SHISHAMO ときにクールに、ときに繊細に――“いつも通り”を貫いてみせた初の大阪城ホール
-
ポスト -
シェア - 送る
SHISHAMO 撮影=柴田恵理
SHISHAMO NO OSAKA -JOHALL!!! 2016.6.25 大阪城ホール
SHISHAMOが6月25日(土)に大阪城ホールで、その名も、ずばり『SHISHAMO NO OSAKA -JOHALL!!!』を開催。彼女たちの初大阪城ホールを観ようと、会場には多くのファンが詰めかけた。場内には、同じ3ピースであり、宮崎朝子(Gt、Vo)が敬愛する大先輩バンドTheピーズの楽曲が鳴り響く。開演時間の17時、音楽が鳴り止み、FM802のDJ落合健太郎のナレーションにより諸注意が行われ、いよいよ開幕だ。
SHISHAMO
ステージ左右の大きなビジョンで、YouTubeでは第2話まで公開されているSHISHAMOと清水富美加らが出演の『大阪物語』が改めて流される。SHISHAMOが心斎橋でたこ焼きを食べながら城ホール当日を楽しみにする姿や、清水扮する女子が気になると男子とデートとしてSHISHAMOの城ホールライブに向かおうとする恋模様が描かれる。そのリアルな描写に思わずクギづけになる中、第3話まで流され、いよいよライブ本編がスタート。
SHISHAMO 撮影=柴田恵理
吉川美冴貴(Dr)、松岡彩(Ba)がそれぞれ全力で走って舞台に登場し、最後に宮崎も駆けながら現れる。両手を高く上げて、頭を深く下げる宮崎。軽く肩を慣らすように吉川がドラムを叩き、すぐに早いカウントから1曲目「中庭の少女たち」へ。今年3月発表の最新アルバム『SHISHAMO 3』の中でも人気曲なだけに、すぐに手拍子が起きた。続く「僕、実は」では3人の演奏する姿がモノクロでビジョンに映し出される。まだ2曲しか演奏していないのに、既に城ホールの空気を掴みきっているように見える3人。バンドマンに恋する女子の切実な恋心を歌うアップビートな「バンドマン」では、一気に疾走感も増す。
SHISHAMOの楽曲は基本、自身の事を歌うというよりは、色々な人の物語を想像して描き、歌で紡ぐ。だからこそ、多くの人が自分の事を歌ってもらっていると想え、感情移入が出来るのだ。歌で描かれている人物になりきったかのように、宮崎が切ない表情で切ない声で歌うのもたまらない。そして、何よりもたまらないのは実際の宮崎が明るくて、良い意味でクールでドライな点。この日、最初のMCでも「かわいい~!」など多くの黄色い声援が飛ぶ中、宮崎は「知ってます!」と軽く受け流す。が、何度も「大阪城ホール!」と観客に呼び掛け、レスポンスを求め、しっかりと一体感を作っていく。ギターをおろし、花道一歩手前くらいまで移動して、舞台ど真ん中からマイクを使わず、地声で再び「大阪城ホール!」とレスポンスを繰り返し求める。その姿からはクールでドライながらも、集まってくれた多くの観客たちへ感謝の気持ちを伝えたいという気概が感じられた。
SHISHAMO 撮影=柴田恵理
MC終わり、4曲目「量産型彼氏」では水玉をモチーフにした、まるでPVのような映像が流れる。演出の細部まで、1秒たりとも飽きさせないというこだわりが込められている。そして、5曲目にして早速、新曲(タイトル未定)が披露されたのには驚いた。最初からダイナミックなグルーヴが印象的な楽曲に、真剣に耳を傾ける観客たち。ここで、また宮崎が喋りはじめる。「やっと大阪城ホールに……、そう言うと目指していたバンドみたい。目指してなかったわけじゃないけど」と心の中を包み隠さず誠実に喋るところが宮崎らしい。がむしゃらに頑張ってきているのに、表向きに、そういう心境を照れもあるのか敢えて初めからストレートには話したがらない。だが、大阪は高校生時代からライブに来ているくらい特別な場所であると、改めて感謝を伝える。開演前に城ホール前で記念撮影をしていると、物販に並んでいた観客に囲まれ撮影された事を「がめつい!」と笑いながら話す。「そういう大阪のみんなが嫌いじゃなくて」と続ける宮崎。“ツンデレ”などと言うと陳腐な表現になるが、そういう一筋縄ではいかない可憐で繊細なところに、多くの人が惹かれてしまうのだ。
SHISHAMO 撮影=柴田恵理
「笑顔のとなり」では宮崎がアコギに持ち替え、メンバー3人がメロディーを「ランランランラン」と口ずさむハーモニーが可愛らしい。8曲目「こんな僕そんな君」が終わり、松岡が喋り出す。彼女たちにとって大阪が特別な場所である大きな理由のひとつは、松岡にある。2年前、当時在学していた大阪の専門学校の研修で大阪の夏フェスである『RUSH BALL』の手伝いをしていた際、宮崎から“ナンパ”されてSHISHAMOに加入、東京に引っ越した事を明かす。18歳まで大阪在住ながらも、その間一度も観客としても城ホールへ訪れた事がなく、初めての城ホールがいきなり演者側として立つという事を、昂る感情を必死に抑えながら説明する。宮崎は「凄い頑張って話していたね!」と軽く茶化すが、自身のフェス現場を研修で手伝っていた普通の専門学校生を突如バンドに加入させるなんて……肝が据わり過ぎている。常に普通に自然に振る舞うが、実は物凄くドラマチックなバンドであるというギャップも良い。ミラーボールが妖しく光り、じっくりと聴かすような「熱帯夜」が披露された後、3人は舞台から袖にはけ、ビジョンでは清水出演の『大阪物語』の続きが流される。映像が終わり、場内が明るくなると、花道の真ん中で宮崎がアコギを持って座っている。
SHISHAMO 撮影=柴田恵理
映像に集中していた観客たちは誰も気付いておらず、花道近くの観客の中には喜びと驚きのあまり、悲鳴をあげる者も。そして宮崎ひとりの弾き語りで、新曲(タイトル未定)が歌われる。メロディアスで切ない雰囲気の楽曲は、まさにSHISHAMOの真骨頂。歌い終わると、吉川と松岡も花道ステージに登場して、円状に3人は向かい合うようにスタンバイする。吉川はカホン、松岡は鉄琴で、「行きたくない」と「君との事」を演奏。元々、楽曲のメロディーが際立っているため、このようなアコースティック編成で演奏すると、より沁み渡る。
SHISHAMO
場内は暗転され、女子ひとりが道をテクテク歩くアニメーション映像がビジョンで流される。その間に3人は花道から舞台へ映像と同じくテクテク歩きながら移動するのだが、移動が終わり、3人が音を鳴らした瞬間、アニメーション映像の中の女子もテクテク歩きからスーッと歩き出す。映像とリンクした演出が誠に秀逸である。歌詞も映し出されるが、歌われたのは「旅がえり」。毎回、アルバムの中で1曲は自分自身を歌った楽曲を忍ばせるという宮崎。最新作『SHISHAMO 3』では、この楽曲に宮崎自身が投影されている。旅から故郷に戻り、そのまま故郷に残りたいと想いながらも、また旅に出る心境が歌われる。自身を歌った楽曲だけに、切ない表情で歌う姿が、よりリアルに映る。気が付くとライブは終盤に差し掛かっていたが、個人的にはハイライトといえるワンシーンであった。
SHISHAMO 撮影=柴田恵理
15曲目は、激しい演奏から入る「さよならの季節」。しっとり丁寧に「ねぇ先輩」と呟くように繰り返す歌う宮崎は、先程の自身を歌った「旅がえり」とは、また違う側面を見せる。誰かの気持ちになりきって切なく歌うのが、先述の通り宮崎の凄さ。芝居ではなく、歌で憑依した凄みを感じさせられる若手は本当にいないと思う。そんな中、吉川の『本当にあった○○な話』コーナーでは一転して、ほっこりさせられ、笑いが絶えない時間に。自身の16歳当時の写真をビジョンで紹介しながら、いかにリア充じゃなかったかを、知り合いである16歳のリア充ガールの話を交えながら、楽しく話していく。そして、宮崎仕切りで観客の年齢層を調べていくコーナーに。下は未就学児の5歳から、高校生、専門学校生、大学生という10代から20代前半が大半を占める。ある程度わかってはいたものの、このように改めてアンケートを取ると圧倒的に若い世代から支持されている事がわかり、40手前のおじさんである僕も何故か嬉しくなってしまった。世代が違う人間にも確実に伝わるのは、何よりも楽曲が良いから。丁寧な言葉で同世代の気持ちを代弁して表現している事から誠実さも伝わるし、もし自分が同世代なら尚いっそう共感できただろうと想わせてくれるのも不思議な魅力だ。
SHISHAMO 撮影=柴田恵理
ここで、デビューアルバム『SHISHAMO』(13年11月発表)のリードトラックであり、多くの人がSHISHAMOを知るきっかけになったと言っても過言ではない「僕に彼女ができたんだ」。何度聴いても、最初のギターカッティングから燃え上ってしまう。しっかりとロックンロールのダイナミズムを感じらるのが本当に素晴らしい。18曲目「タオル」では、演奏が始まる前に松岡のタオルレクチャーが花道で行なわれる。物販で買ったタオルを、みんなで回したら楽しい というシンプルな内容だが、本当にみんなで回すと楽しいし、単純な事でも振りきってやると最高に気持ち良くて楽しい。ビジョンには歌詞を説明するようなアニメーションが流され、その映像に観客は沿って、タオルを回し、アニメーション内のメンバー3人もタオルを回しだし、現実とアニメ全てが融合していく。楽しい事に理屈はいらない事を体感させてくれる楽曲だ。最後は夏の定番曲「君と夏フェス」と同期したホーンのサウンドも心地よい「みんなのうた」で、本編は締められた。
SHISHAMO 撮影=柴田恵理
アンコール1曲目は、『SHISHAMO 3』のオープニングナンバーでもある「ごめんね、恋心」。最初は宮崎のギターによる緩やかな歌いかけから始まるが、すぐにパンクチューンのように転がっていくのが醍醐味である。3人からの感謝が再度伝えられたあと、9月7日のシングルリリースが発表される。このシングルにも収録される楽曲(タイトル未定)も披露された。攻撃的なぶっといサウンドで、宮崎の伸びやかな歌声が突き抜けていくナンバー。まだリリースは少し先であるが、早く聴きたいものだ。3曲目の「休日」では曲中の観客に求めるコーラスを聴くため、宮崎がギターのシールドを抜いて、わざわざ花道まで向かう。何でもないような、そういう動作がいちいちグッとくる。
SHISHAMO 撮影=柴田恵理
周囲を意識し過ぎることなく無理なく狙い過ぎず、良い意味で自分たちのやりたいようにやってきて、掴んだ現在の結果。何度も書くが、そこへの感謝を宮崎は一切忘れていない。同時に、決して感傷的にもなり過ぎず、いつも通りでいる。同世代で、ここまで動じず自分らしさを貫き通しているバンドはいないだろう。
そして、いよいよアンコール5曲目となるラストナンバー「恋する」へ。えげつないくらいにタフなビートが吉川のドラムから鳴らされ、宮崎が「最後の曲です!」と言った瞬間に特効のテープが上空高く発射されて舞った。
SHISHAMO
3人舞台中央に並んで、手を繋ぎ、その手を高く高く上げる。まだ、二十歳を過ぎたばかりの3人が、今後どのようなバンドヒストリーを歩んでいくのかを考えると楽しみでならない。30代、40代になっても同世代の日常生活を丁寧に想像して、寄り添って歌う姿が想像できる。3人が舞台から去り、『大阪物語』の続きへ。無事にSHISHAMOの大阪城ホールのライブを観終わった清水扮する女子と男子が最後は互いの気持ちを確かめ合い、手を繋ぎ帰っていく。思わず場内からは黄色いため息が漏れる。もしかしたら、この映像の様に手を繋いで帰った女子男子もいるかも知れないし、「次こそは、こんな風に好きな子とSHISHAMOのライブに来たい!」と強く誓った女子男子も多かったであろう。何度も書くが、宮崎自体はクールでドライなのに、楽曲は同世代の何気ない憧れの日常を丁寧に寄り添うように歌うから、圧倒的に支持される。3時間という長丁場に限らず、最後まで全く飽きる事なく、ずっと感心感嘆をさせてくれた素敵な夜であった。終演後も開演前と同じく、宮崎が敬愛する同じく3ピースバンド・Theピーズの楽曲が流れる。そんな粋な計らいをさり気なく最後までやりきるSHISHAMOが、やはり僕は大好きだ。
撮影=柴田恵理 レポート・文=鈴木淳史
SHISHAMO 撮影=柴田恵理
1.中庭の少女たち
2.僕、実は
3.バンドマン
4.量産型彼氏
5.新曲
6.推定移動距離
7.笑顔のとなり
8.こんな僕そんな君
9.花
10.熱帯夜
11.新曲(宮崎朝子弾き語り)
12.行きたくない(アコースティック)
13.君との事(アコースティック)
14.旅がえり
15.さよならの季節
16.僕に彼女ができたんだ
17.生きるガール
18.タオル
19.君と夏フェス
20.みんなのうた
[ENCORE]
21.ごめんね、恋心
22.新曲
23.君とゲレンデ
24.休日
25.恋する