生きていくために必要なメロディとリズムと言葉──plentyが描いた『life』、この現在に辿り着くまでを訊く
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plenty 撮影=西槇太一
よわむしで、後悔ばかりしていて、からっぽで、はずれた天気予報ばかり気になって、匿名の彼らに怒りを覚えたり、自分は人間じゃなくて人間そっくりな別のものなんじゃないかと疑ったり、空が笑ってるように感じたりする、まるで砂のような、普通の生活を手に入れられない劣勢な日々の中で、また人との距離のはかりかたをつかみかねている──以上、plentyの過去の名曲のタイトルをつなげて文章にしてみました。
なぜか。そんなような方法ですばらしいロックを作ってきたバンドが……って、そういう重たい曲ばかり選んでこの一文にしたところはあるが……とにかくそんなことばかり歌にしてきた、そしてそれがすばらしかったバンドが、今、<汚れてく はやすぎる日々のなかで 夜明ケ待ツ 夜ノ底 マブシイ 愛想フ>(「夜間飛行」)とか、<わらいあい わらいあおう もともとぼくらそうだったのだから>(「嘘さえもつけない距離で」)とか、<わたしはおさなすぎるよ それでもいきてみたいよ あしたも あさっても>(「in silence」)というような歌を新しく生み出している、そしてそれがすばらしいロックになっているというのはどういうことなのかを、改めて考えたかったからです。
深くなればなるほどシンプルになっていく。核心に迫れば迫るほど普遍的になっていく。ラジカルになればなるほど、平易に、誰にでもわかる表現になっていく。ということが実際に起きているすばらしいニューアルバム『life』について、改めて江沼郁弥に訊いた。これまでのplentyの作品の中でもっとも、plentyを知らない人や、plentyを知っていたけど刺さっていなかった人に届くと思う、このアルバムは。
本当に音楽の未来は明るい、音楽はいい、って思った
──今年2月13日にツアーのファイナル、EX THEATER ROPPONGIを観せていただいたんですけども。
はい。
――アンコールが9曲もあって、ほとんど2部構成みたいなことになってましたよね。
なってましたね。
──で、江沼さんがすごく楽しそうで。いったい何があったんだろう? と思ったんですけれども。
いや、何があったのかなあ? でも、本編が短かったんですよ。だから、トータルで考えたら普段と変わらないんですけど……でも、ツアー、最初からあんな感じだったような気もしますね。楽しかったんじゃないのかなあ。
──あのツアーから? もっと前から?
その前のツアーはどうだったっけなあ? ……徐々にじゃないですかね。その前のツアーぐらいから、徐々にだと思いますけど。
──で、アンコールのMCで江沼さん、「音楽はいいねえ! 音楽の未来は明るいと思うよ、俺は」とまで言っていて。
(笑)。なんか……音楽、いいですよね。音楽、楽しいなあと思って。なんかやっぱ、暗いニュースが多めじゃないですか? CDセールスがどうのこうのとか。だからまあ無理矢理にでも、音楽の未来は暗くないと言わないとね。俺は音楽好きだし、本当に音楽の未来は明るい……明るいというか、音楽はいい、って思ったし。
──そもそも江沼さんは、音楽が楽しいからとか、バンドが楽しいからやり始めたわけじゃない感じでしたよね。やらないとしょうがないというか、音楽しかなかったというか。
ああ、音楽しかなかったですねえ。まあでも、楽しさもあったし。最初は楽しくやってて、そっから、なんて言うんだろうな、「必死」みたいなものが勝っていくっていうか、ちょっと苦しい時期があって。で、またそのあと、「そうだ、楽しかったんだな」ってなる、っていう感じですかね。俺の流れ的には。
plenty 撮影=西槇太一
今回はわりと、俺のデモに忠実に作っていった感じですね
──ドラムの中村一太さんが加入して(2014年8月)、この体制になってから作った『空から降る一億の星』『いのちのかたち』の2枚と、今回の『life』は、違うと思います?
違うと思いますよ、けっこう。前の2枚は、3人で作っていく感じでしたけど、今回はわりと、俺のデモに忠実に作っていった感じですね。レコーディングの時も、3人でせーので録る感じじゃなくて、俺は、プロデューサーじゃないけど、スタジオの外にいて、コントロールルームで「もっとこうして」とか「ちょっと音違うな」とか言って、ふたりが演奏していくって感じでした。それは一太の提案だったんですけどね。「いつも江沼のデモから離れていってしまうのが気になる」って言われて。「あ、そう? じゃあそれに近づけるようにやってみようか」って。
──曲や詞そのものに関してはいかがですか? 劇的にわかりやすくなってませんか?
そうですか? わかりやすいですか?
──ファン以外にも刺さりそうというか。それこそ、ロックファン以外にも届きそうというか。
へえー!
──まったくピンときてませんね(笑)。
そうですねえ……まあ、でも、そうだなあ……何かを劇的に変えたっていう意識はないので。無意識的な感じじゃないですかね。
──聴く側に手続きがいらない感じがしたんです。「plentyだから」「plentyはこういうロック・バンドだから」みたいな前提を共有していない人が聴いても「あ、いい曲だ」って伝わるというか。
そうなんですね? でも、そういうものを意識しながら作った、っていうことはないから。どうなのかなあ……。
──意識せずにそうなってるんだったら、理想的じゃないですか。
いや、意識してた方が理想だけどな。だって、無意識だと長続きしなさそうじゃないですか?(笑)。 まあ、でも、聴いてくれる人が喜んでくれたらいいな、とは思いますけどね。
plenty 撮影=西槇太一
でも大事ですよね、自分を疑うのって
──喜んでくれるんじゃないですかね。言ってほしいことを言ってくれる曲が何曲も入ってるアルバムだな、と思ったので。
そうですか?
──かつては、言ってほしくないことを音楽にすることの多いバンドだった気がするんですけど。で、それも素晴らしかったんですけども。
ああ……そうかも。まあでも、何を求めるかは人それぞれだから、みんなの希望は満たせないからなあ。
──僕は、これまでの作品でもっとも「多くの人に届くんじゃないか?」っていう、いい予感がある気がします。
あ、そうなんだ? 楽しみですね、それは(笑)。でも、「このアルバムでどうだ!」みたいな気持ちは、毎回あったしなあ……あんまり自分のそういうカンは、あてにしてないから。常に自分を疑ってるからな、「ほんとにこれでいいのかな?」って……でも大事ですよね、自分を疑うのって。それがないと、次、やりたくなくなるじゃないですか?
plenty 撮影=西槇太一
「ライブで踊ってもらいたいな」っていうのはあったんですよね
──どの曲も、何が言いたいのかハッキリしてると思いません?
ああ、でもなんか……詞の書き方とかは、前とはちょっと違って。前は、構築グセみたいな……「ここの一行を省く」みたいな、そんなのを大事にした書き方をしてたけど、ひとつ前のアルバム、『いのちのかたち』から、そうじゃなくなって。なんて言うんだろう、もっと……降りてきたものをそのまま書いちゃう、みたいな。多少は整理するけど、バーッとそのまま書いていくようにして。それの精度が今回はちょっと上がったかな、っていう感じなんですよ。あと今回、その「降りてきたものを書く」というのもありつつ、昔から書いてきた歌詞ノートをすごい読み漁って、いいところをピックアップしていくみたいな、ちょっと変なやりかたもしたんです。だから、過去の自分に今の自分をプラスするとか、そういう感じかなあ。だからまあ……“生きる”みたいな感じかな。『いのちのかたち』は“愛”っていう大きいテーマにしちゃったから、なんか崇高なものを描こうとしてた気がするけど、『life』はもうちょっと……みんな寄りっていうのかな。
──はい。それをして、このアルバムはよりわかりやすく、より届くものになっているのでは、と。
ああ、そういう意味だったら、意識しました、それは。あとね、なんか……それは歌詞とかじゃなくて曲ですけど、「ライブで踊ってもらいたいな」っていうのはあったんですよね。いわゆるタテノリじゃなくて、もうちょっと大人な、ヨコのグルーヴ。それは意識しました、アレンジとかで。ダンスフロアじゃないんだけど、なんか、すごく趣味のいいDJがいるクラブみたいな。バキバキのテクノとかハウスとかじゃなくて……イメージしたのはそういう感じかな。ヨコノリの、ちょっとこう下品じゃない感じの。
──聴いて「こんなに引き出しあったのか!」と思いました。
ああ、こういう音に関しては、引き出しというよりも、ただ俺の趣味というか。最初は、さらにもっとダンス寄りだったんですけどね。ソウル/ファンクみたいな。けど、あんまりそっちに行ってもいかんな、ちょっとギター・ロック的な要素も残しつつ、という感じにしましたけどね。まあ、いい一歩なんじゃないかな、と思います。
──じゃあこの方向で二歩目も三歩目もありそう?
どうですかね。俺はやりたいけどなあ……入りきらなかった曲も何曲かあって、それはそっち寄りなんで。やりたいとは思うけど、俺も気が変わりやすいし。やりたいこといっぱいあるし……次はやりたいこといっぱいある中から、どれかを選ぶか、全部やるか。まだわからないですね。
──音楽活動、バンド活動は、順調に続いていきそうですか?
……続くんじゃないですかね。やれる限りはやりたいなぁ……まあ、永遠に続くものはないけど。でも、やれる限りはやっぱり、やりたいなあ。
取材・文=兵庫慎司 撮影=西槇太一
plenty 撮影=西槇太一
2016年9月21日(水) 発売
『life』
01. 夜間飛行
02. 星になって
03. 嘘さえもつけない距離で
04. 誰も知らない
05. born tonight
06. laugh
07. 独りのときのために
08. high&low
09. こころのままに
10. ワンルームダンサー
11. in silence
12. 風をめざして
plenty ワンマンツアー “life”
アルバム「life」購入者特典CD封入先行有り
9月20日(火) 12:00 ~ 10月03日(月) 18:00 まで
詳しくは、アルバム「life」封入のチラシをご覧ください
Open/Start:17:30/18:00 Info:キョードー北陸
11/03(木・祝) 東京 Zepp Tokyo
Open/Start:16:15/17:00 Info:ディスクガレージ / Tel:050-5533-0888
11/05(土) 愛知 Zepp Nagoya
Open/Start:17:15/18:00 Info:サンデーフォークプロモーション / Tel:052-320-9100
11/06(日) 大阪 Zepp Namba
Open/Start:16:15/17:00 Info:GREENS / Tel:06-6882-1224
11/12(土) 愛媛 松山 W studio RED
Open/Start:17:30/18:00 Info:DUKE松山 / Tel:089-947-3535
11/13(日) 福岡 DRUM LOGOS
Open/Start:16:30/17:00 Info:キョードー西日本 / Tel:092-714-0159
11/15(火) 岡山 CRAZYMAMA KINGDOM
Open/Start:18:30/19:00 Info:夢番地(岡山) / Tel:086-231-3531
11/17(木) 宮城 仙台 darwin
Open/Start:18:30/19:00 Info:キョードー東北 / Tel:022-217-7788
11/19(土) 北海道 札幌 PENNY LANE 24
Open/Start:17:30/18:00 Info:WESS / Tel:011-614-9999
※スタンディング、整理No.付、1ドリンク代別途必要、6歳未満入場不可
9月20日(火) 12:00 ~ 10月03日(月) 18:00
下記のボタンより