串田和美さんは野外劇がお好き。新作は『遥かなるブルレスケ』
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Flying Theatre 空中劇場が松本と上田に降り立つ!
「劇場が街に、街が劇場に!」
これは、串田和美まつもと市民芸術館芸術監督が、まつもと街なか大道芸を立ち上げ、劇場の財産とも言える『空中キャバレー』という作品とのカップリングでの公演をスタートしたころから、よく使い始めた言葉。ふだん何気なく歩いている街にパフォーマーたちが集まり、非日常の世界が繰り広げられていく大道芸フェス。客席とステージ、サーカスや演劇や音楽のジャンル、劇場のなかに公園のようにマルシェができ、街頭のように自由にパフォーマンスが行われるなどさまざまな壁をとりのぞいた『空中キャバレー』。この二つが街と劇場の関係を逆転させる瞬間を生み出した。同時に、大道芸は魅力的な『空中キャバレー』への導線にもなった。そして、串田監督は、街へ頻繁に飛び出していくようになった。
はじまりは昨年の『スカパン』のルーマニア凱旋公演
2015年、ルーマニアで公演を行った代表作『スカパン』の凱旋公演として、信濃毎日新聞松本本社建設地、元映画館を改装したピカデリーホール、松本市美術館中庭と、市内をツアー公演するかのごとく、ひとつの作品が背景を変えて上演されたことだった。Flying Theatre 空中劇場の誕生だ。その前にも、実は劇場10周年で、こけら落としで上演された『スカパン』を再演したときも、PRのために小さなワゴン劇場で街に繰り出したり、大道芸の際にも自らチームをつくってパフォーマンスを行っていた。そうそう夏の『グリム・グリム・グリム』串田監督は実は、何気に外が大好きなのだ。
自然や環境との対話が楽しい野外劇
串田版の野外劇は、広場に仮設の劇場と客席がある日突然現れるスタイル。屋根もなければ、空間を区切ったりしない。『スカパン』のときは、芝居が始まったころはまだ明るい空が、いつの間にかオレンジへとそまり、やがて闇に包まれる。カラスやムクドリが上空を旋回し、ねぐらに帰っていく。照明が徐々に際立ち、温かみを帯びる。舞台のもっと先、通りの向こうに見える街のネオンが光りだす。車のエンジン音や通りかかる人々の話し声も効果音。お客はビールやジュースを片手に、劇場での観劇とは違った開放的な異空間を味わい、高揚感につつまれていた。終演後も役者と交流しながら名残押しそうにその場を去っていく。3会場それぞれに違った味わいがあったのが面白い。途中、休演日に大雨が降ったりで、スタッフも観客もやきもきしたが、なんとか完走することができた。東京などで野外劇をやっている皆さんもそうだと思うが、これは一種の麻薬ではないか。もうハマるとやめられない。
Flying thetre 空中劇場『スカパン』 撮影/山田毅
Flying thetre 空中劇場『スカパン』 撮影/山田毅
空中劇場はどこまで飛来していくのか
そして2016年、Flying Theatre 空中劇場が再び、舞い降りる。今度は、飛距離を伸ばして、「真田丸」で盛り上がる上田市まで。松本の信濃毎日新聞松本本社建設地は江戸の松本城下町跡の発掘調査が延長されているため再びの実現。新聞社という文化の発信地に2年続けて演劇という栄養を与えるなんて、なんだか楽しいではないか。サントミューゼこと上田市交流文化芸術センターの交流芝生広場はホール、美術館によって円形に囲まれた広大な空間でいろんなことができそう。これがイベント初使用になるとか。ここでもなにかの物語の始まる予感。
上田公演の会場
松本公演を行う信濃毎日新聞松本本社建設予定地
演劇に興味がない人が演劇と出会う場に
串田監督はこんなふうに語る。
「去年、ルーマニアでやってきた『スカパン』を野外でやってみようと、信濃毎日新聞の建設現場とピカデリーホール、松本市美術館の中庭で2日間ずつにわけて公演をしました。それまでも街中で仮面劇でやったり、音楽をやったりして、それがとても楽しかった。昨年行った建築現場というのは、演劇も消えていってしまうものですから、消えていってしまう場所でできるのは趣きがあってよかったんですが、まさか今年もできるとは(笑)。本当に松本の中心街にあるのですが、面白いのは、お芝居を見るために歩いているわけではなくて、買い物にいくついでとか、仕事の帰りとか、いつも通っている人もいれば、初めて通った人もいるでしょうが、みんなが『なんだろうなあ』とのぞいてくれること。東京なんか特にそうだけれど劇場はどんどんどんどんビルの中に入ってしまうので、劇場の入口をひょいと見てみるなんていうことはなかなかできないんですよね。昔は広場にサーカスなんかきたりすると、子供たちが後ろからのぞいたり、ただで見るんじゃないって怒られたりして、お芝居との距離がものすごく近かったような気がする。そういうようなことができたらなあと思って始めました。『スカパン』のときものぞいていく人たちがいっぱいいて、中には、じゃあ寄っていく?といって子供連れのお母さんが観劇していったりしてくれた。そういう感じで芝居と出会ってくれるのもいいですよね」
『遥かなるブルレスケ~とんだ茶番劇~』は、ノーベル賞作家・ベナベンテの喜劇「作り上げた利害」を串田監督が新たに潤色したものだ。串田監督のもと、演劇活動を行う若手のメンバーの一人が探し出してきた戯曲だ。
とある町の広場にやってきたレアンドロとクリスピン。宿代もないからっけつなのだが、レアンドロを高貴な殿様と身分を偽り、口八丁で周りの者を煙に巻くクリスピン。宿屋の主人、身分は高いが金に困っているドンナ・シレーナ、その姪のコロンビ―ナにも恩を売って、すっかり皆を信じ込ませることに成功する。しかし町一番の大金持ちポリチネーラの一人娘で純粋なシルビアと恋に落ちたレアンドロは、嘘をつき続けることに良心の呵責を感じ始める。そんなとき、借金を踏み倒されたパンタロンが法律博士を連れて乗りこんできて……。
「『遥かなるブルレスケ』が面白いものに出来上がって、『スカパン』などとともにFlying Theatre 空中劇場のレパートリーになって、時々あれやろうか、これやろうかというふうにして、成長していければいいなと思っています」(串田)
きっと串田監督は、自転車で街を走りながら松本での次なる会場を探しているのではないだろうか。そして、ご要望があればどこへでも、といった気持ちでいるのかもしれない。だって、「Flying Theatre 空中劇場」なんてネーミングだもんね。
<セット券対象演目&席種>
Frying Theatre 空中劇場「遥かなるブルレスケ~とんだ茶番劇~」一般(自由席)と
TCアルププロジェクト「人間ども集まれ!」一般(指定席)のセット券7,500円
■公式サイト/http://www.mpac.jp/event/drama/16472.html
■訳/小宮山智津子
■潤色・演出・美術/串田和美