マティアス・ストリングス(弦楽アンサンブル) 弦4人だけで奏でるモーツァルト「レクイエム」
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NHK交響楽団の第1ヴァイオリン・フォアシュピーラーとしておなじみの齋藤真知亜。彼の名前を冠した弦楽アンサンブル「マティアス・ストリングス」は、2014年にJ.S.バッハ「ゴルトベルク変奏曲」の弦楽三重奏版を発表。きめ細やかでみごとなバランスを誇る表現が大好評を博した。あれから約2年、今回はモーツァルトの絶筆「レクイエム」の弦楽四重奏版の、おそらく日本初となる録音に挑んだ。共演は、降旗貴雄(ヴァイオリン)、坂口弦太郎(ヴィオラ)、宮坂拡志(チェロ)。いずれもN響で活躍する若き実力派だ。齋藤は、今回の録音に格別の思い入れがあったと語る。
「オケマンで、室内楽奏者で、クリスチャンでもある私は、この録音は使命のように感じていました。これを後世に残すならば、若い人たちと一緒にやりたいと思って、この3人に声をかけました。楽譜のベースは、ペーター・リヒテンタールが1826年に出版した弦楽四重奏版。それを丹念に改編し、歌詞のメッセージにこだわりつつ、和声などの楽曲の構築性も失わない様に、試行錯誤は旋律や歌詞の一節ごとに及びました」
この編曲作業には、共演の3人も参加。全員が納得するまで議論を重ねた日々は、「まるで音大時代に戻ったような純粋な気分」だったそうだ。
第2ヴァイオリンの降旗は齋藤から“宿題”をもらった。
「中でも思い出深いのが、第7曲『ラクリモーサ(涙の日)』。内声の僕が主旋律である歌詞パートの演奏を担当するので、真知亜さんから編曲を“宿題ね”と任されて。和声の中での自分の動きを意識しながら、必死で頑張りました(笑)」
チェロの宮坂は、今回の録音を「驚きの連続でした」と振り返る。
「そもそも、この作品の弦楽四重奏版の存在を知りませんでした。真知亜さんの編曲譜では、チェロ・パートは冒頭の『イントロイトゥス』からリヒテンタール版とかなり違っていました。主旋律と伴奏を一人二役で弾くようになっていたのです。他にも、倍音の引っ張り方を各曲によって変えるなど、色々と工夫を凝らしました」
意外にもN響でモーツァルト「レクイエム」を演奏した経験は、記憶に薄いという4人。同曲で共演してみたい指揮者を尋ねたところ、ヴィオラの坂口を始めとして奇しくも、全員から同じ答えが返ってきた。
「今年のベートーヴェン『第九』でも共演する、ヘルベルト・ブロムシュテットさんですね。彼は実に知的で構築性の高い指揮者であることに加え、信仰の厚い方でもあります。言葉と心の限りを尽くす彼のリハーサルを想像するだけで、胸が高まるのです」
取材・文:渡辺謙太郎
(ぶらあぼ 2016年11月号から)
『モーツァルト:レクイエム(弦楽四重奏版)』
マイスター・ミュージック
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10/25(火)発売