ヨーロッパ企画にインタビュー、『来てけつかるべき新世界』ってどんな世界?

2016.7.23
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インタビュー
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ヨーロッパ企画(左から上田誠・石田剛太・本多力・永野宗典・角田貴志・中川晴樹)


ヨーロッパ企画第35回公演『来てけつかるべき新世界』が、9月3日(土)栗東プレビュー公演を皮切りに、京都、東京、広島、福岡、大阪、四日市、高知、横浜、名古屋にて上演される。

毎回、それがなぜ芝居のネタになるの!?と思うようなモノがテーマとなるヨーロッパ企画の舞台。今回は大阪の「新世界」を舞台にしたSFとのこと。ドローン?ロボット?ホログラフィ?将棋?二度付け禁止?様々なキーワードから想像が膨らむ中、はたしてどんなストーリーとなるのか、2年後となる劇団創立20周年の話も含め、主宰で作・演出の上田誠、そして劇団メンバーの石田剛太角田貴志中川晴樹永野宗典本多力に話を聞いた。

本多力・石田剛太・上田誠・中川晴樹・永野宗典・角田貴志

――私が東の人間だからか、タイトルの『来てけつかるべき新世界』という言葉がすっと頭に入ってこなくて、思わず意味を調べてしまいました(笑)。「けつかる」ってよく使う言葉なんですか?

上田: いや、僕らも使いません(笑)。漫才をやる人でも使わないですね。河内弁を使った昔の映画とかで使われるくらいだと思います。大阪弁の劇をやるというのは今までやってこなかったことなんです。京都のコメディの劇団なのでやっていそうですけど、本公演ではしたことがなかったんです。だから、どこかのタイミングでやりたいなという気持ちがありました。

■配役含めて「来てけつかるべき新世界」を語る

上田: いつも何か「テーマ」があるんです。例えば「文房具」とか「ゲート」とか。それが変わったものならその1点を追いかけることで話は進むのですが、「大阪」という大きな存在だけだとそこにもう一つ「テーマ」がないと追いかけづらいと考えていました。そんなときにたまたま書店で「ドローン」を扱う本を見かけて、ハッとして。もし新世界の上空にドローンが飛来してきたら……劇になる!って思ったんです(笑)。

ドローンだったり、ロボットだったり、いろいろなテクノロジーが入ってきて……「2045年問題」という、人工知能が人間の知能を超えてしまう問題が出てきていますが、けっこうすぐそばまで来ているなあと感じていて。ならば「新世界」に本当に新しい世界がやってくる話をしようと。「新世界」って、その名前なのにとてもレトロな街でそこが倒錯しているのがおもしろい。名前だけですでに劇になりそうな情感がある。「新世界」のおっさんたちが迫りくる未来と格闘するSFになるんじゃないかなって。

上田誠

――さて、そんな物語の中でみなさんはどんな役どころを演じるんですか?

石田: それがねー。まだ決まっていなくって。

上田: 僕らの劇はエチュードを重ねて作っていくので、まだ具体的に決まってない段階なんです。

石田: まあ、なんとなく「おっさん役」がいるんだろうな、って思っていますけど。関西弁の。

永野: おっさんをやるつもりではいるんですけどね。

石田: ロボット側で「サイボーグ役」ってのもあるかもしれん。

上田: あ、するどいですね。

本多: 観光客役とかは?

上田: もちろんいます。観光客がドローンとしてやってくるとかありそうですよね。

石田: 角田さんは関西弁がネイティブですからやりやすい?

角田: 関西弁ができるかできないかで配役も決まってくるかも。それにひきかえ、(中川、永野を指して)この人らは……

中川: 僕は名古屋だし。

永野: 僕は宮崎。

石田: 僕も愛媛だしね。

角田: 彼らはハンデを背負ってますよ。映像で関西弁の仕事をするときなんか、むちゃくちゃ鬱になってますもんね。

永野: アクセントが落とし込めずに大阪弁の音階でしゃべれなくて。

上田: それを言ったら標準語の音階も独特ですけどね(笑)。

永野: 本音をしゃべろうとすると、地元の言葉になるんですよ。年齢を重ねるにつれ、なぜか宮崎県人になっていますね。

本多: 永野さん、京都の暮らしのほうがもう長いのにね。

永野: そう。不思議な話ですが、どんどん宮崎色が濃くなってる(笑)。

中川晴樹・永野宗典・角田貴志

――これまでに無茶ぶりのような配役はありましたか?

石田: 香港マフィアの役のときにずっと片言でしゃべるのが結構しんどいなーと思ってやってたことがありますね。エチュードで「それ、やってみて」と言われてそのままになって。

中川: 角ちゃんもそのままおばさん役になったことあったもんね。

角田: そうそう。女装が何回か続いたこともありましたね(笑)。

上田: 永野さんはね、以前、「舞台が広いので所狭しと動き回る役をやります。やりたいです」って取材の場で言ったのに、本番ではドラム缶に入ってコンクリートで固められている役をやってもらった(笑)。

永野: 大道具みたいな役ですよ。

上田: そういういたずらキャスティングもたまにありますね(笑)。

石田: こういう場で何かいうと、「こいつ、調子に乗って」と、ぜんぜん違う役をやらされたりする(笑)。

石田剛太

――ならばいっそ今回こんな役がやりたい、と主張してみては? 順番に言ってみましょうか。

上田: 今回のベースは「おっさん」ですからね。

石田: 僕はお酒飲んで飲んだくれている役がいいですね。「二度付け禁止」とか言って(※関西の串カツ屋では、カツにつけるソースの容器に衛生的理由からそう記されている)。あと僕、将棋が好きなので、「将棋の名人だ、俺に勝てるやつなんていない」とかいってるおっさんがいいですね。

上田: まあ石田くんは、下戸のスポーツマンの役ですけどね。

石田: 下戸!?(笑)

角田: 新世界におらんやろ、そんなやつ(笑)。

本多: 単なる対義語(笑)。 

全員: (笑)

――このあいだNHK大河ドラマ「真田丸」にも出演なさってた本多さんは……

本多: あ、過去の栄光にすがって生きているおっさんとかいいなあ。「俺、昔テレビ出たんやでー」って(笑)。

本多力

中川: 俺はそんなにおっさんをやりたいって気持ちがないんですよ。

上田: えー、いちばんおっさんぽいのに。

中川: え? 俺そう思われてるの!? 俺自分が「おっさん」だと思ってないですよ。

本多: 昔、中川さんが出ている舞台を見た人が「おじいさんが出てる」って言ってましたよね(笑)。まだ大学出てないときなのに

中川: 一番キャリア積んでそうに見えるんだよね。俺、金髪にしてたのにおじいさんって。あ、でも「おじさん」ではあっても「おっさん」ではないかなと。酒も飲まないし。

中川晴樹

永野: この前、新世界にチラシの写真を撮りに行ったんですが、僕より小柄で黄色い蛍光のキャップかぶって、ぶっかぶかのシャツきて、もう妖精みたいなおっさんがいたんですよ。その人みたいな役がいいかなあ。大阪ってファッションが独特な人多いよね。

石田: 帽子は遊んでるよね

永野: そんなファッションで勝負しているおっさんの役、やりたいよね。

上田: 裸の役を考えてましたけどね。

永野: ええええ(笑)

角田: そういう意味では西村(直子)さんがどの役をやるのかは気になりますね。

――そういえば本公演には今回も客演の方をおよびになってますね。金丸慎太郎さんは『ビルのゲーツ』でも共演されていますが、藤谷理子さんと福田転球さんはどういうきっかけでお声がけを?

上田: まず、大阪のコメディをやるなら転球さんとやりたいなと思ったんですよ。今回タイミングがあって出てくださることになって。転球さんが出るなら大阪モノだよなって。転球さんがすごいパワフルな人なので、それに拮抗する人も呼びたいと思い、じゃあ若い方でパワフルだったり凛としている方……ということで金丸くんと理子ちゃんに声を掛けました。

――メンバーの皆さんが藤谷さんにメロメロになっているっていう噂を聞いたんですが……。

全員: (口々に「礼儀の正しい子でねえ」「いい子でね」「育ちがいいよね」「バレエを習っていたんだよね」「新世界の人とは真逆だよね」「かわいらしくてねえ」「旅館の娘なんですよね」とベタ褒めの嵐)

上田: 諏訪さんのミュージカル企画 『夢! 鴨川歌合戦』で出演してくれたのですが、「出るべくして出た」という感じでしたね。

永野: ヒロイン感や、一緒にいるときの妹感がありますよね。かわいくてしょうがないですね。

永野宗典

上田: どっちかというと僕らを引っぱってってもらうことになりますね。そして、金丸くんも頼りになりますね。僕らヨーロッパ企画の人間はなんとなくモヤッと演劇を始めた人が多いので…。

永野: あの二人はキャリアの積み方が違うもんね。

上田: 今回の座組みにぴったりなんじゃないかなって。さわやかな風を送り込むという。

■多種多芸なヨーロッパ企画のメンバー……の今後は?

――ヨーロッパ企画の皆さんって、役者・作家にとどまらず、映像クリエイターや企画・構成、アニメーション制作に至るまでなんでもする、制作会社のような集団ですよね。

上田: 東京で仕事をするときは、僕は作家で、役者は役者で、と各人の職業でお仕事させていただいているんですが、京都に戻ると作家をやりながら構成作家もやって映像編集もやって、役者も脚本書いたりDVDのオーサリングをしたり……東京がいろいろなプロが集まるところだとすれば、地方はなんでも自分らでやらないと、という思いでやっています。僕らは初期からそういうスタッフワーク的な部分が発達していった。カメラをまわすことも早くからしてました。出演者と裏方を行ったり来たりする気質があったんです。

――劇団ごと東京進出、という考えを持ったことはないですか?

上田: 集団で動くということはないですね。下北沢の事務所はありますけど京都と行ったり来たりしていますね。京都の環境がよかったりもするので、京都で作って各地に持っていく、というサイクルがいいように思います。

――中川さんだけは、いま東京に住んでいるんですね。先日、監督した映画で賞を獲られて……(※『恋する極道』」で那須国際短編映画祭・那須アワード2015グランプリを受賞)

上田: まあ、もう彼は……。

中川: はい。

上田: 映画でいこうとしている……。

中川: してないしてない(笑)。やばいやばい。

上田誠・中川晴樹・永野宗典

■どうする!?20周年記念公演の行方

――再来年で20周年ですよね。そこに向けて何かしようかなという計画はありますか?

上田: なんとなく節目だからお祭りをやりたい気がしますね。僕ら、新作が好きなので「再演」ってのもほとんどやらないし。

中川: この間、そんな話をしたよね。20周年を踏まえてどんなことをしようかって。

上田: 内緒ですけどいくつか予定はありますね。でも20周年で盛り上がりすぎて21周年がグダグダになるのもねえ。

――いっそ、コメディでなく、ものすごくシリアスな芝居に挑戦するとか?

上田: そうですねえ。盛り上がりがあると盛り下がりもあると思うので、そこらへんをうまくかわしながらね。そういえば30回記念公演『ロベルトの操縦』(2011年)の時もスッとやりましたしね。まあ今回の公演のあとに次回公演もあるし20周年なんてその先ですから。

角田: 30回記念公演のときなんか、僕は、ほぼほぼ関わってなかったですよ。ホログラムで、立ってただけ。実体すら無かった。だから何の思い入れもなかったですよ。

上田: とりあえず、何かはやります。20周年っぽいことは。

本多力・石田剛太・上田誠

――先日上田さんのお父様が亡くなられ、上田さんはもちろんのこと、劇団員の皆さんもショックだったと思います。ご実家の「上田製菓本舗」といえば「ヨーロッパハウス」と呼ばれ、劇団の稽古場であり、制作スタジオであり、心のよりどころだったと伺ってます。

上田: そうなんです。急だったので。今、急激に何かが変わることはないんですが、逆にこれが転機になればとは思っています。ただ、たまたま今回、大阪の下町を舞台にした劇なので、そこにあるお店の要素も入るのかなと考えていた矢先にこういうことが起きて、逆に現実と演劇と距離感が難しいですね。「店を継ぐ継がない」という話を物語に入れようとしてたんですけど。僕が上田製菓を継ぐことはなかったけど、父の死と作品づくりのタイミングがかちあってしまったので、やりづらいなと思うことは正直あります(笑)。

――では最後にお一人ずつメッセージをお願いします。順番に本多さんからどうぞ!

本多: おっさんが一所懸命何かと戦う舞台です。汗かいてるおっさんを見て元気が出ればいいなと思います。何かしらの熱量をいつも以上にお届けできるかなと。

石田: 関西弁でおっさん……とっつきにくいと思われるお客さんもいるかもしれませんが。昔いたなあ、こういうおっさん……子どものころに見た、毎日自転車でどっかに行ってしまうおっさんは、いったい何をしてたんだろう…そんな事を思い出す要素もあると思うので、楽しみにしていただければ。

中川: 公演は一年に一回、今回10か所周ります。お客さんもそうですが、僕らも楽しみにしています。楽しい公演になればと思ってます。

角田: 新世界のあの雰囲気が苦手という人もいるかもしれませんが、いずれは誰もがおっさん・おばさんになるので、線引きをせず、自分が通る道の延長だと思っていただければ。

永野: ヨーロッパ企画の作品は理数系だとかゲームっぽいとか、カチッとしたイメージがあったりするんですが、たまに『月とスイートスポット』(2012年)のように人情的な話があったり「におい」がする作品もあるんです。『ムーミン』(2004年)とかもね。今回はパキッとしてないウェットなものになるのかな。笑い泣きの劇を楽しみにしてもらってもいいんじゃないですかね? ……逆に行っちゃうかもしれませんが、というのもカッコで入れておいてください(笑)。

角田貴志

――では、最後に上田さん……と見せかけて、自分の番が終わって油断している本多さんに二巡目を。

本多: ウハッ!……あのね、運動会でおっさんが頑張って走っている姿っていいですよね。あれはいつか自分も通る道だなと思って……(角ちゃんとカブッてるから!と小声でヤジが)

――では最後は、上田さんにシメていただきましょう。

上田: 今回はほんまにもう徹底的に記号的な芝居を……。

全員: (笑)

永野: 僕の発言、訂正しておいてください。

上田: (笑)これまで企画性コメディシリーズをやり続けて一区切りという段階になりまして。『来てけつかるべき新世界』というタイトルは、そういう思いも踏まえてここから新シリーズに突入する気持ちでいます。もちろんここからも「企画性」は引きずるんですが、ここから新たなフェーズに入り、19年、20年と進んでいこうと思っています。「来てけつかるべき」=「来やがるべき」というタイトル通り、新しい時代は来るので、せっかくなのでこちらからお迎えに行く想いを込めた劇にしようと思っています。『月とスイートスポット』は過去にはりつくような情感ある作品でしたが、今回はそうじゃなく、もう少し前のめりな話にしようと。驚くような仕掛けがある作品にしようと思っていますので、うまくいけば楽しめると思います!

 
ヨーロッパ企画第35回公演『来てけつかるべき新世界』の告知動画も併せてご覧ください↓
 

(取材・文=こむらさき、撮影=大野要介)

公演情報
ヨーロッパ企画第35回公演『来てけつかるべき新世界』

■日時・会場:
栗東プレビュー公演 2016年9月3日(土) 栗東芸術文化会館さきら 中ホール
京都公演 2016年9月8日(木)~11日(日) 京都府立文化芸術会館
東京公演 2016年9月16日(金)~25日(日) 本多劇場
広島公演 2016年9月29日(木) JMSアステールプラザ 中ホール
福岡公演 2016年10月1日(土)、2日(日) 西鉄ホール
大阪公演 2016年10月5日(水)~11日(火) ABCホール
四日市公演 2016年10月15日(土) 四日市市文化会館第2ホール
高知公演 2016年10月21日(金) 高知県立県民文化ホール グリーンホール
横浜公演 2016年10月27日(木)~30日(日) KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
名古屋公演 2016年11月2日(水) 名古屋市東文化小劇場

■作・演出:上田誠
■音楽:キセル
■出演:石田剛太 酒井善史 角田貴志 諏訪雅 土佐和成 中川晴樹 永野宗典 西村直子 本多力
/金丸慎太郎 藤谷理子 福田転球
■公式サイト:http://www.europe-kikaku.com/