SHISHAMOのビジョンを具現化する"クリエイター"・宮崎朝子が目指すものーーニューシングル「夏の恋人」を題材に訊く
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SHISHAMO 撮影=菊池貴裕
2014年は「君と夏フェス」、2015年は「熱帯夜」と、夏にシングルをリリースしてきたSHISHAMO、2016年は「夏の終わり」をテーマにしたシングル「夏の恋人」を9月7日にリリースする。「君と夏フェス」はタイトルどおりフェスでアンセムと化す直球のライブ・アンセム、「熱帯夜」は一転して、相手を好きすぎてちょっとヤバい感じになっている女の子を主人公にしたしっとりとした曲、そして今回は「熱帯夜」よりもさらに振りきった、ストリングス・アレンジをまとったバラード。恋人との別れ、そして子供である自分との別れを歌ったこの曲のことから入って、創作に向かう時の宮崎朝子の姿勢について、改めて正面から訊いた。
──この「夏の恋人」は、6月25日の大阪城ホールで初めて歌ったんですよね。
はい、弾き語りで。その次の次の日がレコーディングだったんですよ。曲を作った時に、音が、バンドのイメージが湧かなくて。「なんかこれ、城ホールでやりたいな」なんて、ワンコーラスぐらいできた時に思って。「ひとりでやったらいいのかな」って。
──で、音源も、ストリングスが入ったアレンジになりましたよね。
はい。なんか、難しいじゃないですか、バラードって。なんか、すごい紙一重というか……ちっちゃいライブハウスでやってる雰囲気になっちゃあイヤだな、と思って。
──すみません、バラードって気をつけないとそういう雰囲気になりがちなものなんでしょうか。
(笑)。なんか、なりがちなイメージがあって。ただのゆっくりしたつまんない曲になったらもったいないな、と思って。曲を作った時に、絶対これはいいな、私たちができる中で最高の形で出したいな、と。それでストリングスを入れました。
──『SHISHAMO 3』から、3ピースのバンドサウンド以外の音も入れ始めましたよね。それは、できた曲がそうだったから?
そうですね。バンドとしてどうなりたいっていうよりは、いつも曲を一番優先してやっているので。曲ができた時に、その曲をいちばんよく伝える形を、いつも選んでるんで。ファーストにもリコーダーとか入ってるじゃないですか? それと同じなんですよね。あの曲にはそういう音が必要だなと思ったから入れた、っていうだけで。で、ホーンやストリングスだと私たちが演奏できないんで、できる人にやってもらうっていう。だから作り方は変わってないです。あの……シングルって、いつも難しくて。今回は、すごい気合いを入れてました。
──どのように難しいんでしょうか?
夏のシングルって……去年もなんですけど、難しくて。一昨年の夏に、「君と夏フェス」でSHISHAMOを知ってくれた人がけっこう多くて、その次の年に出したのが「熱帯夜」っていうシングルで。その時もすごい勇気が要ったんですよね。夏のシングルでああいう曲を出すっていうのは、別にみんな求めてないかもしれないし。これをフェスで演奏して、どんな絵面になるんだろう?とか。夏にシングルを出すっていうのは、それで夏フェスを回るっていうことだと思ってるので。でも思ったより、今までSHISHAMOを聴いてくれてたお客さんも受け入れてくれて。それが結構きっかけになったところが大きくて。「あ、ちゃんと音楽やっていいんだな」って思ったんです。
SHISHAMO・宮崎朝子 撮影=菊池貴裕
──すみません、「ちゃんと音楽やっていいんだな」っていうのは?
うーん……そう聴いてない人もいるなっていうのは、最近よく思うんですけど。フェスに行ったりすると、音楽を聴きに来てるわけじゃないお客さんも、やっぱりいると思うんですよね。「アッパーな曲で盛り上がりたいんじゃ、こっちは!」みたいな人が。それはフェスに限らずなんですけど。「バンドが好き!」「バンドを聴いてる自分が好き!」みたいな。なんか、多いじゃないですか。でも私は、中学高校とかの頃から、そういうふうに音楽を聴いていなくて、音楽を好きで聴いていたんで、SHISHAMOは、曲がちゃんと届いてほしいっていうか。歌詞だったりとか、曲のいろんなところを切り取って、「ここがすごく好き」って言ってもらったりだとかが、すごくうれしいので。ちゃんと自分に照らし合わせて音楽を聴いてほしいな、っていうふうに思っていて。それで、「熱帯夜」の時はすごく心配だったんですよ。「大丈夫なのかな」って。最近のフェスは、やっぱ若い子がすごく多くて──。
──宮崎さんも若いですけどね。
(笑)。若い子が多くて、こういう曲は求めてないんじゃないか、と思ったんですけど。やってみたらすごくよかったんですよね。たぶん求めてなかった人もいたと思うんですけど、そういう人も「あ、なんか心地いいな、いい曲だな」と思ってくれた感じがして。
──あの、アルバムの中で1曲ぐらいが自分のことを書いた曲で、それ以外は自分のことではない、作家的に曲を書いている、とよくおっしゃっていますよね。
はい。
──で、この曲は、前半が恋人との別れを歌うラブソングで、後半は子供である自分との決別、大人にならないといけないのだ、というふうになっていく内容ですけれども。でもたぶん宮崎さんは、最初から大人ですよね。
けっこう、小学生の時から変わってないですね。
──自分が子供だと思ったことはないでしょ。
いや、日々生きててそう思うことはあるんですけど。「あ、さっき、子供だったな」とか。でもたぶん、基本は46くらいな感じです。
──(笑)。具体的ですね。
みんなに言われるんで。だから、こういう曲になったのは……なりゆきですね。「夏の終わり」っていうテーマから考えていって……考えるのがすごい好きなので。「どういう女の子がどうなっていく話なんだろう?」っていうのを、考えながら書いていって。「なんでさよならしなきゃいけないんだろう?」って考えた時に、たぶんこの人といると大人になれないんだろうな、っていうところに至って。大人になるために別れるのかなあ、と思って書きました。背景が、夏休み的な気持ちで書いてたんで……たぶん、働いてもいないんですよね、この人たちは。でも、大人にもなってないんだけど、外に出た時に、遊んでる子供と同じでもない、っていうジレンマというか。だから、この夏が終わったら、このままじゃダメなんだろうな、という。
──という人たちを描いたということですよね。大人になりたくないとか、大人になれとか言ってるわけじゃなくて。
言ってないです。メッセージ性のないバンドなんで。
SHISHAMO・松岡彩 撮影=菊池貴裕
──カップリングの「恋に落ちる音が聞こえたら」の主人公、これはどんな子でしょうか。
……高校生で……自信がある感じの女の子ですね。けっこう今まで男を落としてきたタイプですね。なんですけど、“今回はなんかうまくいかないな”っていう男の子に出会って。でもそれが実った、っていう曲です。
──後半で「私なら あなたを見たことのない楽しい世界へ 導いて行けるはず」って言っているので、「あ、『連れてって』って子じゃないんだな」と。
そうですね。自信があるんですね。「絶対自分といたら楽しいはずなのに!」って思ってる。
──そういう主人公って1曲ずつ作るんですか? それとも頭の中に何十人かいて、順番に出していくのか。
いや、最近はもうその曲ごとですね。昔はけっこう「あの子もう一回出そう」とか考えてたんですけど、最近はあまりないです。
──自分のことを書くのなんて簡単でおもしろくない、それよりも主人公を設定して考えて書くほうが楽しいんだ、ということをよくおっしゃってますけれども。それは今でも変わらないですか。
変わらないですね。自分のことを書く時もあるんですけど。でも、さっきも言ったみたいに、考えるのが好きなんで。自分のことって考えなくても分かっちゃうじゃないですか? 「私ってどう考えてるんだろう?」とは思わないじゃないですか。でも、自分じゃない人のことって、「どういう気持ちなんだろう?」って考えるというか。この主人公は、本当はどういう気持ちなんだろう? って考えるのがすごい好きで。それは、曲ができてからも考えることがけっこう多くて——曲ができて、今度はレコーディングするじゃないですか。その時に、その子の気持ちがわかってないと歌えないんですよね。だから、書いて、歌う時になって初めて決まることも多くて。「この子、ここでこう言ってるけど、ほんとは違うんじゃないか?」っていうのを考えながら歌うっていうか。多分、聴いてる人からしたら全然わかんないことだと思うんですけど、歌ってるこっちからすると、本当は歌詞と真逆のことを考えながら歌ってたりとか。めんどくさいんですけど、でもそういうのが楽しくて。歌を歌うのも好きなので。そういうふうに……主人公が私じゃないんで、なりきって歌うっていうことを、いちばん大事にしてますね。
──そういうふうに曲を作って歌っているのが……職業作家とかはべつにして、バンド界隈で言うと、どうやら少数派らしい、という自覚はあります? 自分のこととか、自分が考えていることとか、自分が感じていることを歌っているバンドの方が多いですよね。
そうですね。なんか、メッセージがあるじゃないですか? それはすごくいいことだと思うんですよ、私にはできないんですけど。お客さんを奮い立たせることもできるし、励まされる人もたくさんいると思うんですけど、なんか……気持ちが無いんで、私には。
──(笑)。
別に、誰にどうなってほしいってい気持ちが無いんで。私自身、そういう気持ちで音楽を聴いてなかったので、ずっと。「励まされるなあ」とか、そんなに思ったことがないし。「がんばれ!」みたいな曲をあんまり聴いてこなかったんで。イラッときちゃうんですよ、そういう曲を聴くと。「おまえに何がわかるんだよ」とか思っちゃうじゃないですか。思わないですかね? なんか、思っちゃうんですよね。あんまり……信用してないんだと思います、人を。だから……自分に自信を持って生きてきたと思うので、私が。自分の言葉で、じゃないと納得できないっていうか。なので、私もそういうことをしたくてバンドをやっているんじゃなくて。それよりも、マンガを読んだり、ドラマを観たり、っていうのと同じように曲を聴いてほしいっていう。だからほんとに、提供ですね。曲は自分のものじゃなくて、その人のところに行った瞬間に、もうその人のものっていうか。
SHISHAMO・吉川美冴貴 撮影=菊池貴裕
──自分のことを書いても、わかってることだから面白くない?
モチベーションが上がらない。作ってて、あんまり楽しくないですね。
──でもたまに、アルバムにつき1曲ぐらいの割合で書いちゃうのはなぜ?
……いい曲ができちゃった、とか(笑)。ですかね。作ることもたくさんあるんですよ。ただそれをあんまりアルバムに入れないっていうことで。でも、たまにいい曲になっちゃって、入れる、というくらいですね。
──そのボツにしてるやつも、ほんとはいい曲なんじゃないですか? ……あ、べつに「もっと自分のことを書け」という気持ちはないですよ?
(笑)。
──ただ興味深いので訊いているだけなんですけれども──。
でも、こういうふうに突っ込まれるじゃないですか?(笑) こういうところで「これは自分の気持ちを歌った曲です」って言ったら、突っ込まれる。 それがイヤなんですよね。だって、自分のポエムじゃないですか。自分のポエムを公開するっていう気持ちが、もう、わからないです。
──身の毛もよだつ?
もう! 無理ですね、ちょっと。
──じゃあ訊きますけれども……いつもライブの時、開場時間と終演後のBGMに、Theピーズの曲をかけておられますよね。
はい。
──Theピーズって、日本のロックにおける「自分のポエム」の最高峰だと僕は思うんですけれども。
(笑)。いや、人はいいんですよ。自分はできない、っていうだけで。
──でもあんなにかけてるってことは、ピーズ、好きなんですよね。
大好きです。
──「私は作家として曲を書いてるから、ああいうロックってダメなんですよね」って言うならわかるんですよ。でも、ああやってずっとかけ続けてるってことは、相当好きなんだろうなと。それがおもしろいなと。
(笑)。なんか多分、偶然自分に合ってるっていうか。その、なんて言うんだろうな……SHISHAMOも、自分に当てはめて聴いてほしいんですよ。私も、結構そういうふうに音楽を聴いてきたんで。「ああ、私の気持ちを代弁してくれてる」とかお客さんが言ってくれると、そういうのすごいうれしいなと思うんですけど。ピーズを聴いてると、そういうことが多かったりして。スッキリするんですよね。
──ピーズのはるさんは自分をさらけ出して歌を書いていますよね。
なんか……なんでですかね?(笑) 最初も私、歌詞で好きになったんだと思うんですよね。
──そもそも年齢的に、なんでピーズを知ってるんだ?というのもあるし(笑)。
私、今まで生きてきて、同年代でピーズを好きな人に会ったことがないです。お姉ちゃんだけです。お姉ちゃんがいつもパソコンでいろんな音楽を流してたんですけど、それで、初めて私が「これ何?」って言ったのがピーズで。「生きてれば」が流れてて、歌詞がすごくよかったんですよね。「しんどそうで悪いか」っていうのがすごくよくて、そっから好きになりました。
──ピーズの何がそんなにいいんでしょうね。僕も大好きだから訊きますけど。
好きっていうより、なんか助けられた思い出がすごくあって……ピーズがあって本当によかったな、っていう気持ちですね、好きっていう気持ちよりは。だからほんとに……「助かった」っていう音楽が、すごいたくさんあって。「好き」っていうよりは。
──でも、自分が音楽をやる時のアプローチはそうではないというか。違うアプローチで同じ効果を持つものを作りたいというか。
そうですね。なんか……好きなバンドとかたくさんあるんですけど、「こうなりたいか?」と言われたら、「そうじゃない」っていう場合が、けっこう多いですね。「SHISHAMOはこうであっちゃいけない」とか、「こうでなくちゃいけない」っていう。もう、別ですね。もともと憧れとかを持ってバンドをやってないんで。だから、こうなりたいという見本があるわけでもないので。
──確かに、ピーズみたいになりたいとは思えないですよね。
そんなことは言ってません!(笑)
取材・文=兵庫慎司 撮影=菊池貴裕
SHISHAMO 撮影=菊池貴裕
2016/09/07(水) リリース
「夏の恋人」
収録曲:1. 夏の恋人 2. 恋に落ちる音が聞こえたら
「夏の恋人はもういないのに、恋に落ちる音が聞こえたのはきっとあの漫画のせい」
SHISHAMO ワンマンツアー2016秋 「夏の恋人はもういないのに、恋に落ちる音が聞こえたのはきっとあの漫画のせい」
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