小田和正が“君住む街へ”と向かうツアー・東京公演 エネルギッシュで愛にあふれたステージを観た

2016.7.14
レポート
音楽

小田和正

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『明治安田生命Presents KAZUMASA ODA TOUR 2016「君住む街へ」』 2016.6.30 東京体育館

どんな凝った仕掛けや豪華なセットよりも最高の演出は小田和正本人だった。小田がいて、あの歌声があって、名曲の数々があれば、極上のライブ空間は成立するということだ。もちろん映像や照明も効果的に使われていたし、楽しい演出もあるのだが、それは実際に観てのお楽しみということにしておこう。『KAZUMASA ODA TOUR2016 君住む街へ』の6月30日、東京体育館2Daysの初日。4月30日の静岡エコパアリーナからスタートして、10月30日の宜野湾海浜公園屋外劇場まで24箇所で48公演行われるツアーの17公演目、ツアーも前半から中盤へと差し掛かっていた。ツアー・タイトルの「君住む街へ」は1988年にリリースされたオフコースの34枚目のシングルの曲名でもあるのだが、今回のツアーにはこの言葉がぴったりだろう。小田が音楽を届けに全国津々浦々のリスナーの住む街を回っていくツアー。

会場に入ってまず驚いたのはアリーナの隅々まで花道が張り巡らされていたこと。メインステージから見ると、Yの字型を逆さにしたような形の花道があって、そのYの字の中心にセンターステージがあり、二股の先にサブステージが2つ設置されている。さらにアリーナをグルッと囲むように花道があり、スロープが付いたその花道を登っていくと、スタンド席の両サイドのすぐそばに行けるようになっている。また、メインステージの真後ろにも客席があって、32人が至近距離から見つめている。つまりリスナーの近くへ行って歌を届けるというのは都市単位だけではなくて、会場内の数メートル単位でも実現していたのだ。ピアノを弾きながら歌っている時以外は、小田はほぼ動いていた。歩いたり、走ったり、飛び跳ねたり、手を振ったりしながら歌っていた。センターステージへ、サブステージへ、スタンドのすぐ横へ。いや、それだけでは満足せず、客席の中に入っていく場面もあった。神出鬼没。小田は現在、68才だ。あの透明感のある伸びやかな歌声も驚異的だが、広い東京体育館の中をこんなにもアクティブに移動しながら歌い続ける体力も超人的だった。

小田和正

「僕の言い方ではなかなか伝わらないと思いますが、心から感謝しております」との言葉を何度かMCで言っていたが、歌そのものによって、そして少しでも近くへ行って届けようとするその行為そのものによっても、その気持ちはしっかり伝わってきた。この物理的な距離の近さは、小田の歌がいつもそばにいるということのメタファーのようでもあった。

今年4月にリリースされたオフコース時代も含んだオールタイム・ベストアルバム『あの日 あの時』からのナンバーがたっぷりと演奏された。本編24曲、アンコール6曲、約3時間。喉も足腰も精神力もとてつもなく強靱だからこそ、これだけのライブが可能になるのだろう。たくさんの困難をクリアーしてのステージのはずなのだが、そんな素振りは一切見せず、飄々と淡々とステージを展開していくところもかっこいい。名曲を惜しみなく繰り出しているのに、名曲が尽きない。70年代から2010年代まで、コンスタントに名曲を生み出し続けてきていて、代表曲だけでも何十曲もあるミュージシャンにしか出来ない構成だ。客席も一体となって歌う場面もあるし、じっくり歌を聴かせる場面もある。小田の歌もバンドの演奏も人間味にあふれている。サポートのメンバーは稲葉政裕(g)、有賀啓雄(b)、木村万作(dr)、栗尾直樹(key)、そして金原ストリングスの金原千恵子(1st.violin)、吉田翔平(2nd.violin)、徳高真奈美(viola)、堀沢真己(cello)というお馴染みのメンバー。小田とぴったり息の合った歌心あふれる演奏が素晴らしかった。しかもそれぞれが楽器を演奏するだけでなく、コーラスでも大きな役割を担っていた。小田とメンバーによるハーモニーもこのツアーの聴きどころのひとつだろう。

小田和正

「なんと今日、6月30日はあの5人のオフコースのファイナル、武道館10日間の最終日とのことで、びっくりしました。10日間のうち、どこかのコンサートに行ったって人?」と聞くと、客席から結構手が上がっていた。「みんな若かったよね。あれからなんと34年も時が流れております。今日はどれだけみんなの期待に応えられるか、わかりませんが、爺なりに頑張っていきたいと思います」とのこと。いやいや、68歳でこんなエネルギッシュなステージ、常識を超えている。前半は70年代、80年代のオフコース時代の代表曲がたっぷり演奏された。

「ベストアルバムを編集するにあたって、今までの曲を聴き返してみましたが、タイトルを聞いても、そんな曲あったっけ?っていう曲もあって。聴くと、だいたいヘンテコで、無意識のうちにその曲の存在を忘れたかったんだなって。最近はそんな曲も懐かしく聴けるようになりました。時は流れましたよ」というMCに続いて、「秋の気配」や「僕の贈りもの」など初期の名曲も演奏されて、魔法のような時間が出現した。エバーグリーンな名曲の数々にはタイムマシーンの機能が搭載されていて、あの時代へ、あの場所へとリスナーを連れていってくれるからだ。センターステージでピアノを弾きながらの「言葉にできない」では小田が感極まったのか、歌えなくなる瞬間もあった。34年前の6月30日とシンクロしてしまったのかもしれない。

小田和正

“ご当地紀行”と題された映像コーナー(小田がライブ開催のご当地各地を訪れて、人々と交流している場面を収録)を挟んで、後半はソロでの代表曲中心の構成。小田が客席にマイクを差し出して、観客がシンガロングする場面もあった。小田の曲であると同時に、“みんなの歌”になっている曲がたくさんあった。ベストアルバム『あの日 あの時』に収録されている新曲2曲も披露された。「wonderful life」では小田がアコースティックギターを弾きながら、そして花道を歩きながらの歌。小田の歌声が空にかかった七色の虹のように観客の胸の中を温かく照らしていった。もうひとつの新曲「風は止んだ」はセンターステージで、腕を後ろに組んで歌われた。深みのあるヒューマンな歌声が染みてくる。47年、音楽活動を続けてきた小田が歌うからこその説得力もプラスされて、深く深く届いてくる。新曲ではないのだが、今の歌として響いてきたのはツアー・タイトルにもなっている「君住む街へ」。<君住む街へと飛んでいくよ>と歌われるこの曲は今の小田の気持ちが託された歌として、真っ直ぐ届いてきた。“有言実行”という言葉があるが、これはさしずめ“有歌実行”といったところだろうか。

小田和正

「次に会う時は一体いくつになっているのか、想像もつきませんが、できれば、オフコースの歌ばかりじゃなくて、新しい歌を作って、会えたらうれしいと思います」という言葉もあった。過去へ、現在へ、そして未来へ、様々な時空へと思いを馳せさせてくれるライブだった。「最近は好きだ嫌いだみたいな曲は書いてないなあ」との発言もあったが、この日のライブ全体が大きな大きなラヴソングでもあったのではないだろうか。ツアーはまだまだ続いていく。全国各地の様々な街で、そしてリスナーのすぐ近くで、愛にあふれた歌が鳴り響いていくだろう。
 

レポート・文=長谷川誠

小田和正

ツアー情報
『明治安田生命Presents 「KAZUMASA ODA TOUR2016 君住む街へ」』

※終了分は割愛
7/23(土)さぬき市野外音楽広場テアトロン
7/24(日)さぬき市野外音楽広場テアトロン
7/30(土)宮城セキスイハイムスーパーアリーナ
7/31(日)宮城セキスイハイムスーパーアリーナ
8/05(金)ビックパレットふくしま
8/06(土)ビックパレットふくしま
8/11(木・祝)出雲ドーム
8/12(金)出雲ドーム
8/17(水)マリンメッセ福岡
8/18(木)マリンメッセ福岡
8/24(水)大阪市中央体育館
8/25(木)大阪市中央体育館
8/30(火)名古屋・日本ガイシホール
8/31(水)名古屋・日本ガイシホール
9/06(火)大阪城ホール
9/07(水)大阪城ホール
9/17(土)広島グリーンアリーナ
9/18(日)広島グリーンアリーナ
9/27(火)国立代々木競技場第一体育館
9/28(水)国立代々木競技場第一体育館
10/09(日)高知県立県民体育館
10/10(月・祝)高知県立県民体育館
10/18(火)横浜アリーナ
10/19(水)横浜アリーナ
10/29(土)宜野湾海浜公園屋外劇場
10/30(日)宜野湾海浜公園屋外劇場
全国24会場48公演

 

 

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