極限での愛を描く傑作舞台『BENT』 北村有起哉インタビュー
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北村有起哉
ナチス政権下のドイツの強制収容所を舞台に、同性愛者への迫害の中で、愛と尊厳を守り抜いた男たちの物語『BENT』。この感動的な作品がパルコ・プロデュース公演として、7月9日から世田谷パブリックシアターで上演中だ。(24日まで。のち仙台、広島、福岡あり)
収容所へ連行される中で出会い、やがて愛し合うマックスとホルストを演じるのは、佐々木蔵之介と北村有起哉。パルコ劇場で日本初演となった85年には役所広司・高橋浩治、04年の再演では椎名桔平・遠藤健一など、名だたる俳優たちが演じてきた。この至高の愛の物語に、今、北村有起哉がどんなふうに向き合おうとしているのか。その心境を語ってくれた演劇ぶっく8月号のインタビューを、別バージョンの写真とともにご紹介する。
北村有起哉
演じるべき俳優が演じている作品
──この作品をご覧になったことはありますか?
ベニサン・ピットでのロバート・アラン・アッカーマンさん演出(02年)の公演を観ています。とにかく衝撃でした。
──まさかその戯曲を演じることになるとは?
考えもしなかったです。並大抵な作品じゃないですから。正直、覚悟が要りました。でも出演を決めたあと公演履歴を見る機会があって、それで気合いが入りました。もし10年後とかに、またパルコが上演することがあったとき、この作品は演じるべき俳優が演じているんだなと思ってもらいたいので。
──今回、佐々木蔵之介さんと一緒というのは、出演のモチベーションになりましたか?
もちろん。よくぞ指名してくださったなと。こういう話ですし、後半はほとんど2人芝居に近いのですが、佐々木さんとなら取り組みがいがあります。
──観客としても、待ってましたという並びです。
佐々木さんとはドラマなどでよく共演しているので、一緒に芝居することはどこか当たり前みたいな感じがあるのですが、この作品でというのは、やはり特別なものがありますね。
──衝撃だったという戯曲ですが、改めて読んでみていかがですか?
ホロコーストを扱った作品は色々ありますけど、舞台の戯曲でここまで強制収容所の過酷さを描いているものは他にないんじゃないかと。延々と岩を運ぶという無意味な労働をさせられて、会話も見張られている。その中で2人の愛を表現するのはたいへんだなと。演出の森(新太郎)さんもおっしゃっていたのですが、動きが台本の中で決まっていて、条件的に束縛が多いので、見せ方は相当難しいだろうなと思います。
──その過酷なシーンの中で、2人に通い合う愛が見どころですね。
この作品の素晴らしさは、追い詰められながらも、2人が人間であることを忘れなかったことだと思うんです。大抵の人間は追い詰められると動物のようになってしまう。でも彼らは愛を支えに最後まで人間でいようとする。そんな2人を佐々木さんと演じられるのは、とても幸せだなと思います。
北村有起哉
わからないところは「わからない」と
──北村さんの演じるホルストについては、キャラクターはどんなふうに捉えていますか?
信念がある人だなと。僕が演劇に少なからず誇りを持っていて、演劇にはすごい可能性があると思っているように、ホルストは、いつか平等になる、ゲイだからといって恥ずかしがることではないと思っている。もちろん葛藤はありつつ信念を持っていると思います。でも、だからといって生き物として生命力があるかというとそうではなくて、マックスのように器用に、したたかに生きられる人間のほうが生命力はあるわけです。ホルストはマックスのそういう部分を許せないんですけど、体力が落ちていくと信念が揺らいだりする。そのへんも人間的だなと思います。
──森新太郎さんの演出は?
初めてです。この何年か観ていて、ずっと一緒にやりたいなと思っていました。舞台を観ていると、演出家と俳優が本当に良い関係なんだろうなと感じるんです。俳優にやらされている感がない。森さんのやりたいことの意味が全員に行き渡っているから、舞台空間が非常に濃密に見える。いい意味で相当しつこいんだろうなと(笑)、思っていました。
──実際に稽古が始まって、しつこいですか?
(笑)まだ本読みの段階なので、あまりわからないのですが、一語一語掘り下げていく人だなと。とくに新訳なので、言葉の解釈は丁寧に読み解いています。その本読みの時、佐々木さんは改めて信頼できるなと思ったんですが、わからないところは「わからない」とちゃんと口にするんです。僕も同じなので、今回も英語のニュアンスなど、「どっちなんだろうな」と一緒に考えたりしています。そういう佐々木さんの姿勢は、共演の若い役者さんたちにも良い影響があって、わからないと言っていいんだ、恥ずかしくないんだと、伸び伸びさせるんです。
北村有起哉
深くて重い溜息で「やるしかないんだろうな」
──北村さんは映像に舞台に活躍が広がっていますが、改めて、この『BENT』と出会ったことで感じていることは?
もっと若い頃、20代とかでしたらたぶん勢いでやってしまったと思うんです。40を超えて、舞台も恵まれて色々やってきて、だからこそこの舞台がきた時、深くて重い溜息をついて「やるしかないんだろうな」と。ある宿命を感じたというか、すごく光栄だなと思いながらも、本当に心してやらなければいけないなと。自分にとって確実にターニングポイントになる作品ですから。今の年齢からざっくり数えてあと30年、だんだんおっさんになって需要が少なくなっていくはずで、そんな時にきたすごい壁だからこそ、ちゃんと乗り越えて、これからまた違う風景が見えるようにしなくてはと思っています。
──さらに自分に負荷をかけ続けていくという感じですか?
そうですね。演出も森さんだから、新しい何かをきっと引き出していただけると思うので、とにかくやるしかないです。
──最後に観にきてくださる方たちに一言。
演劇を好きな方ならよく知っている作品ですし、逆に初めて観る方も沢山いらっしゃるでしょう。でも、どんな方にも感動を与えられると思っています。悲劇的な話ではありますが、一筋の希望の光を感じられるはずなので、その光をきちんと伝えられるように、と思っています。
北村有起哉
※この公演の舞台写真とレビューはこちら http://kangekiyoho.blog.jp/archives/52002718.html
パルコ・プロデュース『BENT』