気鋭のピアニスト・米津真浩が案内する“隠れた名曲”の魅力
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米津真浩(ピアノ)
「名曲は、皆さんがメロディーをよく知っているからこそ、弾きづらい」 第41回“サンデー・ブランチ・クラシック” 8.28ライブレポート
eplus LIVING ROOM CAFE&DININGで開催されるサンデー・ブランチ・クラシックは、「クラシック音楽を、くつろいで楽しむ」がコンセプトのイベントだ。お茶や食事を楽しみながら、リラックスして良質な音楽を楽しめる。子供の同伴もOKのクラシックを身近に感じられるライブになっている。
8月28日(日)には、今後が期待される若手ピアニスト・米津真浩が登場した。イタリアの名門・イモラ音楽院で学んだあと、昨年冬から拠点を日本に移して活動している。
13時の第1部開演時、会場の雰囲気に合わせて、ごく自然に登場した米津は、早速演奏に入る。1曲目は、シューベルト作曲・リスト編曲「ウィーンの夜会」だ。激しく跳ねるような情熱的な場面と、優雅に歌うような叙情的な場面の対比がとても鮮やかで、曲の表情は目まぐるしく変わるが、場面の転換の仕方も丁寧でそつがない。
米津真浩 (撮影=原地達浩)
曲調が徐々に静まり、消え入りそうな繊細なパッセージを聴かせたあと、水が流れ落ちるかのような軽やかなコーダを経て、曲は終わる。拍手を受けながら、米津が最初の挨拶を述べた。
「皆様、今日は日曜日の貴重な時間を使っていただき、ありがとうございます。今日は30分と短い時間ですが、おいしいお茶と食事とともに演奏を楽しんでください。僕はこのLIVING ROOM CAFEには、何度かプライベートで来ています。食事もおいしく、いつもいい雰囲気なので、ぜひ楽しんでいただけたらと思っています。」
米津真浩 (撮影=原地達浩)
1曲目の「ウィーンの夜会」も、今日のような楽しいお茶会の雰囲気に合わせて選曲したそうだ。演奏時間が限られていることもあり、すぐに次の曲に入る。2曲目は、先程と同じくシューベルト作曲・リスト編曲の「水の上で歌う」。歌心満載のシューベルトの歌曲に、リストがきらびやかな超絶技巧を盛り込んで編曲したものだ。
導入部は哀愁漂う静かな曲調だが、曲は少しずつ緊張感を高めていく。波が寄せては引いていくように、盛り上がりを見せるとまもなく静まる……。ダイナミクスに合わせてのテンポのゆらぎも絶妙で、高音域であっても、音が鋭くならず柔らかい印象なのが素晴らしい。
(撮影=原地達浩)
3曲目はリスト作曲「ラ・カンパネラ」である。冒頭部から難しい高音域の跳躍が連続するが、流麗な右手の動きで見事にこなしていく。素早い手の動きは技巧的でありながら、鍵盤を優しく撫でるようだ。力が入りすぎていない、遠くへよく飛ぶ軽い音色が印象的。音楽は徐々にテンポを早め、劇的なクライマックスへと華麗に走りきっていった。
満場の拍手を受け、米津ははにかみながら挨拶した。
「ありがとうございます! 俗に名曲とよばれる作品は、『ピアニストなら簡単に引けるでしょ?』とよく言われるんですが、『名曲=簡単な曲』ではないんです。皆さんがメロディーをよく知っているからこそ、弾きづらいところもあります。ミスをした時もわかってしまうので、プレッシャーを感じながら弾いています(笑)。」
MC中の米津 (撮影=原地達浩)
最後の演奏に入る前に、米津から告知がなされる。
「私事ですが、このたびフリーの立場から、高嶋音楽事務所に所属することになりました。11月27日に、銀座の王子ホールでデビューコンサートを行うことになっております。チラシには『危ないピアニスト』とありますが、どのあたりが危ないのかは、会場に足を運んで確認してください!」
カフェで食事を楽しみながら…… (撮影=原地達浩)
早くも、この日最後の演奏が始まる。4曲目は、ショパン作曲「スケルツォ 第3番」だ。激しい動きのある導入部で、聴衆は一気に引き込まれる。やがて曲調は落ち着き、静かな子守唄のようなメロディーと、星のきらめきのような速いパッセージの掛け合いとなった。
米津はゆったりしたテンポで、情感たっぷりの演奏を披露した。ときに甘美で、ときに憂愁をたたえ、また激しい情念も覗かせる。最後の頂点とともに、あっという間の30分が終わりを告げた。
暖かい拍手に応え、アンコールが届けられた。クレマン・ドゥーセ作曲(マルク=アンドレ・アムラン編曲)「ショピナータ」である。ショパンの「軍隊ポロネーズ」を模した堂々とした開幕だが、サウンドはすぐにロマン派からジャズの語法を駆使した、小粋で情熱的な現代曲に変わる。小気味よい技巧を見せながら、演奏は華麗に終わったのだ。
サイン会での笑顔 (撮影=原地達浩)
終演後には、舞台上で米津のサイン会が開催され、写真撮影に応じるなど気さくにファンとの交流を楽しんでいた。舞台とお客の距離が近いこの会場ならではの光景だ。
15時からは、第2部も行われた。曲目は同じだが、第1部よりさらにリラックスした印象だ。会場全体も、食事や飲み物をゆっくり味わいながら、音楽を心地よく楽しんでいる。ホールでのコンサートと違い、静かさをマナーとして強制しているわけではない。しかし、米津の技巧に引き込まれ、会場全体が集中して耳を傾けている雰囲気は、とても気持ちのいいものだ。
インタビューに応える米津 (撮影=原地達浩)
終演後の米津は、「お客さんとの距離が近いので、息づかいを間近に感じられます。そこが逆に緊張しました(笑)。お客さんは暖かかったので、最終的にはとても楽しかったです」と感想を述べた。「クラシックのコンサートというと、一般のお客さんはどうしても敷居が高く感じます。今回のような、リラックスして聴ける企画は貴重だと思います」と語ってくれた。
プログラムのコンセプトとしては、「第一に、耳馴染みのよさを大事にしています。それに加えて、優雅だったり情熱的だったり、表情の豊かな曲から選びました」と、クラシックに馴染みのないお客さんにも、知られざる名曲を紹介したかったという。
11月27日のコンサートについては、「事務所所属としてのデビューコンサートなので、自分の持ち味をフルに発揮できるプログラムにしています。今後も、曲に込められた作曲家の想いを表現するため、とことん努力を続けていこうと思っています」と意気込みを見せてくれた。
米津真浩(ピアノ) (撮影=原地達浩)
根本にある想いはそのままに、魅力的な“危ないピアニスト”はさらなる飛躍に向かう。11月にデビューリサイタルを控える米津だが、10月16日(日)に再度この『サンデー・ブランチ・クラシック』に登場してくれることがわかった。今度はどんな楽曲を聞かせてくれるのだろうか。『サンデー・ブランチ・クラシック』、次回もお楽しみに。
1986年2月14日生まれ。千葉県千葉市出身のピアニスト。
■日付 2016年11月27日(日)
開場時間 13:30
開演時間 14:00
■会場:銀座・王子ホール
<予定曲目>
ラフマニノフ:楽興の時 作品16
ショパン:ノクターン 作品 9-3
ショパン:スケルツォ第3番 作品39
ショパン:アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ 作品22 ほか
■お問合わせ先:髙嶋音楽事務所(03-6455-1671)
伊勢久大/ヴァイオリン&青木智哉 /ピアノ from ザ・フレッシュメン
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: \500
10月9日(日)
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: \500
10月16日(日)
米津真浩/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: \500
10月30日(日)
鈴木舞/ヴァイオリン&岩崎洵奈/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: \500