SHADOWSインタビュー FACTからの「今」とその衝動と張り詰めた音像に迫る。
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SHADOWS
今年のPUNK SPRINGに突如としてラインナップされたSHADOWSというバンド。彼らは元FACTのKazuki、Takahiro、Hiroによる新たなバンドだった。衝撃とともにシーンにかえってきた彼らが、今何を思うのか。そしてFACTの頃と今では何が違い、これから何をしようとしているのかを直撃した。
──まずは、この3人でSHADOWSを始めることになった経緯からお聞きしたいです。
Kazuki:FACTの解散が決まった後に、どうしようかなと。自分の人生のだいたい半分ぐらいやっていたものがなくなってしまうというのは、やっぱりすげえ不安な気持ちになったし、バンドをやっていない自分が本当にイメージできなかったんですよね。そういうことをバンドをやっている仲間とかに話したら、みんなからバンドをやっていないのが想像できないって言われたんです。それが俺としては、自分の気持ちを代弁してくれているような感じもあったんですけど。それですぐにバンドやろうってなったんです。Takahiroとはずっと一緒に曲を作ってたんで、自然な流れでなんかやるかっていう。
Takahiro:俺らは曲の作り方が結構独特なんですよ。だから個人的には他の人と組むのは難しいなって思ってたのもあって。
──いつもどうやって曲を作ってるんですか?
Takahiro:コードがわからないんですよ、俺ら。
Kazuki:うん。
Takahiro:だから“こうやって弾いて”とか“こういうのどう?”みたいな感じで進めていくんで、コード名を言われてもよくわかんなくて。
Kazuki:基本まずギターのリフを作って、それを広げていく感じなんで。そこから一緒にやることになったけど、じゃあ誰に歌わせるか?ってなったときに、Hiroかなって。
Hiro:解散が決まってから日が経つにつれて、そのことを少しずつ実感しながら、どうしようかなって個人個人が考えていたと思うんです。俺としては、FACTが終わることになって、フラットな状況で考えたときにまた音楽をやろうと思えた人なんですよね。だからその話が出たときは、やりましょうって。
Kazuki:あと、俺ら3人はガキの頃からずっと音楽を一緒にやってて、初めてバンドをやったのもこの3人だったんですよ。だから自然な感じでこうなったところもありますね。
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──こういう音楽をやろうっていうバンドの全体像みたいなものは考えていたんですか?
Kazuki:全然なかったです。そこが今までと一番違ったかも。それまでは“こんな感じの曲がやりたい”って決めてたけど、本当に“ただバンドがしたい”っていうだけだったし、それが一番大事だったんで。
Takahiro:コンセプトみたいなものはなかったんで、曲を作るときのテーマも「速い曲」とか「遅い曲」とか(笑)。
Kazuki:「速い」「遅い」「暗い」「明るい」ぐらい(笑)。
Hiro:ただ、その「速い曲」っていうのも、人によってイメージがいろいろあるけど、俺らは昔から一緒にいるのもあって、なんとなく意思疎通ができてるんですよね。「速い曲」って言われたら、たぶんこんな感じだろうなって。
Takahiro:それはあるかも。
Hiro:そういったこの3人でしかわからない感覚とかルーツとかも含めて、それが自然とサウンドに繋がっている感じはしてます。
──ファーストアイテムの『Extrance』はライブレコーディングという形で制作されましたが、なぜあの方法をとったんですか?
Takahiro:俺らとしては早く動きたかったんですよ。
Kazuki:とにかく何かを作りたくて。映像としても音源としても、一番短時間で終わるやり方、残せるやり方のひとつがあの形だったんですよね。今でこそYouTubeで簡単に世の中に発信できるし、パソコンでレコーディングしてもそこそこのクオリティのものが簡単にできるけど、俺らが初めてバンドをやったときは違いましたね。それこそスタジオに置いてあるデッキにカセットテープを入れて、スタジオのマイクで一発撮りしたやつをレコード会社に送ったりしてたんですよね。『Extrance』は、それの今バージョンというか。今は協力してくれる人もたくさんいるし、こういった環境でできるからデモ音源ではないんだけど、俺らはとりあえずこういうバンドだっていう名刺代わりの一発目みたいな。
Hiro:ライブレコーディングだし、いろいろと荒削りな部分もあるんだけど、やると決めたからには進んで行こうという気持ちがあるし、そういった勢いとかも含めて表現できたと思います。
Takahiro:余談なんですけど、サポートしてくれたwaterweedの大賀とコイちゃんとは、2回しかスタジオに入ってないです(笑)。
Kazuki:焦っていたわけではないんですけど、とにかく早く一手を出したかったんですよ。
Takahiro:2人には感謝してますね。
──今回リリースされる『Progress』が初のスタジオ作品になるわけですけど、資料に「90'sリバイバル」「New Melodic Hardcore」というワードがあったんですが、そこに向けて作っていったわけでもなかったんですか?
Kazuki:そうですね。あれはレーベルとか周りの人達が、曲を聴いて感じたことから考えてくれたキャッチフレーズであって。そこを意識しなくても、俺らは90年代に音楽を好きになってバンドを始めたから、リバイバルというよりは俺らの根本に確実にあるのが90年代の音楽なんです。基本的にはそれに対してアップデートとかをしているわけで。だから、今回は本当にナチュラルというか、バンドがしたいなっていう気持ちで作ったらこうなった感じですね。なかには、その日の天気と気分で生まれてきた曲もあるし。
Takahiro:「Progress」のオケはそうだったね。
Kazuki:その日がすげえ晴れてたんですよ。“天気いいね”なんてTakahiroと話してて。でもこんなに天気いいのに、曲ができねえってひきこもって、俺ら何やってんだろうな?って(笑)。
Takahiro:だから、なんかちょっと気が抜けた感じがあるっていうか。
──気だるさみたいなものもありますよね。今作でNIRVANAの「Tourette's」をカバーされてますけど、この曲(「Progress」)はそれこそグランジ感が強いなと思ったんですが。
Takahiro:まったく意識してなかったです(笑)。
Kazuki:Takahiroがイントロのギターを弾き始めて、そこに俺がバッキングをつけていったら、あ、できた、みたいな。
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──そうだったんですね。「Progress」という言葉はどこから出てきたんですか?
Hiro:なんかいい言葉ないかなってたまに探すんですけど、「Progress」っていいなと思って。それでオケをもらってから、仮メロでずっとProgressって歌ってたんですよ。今の自分にぴったりの言葉だし、この曲にもすごく合うなと思ったんで。そこからどんどん気に入っていって、構築して行った感じですね。
──なるほど。先ほどちょっと話題に出しましたが、NIRVANAのカバーをしようと思ったキッカケというと?
Hiro:たまたまどっかのライブに行くときに、Takahiroと車に乗ってたときに聴いてて、この曲カバーしたらかっこいいんじゃね?って。そういえば昔やったよね?って。
──昔3人で組んでたバンドで?
Takahiro:そうです。まさにこの曲をやってて。
Kazuki:あとはライブでやるカバー曲を探してたんです。結構久々だったよね?オリジナルをやるようになってからカバーなんてほとんどしてこなかったんで。
Takahiro:カバーしたとしても相当ぶっ壊してたしね(笑)。
Kazuki:うん。これはほぼコピーに近いからね。
──昔組んでたバンドでは、他にどんな曲をやってたんですか?
Kazuki:NOFX、Rancid、Metallica……。
Takahiro:あとオペアイ(Operation Ivy)。
Kazuki:あとはGreen Day、Face to Face、Pennywise、S.O.D.……。
Takahiro:それを「よかっぺ祭り」ってところでやったんですよ(笑)。
──地元のお祭りみたいな?
Takahiro:そうです。
Hiro:俺そのときいなかったよ。
Kazuki:「ゴリラショー」じゃね?
Takahiro:あぁ! 映光社の。
Kazuki:俺らの地元が茨城の日立なんですけど、映光社っていうのが街で唯一のスタジオで、今も楽器屋さんとしてあるんです。そこが主催するイベントが、かみね動物園っていうところであって、普段はゴリラショーとかをやってる野外ステージで、その辺の曲をやったんですよ。自分達でTシャツ作ったりとかもして(笑)。
──どんなTシャツだったんですか?
Kazuki:その頃すげえパンクが流行ってたんで、無地Tにいろんな英語とか好きなバンドの名前とかCDのジャケを書いてたんですけど、1着だけ卑猥なマークとかそういう言葉を書きまくったやつを作って、ジャンケンで負けた奴がそれを着ようって(笑)。
Takahiro:ここにはいない人ですね。
Kazuki:もうひとりメンバーがいて、歳上の人だったんですけど、その人に着せようとしてたけどそれはできねえって(笑)。そのバンドがすげえ変則的だったんですよ。曲によっては俺がベースを弾いたりもしたし、ドラムにしろボーカルにしろできるやつがそのパートをやるっていう感じで。
──その頃ってとにかくバンドが楽しい!っていう感覚が強かったと思うんですけど、今の“ただバンドがしたい”というモードは、それと近しい感じでもあるんですか? その頃の感覚を取り戻すというか。
Takahiro:あの頃の気持ちに完全に戻れるか?って言ったら難しいですけど、あの頃のフレッシュさを味わえているところはありますね。
Kazuki:この前PUNK SPRINGに出させてもらったんですけど、持って行ったCDが全部売れたんですよ。それを聴いたときに、昔ライブをした後にデモテープが売れたときのことを思い出して、なんか異様に嬉しくなったんですよね。
Takahiro:あと、やっとライブができた!っていう嬉しさもあったし。
Kazuki:それもあった。最近は音源をリリースしてからライブで披露するっていうのがスタンダードなパターンだったけど、それってたぶんバンドの基本じゃないんですよ。昔はライブで中身を知ってもらって、気に入ってもらったら音源を買ってもらうっていう感じだったし、だからと言って今それをやろうと思っていたわけじゃないんだけど、そういうところから昔のことを思い出したりもします。結果すげえいい感じでバンドをやれてると思いますね。
Hiro:思い返すと、前のバンドでアメリカとかに行ってた時と、もしかしたら似てるのかもしれないです。誰も自分達のことを知らない状況なんだけど、すげえいいライブをしたなって思ったときはCDが売れたんですよ。その時もそれが一番嬉しくて。かっこいいバンドのTシャツは欲しくなるけど、CDはもうすでに持っていたりするし、そもそもフェスのブースでCDが売りきれることもあんまりないみたいで。だけど、全部売れたって聞いたときに、いいライブができたんだなって思えたし、自分が目指したかったライブバンドとしての片鱗みたいなものが、自分なりに見えた感覚もありましたね。
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──本当に良い状態で活動できているんですね。EPのお話に戻しますが、「Fail」は、昔コピーしていたバンドで挙げられていたNOFXやPennywiseのようなニュアンスを感じました。
Kazuki:このオケは、Takahiroが昔作った曲にメロディーを新しくつけたんですよ。
Takahiro:昔作ったときはメロディーをうまくつけれなくてボツになったんですけど、最近今まで作ってた曲を見返してたときに、この曲行けんじゃんって。それでメロディーつけたんですけど、まぁNOFXと言われればNOFXだし、スケートパンクの影響ですかね。その辺はだいぶ聴き漁ってたんで。
Kazuki:だから、ツボに入ればサクサク作れる系の感じっていうか(笑)。十八番っちゃ十八番ですね、この辺の曲は。
Takahiro:シンプルなだけに、ライブでやると気持ちいいんですよね。動けるから。
──あとは、『Extrance』に収録していた「Doubt」と「Forest」をスタジオレコーディングされていて。
Takahiro:ライブEPの中でも、その2曲は完成度が高いなと思ってたんですよね。別にその他がダメなわけではなくて。完成度が高いから、もうちょっとしっかりとした形で録ったらもっと引き立つんじゃないかなって。
Kazuki:一発録りだと中身とか勢いはすげえ伝わると思うんですけど、どうしても表現できなかった音の厚みをもっと味わってほしかったし、イメージしていた音像とはちょっとだけ離れちゃってたところもあったから、その辺をちゃんと表現したかったんで。
Hiro:音の厚みだったり、ミックスのときにすごく細かくディレイをかけたり、あのときに表現できなかったものをしっかり表現できたのはデカかったです。もっと良い曲になったでしょ?って言える自信があるし、自分としてもさらにこの曲が好きになりましたね。
──ちなみになんですけど、エレクトロニックな要素を組み込むことは考えなかったんですか?
Kazuki:そうですね。今は必要ないなって。
Takahiro:前のバンドで結構やりすぎちゃってたというか。いろんなことを実験的に繰り返していたので。
Kazuki:でも、FACTのときも後半はそこまで使ってなかったし、そこら辺は俺らのなかでの流行りでしょうね。
Takahiro:うん。入れるにしても新しいアプローチで入れたいです。たとえば、Snapcaseとか。
Kazuki:あとはRefusedみたいな感じとかね。
Kazuki:そうですね。今のこの感じでいくか?っていう確信はないので(笑)。
──『Progress』のリリース直後にはサマーソニックに出演され、9月からはツアーもスタートしますが、やはりライブはどんどんやっていきたいですか。
Kazuki:ライブしたいですね。とにかくバンドがしたい。
──今は本当にそれに尽きる感じなんですね。
Kazuki:そうなんですよね(笑)。今はバンドなんです。
Takahiro:さっきも言ったフレッシュ感を味わえているし、とにかく伸びしろをすごい感じるんですよ。
Kazuki:自分達でどうなるのかまだ見えてないからね。
Takahiro:うん。そこが楽しみです。
──Hiroさんはいかがですか?
Hiro:俺も一緒です。どうなってくんだろうなって。いつだってそうですけど、未来のことはわからずに進んでいるわけで。たとえば10年後に振り返ったときに、そういえば“あのときのフレッシュさはよかったね”とか、さっきのゴリラショーの話みたいに盛りあがるというか(笑)。そうやってわからない中で進んで行きながらも、ふと振り返ったときに “あのときはあんな感じだったね”って笑って、“きっとこの先もうまく行くでしょう”って。そう言えるように進んでいきたいです。
──まさに「Progress」ですね。
Hiro:そうですね。
取材・文=山口哲生 撮影=鈴木恵
SHADOWS / Progress
発売日: 2016年8月17日
価格: 1,600円 (税別)
品番: MXMM-10053
01. BEK
02. Tourette’s (ニルヴァーナのカバー曲)
03. Fail
04. Progress
05. Doubt (デビューLive EPに収録した楽曲、初のスタジオ録音版)
06. Forest (デビューLive EPに収録した楽曲、初のスタジオ録音版)