ジブリ鈴木敏夫「利益を考えずに映画を作ったのは初めて」
スタジオジブリが初の海外共同制作に挑んだ映画『レッドタートル ある島の物語』(9月17日公開)の講演会付き試写会が、9月10日に一ツ橋ホールで開催され、鈴木敏夫プロデューサーが登壇。「この映画では、僕にとって過去に経験したことないことが起こった」と語った。
本作は、オランダ出身のマイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督の初の長編アニメーション。鈴木プロデューサーが、世界各国から高評価を受けた彼の短編『岸辺のふたり』(00)を見て、長編作品の制作を依頼したことが企画のきっかけだ。
「僕は一応スタジオジブリの偉い人なので(笑)、映画をつくるときはよりお客さんを呼ぶための物語を考えるわけです。でも今回はそれをしなかった。会社の利益も何も考えずに、ただ彼の長編が見たくて、ほんの出来心で『作ってみない?』って声をかけたんです。そんなことは初めてでした」と振り返った鈴木プロデューサー。
「例えば宮崎駿の『魔女の宅急便』(89)では、実は最初は、おばあちゃんにパイを届ける場面で話はエンドだったんです。だけどそれではお客さんが来ないだろってことで、僕がラストのシーンを付けようと案を出した」という。
また、「高畑勲の『おもひでぽろぽろ』(91)でも、主人公のタエ子と恋に落ちる男が必要だ、と言ったのも僕。すべて観客を呼ぶための不純な動機で(笑)」と、過去のジブリ作品を例に挙げ、プロデューサーとしての作品へのアプローチの仕方を明かした。
そんな鈴木プロデューサーは、マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督と共に、構想10年、制作8年の歳月を費やし本作を完成させた。「これは宮崎駿ではできなかったと思う。彼は極端に気が短いから長期に渡る仕事を嫌がりますからね(笑)」と再び宮崎駿監督を例に比較。
そして「この映画は、全編セリフもなく、色んなものをそぎ落として男女の愛の物語が成立するのかというのがテーマ。先日監督とその家族にお会いしたのですが、そのとき劇中の男女は彼とその奥さんをモデルにしているんだなと思った。でも、それを普遍的なストーリーに昇華しているのが彼のすごいところ」と、本作の仕上がりを大絶賛した。
第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門では特別賞を受賞し、既に海外から高い反響を得ている『レッドタートル ある島の物語』。日本ではいよいよ9月17日(土)に公開となる。【取材・文/トライワークス】