世の中も演劇の概念も破壊する熱狂のライブシネマ開幕!窪塚洋介主演『怪獣の教え』ゲネプロレポート

2016.9.22
レポート
舞台

2015年11月、横浜で初演され、興奮と称賛を巻き起こした伝説的舞台『怪獣の教え』が、2016年9月21日(水)からZeppブルーシアター六本木に“上陸”する。

演出・脚本・映像は、『青い春』『ナイン・ソウルズ』『空中庭園』『クローズEXPLODE』で知られる映画監督の豊田利晃。出演は、来年公開の映画『沈黙-サイレンス-』でハリウッドデビューを果たす窪塚洋介。そして、豊田作品に欠かせない渋川清彦、さらに本作で初舞台を踏んだモデル・女優の太田莉菜。強烈なオーラを持った3人が、観る者の胸に巨大な“杭”を打ちつけていく。

公演に先立ち、同日、マスコミ向けの公開ゲネプロを実施。その震撼のステージの一端をレポートする。

物語の舞台となるのは、“東洋のガラパゴス”と呼ばれ、古代の風景を今なお現世に残す神秘の島・小笠原諸島。この『怪獣の教え』は、豊田監督が父の死をきっかけに訪れた小笠原諸島で、その大自然に魅入られ、心を奪われたことから端を発する。

東京での生活への違和感。進化しすぎた文明へのアンチテーゼ。現代日本社会への怒りと警告。「本当に怪獣がいるんじゃないかと思った」と語る小笠原諸島での暮らしから見えてきた豊田監督の“リアル”がここにはつまっている。

それを体現するのが窪塚洋介渋川清彦太田莉菜の3人だ。

物語は、15年前、故郷の小笠原諸島を捨て、東京へと渡った天作(窪塚洋介)が久しぶりに小笠原諸島へ戻ってくるところから始まる。久々の帰還を歓迎するのは、従兄弟の大観(渋川清彦)だ。かつて親友のように共に過ごした天作と大観。しかし、天作は再会を喜ぶ素振りなどまるで見せない。それどころか何かから逃れるように性急に「船を出してくれ」と大観に頼みこむ。かくして、ふたりは一隻の船に乗り、“ボニンブルー”の海へと繰り出す。

圧巻なのが、従来の演劇の概念を覆す独自の演出だ。豊田監督は、本作を「演劇と映画と音楽が融合した“ライブシネマ”」と銘打った。その看板を証明するかのように、冒頭から象徴的なシーンが続く。

まず開演を待つ会場に絶えず流れる波の音。その中で、現実と虚構の狭間を縫うように舞台上に現れたのが、オーストラリア先住民族の管楽器ディジュリドゥの奏者・GOMAだ。背景には青い海とホロスコープ。地球のうめき声のような、あるいはまだ言語を持たない原始の人々の祈りのような低い音が、観客を東京から1000km南の小笠原諸島へといざなっていく。

そこに現れる天作。詩的なモノローグが、窪塚の独特の韻律にマッチしている。まるで太平洋にぷかりと浮かび、たゆたうような不思議な酩酊感に包まれていると、突然大音量のロックサウンドが耳をつんざく。豊田監督も所属する音楽ユニット・TWIN TAILによる生演奏だ。そこに豊田監督自らがDJのようにスイッチングしているという小笠原諸島の映像が入り乱れる。その圧倒的空間は、演劇というよりロックバンドのライブそのもの。まだ幕開けから10分と経っていないはずなのに、痺れるような絶頂感が身体の奥底から溢れ出す。この瞬間、豊田監督が胸を張って答えた“ライブシネマ”の意味を誰もが知ることになるだろう。

そして、改めてその実力を見せつけたのが、俳優・窪塚洋介だ。欺瞞と放射能で汚染された東京を捨て、ある“夢”を果たそうとする天作のキャラクターは、自らも「自分そのもの」と認める通り、まるで窪塚洋介がその場で自身の言葉を発しているようにさえ見える。そのエネルギーの何と底知れぬことか。謎に満ちた帰郷のシーンから、大観と話す屈託のない表情、そしてクライマックスの叫びまで、全編に渡って観客の視線を惹きつけて離さない。

思えば、窪塚洋介という俳優の登場は、まさに時代を震撼させる“怪獣”だった。熱狂的な信者を生み出したドラマ『池袋ウエストゲートパーク』のキング役から、初主演映画『GO』や『ピンポン』の鮮烈な演技まで、ある一定の世代にとって、窪塚洋介という存在は時代のアイコンであり、青春のカリスマだった。俺たちの世代には、窪塚洋介がいる。そのことに言い知れぬ誇りを覚えた者も少なくないはずだ。

近年、なかなかメジャーな作品で彼の演技を見ることはかなわないが、この『怪獣の教え』を見れば、窪塚洋介の持つ輝きが何ら衰えていないことを、それどころかこの腐敗した時代の中で決して汚れることなく、さらに無垢で硬質な光を放っていることに驚かされることだろう。それほどまでに天作というキャラクターと窪塚洋介はシンクロし、観る者の心臓を直接手掴みで揺さぶってくる。

もちろん、愚かなほどの陽気さで天作と対をなした渋川清彦、そして形容しがたい存在感で作品に説得力を与えた太田莉菜の好演も称えたい。

クライマックスは、「衝撃」という言葉が陳腐に思えてしまうような天作の魂の叫びで客席を呑みこんでいく。初演から一転、キャパシティが一気に広がることで、作品世界が損なわれてしまうことも危ぶまれたが、そんな心配は杞憂でしかなかった。むしろ、この理屈を超えた破壊力の前では、約900席のZeppブルーシアター六本木でも狭いくらいだ。きっと呼吸を忘れ、その結末にのめりこんでしまうことだろう。

そして、すべてが終わり、Zeppブルーシアター六本木を後にした瞬間、振り返るとそこにそびえたつ巨大な六本木の高層ビル群に、叫ばずにはいられなくなるはずだ。

観客にとっての『怪獣の教え』は、そこから始まっていく。

公演情報
舞台『怪獣の教え THE TEACHINGS OF KAIJU』

■日程:2016年9月21日 (水) ~2016年9月25日 (日) 
■会場:Zeppブルーシアター六本木
■演出・脚本・映像:豊田利晃
■出演:窪塚洋介 渋川清彦 太田莉菜
■音楽:TWIN TAIL (中村達也:Dr、ヤマジカズヒデ:Gt、青木ケイタ:Sax&Fl)/GOMA(Didgeridoo)
■公式サイト:http://kaijuno-oshie.com/

<あらすじ>
小笠原諸島の青い海。海の上を漂う一隻の船。船の上には二人の男。
国家の秘密を暴露して、政府から追われる天作(窪塚洋介)。パラダイスで生きることの葛藤を胸に抱く、島育ちのサーファーの大観(渋川清彦)。東京で事件を起こし、島へ逃げて来た天作は従兄弟の大観に船を出してくれるように頼む。無人島にでも隠れるのだろう、と大観は思っていた。しかし、天作の目的は、祖父から教えられた、『怪獣』を蘇らせることだった。一隻の船に乗り込むと二人は海へ出る。昨夜、二人は世界の島を転々としながら暮らす、アイランドホッパーのクッキー(太田莉菜)と出会った。 クッキーは怪獣の教えの秘密を知っていた
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