舘野 泉(ピアノ) 傘寿の記念に4つの協奏曲を1晩で!
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舘野 泉(ピアノ) ©武藤 章
自身の80歳を記念する演奏会で、新たなレパートリー2作品を含む4つの協奏曲を一夜で弾く演奏家は、世界を見回してもなかなかいないだろう(共演:高関健&東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団)。舘野泉はそういう大変なことに楽しそうに挑戦し、さらりと成し遂げてしまう人だ。
「弾きたい曲を選んだら4つになってしまっただけで、大変なことをするつもりはないんです(笑)。普段取り上げるのが難しい作品は、記念演奏会の機会にぜひ演奏したいと思って」
その一つが、ヒンデミットの「管弦楽付きピアノ音楽」。ラヴェルの左手のためのピアノ協奏曲と同じく、戦争で右手を失ったヴィトゲンシュタインの依頼で1923年に書かれながら、約80年間演奏されることのなかった作品だ。
「2004年にドイツで初演された後、日本で演奏してほしいと楽譜をもらったのですが、引き受けてくれるプロの楽団がなかなかいませんでした。音がキラキラ輝いて生き生きと迫ってくる、すばらしい作品です。弾くにはすごくエネルギーが必要なんですけれどね」
この機会に演奏したいもう一曲は、50年前シベリウス・アカデミーで教え子だったシュタールが舘野のために書いた「オーケストラと左手のためのファンタスティック・ダンス」。特殊楽器が多用された、スケールの大きな新作だ。
「彼は14歳だった当時から、音楽が好きで仕方ないという感じの伝わってくる素直な学生でした。その後、長年ウィーン・フィルのヴァイオリニストをつとめ、ヨーロッパの良い伝統をギュッと掴んで生きてきた人です。時間をかけて書いた自信作というだけあって、とても内容が濃い。自由に飛躍するような音楽が魅力です」
その他、日本人作曲家の作品として池辺晋一郎のピアノ協奏曲第3番「西風によせて〜左手のために」、また、左手のための最重要レパートリーといえるラヴェルの協奏曲を取り上げる。15年前に脳出血で倒れ、復帰の見通しがたたなかった頃、この曲を弾けばいいのでは、と勧められてくやしさを感じたこともあったという。
「僕はこの協奏曲が昔から好きだったのですが、40年前はなかなかオーケストラに取り上げてもらえなかった。でも左手のピアニストとして復帰してからは、もう40回近く演奏しましたよ。この数年で、今まで無理だと思っていたところがうまく弾けるようになったので、どうしてもトリに演奏したくて。今思えば、倒れてから復帰するまでの2年間は僕にとって必要な時間でした。いろいろなことを考えていたと思うし、なにより、何もできないことへの飢えがありましたね」
尽きることのない音楽への渇望と冒険心が、舘野を動かし続ける。これからも型にはまらぬ活動で我々を驚かせてくれることだろう。
取材・文:高坂はる香
(ぶらあぼ 2016年10月号から)
11/10(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問合せ:ジャパン・アーツ 03-5774-3040
http://www.japanarts.co.jp
10/30(日)南相馬市民文化会館(0244-25-2763)