【シン・ゴジラ連載Vol.13】「シン・ゴジラ」の次は「●●・ゴジラ」?

2016.11.5
コラム
イベント/レジャー


怪獣映画としては異例のヒットとなった「シン・ゴジラ」。幅広い層の支持を得たことは、怪獣映画に新たな可能性を垣間見せたが、それは同時に昔からの特撮ファンの期待値を引き上げることにもなったとの声も!?

■ 未知の怪物が“怪獣という存在”としてそこにいる姿

怪獣映画を観るたびに、新怪獣出現の理由を語るシークエンスが、ひとつのハードルになっていると個人的に思っているのですが、登場人物たちの語りでローペース、ローテンションで間延びする怪獣出現までの儀礼的プロセスを、冒頭から始まる会議というさらに地味になりがちなシーンを逆手に、慌てふためく役所の人たちが放つコメディ一歩手前の早口のセリフによって、ハイテンション&ハイペースな言葉でかわしていきます。リアルな内容で重くなるはずの空気を一掃しながら、アップテンポでゴジラ第一形態が出現。ほんの数分で独自の世界観に観客を惹き込み“つまらなく感じさせる要素”の激減に成功しているのは、やはり怪獣映画を知り尽くしている庵野・樋口両監督だからこそでしょうか。

そして、いよいよ出現した巨大生物が、まぁなんとも気持ちの悪いことこの上ない! 上陸した第二形態は、まさにクリーチャー的容姿で“キモかわいい”インパクトで、蒲田の住民以上に観客に迫る! 怪獣映画においては、この観客と怪獣のファーストインプレッションこそが、その映画の真価を決めると言っても過言ではないのであります。その登場の仕方が怪獣の魅力にダイレクトにつながる傾向にあるという点では、この第二形態は、その役を十二分に果たしていると言えましょう。(唯一発売されたソフビ人形が瞬売するほど!)

その後、手が生えて第三形態を経て成獣らしき第四形態へと進化する様は、「お前はカエルか!」などとツッコミを入れたくなるのですが、(いえいえ、生命の進化の過程を踏襲しているのでしょう…)旧来のゴジラの後出しジャンケン的に出てきたミニラやベビーゴジラが、ゴジラの幼少期と言われるよりは説得力があるのかもしれませんよね。(いや、これはこれで大好きなんですけどね:笑)

第四形態となってからは、むしろ既存の生物っぽさがなくなり、ほとんど激しいアクションを見せることなく突っ立っている状態(その代わり激しい光線技で対応:苦笑)なのでありますが、これは旧来のゴジラが、作品が増えるに連れて巨大感よりも対決アクションに趣が置かれたことへのアンチテーゼなのかもしれないと感じるのは私だけ? そこには、あくまで巨大な生物として設定やデザインを取り入れる海外製ゴジラのような単なる巨大生物というよりは、未知の怪物が“怪獣という存在”としてそこにいる姿で、「怪獣は怪獣であって、単なる巨大生物ではなく、独自の生命体(あるいは生命であることすら否定するもの)」的な概念のゴジラであり、無駄な動きをすることなく、生物の頂点に立たんとする姿を見せつけてくれます。

■ 続編に求めたい怪獣映画としての醍醐味

そんなゴジラの特撮に関しても、かつて「CGより、スーツアクションじゃなきゃ駄目だ」なんて言われることも少なくなかったのだけれど、2004年からの10年間に亘るゴジラ映画の休息が大きかったのか、国産ゴジラのイメージが薄れていたところで、2014年の海外CGゴジラが登場。若者を始めとする一般層のゴジラ映画への認識が変わって、世間的にはCGゴジラ受け入れ体制も万全、一部怪獣ファンの偏見的CG否定も声が小さくなったのは、見えない追い風になっている様に思えるのであります。

物語は中盤、「オイオイ、これは英語学校のCMかよ!!」的な少々過剰気味の横文字&イントネーション連発の石原さとみさんの登場で、一瞬ギャグ路線に変更か?と焦らされましたが、彼女のもたらした情報から物語が加速度的に進み、対ゴジラ用の何やらわかるようなわからないような不思議な説得力で語られる難しい化学薬品が製造される方向へ進む。(本当はもう少し段階を踏むけれど…汗) このあたりは往年の怪獣映画同様、「キングコング対ゴジラ」の多古部長の様ように、個性的キャラクターが、ゴジラ対策のきっかけを見出すシチュエーションを連想させ、怪獣映画ならではの醍醐味すら感じてしまいます(観ているうちに変に心地良くなってくるあたりは、石原さとみさんの魅力なのでしょうね)。

お約束の怪獣対防衛隊も、自衛隊最新鋭の10式戦車の一斉射や戦闘ヘリAH─1のミサイル攻撃、さらには米軍のB─2ステルスボンバーによる絨毯爆撃といった攻撃よりも、秘密兵器的に登場したJR在来線による列車爆弾に華を持っていかれるところが、怪獣映画らしい展開。(個人的には自衛隊の戦車などの砲撃はかなりの威力なので、多少怯ひるむくらいしてほしかったんですけどね…それがないのも怪獣映画のお約束?)

そんな怪獣映画のお決まりを踏襲しつつ、劇中のゴジラ同様に独自の進化を遂げた「シン・ゴジラ」は、“新”でも“真”でも“神”でもなく、新たな方向性を打ち出し映画界を席巻した“震”ゴジラとして、当然続編の話も上がることでしょう。その時は、少々俗っぽいかもしれませんが、かつて「ゴジラの逆襲」「キングコング対ゴジラ」で怪獣のダイナミズムを描いたように、「ゾク・ゴジラ」としてスーツアクションに通ずる現行CGを超える新たな表現で怪獣映画の醍醐味を世界に知らしめて欲ほしいと一怪獣映画ファンとしては期待ばかりが膨らむのであります。

【中村宏治(なかむらこうじ)●編集・ライター・造形家・プロモデラー・映像演出などマルチに活躍。著書は「円谷プロ図録 ~ウルトラマンメカニック編~」(ネコ・パブリッシング)、「超時空要塞マクロスSDF-1マクロス艦 徹底解剖」(マイナビ)など】