竹中直人が一途な“倉持愛”を語る!直人と倉持の会 vol.2『磁場』インタビュー
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俳優・竹中直人と劇作家/演出家の倉持裕。演劇ファンなら思わず頬が緩む贅沢な顔ぶれによる演劇ユニット「直人と倉持の会」が3年ぶりに劇場に帰ってくる。第2弾『磁場』は、あるホテルの一室を舞台にした心理サスペンス劇だ。中心となるのは、売り出し中の若い作家と映画の出資者である男。出資者は作家の才能に多大な「期待」を寄せ、その過剰な「期待」に応えるべく奮闘する作家は、やがて常軌を逸していく――そんなスリリングな密室劇に、竹中、渡部豪太、大空祐飛、長谷川朝晴、黒田大輔、玉置孝匡、菅原永二、田口トモロヲという豪華なキャスト陣が挑む。
――3年ぶりの「直人と倉持の会」ですが、今のお気持ちは?
竹中:とても楽しみです。僕は本多劇場が好きで、倉持さんとまた本多劇場でやれるのが本当に楽しみ。本人を前にして言うのも照れますが、倉持さんの演出は受けているだけで楽しいんです。倉持演出の雰囲気というか、倉持さんの醸し出す空気感というか、そういうもの全部ひっくるめてもうたまらない。僕はこの人と思ったらもうその人にずっとこだわっていきたい。(「竹中直人の会」でタッグを組んでいた)岩松(了)さんから離れて以来とても寂しかったんですが、そこに倉持さんが現れて、今はもう倉持さん一筋です(笑)。
倉持:僕も嬉しいですよ。竹中さんと生瀬(勝久)さんでやっている「竹生企画」とはまた違う感覚があるんですよね。言い方はアレかもしれないですけど、「直人と倉持の会」って「竹生企画」より商業的じゃないところがある。よりインディペンデントというか、僕も小劇場出身だから、そういう感覚の方が自分の本質に近いのかもしれません。ある種、ちょっと臆するくらい華やかな「竹生企画」に対して、「直人と倉持の会」はもう少し地に足をつけて関われる感じがします。もしかしたらそれは劇場が本多っていうところが大きいのかもしれませんけど。
――やはりおふたりにとって本多劇場には特別な親しみが?
倉持:第1弾のときから竹中さんが「本多でやりたい」って言ってて。「竹生企画」のときも日比谷で芝居が終わってから、わざわざ下北で飲んだりしてました(笑)。
――前作『夜更かしの女たち』は駅の待合室を舞台にした女たちのミステリー。竹中さんが「こんなのをやりたい」と倉持さんにアイデアを持ち寄ったところから企画がスタートしたと聞いています。今回の着想のきっかけは?
倉持:もともとよくふたりで映画を観た後に食事をしながら感想を言い合って、「次はあんなのがやりたいね」みたいな話はよくしていたんですね。それで、あるとき、『フォックスキャッチャー』という映画を竹中さんが勧めてくださって。見たら本当に面白かった。ああいう男の関係っていいなあって思って、そこからこのお話のベースが生まれました。
竹中:『フォックスキャッチャー』はあの空気感がたまらなくて、2回も劇場に観に行きました。倉持さんもとても気に入ってくれて、「こういう世界観がいいですよね」ってふたりで話したりしました。ただ、内容に関してはもう全部倉持さんにお任せしています。きっと倉持さんなら面白いものを書いてくださるだろうに違いありません。
――それだけ愛してやまない倉持作品の魅力を改めて語ると、どんなところですか?
竹中:僕は評論家じゃないのでわからないですが、全体的な空気が観ていてとても興奮するんです。初めて観たのは、ともさかりえさんが出ていた『まどろみ』。それを観てもう痺れちゃって。岩松さんのときもそうだったんです。東京乾電池でやっていた『蒲団と達磨』を観て、「なんだろうこの世界は」って衝撃を受けました。岩松さんにしても、倉持さんにしても、あの独特の世界観が好きなんです。僕にとっての演劇はあの人ともこの人ともというふうにはなかなかいかない。今はとにかく倉持さんとあと10年はやっていきたいっていう思いです。
――倉持さんはこの「直人と倉持の会」だから見せたい竹中直人というのはありますか?
倉持:作品によって違いますけど、今回に関しては竹中さんが怖い役をやっているのを描きたいなっていうのはあります。竹中さんが演じるのは映画の出資者。彼が作家に過剰な期待を送って全力で守ろうとするんだけど、そのうち作家もいい作品を書くことより出資者を喜ばせることだけに躍起になっていって…というストーリーになります。
――「過剰な期待」にフォーカスを当てようと思った理由は?
倉持:僕も脚本家だから、そこに身に覚えがある者としてリアルに書けるなっていうのはありますね。あとは、発想のもとになった『フォックスキャッチャー』とかコーエン兄弟の『バートン・フィンク』が好きで、何かそういう舞台を書いてみたかったというのが大きいと思います。期待に応えなきゃって思うあまり、狂気に陥る姿が面白いな、と。
――期待って、悪意から出発しているものではない分、一層タチが悪いところはあるかもしれませんね。
倉持:そうですね。悪意ではないけど、何だろう、みんなが個人的になっちゃうんでしょうかね。人のためっていうよりも、期待している自分に夢中になるというか、自己中心的になっちゃうというか。だからこそお互いに狂気を感じられるんだと思います。
――キャスティングに関しては、今回も竹中さんがお選びになったんですか。
竹中:今回、僕から提案させていただいたのは、渡部豪太くんと田口トモロヲさんのおふたりです。渡部くんとは映画(『海難1890』)でご一緒したことがあって。一緒のシーンはなかったのですが、僕がロケ先のホテルのロビーに座っていたら渡部くんが「初めまして」ってご挨拶してくれて。そのときの感じがとても良かったんですね。それで、口説きました。トモロヲさんは同世代。今まで何度か一緒にやってきて、また久しぶりにトモロヲさんとご一緒できたらと思いました。
倉持:前回は女性ばかりの座組みの中で浜野(謙太)さんがいて。今回は正反対で、男ばかりの座組みの中に女性がひとり。唯一の女性キャストが、大空祐飛さんです。大空さんには、作家が脚本を書いている映画に出演予定の女優を演じてもらいます。
竹中:もうとてもお美しい方で。今日、パンフレット撮影で初めてお会いしたのですが、もうご挨拶だけで精一杯でした。「今回はよろしくな」なんて肩を抱いたりできません。ってそんな人はいないかな(笑)。「お綺麗ですね」とか恥ずかしくて言えない。やってみたかったですけどね(笑)。今回は初めてご一緒する方が多いです。みんなで集合写真を撮ったりしながら、いい現場になりそうだって予感が自然と沸いてきました。もう何年も仕事をしていると、直感的にそういうのはわかるような気がします。生瀬くんと初めてやったときはものすごい緊張しました、「どうしよう、生瀬くん怖そうだなぁ」って。実際は怖くなかったですがね(笑)。今回は大丈夫そうです(笑)。
――今回は、本多以外にも大阪、島根、愛知、神奈川と各地をまわります。
竹中:旅公演は好きですね。それはやっぱり移動する楽しみというのがあるのかもしれない。新幹線で一緒になったり、ぞろぞろ移動したり、街を散歩したり、そういうのが楽しいんですよ。何だか修学旅行みたいというか。僕が中学高校の頃は協調性のない生徒だったので、指定のコースをまわらず迷子になって、集合時間に遅れて先生によく殴られていました(笑)。仲のいいヤツだけでぶらぶらと歩いているような、そういう感覚が好きなのかな。
――きっと全国のお客さんも待っていると思います。心理サスペンス劇とありますが、やはり見終ったあとはちょっとゾクリとするような作品になりそうですか。
倉持:そうですね。人間に対する怖さというものが浮かび上がる舞台になるんじゃないかと思います。きっと社会人の方なら誰かの期待に応えなきゃっていう気持ちは身に覚えがあると思うんです。職種に関わらず、誰しもがゾクリとしながらも共感できる、そんな作品にできれば。
1956年3月20日生まれ。神奈川県出身。77年、多摩美の学生時代、『ぎんざNOW!』 (TBS系)の 「素人コメディアン道場」 で第18代チャンピオンに輝く。その後、『TVジョッキー』 (日本テレビ系) の素人参加コーナーで一気に注目され、「笑いながら怒る人」 の芸は全国区で衝撃を与えた。83年、『ザ・テレビ演芸』 (テレビ朝日系) の 「飛び出せ!笑いのニュースター」 に出場、グランドチャンピオンになり芸能界デビュー。96年にはNHK大河ドラマ『秀吉』で主人公を熱演、大ヒットを記録した。演劇活動としては、78年、「青年座」に入団。90年に退団。その後、劇作家の岩松了と「竹中直人の会」を開始。『月光のつゝしみ』『水の戯れ』など多くの名作を残す。04年より本人演出による「竹中直人の匙かげん」を開始。11年からは俳優・生瀬勝久との演劇ユニット「竹生企画」も展開している。
倉持 裕(くらもち・ゆたか)
1972年10月15生まれ。神奈川県出身。96年、戸田昌宏、谷川昭一朗とともに演劇ユニット「プリセタ」を旗揚げ。演劇活動を開始する。00年に、劇団「ペンギンプルペイルパイルズ」を旗揚げ。主宰として全作品の作・演出を手がける。04年、「ワンマン・ ショー」で第48回岸田國士戯曲賞を受賞した。以降、幅広く活躍し、『鎌塚氏』シリーズなど話題作を手がけるほか、『乱鶯』で初めて劇団☆新感線に脚本を提供。NHKコント番組『LIFE!~人生に捧げるコント~』でも脚本を提供するなど活躍の場を一層広げている。16年9月には作・演出を務める『家族の基礎~大道寺家の人々~』の上演が控える。