!」「また観たい!」という熱い反響に応え、サブタイトルを「天晴版」に変更し、早くもバージョンアップしての再演が決定した。劇団1期生・井上拓哉と、NHK連続テレビ小説「あさが来た」出演の中山義紘が前回同様、主人公と母上役を演じるほか、舞台「刀剣乱舞」小夜左文字役で人気上昇中の4期生・納谷健が、磯兵衛の親友・中島襄役で劇団本公演に初登場する。前半で納谷、後半では井上×中山の単独インタビューをお届けする。
「悔しさをバネに、絶対に前回を超えてやろうと意気込んでいます!」(納谷)
『磯部磯兵衛物語~浮世はつらいよ~天晴版』中島襄役の納谷健
--納谷さんは今年2月の4期生お披露目公演後、すぐに舞台「刀剣乱舞」出演のため上京。7月は「大正浪漫探偵譚~君影草の設計書~」、8月末からは「ホイッスル!BREAK THROUGH-壁をつき破れ-」と、東京を拠点に出演作が続きますね。
納谷:お披露目公演からの急展開に驚きました。2.5次元ものは目指している場所でもあったので嬉しかったですね。大きな舞台がどんなものか想像もできなかったので、「刀剣乱舞」では変に力むことなく挑めたのも良かったなと思います。精神的にも技術的にも圧倒されないようにと、その分、自分の中でも意識のハードルを上げて向かいました。その時はまだ台本が手元になかったので、できる準備は心構えとイメージトレーニングぐらいでしたが(笑)。
--お披露目公演で披露した運動神経の良さも、武器になったのでは? 特技はテコンドーだとか。
納谷:テコンドーは保育園児の時から高校三年生までの13年間、いま思えばやっていてよかったですね。「刀剣乱舞」の現場でもアクションを評価して頂けたので、初対面の先輩方とも会話の糸口になりました。父親の関係で始めたのですが、芸能界を志したのも、お父さんが最初に事務所に履歴書を送ったのがきっかけです。
--めずらしいケースなのでは?
納谷:そうですね、普通は母親が応援するケースが多いと思うのですが、うちは逆で当初は母親が心配していました。今も毎日関係ない用事でラインを送ってきます(笑)。活動が目に見えるようになってからは、背中を押してくれています。
--10月には、ようやく劇団の本公演で大阪に帰ってきます。前回出演できなかった「磯部磯兵衛物語~浮世はつらいよ~高尾山地獄修業編」ですが、評判は東京にも届いていたようですね。
納谷:お客さんが投稿してくれた動画サイトの映像をみたり、主演の(井上)拓哉くん、中山くんはもちろん、同期の藤戸佑飛くんが演じたサヤーテ役が面白かったとも聞きました。前回は稽古場でいろんな代役もやらせてもらっていたので、僕だけが本番に出られず、凄い反響を耳にしたことは悔しかったですね。ギャグ芝居やし、みんなでお客さんの心を掴みはったんやろなと。
--今回は磯兵衛の親友、中島襄役での出演が決定しました。
納谷:出演が決まってうれしかったですね。悔しさをバネに、絶対に前回を超えてやろうと意気込んでいます(笑)。
『磯部磯兵衛物語~浮世はつらいよ~天晴版』中島襄役の納谷健
--中島は常にハウツー本を携帯する頭脳派です。勉強が好きなメガネ男子といえば、直前の舞台「ホイッスル!BREAK THROUGH-壁をつき破れ-」で演じる古賀良彦役もそうですね。
納谷:中島はツッコミキャラというか、真面目だけどどこか抜けている。一方、古賀はサッカーが大好きだけど、親に言われて勉強も頑張る真面目な性格。どちらかと言えば無愛想なのかな。見た目は同じ前髪ぱっつんのメガネ役だけど、真逆の見せ方ができるのかなと思います。それに中島は「刀剣乱舞」で演じた小夜左文字とも、思わぬ共通点があるんです。
--どんな共通点ですか?
納谷:アニメ版「磯部磯兵衛」の中島襄役と、ゲーム版「刀剣乱舞」の小夜左文字役は、声質は全然違うんですが、じつは村瀬歩さんという同じ声優さんが両方の声を担当されているんです。凄くないですか? 同じキャラクターを演じさせて頂く僕としては、今一番お話してみたい方です(笑)。
--確かに、凄い縁を感じさせます。ちなみに、コメディを演じるのは今回が初めて?
納谷:ギャグ作品とは違いますが、高校時代に友人の劇団公演に参加して、後藤ひろひと作「ダブリンの鐘つきカビ人間」でとんちんかんな戦士役を演じたことがあります。めちゃくちゃコミカルにやりましたね。僕は普段は静かですが、ボケることもありますし声も大きいので、性格的にはツッコキャラですね。
--入団以来、外部公演が続いていますが、劇団との違いは感じましたか。
納谷:凄く感じました。もちろん、現場によっても違うと思うのですが、Patchはわりと一つのシーンに対してみんなで意見を言い合って作品を組み立ていくので、演出家を中心に回っていく外部公演との違いを感じました。劇団では、それぞれがどんな演技をするのかはみんなが知っているので、そこは馴れ合いにならないように、いつもメンバーを裏切ってやろうという気持ちでやっています。
--今回の天晴版に関しては、詳細未定ということですが、楽しみな点とは。
納谷:1期生で主演の(井上)拓哉くんは先輩ですが、同い年なので一番共演を楽しみにしていた一人です。拓哉くん出演のドラマとかも見ていますし、僕も外部で経験を積んできたので、同級生役としてもリアルな化学変化を楽しんで貰えると思います。僕はダンスが得意なので、技術的にも底上げしたい。劇団としても、新たなものを生み出せたらいいなと。
『磯部磯兵衛物語~浮世はつらいよ~天晴版』中島襄役の納谷健
--最後に、改めて意気込みを。
納谷:サブタイトルが「天晴版」ということで、ことごとくお客さんを楽しませるので、その心づもりで観に来てもらえれば嬉しいですね。お客さんに何かを届けられる役者になれるよう自分を磨いて頑張るので、まずは「天晴版」を一緒に楽しみましょう!
「メンバーの下心が作品にマッチして、劇団の方向性が見えました(笑)」(中山)
--井上さんと中山さんは、初演の感想からお聞かせください。
井上:いざ蓋を開けると結構楽しんで頂けたのかな、という実感がありました。劇団初のミュージカルでしたが、音楽が耳に残ると言われて。なかでも「筋肉ええじゃないか」は全然耳から離れず、今でも歌ってるよと、友人からラインで報告がありました(笑)。「サントラないの?」と聞かれるぐらいインパクトがあったようで、嬉しかったですね。
中山:その前の劇団公演「幽悲伝」はすごくシリアスなお芝居でしたし、「磯部磯兵衛物語」は劇団としても今までにない挑戦的な作品になりました。やってみて、劇団Patchと良い化学反応が起きたなと。
--どの辺りが”好相性”でしたか?
中山:やっぱり平均年齢20代前半の男ばかりの劇団なので、普段から「どうやったらモテるのか」とか、エッチな話も言い合ったりするんですよ。そういう”下心”が磯兵衛のお話にマッチした。関西人ですから笑いもありますし、とにかく若い男たちがカロリーを消費させてなんぼっていうのを汗を飛び散らせながらやって、お客さんに元気を届ける。劇団の方向性が見えた気がしました(笑)。
『磯部磯兵衛物語~浮世はつらいよ~天晴版』母上役の中山義紘
井上:確かに、一番話してるのは(中山)義くんですが、男だけの劇団で初めて良かったなと思いました。入団5年目にしてやっとです(笑)。
--(笑)。井上さんは、主演のプレッシャーから相当役作りに苦労されたとか。稽古場では思わず泣いてしまうほど、心が折れかけた瞬間もあったそうですね。
中山:あれは僕が泣かせたんですよ。稽古初日に、いっぱい準備してきたものもあっただろうに、演出の末満(健一)さんにことごとく全部をボコボコに却下されて、「お前がしっかりせなこの作品が崩れちゃうぞ」と。でもその後もダメ、別のプランもダメ、次もダメで、結構ぐーっとなってて。
『磯部磯兵衛物語~浮世はつらいよ~天晴版』母上役の中山義紘
井上:自分の感覚としては何をやっても変わらない。気持ちが内に内に入り込んでしまって、絶対よくないんですけど。休憩時間もテンションなんて上がるはずもなく、泣きたいというよりは悔しい気持ちでいっぱいで。メンバーも色々と声を掛けてくれる中、最後に義くんが僕の隣にサッと来て、何言うんかなと思ったら「お前、クソおもんないな!」って。
中山:あははは(笑)。
井上:義くんとしても、そこは「うるさいわ!」という反応を待っていたと思うんですけど、それすらも優しさに感じてしまって。そうなったら、ツーンですよね。必死に天井見て、涙こらえてました(笑)。
『磯部磯兵衛物語~浮世はつらいよ~天晴版』磯兵衛役の井上拓哉
--役作りで一番難しかった点は?
井上:磯兵衛はだらしないニート的な青年ですが、愛されキャラでなくてもいけない。その微妙なラインを探すのが難しかった。笑いを意識すると狙いすぎてつまらないし、愛されることを重視すると磯兵衛じゃなくなる。その中で自分の個性も出したいと挑戦していたので。本番開けてのお客さんの反応には、ホッとしました。
中山:笑いの芝居って稽古を重ねていくと、何が面白いのか分からなくなってくる。飽きずに新鮮さを保つためにも、本番ではなるべくその場の反応を感じながら演じました。漫画が原作とはいえ、生身の人間がやる舞台なので、生の会話にするというのは心掛けました。
--中山さんが演じた母上は、女性でありながらもかつて最強の忍びであった過去を持つ、荒唐無稽なキャラクター。原作通りに天井裏から逆さになって登場する場面では、見事な再現力に驚かされました。
中山:全公演ミスなく生きて帰ってこれて良かったです(笑)。母上は「今どこにいる設定ですか?」と聞かれて、「ここは楽屋よ」と答えるなど、演劇のルールを無視した役だったので、やってて凄く楽しかった。単に女性を演じるというよりは、男の僕がやっているという点は最大限に活かしました。例えば、中島を手刀でしばいたり、口に含んだ水を共演者の顔に吹き掛けるとか、やってましたね(笑)。天井やパネル裏など思わぬところから、ちょこちょこと出てくる。短い場面でも、自分が一番目立ってやろう!と思ってました。
「市川海老蔵さんに学んだ歌舞伎の所作を、今作で活かします!」(井上)
--それにしても、春公演を秋に再演って、早くないですか(笑)。
中山:早いですよね(笑)。でもここで勢いに乗っておかないと! 前回公演が動画サイトやツイッターで話題になったり、週刊少年ジャンプ誌面でも磯兵衛や劇団Patchを取り上げて頂き、いま風向きが凄く良いので。目標でもある江戸(東京)公演にも近づいていると感じます。
--今回はサブタイトルを「天晴版」として、舞台に花道ができるそうですね。
井上:そうなんですか!? 今初めて知りましたが、嬉しいです(笑)。
中山:花道はPatchが過去に何度もやろうとしてきたことで、今回初めて実現できます。ちなみに前方花道付近は、プレミアムシート(天晴シート)になる予定です。
『磯部磯兵衛物語~浮世はつらいよ~天晴版』主演の井上拓哉、中山義紘
--井上さんは10月放送の出演ドラマ「石川五右衛門」で主演の市川海老蔵さんと共演されました。そこでの経験は、今作にも活かせるのでは?
井上:そうなんですよ! 磯兵衛も歌舞伎っぽい言い回しや動きが多いので、海老蔵さんの所作を間近で見られたことは、凄く勉強になりました。僕ひとつ、台本を読みながら「ここはどういう風に表現されるんだろう」と思う海老蔵さんの台詞があって、色々と想像していたのですが、現場でその台詞を生で聞いた瞬間、鳥肌が立ちました。こんな風に表現されるのか!と。当たり前ですが、台詞の言い回しや抑揚、立ち姿が何より様になっている。一つひとつの所作が滅茶苦茶きれいで本当に感動しました。
--また、「天晴版」では役替わりも見所のひとつです。今作で磯兵衛の親友・中島襄を演じる4期生の納谷健さんは、同い年の井上さんとの共演を楽しみにされていましたよ。
井上:4期生の勢いが凄くて、下克上ですね(笑)。同い年ってほんまに刺激的なんですよ、言ったらライバルですよね。健くんは劇団に入って間もないのに、すぐに東京に出て芝居ができていることも悔しいですし。今回は僕が主役なので、負けないように頑張りたい。
『磯部磯兵衛物語~浮世はつらいよ~天晴版』磯兵衛役の井上拓哉
中山:劇団に入る前から芝居経験のあるやつってPatchでは珍しく、僕以来なんですよ。どんな劇団やねん!って思うけど(笑)。そういう意味でも、健は頼りにしています。キャストが替わるだけで雰囲気もガラッと変わると思いますよ。
--前回も相当お祭り騒ぎでしたが、今回も”天晴れ”な味付けに期待が高まります。
中山:再演を待つ間、メンバーも個々に外部で”修行”を積ませて頂き、その成果を一番発揮できるのが劇団の本公演だと思います。Patchの団結力みたいなものが、作品とはまた違う感動につながればいいなと。お前らほんまに必死やなってところがお客さんにバンバン届いて、笑い転げて腹筋が痛くなりながら劇場を出る、みたいな(笑)。
井上:ほんまに、演出の末満さんは上へ上へと目指される方なので、僕らも例え同じシーンでも別の笑い所を見つけて、前回よりも面白い作品にしたい。極上のエンタテインメントをお届けするので、若い方からお年寄りの方まで、一緒に盛り上がってバカになってもらえたらと思います!
『磯部磯兵衛物語~浮世はつらいよ~天晴版』左から主演の井上拓哉、中山義紘
■2016年10月20日(木)~10月25日(火)
■原作:仲間りょう「磯部磯兵衛物語~浮世はつらいよ~」(集英社「週刊少年ジャンプ」連載)
■脚本・演出:末満健一
■音楽:和田俊輔
■出演:井上拓哉、中山義紘、納谷健 ほか