ディミトリー・コルチャックが渋谷のカフェで憂愁を感じさせる歌声を披露
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ディミトリー・コルチャック (撮影=荒川潤)
日本語で「きよしこの夜」も披露 ディミトリー・コルチャックの歌声を聴いた 第47回“サンデー・ブランチ・クラシック” 10.09ライブレポート
10月9日、ロシアの新星テノール、ディミトリー・コルチャックが渋谷のeplus LIVING ROOM CAFE & DINING にて『サンデー・ブランチ・クラシック』に出演した。コルチャックは、ウィーン国立歌劇場、ミラノ・スカラ座、メトロポリタン歌劇場などの一流オペラハウスで活躍。今年4月には、『ウェルテル』のタイトル・ロールで新国立劇場にもデビューし、大きな成功を収めた。今回は、ワレリー・ゲルギエフ率いるマリインスキー・オペラとの来日。『エフゲニー・オネーギン』(10月16日の公演)でレンスキーを演じる。そのほか、NHK音楽祭でのベルリオーズの劇的交響曲「ロメオとジュリエット」の独唱や三鷹芸術文化センターでのリサイタルも予定されている。
お客様に囲まれたカフェでのライブ (撮影=荒川潤)
この日のリビングルームカフェは、開演前から熱心なオペラ・ファンで埋まっていた。いつもより少し年齢層が高いかもしれない。コルチャックは、まず、ラフマニノフの歌曲「美しい人よ、私のために歌わないで」を歌った。小澤征爾の愛弟子であり、ヨーロッパを中心に指揮者として活躍する鬼原良尚がピアノ伴奏を始めると場内は静まり返った。抒情的な声がプーシキンの詩を美しく響かせる(私はロシア語がわからないが、美しいロシア語に感じられた)。特に高音域での弱音表現が見事。
そのあと、トークが入った。コルチャックは、現在、ウィーンに在住し、歌手のほか、指揮者としても活動している。ゲルギエフが芸術監督を務めるモスクワ復活祭音楽祭で、自らが少年時代に所属していた国立モスクワ・アカデミー少年合唱団を指揮し、ゲルギエフに指揮者として認められたが、テノールとしては今回がマエストロとの初共演だという。
トーク中の様子 (撮影=荒川 潤)
日本には、27年前、10歳のとき、国立モスクワ・アカデミー少年合唱団のメンバーとして訪れて以来、何度も来ている。「合唱団の指揮のヴィクトル・ポポフ先生が日本が大好きだったので、2年に1度、クリスマスの頃に日本に来ていました。日本の少年合唱団と一緒に『きよしこの夜』も歌いました」と語り、コルチャックは、日本語で「きよしこの夜」を歌い始めた。そして、「日本の聴衆は温かい」と言い、「日本の歴史をリスペクトしています」と述べた。
また、ロシアのロマンス(歌曲)の素晴らしさも語った。
「ロシア・オペラの創始者であるグリンカ以来、チャイコフスキーも、ラフマニノフも、ロマンスを書いていました。今日歌っているようなサロンで、作家が詩を書いて、その場で作曲家が曲をつけて、すぐに歌手が歌うということもありました。繊細なところが日本のみなさんにも共感していただけると思います。ロマンスは、歌手だけのものでなく、歌手とピアノのデュオなのです」
カフェに響く歌声 (撮影=荒川潤)
続いて、ドニゼッティの「愛の妙薬」から「人知れぬ涙」を歌う。ネモリーノは彼の十八番の役柄の一つ。リリックで哀愁を帯びた歌声が魅力的。情熱も伝わってくる。彼は、これまでに世界の歌劇場で「セビリアの理髪師」、「チェネレントラ」、ロッシーニの「オテロ」、「清教徒」などに出演し、ベルカント・オペラも得意としている。
鬼原良尚(ピアノ)、ディミトリーコルチャック(テノール) (撮影=荒川潤)
(撮影=荒川潤)
そして、最後に『エフゲニー・オネーギン』からレンスキーのアリア「青春は遠く過ぎ去り」。レンスキーは、ラーリン家の姉妹と幼馴染みの若い詩人。友人オネーギンを姉妹に紹介するが、妹オルガをめぐってオネーギンと決闘することになり、命を落とす。コルチャックはレンスキーについて、「ロシアのテノールにとっては、名刺代わりの役柄です。登場時間は短いのですが、その間に大きな変化を演じないといけません」と述べた。「青春は遠く過ぎ去り」は決闘の直前に過去を振り返って歌われるしみじみとしたアリア。コルチャックはまさにロシアの憂愁を感じさせる歌唱を披露。情感豊かで役に入り込んでいる。柔らかな高音域が素晴らしい。
コルチャックが歌い終えると、場内は静まり返り、少し間があってから熱烈な拍手が起きた。短いながらも彼の美声が堪能できたライブ・ステージだった。世界に羽ばたくコルチャックと巨匠ゲルギエフが共演する『エフゲニー・オネーギン』の舞台が楽しみだ。
サイン会の様子 (撮影=荒川 潤)
ディミトリー・コルチャック (撮影=荒川潤)
レポート・文=山田治生 撮影=荒川潤
■日時:2016年10月14日(金) 開演19:00
※音楽評論家によるプレトークを18:30から実施します。
■会場:NHKホール
■出演
指揮:ワレリー・ゲルギエフ
メゾ・ソプラノ:ユリア・マトーチュキナ
バス:ミハイル・ペトレンコ
テノール:ディミトリー・コルチャック
合唱:マリインスキー劇場合唱団
■曲目・演目
ベルリオーズ/劇的交響曲『ロメオとジュリエット』(フランス語上演・日本語字幕付)
■
SS席:19,000円
S席:16,000円
A席:12,000円
B席:8,000円
C席:6,000円
D席:4,000円
■日時:2016年10月15日(土)~16日(日)
■会場:東京文化会館大ホール (東京都)
■出演
ワレリー・ゲルギエフ(指揮)
マリインスキー歌劇場管弦楽団、合唱団
オネーギン:
アレクセイ・マルコフ(10/15)
ロマン・ブルデンコ(10/16)
マリア・バヤンキナ(10/15)
エカテリーナ・ゴンチャロワ(10/16)
エフゲニー・アフメドフ(10/15)
ディミトリー・コルチャック(10/16)
エカテリーナ・セルゲイエワ(10/15)
ユリア・マトーチュキナ(10/16)
ミハイル・ペトレンコ(10/15)
エドワルド・ツァンガ(10/16)
S席:43,200円
A席:36,700円
B席:27,000円
C席:19,400円
米津真浩/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
10月30日(日)
鈴木舞/ヴァイオリン&岩崎洵奈/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円