力強く美しい名曲の数々に浸れる、美輪明宏の音楽会 2016年のテーマは“生きる”

2016.8.2
インタビュー
音楽
舞台

美輪明宏 撮影:御堂義乗

新たなプログラムということでは東京では2年ぶりとなる、美輪明宏のリサイタル。これまではロマンティックな抒情歌やシャンソンなどを中心に、時には時勢をチクリと刺す社会派の曲なども盛り込みながら選曲を行ってきたが、今年はどうやら人間が〝生きる″意味をじっくりと考えさせられる音楽会になる模様だ。どのような想いで曲を選び、ステージへと向かうのか。今回ももちろん衣裳や舞台美術などのステージングも自ら手掛けるという美輪に、今年の構成についてたっぷりと語っていただいた。



――東京では2年ぶりのリサイタルなので、皆さん待望の新プログラムだと思いますが。

そんな、新プログラムというほどのことでもございません。ただ、タイトルは『ロマンティック音楽会』、『生きる』にしようかと思っているんです。だってこの地球上の動植物すべてが、みんな生きようとしているわけでしょう。人間だって同じ、なんとか生きようと必死でがんばっている。サラリーマンも、子供を保育園に入れられなくて困っている主婦の方々の想いも切実です。わたくしも全国をコンサートや講演会でまわりながら、お客様のお話をうかがったりお手紙をいただいたりしているんですが、みなさん本当に心の安寧を求めていらっしゃいます。

だけど、最近の音楽ってほとんどメロディーがなく、リズムも同じでポップな歌ばかりだし、歌詞もツイッターのつぶやきがそのまま曲になっているようなもの。昔の曲はとてもきれいな高低のあるメロディーでできていたけれど、今はみんなフラットです。でも、最近のユーザーは実は昔のような美しいメロディーを求めているんです。つまり提供する側と享受する側の乖離ができてきた。ですからわたくしはたとえ古臭いと言われようと、そのズレを埋めたいなと思うんです。若い人たちにはそれが逆に新しいものに思えるみたいです。
 

――では今年も、メロディーが美しい曲をたくさん聴かせていただけそうですね。

そのつもりです。それと、わたくしはこども向けのテレビ番組が大好きなんですね。健全で、優しい気持ちでいられるので。そうしたら『にほんごであそぼ』の斎藤孝さんから「手伝ってくれませんか」と言われて、番組で和歌を詠むことになり、わたくしは太陽の姿で、“みわサン”という名前で参加させていただいているんです。それで今回は明治時代の歌も一曲入れてみようかと考えております。
 

――たとえばどんな曲を?

抒情的な秋の唄で三木露風の詩、本居長世の曲「白月」をと思っています。あと、今の若い人たちの役に立てるような構成のコンサートにしたいなとも考えています。たとえば日々辛い思いをしているサラリーマンの方々のためには、ただ一緒になって落ち込むのではなく、日本ならではの独特のユーモアで自分たちをからかってホッとできるような歌として「四十(しじゅう)なんて嫌(や)だよ」を。
 

――コミカルですけれど、歌詞をよく聴くとなかなか辛い内容ですよね(笑)。

これが流行って、カラオケでサラリーマンが大合唱してくれればいいですけれど。また、その奥さん方のほうも一揆とかストライキでも起こして、政府に詰めよって噛みつけばいいと思うんです。でもそういう奥さんたちのこともそのままでは歌にならないので、サラリーマンの歌と同じようにカリカチュアライズして、主婦を讃える歌を作ったんです。「愛の讃歌」ならぬ主婦讃歌で、タイトルは「昼メロ人生」。この曲を聴くとお客さんはよく泣き笑いされます。
 

――笑いながら聴いていたはずが、なんだか胸が痛くなります(笑)。

それが「生きる」ということなんです(笑)。あと、ここのところは「ヨイトマケの唄」をずっと続けて歌ってきたので、今年はやめようかしらとも思ったのですけれど、昔からの友人と話している時にそのことを伝えたら「『ヨイトマケの唄』を削ったらあなたに何が残るのよ!」って言われてしまいました。ふふふふ。口の悪い友人なんです、でもこれが面白い人なの。
 

――お客様は「ヨイトマケの唄」、まだまだ聴きたがっていると思いますよ。

そうね、やはり今だって泥まみれ汗まみれで働いていらっしゃる方々のためにも、欠かせない曲かもしれません。それと第一部の最後には「愛の贈り物」という曲を歌おうと思っています。これはそもそも、ブロードウェイの舞台のプロデューサーをやっていた知り合いから依頼を受けてつくった曲なんですけれど、身体障がい者の純愛をテーマにした作品でね。ですが、稽古の最中に主役の方も相手役の女性も、そしてプロデューサーまでエイズで亡くなってしまって、結局このミュージカルは上演されないまま譜面が戻されてきたんです。それで改めてわたくしが一曲にまとめて作詞を行いました。
 

――内容はシビアでも、とても幸せな気持ちが味わえる曲ですよね。

そしてカーテンコールもいつもは「花」か「愛の讃歌」を歌っていましたけれど、今回は「愛の讃歌」ではなく久しぶりに「老女優は去りゆく」にしようかしらと思っております。
 

――あの曲も、熱烈なファンがかなり多そうです。

自分じゃあまりピンときていないんですが、確かに「老女優は去りゆく」はあちこちで「ぜひ聴きたい」と言われます。わたくしがこれを唄うにはまだ若過ぎるんですけどね(笑)。
 

――美輪さんが歌われる曲には、歌詞を聴ける喜びがいつもあります。

そういうことが今の世の中、一番必要なんです。ですからきっと、わたくしのコンサートに来た方はみなさん、情緒のほうの栄養補給になると思います。
 

――音楽会に来られたお客様たちのささくれだった心が鎮まっていく様子は、歌っていても感じられるものですか。

“気”が、途中で変わるんです。薄いピンク色になるのね、客席の空気が。
 

――最初は汚い色なんですか。

グレーなんだけれど、ちょっと藍色がかった、むらのあるような色なんです。
 

――その、どんよりしていた気が、薄いピンクに。

まず、普通の透明な空気の色に変わっていくんです。でも深く悩んでいたり、個人的にいろいろな問題を抱えている人のところはなかなか色が抜けていかないようです。
 

――人によって、それぞれ色の変わり具合も違うんですね。

でもそれが、やがてふわーっと同じ色になって、しまいには綺麗な淡いピンク色になるんです。それは歌う時だけじゃなくて、講演会でも同じ。なんとかしてみなさんのお役に立ちたいというわたくしの想いが伝わるんでしょう。あと、これはどことは言えませんが、とある古い劇場で先日ビックリしたことがあって。あれは長い人生でも初めてのことでした。

カーテンコールで「花」を歌っていた時、客席のど真ん中から、ものすごく太い胴体の赤黒い蛇みたいなものがうねりながら昇っていくのが見えたんです。それで「きっとここ、昔は沼か池だったんだと思うわ。そこの主が成仏して出てったみたいだからちょっと聞いてみてちょうだい」って、プロデューサーに頼んで聞きにいってもらったら、まさに劇場の人たちが「ろくなことがないから、お祓いしてもらおうか」って話をちょうどしていたところだったんですって。案の定、そこは昔は池で、ちゃんとお祓いもしないまま埋めていたようです。
 

――美輪さんはコンサートと一緒にお祓いもしてしまうんですね(笑)。

 ふふふ。そうなの、面白いでしょう(笑)。
 

公演情報
美輪明宏/ロマンティック音楽会2016

構成・演出・出演 :美輪明宏
演奏:セルジュ染井アンサンブル
 
■2016年9月10日(土)~25日(日)
東京芸術劇場 プレイハウス (東京都)


■2016年10月1日(土)
東京エレクトロンホール宮城 (宮城県)

■2016年10月11日(火)
愛知県芸術劇場大ホール (愛知県)

■2016年11月19日(土)
習志野文化ホール (千葉県)

■2016年11月22日(火)
福岡市民会館 大ホール (福岡県)

■2016年11月26日(土)
さいたま市文化センター 大ホール (埼玉県)

■2016年12月3日(土)
府中の森芸術劇場 どりーむホール (東京都)

■2017年1月28日(土)
相模女子大学グリーンホール 大ホール (神奈川県)

■2017年2月28日(火)
神奈川県民ホール 大ホール (神奈川県)
 

 

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