『おそ松さん』は何故人気なのか ~「奇抜」なだけで終わらせない、積み重ねが素晴らしい~
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『おそ松さん』公式サイトよりキャプチャー引用 出典 osomatsusan.com
2015年、おそらく最も話題になったアニメ、『おそ松さん』。
赤塚不二夫の作品『おそ松くん』を原作としたこの作品は、赤塚作品特有の不条理ギャグを引き継ぎつつも、放送コードのギリギリを攻めるパロディや、六つ子全員ダメ人間等といった、現代的なギャグ要素を用いることにより、さらに「奇抜」な作品へと昇華。まさに赤塚不二夫生誕80周年にふさわしい作品として、世に生み出されました。
その人気は凄まじく、放送期間中『おそ松さん』の話題を耳にしない日は存在しないのではないかというほど。放送終了からしばらくたった現在では、さすがに当時ほどの勢いはありませんが、それでも数々のグッズや企画が生み出され続けています。
さて、そんな大人気アニメの『おそ松さん』ですが、一体なぜ、どのようにしてこれほどの人気を集めるに至ったのでしょうか。作品が持つ「奇抜さ」だけでは、とうてい説明できない程の異様な人気。それをなぜ、『おそ松さん』が得るに至ったのか?こちらではそんな『おそ松さん』人気の秘訣に迫り、核心へと触れる為に、考察していきたいと思います。
『おそ松さん』公式サイトよりキャプチャー引用 出典 osomatsusan.com
●『おそ松さん』は速くて広い? ~「奇抜」な要素で隠された、『おそ松さん』人気の方向性~
『おそ松さん』(おそまつさん)は、2015年10月から2016年3月までテレビ東京、テレビ大阪、テレビ愛知、AT-X、BSジャパンにて放送されたテレビアニメである。
また、赤塚不二夫の漫画の『おそ松くん』を原作としたテレビアニメとしては第3作にあたる。
1988年に放映されたテレビアニメ第2作『おそ松くん』以来、約27年ぶりのテレビアニメであり、初の深夜アニメとしての放送となった。「おそ松さん」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』より。
2016年8月26日 (金) 04:13 UTC
さて、この話題に着手する前に、1つ明確にしておかなければならないことがあります。それは、『おそ松さん』人気とは、一体どのようなものなのか、ということです。
「放送コードギリギリのパロディ」、「人気イケメン声優による楽しげな演技」、「ダメ人間設定を用いることによる、普通のイケメン設定にはない共感のしやすさ」、「危険色等をふんだんに用いる画面のハデさ」……
皆さま数多くの理由が思い浮かぶと思いますが、ここで考察していきたいのはそういった”要素“ではなく”方向性“の部分。2015年アニメの話題を、さらいにさらった『おそ松さん』。人気なのは言わずもがなですが、それはいったいどのような人気なのでしょうか。一体どれほどの規模であるのか。また、話題になるまでの動きはどのような作品に近いのか。
まずはそんな「奇抜」な要素で隠された、『おそ松さん』人気の”方向性“について考えていきたいと思います。
『おそ松さん』人気の方向性1 ~メインターゲットは女性。しかし、男性からの評価も高い~
『おそ松さん』のメインターゲットは言うまでもなく女性です。これは当然、制作段階で決められていたことで、それは松野兄弟の声にイケメン声優と名高い人たちを起用したところから窺えます。
実際、放送前の『おそ松さん』に対する周囲の反応は、その豪華声優に対する女性の声がほとんどでした。つまり、放送前まで『おそ松さん』は男性から注目されていなかったわけです。では『おそ松さん』は完全な女性向けアニメだったのでしょうか?
いいえ、そんなことはありません。放送が開始されると『おそ松さん』、意外にも男性からも高評価。ネット上や、Twitterでも男性が『おそ松さん』について好意的な呟やきしているのを頻繁に見かけることに。
それもそのはず、『おそ松さん』の監督は、有名な少年漫画を原作としたアニメ『銀魂』の監督でもある、藤田陽一氏。勢いだけではない、コントのようなギャグなどといった、男性が好むギャグも当然心得ています。結果として、『おそ松さん』は”女性をメインターゲットにしつつも、男性にも受け入れられる“そのような人気の方向性を確立したのです。
『おそ松さん』人気の方向性2 ~話題になるまでが非常に早く、また拡散範囲も広い~
アニメだけに限定せず、物事が話題になる速度には、極端に2つのパターンがあります。
1つは、純粋に質の高さでもって、少しずつ話題になっていく、「遅い」パターン。『新世紀エヴァンゲリオン』や『機動戦士ガンダム』等といった、徐々に話題になり、長い間人気作品として認知された作品です。こちらのパターンは話題になるのに時間がかかる一方、一度話題になってしまえば、十数年にわたって愛される傾向にあります。
もう1つは、ある種の起爆剤のような”目を惹く何か“を用いて瞬間的に話題になる、「速い」パターン。『ひぐらしのなく頃に』や『魔法少女まどか・マギカ』等といった、衝撃的な展開、設定で話題となった作品です。こちらのパターンは話題にされるのに時間がかからない一方、話題は一時的な物で、数年で飽きられてしまう傾向にあります。
どちらも一長一短であり、一概にどちらの方が優れているとは言えませんが、”目を惹く第1話“でもって話題になった『おそ松さん』は間違いなく後者の「速い」パターンだと言えます。これは近年話題になったアニメとしては割と普通(というのも、「遅い」パターンは時間が立たないと、そもそも認知されないため)のパターンです。
ですがもう一つ、拡散範囲については話が変わってきます。
こちらも極端に2つのパターンがあり、1つは、一部の人たちが非常に熱狂する「狭く深い」パターン。もう1つは、多くの人たちが熱狂する「広く浅い」パターンです。こちらについても一長一短であり、一概にどちらの方が優れているとは言えませんが、基本的にアニメが話題になる場合は、前者の「狭く深い」パターンになります。
と言うのも、アニメは昔と比べて広く受け入れられつつあるものの、未だに他コンテンツと比べるとその範囲には隔たりがあります。無論その分勢いがあると言えますが、アニメが話題になる場合は、一部の人たちが非常に熱狂する「狭く深い」パターン以外にはなりにくいのです。しかし『おそ松さん』は、なぜか他の話題になったアニメと比べて、広い範囲で話題になりました。
その拡散具合はSNS等を視れば一目瞭然、他の話題になったアニメと比べてみても、かなり広い範囲で話題になっているのが窺えます。
この他にも、5000枚売れれば成功、10000枚売れれば大成功と呼ばれる現代の円盤事情。
その中でも、男性向けと比べると売り上げが伸びにくい傾向にある女性向けアニメでありながら、初動でDVD約43000枚、BD約36000枚を売り上げ、累計11万枚を突破した(オリコンスタイル調べ)ことからも『おそ松さん』がどれだけ広い範囲で話題になっているのかが分かります
このように、『おそ松さん』は近年話題になった他のアニメと同じく、「速い」タイプでありつつも、アニメでは珍しい「広い」タイプの作品でもあるのです。
『おそ松さん』公式サイトよりキャプチャー引用 出典 osomatsusan.com
●毒を吐かれながらも愛される ~『おそ松さん』というコンテンツの在り方~
では、前項の『おそ松さん』人気の”方向性“から、より核心に近い部分、「なぜ、どのようにしてこれほどの人気を集めるに至ったのか」を考察してしていきましょう。前項で導き出された、『おそ松さん』人気の方向性は2つ。
1つは、「男性も受け入れられる女性向け作品」という方向性。
もう1つは、「速く、広く話題になるタイプの作品」という方向性。
女性向け作品でありながら男性からの評価も高く、アニメというジャンルでありながら、ヲタクではないの人達にも話題になっている。「奇抜」という言葉をアニメを用いて表現したかのような作品でありながら、『おそ松さん』は裏でこれら二つの方向性を見事、確立させました。これは要約してしまえば、「通常の話題になった作品よりも、より広い範囲に作品を受け入れさせた」ということ。
つまり『おそ松さん』がこれほどの人気を集めるに至った理由は、「通常の話題になった作品よりも、より広い範囲に作品を受け入れさせた」からということになのです。
無論『おそ松さん』とてアンチが全く存在しない「完全な作品」というわけではありません。むしろ見方によっては普通よりもアンチが多い作品ともとることが出来るかもしれません。ですがその分、他の話題になったどの作品よりも、広く愛されているのではないでしょうか。
「毒を吐かれながらも愛される」
『おそ松さん』というコンテンツの在り方とは、そのようなものなのです。
さて、ここまでで『おそ松さん』が人気である理由が、「通常の話題になった作品よりも、より広い範囲に作品を受け入れさせた」からということがわかりました。ですので最後に、核心部分について考察していきましょう。一体『おそ松さん』は、どのようにして、これらの方向性を確立させたのでしょうか。
『おそ松さん』公式サイトよりキャプチャー引用 出典 osomatsusan.com
●制作スタッフの真摯な試み ~「奇抜」なだけで終わらせない、積み重ねが素晴らしい~
『おそ松さん』は数多くの「奇抜」な要素で作られており、その裏では「より広く受け入れられる」為の方向性が存在しています。では、その方向性は一体どのようにして確立しているのでしょうか?これには以下のような、「奇抜」な要素の中に隠された、視聴者に対する真摯な試みが深く関係しています。
・キャラクターのイケメン化とギャップ
『おそ松くん』のキャラクターをイケメン化し、さらにデフォルメに戻す。これは一見、ヲタク女性へのアピールに見えますが、以外にも一般層の女性へ向けた要素だったりします。一般層の女性が嫌悪感を持ちやすい要素をデフォルメ化することで、入り込みやすい土台を作り出したのです。もちろん、デフォルメに戻すことで生み出されるギャップ的な人気を得ることにも繋がっています。
・視聴者に合わせて試される様々な試み
こちらも広い層に受け入れられる為の要素の一つ。一話一話を二部に分割し、各々で需要先の違う話を展開したり、視聴者の創造を喚起する描写を描いたエンドカードを毎回置いたり。まさしく、視聴者に合わせて作られた作品とでもいうかのような試みと努力の数々は、確かにファンの方々に届いているでしょう。
・誰でも知っている元作品と、それに対するリスペクト
おそらくこちらも重要な要素の一つ。誰もが知っている名作『おそ松くん』。それをもとに作られた作品でなければ、さすがにここまでの速度と範囲で『おそ松さん』認知されることはなかったでしょう。要所要所に挟まれる、リスペクトを感じられる部分もそれに一役買っているように思えます。
・メディア展開とその豊富さ
おそらくは初めから、ある程度売れることを前提とした自信のあるメディア展開。広告塔としての役割も果たすグッズの数々は、売り上げを伸ばし、認知されるきっかけとしての役割を果たしています。
いかがでしたでしょうか。
これらの細やかな、しかし欠けることの許されない積み重ねの結果が、強烈なインパクトの中に、普通の人でも乗っかりやすい流れを生みだしました。まさしく「奇抜」と形容するにふさわしい作品である『おそ松さん』。そんな『おそ松さん』が「奇抜」なだけの作品で終わず、ここまでのコンテンツになった背景には、それを成立させる為の数多くの仕掛けが存在したのです。