今観るべきHEY-SMITHのライブ、47都道府県ツアー29公演目をレポート
HEY-SMITH 撮影=HayachiN
絶対、今のHEY-SMITHのライブは観るべきだ。演奏中も終演後も興奮に鳥肌が立ち、ずっとその余韻を引きずったまま、今日に至っている。大げさと思われるかもしれないが、僕のせいではない。こんな気持ちにさせるのは全部HEY-SMITHのせいなのだ。
バンドは昨年2月にMukky(Vo/B)、Iori(Tp)が脱退し、その後にYuji(Vo/B)が加入、さらにイイカワケン(Tp)、かなす(Tb)をサポート(昨年末に2人は正式加入)に迎え、新6人体制による"お披露目TOUR"を経て、今年4月は"新曲お披露目TOUR"を決行した。とにかく場数を踏み、バンド感を固めることに専念する。それから5月に新生HEY-SMITHとして初の4thアルバム『STOP THE WAR』を完成。今作は従来の陽気さは影を潜め、硬派なトーンを強めたメッセージ色の強い作風に舵を切る。これが吉と出るのか、凶と出るのか、ライブを観るまでは判別できなかった。
そのレコ発ツアーは47都道府県62公演という凄まじい本数で、29本目の今日はゲストにMAN WITH A MISSIONを招き、初っ端から満杯のフロアを焚き付けていく。歌とラップ、バンドとDJの対比際立つミクスチャーサウンドで、シンガロング、ハンドクラップ、ジャンプと観客を意のままに操るキャッチーな楽曲を矢継ぎ早に放つ。ラスト曲「FLY AGAIN」では会場から多くのマンウィズ・タオルが掲げられる大盛況ぶりだった。
HEY-SMITH 撮影=HayachiN
この焼け野原状態のフロアに、HEY-SMITHはどう立ち向かうのか。ワクワクしながら出番を待つと、猪狩秀平(Vo/G)を先頭にメンバー6人がぞろぞろと登場。1曲目の音が出た瞬間、これまでの杞憂は木っ端微塵に吹き飛んだ。どっしり重心が低くなった演奏に加え、上半身裸の満(Sax)、イイカワケン、かなすによる息の合ったホーンセクションは会場の空気をシャープに切り裂く。昨年と比べても、バンドの結束力は飛び級レベルで上がっているではないか。個々の演奏はソリッドに磨き抜かれ、それが一つのカタマリと化した強靭なバンド感に興奮は収まらない。
「Skate Or Die」と過去作の曲も挟みながら、「8月9日(長崎原爆の日)にこの曲を歌う意味」と猪狩が言い放つと、新作の表題曲「STOP THE WAR」をプレイ。イントロからSLAYERばりにザクザク刻むリフが猛烈にかっこ良く、音源以上の爆発力で観客を狂乱のるつぼに叩き落とす。気付けば観客は拳を上げ、大合唱する光景が眼前に広がっていた。勢いやノリだけではなく、聴き手と心の深い部分で通じ合っている。曲に託した演者の気持ちやメッセージがちゃんと伝わっているんだなと痛感した。
HEY-SMITH 撮影=HayachiN
そして、曲間にTask-n(Dr)が軽快にビートを叩いたり、また地元・大阪の先輩バンドであるKNUCKLESのカバー「Radio」においてはホーン、ドラム、ベースとソロをリレー形式で繋ぐパートもライヴでより一層映えていた。これまで以上に観客の視線を意識し、細部にこだわるエンターテイメント性に優れたステージングに「成長」の二文字が浮上した。一時はバンドの存続自体が危ぶまれていた彼らが、観客から底ナシの元気と笑顔を引き出す姿に何度も目頭が熱くなった。
アンコールではファイナルシリーズ5本に加え、今年バンド結成10周年のタイミングもあり、ツアーファイナルは初ワンマン(大阪・府民共済SUPERアリーナ、赤字覚悟の感謝価格3939円!)開催も告知され、「俺らはもっとかっこ良くなるから、お前らもかっこいいことをやってくれ! 何でもいいから!」と猪狩が観客に熱いエールを送る場面に、数十倍も逞しくなったHEY-SMITHを見た気がした。今後もツアー各地で大暴れしてくれるに違いない。
取材・文=荒金良介 撮影=HayachiN